HEY-SMITH猪狩秀平インタビュー|結成から15年、ターニングポイントを振り返る (2/2)

YouTubeを始めた理由は?

──猪狩さんがYouTubeを始めたことも、バンドにとって大きな変化なのかなと思っているのですが、いかがですか?

おお、なるほど。ちょうど始めて1年くらいなんですけど、確かに周りの反応は大きいものを感じています。お客さんとかスタッフさんから「ライブ行きました」よりも「YouTube見ました」と言われることのほうが多くて。今までもずっと一緒にやってきたけどあまり話すことのなかったスタッフさんからも「あの回が面白かったです」みたいなことを言われるようになって、今まで俺って話しかけにくかったんやなと思いました。お客さんからも「猪狩はマジ塩対応やからしゃべりかけんほうがいいで」みたいなことをめっちゃ言われてたんで、俺の内面や考えていることが周りに伝わってなかったんやなって。

──YouTubeを始めて周りの人に人間性が伝わってきたという事実は、バンドの活動や音楽に影響しますか?

活動や音楽には影響しないですね。ミュージシャンはちょっとミステリアスなほうがいいと考える人もいると思うんです。それは一理ありまくるし、わかるんですけど、俺は性根がミステリアスじゃないから。歌っている内容も、青春や友達のこと、自分の生き様ばかりだから、普段の姿を見られても楽曲への印象は変わらないんちゃうかなと自分では思っています。

──それこそYouTubeでは、賛否両論あったバンド好きのギャルと飲む回もあれば、メンバーと楽しく飲む回や真面目にバンドシーンや音楽について語る回もあって。猪狩さんがステージ上で話していることや音楽で示していることが、猪狩さんの人間性と一致しているという答え合わせのようなものになっているのではないかなと思うんです。

あー、なるほどね。俺はもともと嘘をついたり、演じたりすることが苦手で。学生時代は人によって態度を変えて精神的に疲れたこともあったんです。そういう経験を経て、「俺、クズなんでよろしくお願いします」って先に言っておくとすごく楽だということに気付いて。バンド仲間や先輩に対してもそうやけど、リスナーにもそう思ってもらっておきたいなと思って、YouTubeを始めたところもあるんですよね。いい人じゃないけど、自分はそういう人間やしって。いや、いい人ではあるか? でも悪いこともしてるし、いや……悪いことではないか?(笑) とにかく、絶対に聖人ではないけどよろしくって。それでもいいよと言ってもらえたらすごくうれしい。

──猪狩さんのそういう完璧でない姿を見て安心したり、救われたりする人もきっといるでしょうね。

「だったら自分もがんばれるかもしれない」みたいな? 確かに。そういうのって大事ですよね。しかも、バンドはそういうダメなところが個性になると思っているので、ダメなところはいっぱいあってもいいんですよね。

1つのことを一生懸命にやることの素晴らしさ

──今年の3月には、15周年を記念した2度目のワンマンライブ「“HEY-SMITH ONE MAN SHOW -15th Anniversary-” IN TOKYO GARDEN THEATER」が開催されました。MCでは「HEY-SMITH史上一番いいライブにしたい」とおっしゃっていましたが、あの日のライブの出来はいかがでしたか?

「最高だった」と言っていいと思う。自分たちの気持ちはもちろんやし、お客さん、演奏でコラボした銚子高校の吹奏楽部、ライブ制作チーム、全部がハマった感じがありました。途中、照明が切れたり、音響が切れたりとトラブルもめっちゃあったんですけど、それを含めてよかったと思えるし。演奏的にはもっとちゃんとしたかったなと思う部分はあるけど、ライブ的にはよかった。

──照明トラブルが起きてから皆さんが即興で演奏したり、満(Sax)さんがダンスパフォーマンスを披露したりと回避の仕方もHEY-SMITHらしくて。

トラブルが起きるまで、メンバーみんな集中しすぎていたんですよ。ちょっとだけ演奏が硬いというか。でもあのトラブルで、一気に和やかになってライブがよくなった気がします。

──私もライブを実際に拝見させてもらっていましたが、特に銚子高校吹奏楽部とのコラボは、当日も感動しましたし、DVDで改めて観てもグッとくるものがありました。

あれ、ヤバいですよね。あの学生たちのようなピュアさはもう出せないなと思う。

──高校生とのコラボで得た、一番大きなものはなんですか?

1つのことを一生懸命にやることの素晴らしさかな。それだけで、人生がハッピーになるんですよね。たぶん、生きていくうえでたくさんのことをやる必要はなくて。「かわいくなって、おしゃれになって、料理もうまくて」みたいな必要はなく、何か1つのことを一生懸命貫いたら、本当の幸せがそこにはある。そういうことを教えてもらいました。ライブのあとに、とある生徒の親御さんからお礼を言われたんです。今までは遅刻ギリギリに学校に行って、普通に帰ってくるだけだったけど、ライブに出ることが決まってからの半年間は、毎日5時に起きて7時に学校に行って始業のベルが鳴るまで朝練して。帰ってきてからもずっとその話をしてたって。「そんな時間を作ってくれてありがとうございました」と言われたんです。それを聞いて、自分は音楽に対してそんな努力をしているか? とハッとして。「そんなに夢中で音楽やってるか? 音楽ナメんなよ」と自分に対して思いました。そのあとから毎日練習……するのが普通の人間なんですけど……まあ残念ながら(笑)。

──ワンマンでの高校生とのコラボやYouTubeもそうですが、近年のHEY-SMITHは若いリスナーに目を向けている印象があります。“お兄さん目線”になってきているというか。ご自身でそういう感覚はありますか?

うーん……立場的なことは正直、わからないかな。このシーンを担うカッコいいバンドになろうという気持ちはあるけど、今どの位置にいて、何をすればいいのかはわからない。だけど、若い人に聴いてほしいとは思っています。じいちゃん、ばあちゃんにも聴いてほしいけど、若い人に「楽器できるやつ、ヤバイいで」と広めたい気持ちはあるかも。

──その気持ちは昔からあるものですか?

昔からずっとあるけど、最近さらに強くなってきたかな。俺はミスやイレギュラーなことが起きるバンドのライブが好きなんです。バンドのライブやったら、ドラムが予定してた曲と違うカウントで入って、ほかのメンバーがなんの曲かわからんくて戸惑うみたいなこともあると思う。逆にそれでテンションが上がるっていう。そんな面白さを若い人にも知ってほしい。今って間違いを犯さないことが正義みたいな風潮があって、特に今の若い人は“出る杭”になるのを怖がっていると思うんですけど、一歩踏み出してほしいなと思います。

猪狩秀平(G, Vo)

変わらない音楽への思い

──では最後に聞かせてください。15年間やってきて、一番変わらないもの、変えたくないと思っているものはなんですか?

音楽はお酒のつまみくらいに思っている、ということかな。もちろんめちゃくちゃ大事に思っていますけど、「音楽がなかったら死ぬ」くらいまで思っちゃうと、ホンマの意味で音楽を楽しめなくなる気がして。音楽が水や食料くらい大事なものになってきちゃうと、奪い合ったり競い合ったりしちゃうと思うんです。でも「なくても死なんけど、なかったら嫌」っていう、酒のつまみくらいに考えておけば、ずっと楽しくやっていられる。ライブに対しても、もちろん自分の本能を表現したいという気持ちはありますけど、そんなことよりも、終わってみんなで酒を飲みたいからやってるところがあって。ライブ後に酒飲みながら、「楽しかったなー。あそこがよかったけど、あそこはよくなかった」と言い合って、またいいライブを目指すみたいな。それくらいの感覚で、この先もやっていきたいですね。

──いいライブができたら、お酒もおいしく感じられるでしょうしね。

そうなんですよ。でもね、最悪なライブをしたときも意外とおいしいんですよ(笑)。音楽を作ることとバンドをやるっていうのはまた違うと思っていて、俺は“バンドをやる”ということをすごく大事にしているんだと思います。

──「音楽はお酒のつまみだと思っている」というのは、過去のインタビューでもおっしゃっていましたね(参照:HEY-SMITH「Your Freedom」インタビュー)。

えー! そうやったっけ? エグっ!

──その気持ちが変わっていないという答え合わせになりましたね。

ホンマや!

猪狩秀平(G, Vo)

イベント情報

HEY-SMITH Presents OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2022

2022年9月10日(土)大阪府 泉大津フェニックス
OPEN 9:00 / START 11:00

<出演者>
HEY-SMITH / EGG BRAIN / ORANGE RANGE / coldrain / SiM / SIX LOUNGE / SHADOWS / NAMBA69 / ハルカミライ / FOMARE / MONGOL800 / ROTTENGRAFFTY
MC:R藤本
パフォーマー:GOODSKATES


2022年9月11日(日)大阪府 泉大津フェニックス
OPEN 9:00 / START 11:00

<出演者>
HEY-SMITH / GOOD4NOTHING / THE ORAL CIGARETTES / The BONEZ / G-FREAK FACTORY / SHANK / dustbox / Dizzy Sunfist / 10-FEET / HOTSQUALL / 04 Limited Sazabys / 山嵐
MC:R藤本
パフォーマー:GOODSKATES

プロフィール

HEY-SMITH(ヘイスミス)

猪狩秀平(G, Vo)を中心に結成されたパンクバンド。2006年に大阪を拠点にライブ活動を開始し、2009年に1stミニアルバム「Proud and Loud」でCDデビュー。2010年の1stフルアルバム「14 -Fourteen-」を経て2011年にリリースした2ndフルアルバム「Free Your Mind」はオリコン週間インディーズランキングで1位を記録する。2012年にはcoldrain、SiMとの合同ツアー「TRIPLE AXE TOUR 2012」を開催した。2013年5月、2年ぶりのフルアルバム「Now Album」を発表。2010年より自主企画イベント「OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL」を主催しており、2014年9月には大阪・泉大津フェニックスにて初の野外開催を成功させた。メンバーチェンジを経て、現在は猪狩、YUJI(Vo, B)、満(Sax)、Task-n(Dr)、かなす(Tb)、イイカワケン(Tp)の6人体制で活動を行っている。2016年5月には現体制で初めてレコーディングしたアルバム「STOP THE WAR」を発売。結成15周年イヤーの2022年には、3月に東京・東京ガーデンシアターにて2度目のワンマンライブを行い、8月にこの模様を収録したライブDVD / Blu-ray「HEY-SMITH ONE MAN SHOW -15th Anniversary- IN TOKYO GARDEN THEATER」をリリースした。