ヒトリエ|3人体制初のアルバムで目指した“ヒトリエらしさ”の追求、そして脱却

ヒトリエが3人体制では初となるフルアルバム「REAMP」を完成させた。

2019年秋の全国ツアーを皮切りに、シノダ(Vo, G)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)の布陣で活動を続けてきたヒトリエ。昨年12月に発表したデジタルシングル「curved edge」、先行配信された「YUBIKIRI」「イメージ」など全10曲を収めた本作は、全曲の作詞をシノダが担当。作曲はメンバー全員が手がけ、3人体制のヒトリエのスタート地点を示す作品となった。

音楽ナタリーではメンバー全員にインタビュー。アルバム「REAMP」の制作過程、作詞や作曲への向き合い方、現在のヒトリエの状況などについて聞いた。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 斎藤大嗣

ギター1本になるのは作りやすい1つの制限

──ニューアルバム「REAMP」、とても素晴らしいです。ベストアルバム「4」(2020年8月19日リリース)の先にある、3ピースバンドとしてのヒトリエのあり方が強く伝わってきたし、何よりもロックアルバムとして最高だなと。

シノダ(Vo, G) ありがとうございます。そう言ってもらえるとうれしいです。

──3人体制になって、2019年の秋から本格的にライブを始めて。昨年は有観客でのライブができない時期が続きましたが、皆さんの状況はいかがでしたか?

シノダ 2020年は「REAMP」の制作に全力投球していた1年でしたね。コロナの影響で、バンドとしていろいろなことが立ち行かなくなったので、ここは制作にシフトしようと。

イガラシ(B) 去年の春先くらいにはそうなってましたね。

シノダ(Vo, G)

──3人で曲を作ってアルバムを出そうと。

シノダ そうですね。2月、3月くらいから「1コーラスでもいいから、ひと月に10曲は出していこう」と決めて。実際に作曲した割合は“8:1:1”だったんですけど(笑)。

──シノダさんが8割。

シノダ はい(笑)。最初は10曲全部になりそうだったから、それだけは回避しないといけないと思って、2人に振ることにして。

イガラシ これからも8:1:1でいきます。

シノダ だそうです(笑)。

──(笑)。曲を作り始めた当初、3人体制のヒトリエとして「こういう音楽を作っていこう」というイメージはあったんですか?

イガラシ まったくなかったです。

ゆーまお(Dr) 3人がどんな曲を作るのかわからなかったので、自分としてはまずは一生懸命に作ってそれを2人に投げようと思っていて。状況的にみんなで集まってセッションできる感じではなかったから、リモートで制作してたんですよ。作曲した人が“監督”になって、アレンジを進めました。

──作曲者がイニシアチブを取っていたと。「メンバー3人だけで演奏する」というのは想定してたんですよね?

シノダ そうですね。ギターは俺1人しかいないので、ダビングするときも1人以上の質量を感じさせないように意識して。「なるべく3ピースを軸に考える」というのは念頭にありました。以前はギター2本で構成を考えていたので、ギター1本になるのは1つの制限と考えていたというか。ただ、もともと俺は制限を設けたほうが作りやすい人間なので。

「wowakaにも聴かせたい」と思える作品に仕上げたかった

──しかもシノダさんはボーカルを取るわけで、当然そこも考えなくちゃいけないですよね。

シノダ そうなんですよね。ギターを詰め込みすぎると歌えなくなっちゃうから。2019年に3人でツアーを回って、「これくらいだったらギター弾きながら歌える」ということも少しずつわかってきてたので、それはよかったのかなと。

ゆーまお(Dr)

──イガラシさんやゆーまおさんも、3ピースバンドということは意識してました?

イガラシ 編成というよりも「作曲をこなす」ということしか考えてなかったです。全体を俯瞰して冷静に作れるような感じではなくて、とにかくやってみようと。去年の春先から夏前までのどんよりしていた時期に「自分が聴きたいメロディを探す」というところから始めて、「これはいいかな」と思えるメロディができたことで「やっとみんなに聴かせられる」という感じでしたね。

ゆーまお 僕はギターが弾けないので、鍵盤で作ってました。まず曲を作る前から、みんなが思うヒトリエ像に見合う曲を俺が作れない、作らないことはわかっていて。そのことを気にする必要はないというか、そう考えないと前に進めなかったんですよね。

イガラシ (うなずく)

ゆーまお しかも自然と明るい曲を書いてしまうので「どうなるのかな」と思ってたんですけど、シノダがギターと歌を乗せてくれて、イガラシにベースを弾いてもらって……と進めていくうちにだんだん形になってきて。自分のドラムを含めて、メンバーの音が重なることでおのずとヒトリエっぽくなるんだなと発見できたんですよね。

──メンバーに任せることが大事だった?

ゆーまお 任せてよかったと思いました。決め打ちで「このフレーズを弾いてほしい」というやり方もあると思うんですけど、自分が作曲した曲に関しては2人にやりたいことをやってもらった。それがよかったのかなと。

──シノダさんはどうですか? 制作において「ヒトリエらしさ」は意識していましたか?

シノダ どうしたらヒトリエらしくなるのか、というのはやっぱりどこかで意識していて。ヒトリエのよさ、バンドとしてのアイデンティティってなんだろう?ってめちゃくちゃ考えたんですけど、歌う人間が変わった以上、変化は避けられないですからね。そのことを踏まえて、まず「wowakaのような曲を書く」という発想は違うなと思って。作風を真似たところで変化は避けられないし、「それぞれの演奏でヒトリエというものを作り上げてきた」というところに立ち戻ろうと。あとはもう「このメンバーでいいアルバムを作れば、それでいい」と思ったんですよね。いい曲を書いて、いい歌詞を書いて、音楽としていいモノを作る。それを目指すことで、健康的な結果が得られるんじゃないかと。

イガラシ(B)

──なるほど。イガラシさんはヒトリエらしさについてどう考えてました?

イガラシ ゆーまおが話したことと同じで、wowakaのような曲を作るのは無理ですからね。模倣したくないというのもあるけど、それ以前の問題というのかな。ベストアルバムを改めて聴いたときも「こんな曲、自分に作れるわけない」と思ったんですよね。3人でやる以上、全然違うものになるのはわかりきってたし、今まで一緒に音楽をやってきた時間と体験を根拠にして、自然体で作るしかないと。できたものに対して何を言われるか、どう受け止められるかはわからないけど、とりあえず「wowakaにも聴かせたい」と思える作品に仕上げたくて。そういうアルバムをみんなの元に届けられたらそれでいいというか。

──誰もwowakaさんのような曲は作れないですからね。

イガラシ はい。彼が作り上げた“らしさ”というか、フォーマットみたいなものを使うのは誠実じゃないし、それは一番彼自身が嫌がるだろうなと思って。

シノダ うん。3人でツアーを回って、あいつの曲をたくさん歌ったことも大きくて。ギターもそうですけど、俺が一番wowakaをコピーしてきたし、無理にマネしなくても自然に出てくるものがあるだろうなと。