覆りようがない状況を描いた歌詞
──歌詞についても聞かせてください。この曲はアニメ「86―エイティシックス―」のオープニングテーマですが、アニメの世界観も意識した制作だったんでしょうか?
シノダ そうです。まず原作を読ませてもらったんですが、主人公たちの過酷な状況は自分たちも身に覚えがあるなと。どちらにも取れるような歌詞にしたいと思って書き始めましたね。
──バンドの状況も反映させていた?
シノダ はい。それ以外に、世の中の雰囲気も重ねているところがあって。「3分29秒」の歌詞を書いたのは去年の初めなんですけど、すでにコロナ禍が始まっていて、どんどん深刻な状況になっていたので。
イガラシ 自分たちの温度感としても、自然に受け入れられる歌詞でしたね。どこか達観しているというか……。すべてを割り切ってるわけではないんですよね。現状を受け入れて、前を見て歩いてるんだけど、100%前向きなわけではないっていう。
ゆーまお 個人的には「俺たちが楽曲を通して生き死にを語っていいんだろうか?」という気持ちもありました、最初は。wowakaがいなくなったことについて、自分たちから公言することはなかったし、「歌詞でここまでハッキリ言っていいのか」と。ただ、こうやって曲ができあがって、改めてこの歌詞を見たときに「これをバンドとして押し出すのはいいことだな」と思うようになって。アニメと自分たちを重ねながら伝えられるのもいいなと思うし、曲を聴いた人から「ヒトリエじゃないと作れない曲だね」と言ってもらえると救われますね。作ってよかったなって。
──シノダさんはどうですか? 楽曲を通して、死生観を表現することについて。
シノダ うーん……。自分としては、この歌詞の中に死生観みたいなものはそこまで出ていないと思ってるんですよ。ただ、覆りようがない状況があるだけ、というか。それは僕たち自身もそうだし、アニメの世界にも共通していると思うんですが、不条理さみたいなものを言語化できたらなと思っていたので。
──その結論が、「安心しなよ、僕達みんな終わるまで やること同じさ」という最後のフレーズなのかも。
シノダ 「やることは変わらないな」と思ったんですよね、曲を作りながら。2019年に3人でツアーをやって、年末の「COUNTDOWN JAPAN」にも出て。「3分29秒」を作っていた時期はアルバムの制作も決まっていたし、ライブができない時期も曲は書いてましたからね。結局、俺らがやることは同じだし、ヒトリエというバンドを続ける限り、それは変わらないんだろうなと。
「Milk Tablet」は納得できる歌詞だけど、文字にすると強烈
──では、カップリング曲の「Milk Tablet」について聞かせてください。この曲はいつ頃レコ—ディングしたんですか?
ゆーまお 最近録った曲ですね。「REAMP」の制作を挟んでいるので、このときはレコーディングで問題になることは何もなかったです(笑)。
シノダ 「REAMP」のレコーディングで培ったものもあったからね。「Milk Tablet」は「REAMP」を作ってるときにデモの原案があって。シングルのカップリング曲が必要になったときに、イガラシが「この曲にしよう」と提案してくれたんです。
イガラシ デモの段階ではもっとシンプルな、弾き語りでも成立するような曲だったんです。それがいいなと思ったんですけど、アレンジする中でだいぶ形が変わって。
シノダ ここまでダンスミュージックっぽくなかったよね、確かに。最近、ミニマルテクノを作るのにハマってるんですよ。自分の中で電気グルーヴへの熱が高まったのがきっかけなんですけど、そういう要素も取り入れてみたくて。打ち込みだけで作ることも可能だったんですけど、やっぱり2人にも演奏してもらおうと。
ゆーまお 僕とイガラシにとっては、セルフリミックスみたいなイメージですね。
──この曲の歌詞も素晴らしいと思います。「もうウソつくのやめなくちゃ」と思いながら、「理解してもらえないだろうな」「やだな」という気持ちに苛まれる状態を歌っていますが、すごく共感しました。
シノダ よかったです。冒頭の部分はデモの段階からあって、中盤からは自分の言葉なんですけど、精神状態が悪化しているような(笑)。
ゆーまお 歌詞を見て、シノダに「今こんな感じなの? 大丈夫?」って聞いたんですよ。そしたら「ずっとこういう感じではないよ」って言われて、だったらいいかって(笑)。自分も納得できる歌詞なんですけど、文字にすると強烈じゃないですか。
イガラシ 曲調と歌詞、歌のバランスもいいんですよ。浮遊感があって。もともとシノダはこういうヤツだと思ってるので、特に驚きはなかったんですけどね(笑)。
──(笑)。伝えたいことがあるんだけど、本当のことを言ったら嫌われるだろうな、という感情って、多くの人が経験していると思いますけどね。
シノダ そういう気がするんですよ、自分も。「こういうこと、みんなも考えてるんじゃないの?」って。世の中ではこういう暗いベクトルの歌は少なくなってると思いますけど、自分の創作のスタートはこういう感じなんですよ。1990年代後半の時代的な暗さみたいなものをずっと引っ張り続けるというか。
ゆーまお “嫌いだ”っていう曲のほうが多いからね、今は。それよりも“嫌われるんだろうな”のほうが好きです。
今後もやるべきことはたくさんある
──最後に、今後の活動について。まずはツアーを完遂することが目標でしょうか?
シノダ そうですね。曲も書いていくだろうし。
ゆーまお バンドに対する各々の作業が増えてきて、自分の引き出しも少しずつ増えている実感があって。それをどう使っていくか考えたいですね。「REAMP」は簡単にまとめると「今の勢いで作ったら、こういう感じになった」というアルバムなんですよ。もっと俯瞰して、ディテールを作っていくことも全然やってないし、やるべきことはたくさんあるのかなと。
シノダ やってないことはいっぱいあるよね。「REAMP」の反省点もあるし、そもそも3人でスタジオに入ってゼロから曲を作ることもまだやっていないので。
ゆーまお ツアーを最後までやり切ったとき、バンドがどうなってるかも関係してくるでしょうね。ライブの中でアルバムの曲を育てて、最終的にどうなるかはまだ見えていないので。たぶん、もっと違う状況になってると思うんですよね。
──イガラシさんはどうですか?
イガラシ ベースを練習して、うまくなりたいですね。
ゆーまお うん、それも必要。みんなそうだけど。
シノダ 向上心だな。
イガラシ 去年はけっこうつらかったんですよね、振り返ってみると。向上することに取り組むことができなくて、演奏に関しては、弾けなくならないように維持するのが精いっぱいで。アルバムを出して、ようやくツアーを回り始めたことで、そこに取り組めそうな片鱗を感じています。
──作品をリリースして、ツアーをやる。バンドにとって一番大事なことですからね。
イガラシ そう思います。それをやれているのは、本当にありがたいですね。
ライブ情報
- ヒトリエ「ヒトリエ Amplified Tour 2021」(終了分は割愛)
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- 2021年6月8日(火)宮城県 Rensa
- 2021年6月9日(水)宮城県 Rensa
- 2021年6月15日(火)新潟県 CLUB RIVERST
- 2021年6月16日(水)新潟県 CLUB RIVERST
- 2021年6月30日(水)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
- 2021年7月1日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
- 2021年7月6日(火)大阪府 BIGCAT
- 2021年7月7日(水)大阪府 BIGCAT