JUJUのオリジナルアルバム「The Water」がリリースされた。
JUJUがオリジナルアルバムをリリースするのは、2018年2月に発売された7thアルバム「I」以来、実に7年ぶり。ひさびさのオリジナルアルバムとなる本作には「ミライ」「STAYIN' ALIVE」「こたえあわせ」「花」「Bet On Me」「一線」といった既発曲が新曲6曲とともにパッケージされ、また新たな物語が紡がれている。
この7年の間にもさまざまな切り口のコンセプトアルバムをリリースしたり、「スナックJUJU」を東京ドームで行ったりと、精力的な活動を続けてきたJUJUだが、なぜひさびさにオリジナルアルバムをリリースすることになったのか? 「The Water」発表に至るまでの経緯から、作品に込めた思いまで、本人に話を聞いた。
取材・文 / 川口真紀
「The Water」は“初めて自分をハグしたくなるようなアルバム”
──昨年デビュー20周年を迎えましたが、節目を越えて今どのような心境ですか?
「20年も経ったんだな」というのが本当に素直な気持ちですね。10周年のときも「まさかJUJUが10年も続くとは」と私もチームのみんなも思っていたし、さらにそこから10年経って、「よくぞJUJUをここまで連れて来てくださったな」とファンの皆さんへの感謝の思いでいっぱいです。だからこそ去年は、皆さんが好きだと思うJUJUを観に来れるように、今までやってきたすべてのタイプのライブをやりました。そこに来てくださった皆さんの目を見て「ありがとうございました」と伝えたいなって。でも実際にやってみて、この20年分のありがとうは1回のライブでは全然言い尽くせないということがよくわかったので、もうあと20年、アディショナルタイムでこの20年のありがとうを言い続けていきたいです。
──20周年を経て、7年ぶりのオリジナルアルバム「The Water」がリリースされました。この間もジャズアルバムや3枚のカバーアルバムを出したり、ライブを精力的に行ったりと大忙しでしたが、ずっとオリジナルアルバムをリリースするタイミングを伺っていたのでしょうか?
「オリジナルアルバムを出したい」と言い続けながら、気付いたら7年も経っていたという感じです。ありがたいことにいろんなタイプの曲を歌わせていただいているし、どんなタイプの曲を発表しても皆さんニコニコ聴いてくださって。それに紐付いたライブをやると、皆さんニコニコ聴きに来てくださる。どのタイプのアルバムを作ったとしても皆さん喜んでくださるけど、時間が経つにつれて「そろそろオリジナルアルバム出さないんですか?」という声が届き始めてきたんです。皆さんがそう思い始めるタイミングと、私が思い始めるタイミングがだいたい同じくらいでしたね。結局7年も経ってしまったけれど、やっと皆さんにお届けすることができてホッとしています。
──7年前とは違う思いが今作には込められているのでしょうか?
そうですね。7年前にこのアルバムを作ることができたかと言うとたぶんできていなかっただろうし、このアルバムに込められている気持ちや心境には絶対到達していないと思う。今回のアルバムは、初めて自分をハグしたくなる、ものすごく端的に言うと“自分ありがとうアルバム”で。生きているだけで素晴らしいし、ここまでやってきた自分を1回立ち止まって褒めてもいいんじゃないかという気持ちを込めた作品なんです。
──自分を褒めてあげたいと思うようになったきっかけがあったのですか?
特にないです(笑)。でも強いて挙げるなら、ユーミンと一緒にアルバムを制作させていただいたことは大きかったですね。「ユーミンをめぐる物語」(2022年リリース)のとき、ユーミンが「鍵穴」という曲を書き下ろしてくださって。ユーミンと(松任谷)正隆さんがJUJUという存在を想像しながら「鍵穴」を作ってくださったんだなと考えたら、「ああ、JUJUのやってきたことは間違いじゃなかったんだ」と初めて思えました。これまで過去の自分を振り返って「あのときの私はすごかった」と思ったことはなかったから、そのとき初めて救われた気がして、涙が出てきたんです。
──なるほど。
あと、今回のアルバムの最後に入っている「The Water」の存在も大きかったです。この曲は詞先で作ったんですけど、歌詞にメロディが付いて仮歌を歌ったときに、JUJUだけじゃなく“本名の私”も救われた気がして。「心のまま笑い / 誰かのために泣き / 闘った私が / 私は誇らしい」という歌詞を歌ったときに、過去の自分をいろいろ思い出して「これは確かにもう褒めてもいいかも。1回くらい自分によくがんばりましたって言ってあげてもいいかも」と強く思ったんです。それこそ嫌いな自分を水に流せるなって。みんないろんなものを抱えて生きていて、どの世代の人も生きている年数分がんばっているわけだけど、自分のことを褒めることってなかなかないと思う。でもこの曲を聴いて、「もしかしたら自分のことを褒めてもいいのかもな」と感じてもらえたらすごく素敵だなと思っています。
こんな姿見せたことあったっけ?
──「The Water」はアルバムタイトルでもあり、さらには1曲目にも「The Water-Prelude」が収録されています。「Water」がキーワードであることは間違いないですが、そこにはどういった思いが込められているんですか?
人間はいろんな水分を出したり吸収したりしながら成長していくし、水みたいにその時々で形を変えていけるくらいしなやかでいたいなと思って「The Water」というタイトルにしました。タイトルを決めたあとで「表題曲を作ろう」ということになって。歌詞から作り始めたら、最終的に2つの歌詞が残ったんです。その2つを最初と最後に入れて、起承転結の“起”と“結”にしようと。でもまさか私が、自分で自分を褒めるような曲を作るだなんて。それこそ7年前にはこういう曲は作れなかっただろうし、20年前は「自分を褒めたい」だなんて絶対に思っていなかっただろうから、自分でも本当にびっくりです。人生って面白いなと思いますね。
──平井堅さん作詞作曲、松任谷正隆さんアレンジの「ぐらぐら」は本作の中でも大きなトピックですね。平井さんは前作収録の「かわいそうだよね」でも作詞作曲を手がけていましたが、今回はどのような経緯でご一緒することになったのですか?
2、3年前に、平井さんが「JUJUのことを曲にしたから今度送るよ」とおっしゃって。2曲も送ってくださって、どちらもすごくいい曲だったんですけど、両方入れるのはもったいないなということで、今回は「ぐらぐら」を収録することになりました。平井さんはユーミンツアー(「JUJU HALL TOUR 2022 不思議の国のジュジュ苑―ユーミンをめぐる物語―」)のときの「TYPHOON」を歌う私を見て、この曲を書こうと思ったらしいです。平井さんに「アレンジでお仕事したい方いますか?」と聞いたら松任谷正隆さんのお名前を真っ先に挙げられて。「ぐらぐら」と聞いて平井さんが思い描く場所と、正隆さんが思い描く場所と、私の思い描く場所が全員違ったんですよ。三者三様の「ぐらぐら」が合わさった曲になっています。
──皆さんどんな場所を思い描いていたんですか?
平井さんは行きつけのとあるお店。私はそのお店に行ったことはないんですけど、「こんな姿見せたことあったっけ?」と思うくらいリアルな情景が描かれていて。「かわいそうだよね」のときも思いましたが、きっと平井さんはうちに監視カメラを付けてますね(笑)。正隆さんが思い描いていたのは新宿の暗いトンネルで、私は港区。いろんな場所が合わさっています(笑)。
──「ぐらぐら」の次に収録されている「幻火」はどのような心境を歌った曲でしょうか?
「ぐらぐらしている相手との関係は、実は幻なんじゃないか」という気持ちを歌った曲ですね。今回のアルバムは曲順通りにストーリーがつながっていて。「愛の嘘」かもしれないと思いながら誰かと「一線」を越えて、「欲望の果てまで連れてって」と思いながらその人と一緒にいる。でも好きになればなるほどその人の本当のことを知るのが怖くなり、聞けないことが増えていって「ぐらぐら」してしまう。終わりが見えている気がするからお互い本音は絶対言わないけど、心の中に秘めているものはすごく熱かったり、一方で表面上はすごくクールにしていたり。一緒にいるときのクールな感じが本当なのか、離れているときに感じる熱い気持ちが本当なのか。ぐらぐらしている私が本当なのか、幻の火を見ているだけなのか、なんなのかわからないところに皆さんを連れて行きたくて、ここにこの曲を入れました。
──「ぐらぐら」の次に入れようと思って作ったわけではなく、偶然すっぽりハマったのですか?
そうですね。どの曲も置くところによって意味合いが変わるし、それによって私の話す内容も変わってくると思います。でも今回のこのアルバムに関しては、この2人はこういう展開を迎えました、という。いくつになろうと人は心を揺らすべきだと思うから、ぐらぐらして幻の火を見るのは素敵なことだと思います。
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今はトゲトゲでもいいんですよ