ガラケーで新しい才能をチェック

──前にインタビューしたとき（参照：平井堅「THE STILL LIFE」インタビュー）に、「平井さんは自分の言いたいことを歌うというよりも聴き手の感情に寄り添うのが上手な、ちょっと変わったシンガーソングライターだと思う」と言ったら、平井さんが「そもそも自分がない」と自虐的なことを言い出して……（笑）。

本当にそうですから。昔はあると思ってたんだけど、やればやるほど「自分は何もないな」ってすごく思うんですよ。それは悩みの種でもあるけど、他人に委ねることは楽しみの種でもあるというか。他人に委ねちゃう派はセンスの悪い人を選んだらまずいので（笑）、そこだけはちゃんとしなきゃなと思ってますけどね。全部自分でできたらいいのになと思うときもあるけど、そんなに多機能じゃないし、歌に集中したいっていうのもあるし。今はすべて自分でやっちゃうYouTuber的な人たちがどんどん出てきて、これからも増えていく一方だろうから、時代には逆行してると思うんだけど、チーム感というか、昭和の歌謡界みたいなのが根っから好きなんでしょうね。毎日毎日「天才が突然目の前に現れないかな」って夢想してますから。いつも他力本願ですよ（笑）。

──新しい才能には日々チェックを入れているんですね。

はい。と言っても疎いし、いまだにガラケーの時点で全然ダメなんだけど、気が付いたらYouTubeでチェックしちゃってます。ただ、歌が好きなもんだから歌ばっかり耳に入っちゃって……（笑）。自分のライバルになる人をチェックしても役に立たないのにね。

プレッシャーで逃げ出したくなる

──平井さんは映画やドラマの主題歌がすごくたくさんありますよね。

ほかの方がどうなのか知らないですけど、ありがたいことです。

──ご自分ではどうしてだと思いますか？

えー!? ……なんかあのー、他人ばっかりうらやましくなりません？ 我々って。

──ああ、傍目にはすごくうまくいっているように見える人でも……。

自分にないものばっかり求めちゃう。だから自分が恵まれてるって全然思えないんですよ。ほかの方々の情報を目にしてうらやましいというか……。そういうことばっかり考えているから、なんか自分のことがあんまりわかんないんですよね。

──タイアップで曲を作るのはお得意なのかと思っていました。

全然得意じゃないんです。本当に。そもそも曲を書くのが得意じゃないから（笑）。「こういう話あるけど」ってマネージャーに言われるたびに憂鬱になるし。すっごくありがたいしうれしいんだけど、とにかく自信がないんですよ。最近は生意気にも、あるいは低姿勢と取られるのかもしれないけど、こう言うようにしてます。書けるかどうかわからないけどトライはします、クライアントに「ちょっと違うな」って言われたらもちろん書き直すけど、どうやっても無理な場合は辞退したいと。もうプレッシャーで逃げ出したくなるから。

──そりゃ苦しみもありますよね。

そもそも「平井堅さんにお願いします」っておかしくないですか？ いい曲書けるかどうかなんてやってみないとわからないじゃんって思います。一生懸命やるタイプではあるけど、向こうにとっても博打じゃないですか。僕だったらコンペにするなって思います。気に入られなかったらストックになるだけで、お互い損はしないんだし。という気持ちなので、ありがたいけど得意ではないです。

──クライアントの心理を想像すると、平井さんのブランドもあるでしょうし、そのブランドはこれまでの楽曲が作ってきたもので。各々が抱いている平井堅のイメージがそのプロジェクトに合うと判断したから依頼するんだと思うので、もっと自信を持っていいと思うんですが……。

いやいや、自信は持てないです。クライアントの指示に従って、合わせて合わせて書いた曲が結局すごく散漫な出来になってヒットしない、みたいなこともあるから、感謝と敬意は表しつつも言いなりになってはいけないと思ってるし。すごく難しいし、怖いです。最終的には自分を信じるしかないんだけど、他者の評価で成り立ってる仕事だから、そこはどうしたって揺らぎますよね。

帰ったら平井堅聴こうかな

──平井さんは常々「ヒット曲を出したい」と公言して、シングルにこだわっていますが、環境が激変する時代をどう活動していこうとお考えでしょうか？

とにかくいい曲を作って、いい形で届ける努力をまだまだあきらめずにやりたいですね。「みんなが知ってる流行歌がなくなった」と言われるようになってひさしいけど、一方で、サブスクリプション含めて曲単体で消費される時代にはますますなってきている気もするんですよ。なので、シングルというか曲ごとのエンタメ性を高めていくことにしか興味がないというところはあります。ライブはもちろんやっていくし、アルバムも出すけど、インド人になってみたり（「ソレデモシタイ」のMV）、安室奈美恵さんと歌ってみたり（「グロテスク feat. 安室奈美恵」）したのも、すべてはシングルのエンタメ性を高めるためにやってきたことなので。「いてもたっても」で魔法使いになったのもその思いからですしね。

──4月に各ストリーミングサービスで平井さんの過去作の配信がスタートしましたが、そのことについて何か思うところはありますか？

僕は町田くん並みの超アナログ人間で、さっき言った通りいまだにガラケー使ってますし、そもそもストリーミングとかサブスクがなんなのかもよくわかってないんですけど、友達に「やんないの？」ってずっと言われてきたから、解禁されてよかったなと思ってます。実は今日、家のパソコンで某サブスクリプションを契約したんですよ。なので今日サブスクデビュー（笑）。帰ったら平井堅聴いてみようかな。