ヒトリエ|3人体制への過渡期が生んだニューシングルで見据える“覆りようがない状況”

3人体制となって初のアルバム「REAMP」を2月にリリースし、4月からはこのアルバムを携えた全国ツアーをスタート。本格的な再始動を果たしたヒトリエから、ニューシングル「3分29秒」が届けられた。テレビアニメ「86―エイティシックス―」オープニングテーマの表題曲は、3人体制で最初に制作されたという鋭利なロックチューンだ。

音楽ナタリーでは、シノダ(Vo, G)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)にインタビュー。アルバム「REAMP」に対するリスナーからの反応、全国ツアーの手応え、シングル「3分29秒」の制作などについて話を聞いた。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 斎藤大嗣

ライブをやるために人生をチューニングしてきた

──まずは新体制初のアルバム「REAMP」に対する反響はどうだったか聞かせてください。

シノダ(Vo, G) 正直、「まだ足りない」という気持ちはありますね。もっと聴いてくれないかなと。

イガラシ(B) それくらいアルバムの手応えが大きいということ?

シノダ 「いいアルバムができた」というのはホントに思ってる。でもまだまだ届いていない、聴かれていない部分もあるんじゃないかな。

ゆーまお(Dr) 個人的には「思ったよりも受け入れられた」という感じがありますね。もっと叩かれると思ってたんですよ。

ヒトリエ

──批判的な意見も覚悟していた、と。

イガラシ 当然、そういう意見もあるでしょうからね。

ゆーまお うん。そういった意見もあると思ってたんだけど、そうでもなかったですね。みんな、ちゃんと聴いてくれたみたいでうれしいです。

イガラシ 今ツアーを回ってるんですよ。お客さんは声が出せないんだけど、拍手とか雰囲気でちゃんと受け止めてくれてるのがわかって。そこはホッとしてます。

ゆーまお すごく盛り上がってくれてますね。自分が作曲した曲で盛り上がってくれるのを見ると、新鮮だし、気合いが入ります。

イガラシ 自分の曲だと気合いが入るんだ?

ゆーまお カッコ悪いことはできないって意識が勝手に働くというか。ほかの曲はヘタこいてもいいってわけではなくて。

イガラシ そうだったら問題だわ(笑)。

シノダ 俺の曲で手を抜いてない?(笑)

ゆーまお そんなことないよ!

イガラシ(B)

──(笑)。イガラシさんも、自分で作った曲を演奏するときは特別な思いがありますか?

イガラシ どうだろう? 俺の曲ではシノダの歌に感動してますね。すごくいいので、うっとりしてます。

シノダ ホントかなあ。

ゆーまお イガラシの曲の冒頭、シノダが歌い出す場面はツアーの見どころですね。

イガラシ ぜひライブ会場で見てほしいです。

──今回のツアーはアルバム「REAMP」の楽曲が中心だと思いますが、演奏してみて、どんなことを感じてますか?

シノダ 音源とはかなり違いますね。いざやってみて「こういう曲になるんだ?」っていう。でも今までもそうやって曲を育ててきたんだよなって、改めて思いました。ライブで叩き上げるというか、ワンツアー、とにかくやりまくって曲を育てて。そういう活動をずっとやってきましたからね。

ゆーまお 「そうだ、こういう感じだった」と思い出しましたね。「REAMP」の曲については、3人でどうしたらもっとよくなるか話しながらやっていて。健康的で生産性もあるし、めっちゃ楽しいです。

シノダ うん。ツアーをやることで、人間として状態がよくなるというのかな。脳の状態も精神状態もすごくいいですね。

──ライブをやることでメンタル、フィジカルが整う?

シノダ ライブをやるために人生をチューニングしてきたし、そういうふうにできてる人間なんですよ、もともと。中学、高校くらいから、そういう人間になりたいと思い焦がれていたし、年月を経てヒトリエをやるようになって。ずっとガムシャラに走り回ってきましたけど、今回アルバムを作って、ツアーを回ることで、自分の本来の状態に戻ったというか。

イガラシ そういうプロセスはこれまでも経験してきたんですけど、今回のツアーで演奏やライブ自体がどんどん研ぎ澄まされて、楽曲が育っているのも感じていて。まだ途中段階だとは思うけど、それでも毎回毎回、最高なんですよ。最高を繰り返して、もっと最高になっていくというのかな。超気持ちいいですね、今は。

「3分29秒」はとても“シノダな曲”

──ニューシングル「3分29秒」も最高ですね。表題曲「3分29秒」は、3人体制になって最初にレコーディングした曲だとか。

シノダ そうです。アルバム制作の前ですね。

ゆーまお(Dr)

ゆーまお 「REAMP」の制作になだれ込む時期のド頭ですね。「3分29秒」を先に録って、その2週間後くらいにアルバムの曲を録り始めたので。

──新体制になって最初の制作は、かなり試行錯誤もあったのでは?

シノダ どうだったかな……。まず、デモの段階でかなり作り込んだんです。ドラム、ベースのフレーズもしっかり決めて、「いつでもスタジオで録れます」という状態にしておいて。大変だったのは現場でのディレクションですね。自分で指示を出すのは初めてだったし、この2人に「そうじゃない」とか「こうしてほしい」と言わなきゃいけないのかって。初めてのことに不安を覚える人間ですからね、もともと。

イガラシ ノリノリでディレクションしてましたけどね(笑)。

シノダ (笑)。フタを開けてみたら、意外とやれました。とにかくこの2人はすごいプレイヤーですからね。

イガラシ 実際、録りはスムーズだったよね。音作りはがんばったけど。

シノダ そうだね。特にスネアの音が決まらなくて。

ゆーまお 最初、シノダの指示がマジでわからなかったんです。「え、なんのことを言ってるの?」みたいな。

シノダ 例えば「スネアの音をもっと低くしてほしい」と言おうとしても……。

ゆーまお 表現や捉え方がそれぞれ違ったりするじゃないですか。そこは話し合いながら進めていった感じですね。

イガラシ まずは言語のチューニングをして。

──コミュニケーションを取るところから始まった、と。シノダさんの頭の中には、「3分29秒」はこういうサウンドにしたいという明確なイメージがあった?

シノダ あったかどうかわからないんですよ、正直(笑)。アレンジやフレーズは事前に詰められるけど、サウンドメイクはスタジオに入ってみないとわからない部分もあるので。レコーディングすること自体ひさしぶりだったし、再スタートじゃないですか。「なんとかなる。必ずいいものができる」と信じて臨むしかなかったですね。

──実際、素晴らしい演奏ですよね。シノダさん、イガラシさん、ゆーまおさんのスリーピース感が強く打ち出されていて。

シノダ そこは意識していましたね。ライブも3人でやっていくわけだし、ギターのアレンジにしても、あまりにも奇天烈なフレーズが入っていると「ライブでどうするんだよ」ということになるので。レコーディングではかなりギターを重ねてるんですけど、それは音源ならではの味付けで、ライブでは省いてもいいフレーズだったりするので。基本的にはスリーピースの枠をはみ出さず、その中でどう色付けするかを考えてました。

イガラシ ヒトリエの曲を3人で作ること自体、すごく新鮮でしたね。あと、とても“シノダな曲”なんですよ、「3分29秒」は。

ゆーまお うん、そう思う。

シノダ(Vo, G)

──どのあたりにシノダさんらしさを感じますか?

イガラシ 曲からほとばしる、すべてですね。

シノダ ハハハハ(笑)。

ゆーまお 僕もそう思いますね。メロディラインもそうだし。

イガラシ ブレイクのギターのフレーズとか。

ゆーまお Bメロのセクションは、すべてシノダです。あれはもうシノダです。

イガラシ 例えばシノダがアレンジしたベースラインもそうなんですけど、使ってるスケールもフレーズも、明らかにwowakaとは違っていて。シノダらしい曲だと思いますね、ホントに。

──しかも、一聴してヒトリエの曲だとわかる雰囲気もあって。

シノダ それは自分たちも不思議なんですよね。もちろん曲を書く段階から「ヒトリエの曲として発信する」という意識はあるんだけど、これまでに培ってきたヒトリエのムードみたいなものがあって。抽象的で概念みたいな話なんですけど、それが自分の中で1つの枠になってる気がしますね。

──なるほど。シノダさんのギターソロの音色もめちゃくちゃ個性的ですね。

イガラシ すごくこだわってたからね。

ゆーまお ギターはジャズマスターだよね。

シノダ うん。Dwarfcraft DevicesのHAXというエフェクターを使ってるんですけど、ヒトリエのレコーディングでは必ず使ってるんですよ。「センスレス・ワンダー」の頃からずっと。踏むだけでバカな音になるので、便利なんです。ライブでは使ってないんですけどね。

ゆーまお 繊細すぎるので、ライブで使うとノイズになっちゃうんですよ。

シノダ ギターの音に関しては、2000年代以降のジャパニーズオルタナティブの黄金比という感じですね。それを今一度やってみようと思ったのが「3分29秒」のギターソロだと思います。