音楽ナタリー Power Push - 平井堅

5年ぶりアルバムに込めた、闘いの軌跡

平井堅が通算9枚目のオリジナルアルバム「THE STILL LIFE」をリリースした。前作「JAPANESE SINGER」から5年ぶりのオリジナルアルバムとなる本作には、ペトロールズの長岡亮介、大橋トリオこと大橋好規、R&B界のヒットメーカーUTAらとのコラボ楽曲など、平井にとって新たな挑戦が詰め込まれている。

音楽ナタリーでは本作の発売を記念して平井のへインタビューを実施。5年というインターバルの理由、世代違いのミュージシャンたちとの共演、ヒット曲へのこだわりなどについて聞いた。

取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / Yusuke Yamatani

5年間の闘いの軌跡

──アルバムが5年ぶりになった理由からうかがってもいいですか?

ベストなタイミングで出したくて、それまでに5年かかってしまった、という感じですね。僕の責任、僕の意思です。これだけシングルを重ねてきて、スタッフからは何度か「ここで出そう」というサジェスチョンもいただいていたんですが、まだまだ、もう一歩跳躍できるようなシングルを出してから……とタイミングを見計らってきました。

──で、タイミングが今だったと。

はい。5月に「Plus One」を、6月に「魔法って言っていいかな?」をリリースしてみて「これはアルバムへのいいジャンプ台になるんじゃないかな」と思ったわけです。でもいざアルバムを作ってみると既発曲だけで9曲あるのが心苦しくて……。新録をもっと入れたいし、でも曲数が多いのも好きじゃないし……という葛藤を経て、世界観とか統一感みたいなものはあんまり気にしない、って言ったら変ですけど、僕のここ5年間の闘いの軌跡を刻んだアルバムと解釈していただこうと思っております。

──「5年間の闘い」とはどんなものだったんでしょうか?

平井堅

音楽業界との闘いもあったし、タイアップ先との闘いもあったし、状況との闘いもあった。例えばシングルとしてリリースした「ソレデモシタイ」や「グロテスク feat. 安室奈美恵」はノンタイアップなんですけど、今の時代、ノンタイアップでシングルを切るなんてほぼ不可能に近いじゃないですか。それでもやっぱりヒット曲というか、僕なりに曲をハネさせたいという目標があったので、「ソレデモシタイ」では(ジャケットやMVで)インド人になる、「グロテスク」では安室奈美恵というアイコンと組む、ということが、僕の中では曲を聴いてもらうための戦略だったんです。一方で、ドラマ(「Wの悲劇」)の主題歌だった「告白」の場合は、ドラマサイドからの「最後は希望の光を一筋入れてください」というオファーを説得して「巡れど巡れど闇は闇」という歌詞を通したりとか。どう自分をブランディングしていくか、どう自分を守っていくか、というところで葛藤し、格闘した5年間だったなと思いますね。

──やっぱり平井さんほどのスターになると責任も大きいし、ご自分の好きなことをただやっていればいいというわけにもなかなかいかないわけですよね。

いやいや! それは僕に力がないからで。本当にスターだったら、好きなことができるんですよね、力があるから。そのあたりのジレンマというか焦燥感は常にあるし、結果を出さないと結果を出さないと……ってがんばって、大した結果じゃないけど出せたときもあるし、出せなかったときもある。もちろん結果がすべてじゃなくて、長く聴いてもらえるようなものを作るのが一番大切なことなんだけども、だからといって結果をおざなりにしていると、何もかもついてこなくなる。だからどうにか勝っていきたいけど、目の前のものばかり追っかけていても……っていうことの繰り返し。大変ですね。

──今作は14曲中9曲が既発曲です。アルバムにシングル曲を全部入れるということに関しては、これまでも一貫していますよね。

僕、あんまりアーティスト性とかなくて、シングルはシングルで大切な軌跡だからという理由から基本的にできるだけ入れたいんです。今回は両A面シングルがあったこともあり、9曲と特に多いし、ちょっとせめぎ合いはありましたけど、例えば「この曲はアルバムの世界観に合わないから入れないでおく」みたいなことはもったいなくてできないし、残しておいて次のアルバムに入れるみたいなこともできないんですよ。刹那主義なので、そもそも次のアルバムを出すかどうかもわかんないじゃんって考えてしまう。また、そうやって常にリセットしていきたいという気持ちもあります。

──そのときそのときに、出し惜しみせずにすべてを入れていくと。

はい。あと僕はシングルをリリースすることに関して、こだわりがあるんです。今はシングルというものを重視しない人も増えてきたし、時代遅れかもしれないけど、僕はやっぱりヒットシングル、ヒット曲を出したいんですよね。そこに対する執着の強さが5年の間隔につながったところもあります。

ニューアルバム「THE STILL LIFE」/ 2016年7月6日発売 / アリオラジャパン
初回限定盤 [CD+DVD] / 4050円 / BVCL-731~2
通常盤 [CD] / 3240円 / BVCL-733
CD収録曲
  1. Plus One
  2. 魔法って言っていいかな?
  3. 告白
  4. かわいいの妖怪
  5. 桔梗が丘
  6. Missionary
  7. ソレデモシタイ
  8. 驚異の凡才
  9. 君の鼓動は君にしか鳴らせない
  10. ON AIR
  11. おんなじさみしさ
  12. グロテスク feat. 安室奈美恵
  13. TIME
  14. それでいいな
初回限定盤DVD収録内容
<STUDIO LIVE 2016>
  • 君の好きなとこ
  • LIFE is...
  • POP STAR
  • 魔法って言っていいかな?
<MUSIC VIDEO>
  • 告白
  • 桔梗が丘
  • グロテスク
  • ソレデモシタイ
  • 君の鼓動は君にしか鳴らせない
  • ON AIR
  • Plus One
平井堅(ヒライケン)
平井堅

1972年大阪生まれのシンガーソングライター。大学在学中にソニーミュージックのオーディションに入選したのをきっかけに、1995年にシングル「Precious Junk」でデビュー。2000年にリリースしたシングル「楽園」がヒットを記録し、その卓越した歌唱力と完成度の高い楽曲で一躍トップシンガーの仲間入りを果たす。2002年には童謡「大きな古時計」のカバーで世代を超えた人気を獲得。その後も「瞳をとじて」「POP STAR」など多くの楽曲をヒットチャートに送り込んでいる。また「Ken's Bar」と題したアコースティックライブシリーズを自身のライフワークとして定期的に開催しており、同タイトルのカバーアルバムも3作発表。2016年7月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「THE STILL LIFE」をリリースした。