HEY-SMITH猪狩秀平インタビュー|結成から15年、ターニングポイントを振り返る

2021年に結成15周年を迎え、現在アニバーサリーイヤー真っ最中のHEY-SMITHが、新作ライブDVD / Blu-ray「HEY-SMITH ONE MAN SHOW -15th Anniversary- IN TOKYO GARDEN THEATER」を8月3日にリリースした。

この映像作品には、今年3月に東京・東京ガーデンシアターで行われた2度目のワンマンライブの模様を収録。HEY-SMITHと千葉県の銚子市立銚子高等学校の吹奏楽部とのコラボレーションや、2度にわたるアンコールの様子など、バンドの集大成とも言える全36曲のパフォーマンスを観ることができる。

音楽ナタリーでは本作の発売を記念して猪狩秀平(G, Vo)にインタビュー。結成からこれまでのバンドのターニングポイントや東京ガーデンシアターでのワンマンライブについて振り返ってもらった。

取材・文 / 小林千絵撮影 / 永田拓也

15年経った今が一番全力

──HEY-SMITHは結成15周年を迎えましたが、今の心境はどのようなものですか?

もう少し売れてるのかなと思ってました。もっと売れてて、「だいたい満足したし」とか言って活動のペースを落として、バンドを上に上げていくというよりは、音楽を楽しむ方向になっているのかなと思っていました。

──今でも十分人気だと思いますが、もっと?

全然全然! 豪邸に住んで、結婚もして、行きたいときに海外行って。「パスタ食べたいからイタリア行こう」みたいな、そういう生活をしてると思っていました。

──スーパースターのような?

うん。昔はZepp規模の会場をソールドアウトさせられるようになったら、億単位のお金が手に入ると思ってたんですよね。あとは、15年もやったら、音楽に飽きるくらい音楽をやりきってるだろうなと思ってた。10年、15年くらいは全力ダッシュできると思うけど、それ以上は難しいんやろうなって、バンドを始めたときには思ってて。なのに、実際は今が一番忙しいんちゃうかなと思うくらい全力で。去年も47都道府県ツアーやってましたしね。

猪狩秀平(G, Vo)

──この15年間を振り返って、ターニングポイントを挙げるとしたらいつになりますか?

一番大きいのはメンバーの脱退と加入ですね(参照:HEY-SMITH、MukkyとIori脱退&新メンバー募集を発表 / HEY-SMITH、かなす&イイカワケン正式加入で6人編成に)。アレはほんまに大きかった。バンドを始めて15年くらいでだいたい音楽をやりきってるのかなと思っていたのは、メンバーの脱退というのをまったく考えていなかったからで。特にメインボーカルが変わってもう一度勢いを増すバンドって、これまでほぼ見たことがなかったので、メンバーの脱退が決まったときは「これは終わったな」と思いましたね。もちろん加入してくれたYUJI(Vo, B)がいいヤツだということはわかってるけど、チケットの売れ行きも落ちたんで「やっぱりそうやんな」と。でもそのあと徐々にお客さんが増えてきて、今は当時以上になってきて「やっとや」と思っているところです。でもメンバー脱退があったからこそ、フレッシュな気持ちで長く続けていられるのかなとは思います。

──メンバーチェンジをした当時、5人編成から6人編成になって戻ってきて、頼もしいなと思っていたことを覚えています。

6人編成になって、音的には絶対にいけるという確信があったんです。YUJIは歌がうまいし、管楽器も1つ増えて、自分のやりたかったハーモニーを取り入れた音楽も実現できるようになって、音の説得力にも自信はあった。けど、バンドって音だけじゃないから。ライブや生き様、説明できないキラキラした感じがあるじゃないですか。それがこの6人で出せるのかというのはやってみなわからんかった。そこまで不安はなかったけど、確信も全然なくて。まあ、このメンバーでアルバム3枚くらい出してから考えようと思っていました。

──その手応えはいつ頃確信に変わりました?

うーん……まだアルバムを3枚出してないから……。

──まだ確信していない?

そうですね。あと1枚くらい出して、しっかりわかるんじゃないですかね。前のメンバーでもアルバムを3枚出しているので、今のメンバーでも3枚出してからかな。音楽的に考えると、どっちのメンバー構成がいいって、少なからずあると思っていて。あと1枚リリースしたら、そういう答えが出るんちゃうかなと思います。あとはバンドとして「あのバンド、ヤバいよな」と思われる存在にも、あと1枚出した頃にはなっていたい。

──すでに、そんな存在になれているのでは?

いや、全然。東京ドームでライブやってるヤツが一番偉いとかそういう話じゃないけど、質的にもシーンの影響度的にも「あのバンド、ヤバいよな」と思われたくて。そういう存在にはまだまだなれていないと思っています。

猪狩秀平(G, Vo)
猪狩秀平(G, Vo)

音楽性が確立された「Free Your Mind」

──ほかにもターニングポイントはありましたか?

2ndアルバム「Free Your Mind」(2011年5月リリース)を出した頃ですかね。その前の「14 -Fourteen-」(2010年1月リリース)を出したあたりから、「何か来てる気するな」みたいな感覚はちょっとあったんですけど、「Free Your Mind」で一気に世間に認知された感じがあって。確か、「Free Your Mind」でオリコンの週間インディーズランキングで1位を記録したんです。それまでは、ライブでやり込んだ曲が、みんなに馴染んでようやく盛り上がるという感じでしたけど、「Free Your Mind」の曲はリリース直後からイントロでみんなが沸いて歓声も上がって。リスナーが増えたんやなと感じました。

──「Free Your Mind」は、作っているときから手応えはありましたか?

収録曲の一部はありました。あと、「Free Your Mind」はアメリカのエンジニアにマスタリングをお願いできたんですよ。今までとは毛色の違うエンジニアに頼んだこともあってか自分でも納得できる音に仕上がったから、どれくらい売れるかはわからないけど、まあ前よりは売れるやろうなとは思っていました。

──改めて振り返ると、「Free Your Mind」はHEY-SMITHの音楽性が確立されたアルバムだと思いますが、今振り返って猪狩さんにとって「Free Your Mind」はどのような作品ですか?

確かにHEY-SMITHの音楽性が確立された作品だと思う。それに、今聴いてもこれまで出したアルバムの中で一番いいんちゃうかな。総合的に聴くと「STOP THE WAR」(2016年5月リリース)もすごいと思うんですけど、もし「この先アルバム1枚しか聴けなくなるで」と言われたら「Free Your Mind」を選ぶんちゃうかな。自分の根底にあるものが一番出ている気がします。

猪狩秀平(G, Vo)

──代表曲とも言える「Endless Sorrow」も入っていますしね。

そういえば、俺は最初「Endless Sorrow」を特別いいと思っていなくて。アルバムに入れるかどうかも悩んでいたんですよ。そしたら、事務所の社長が「いやいや、これはミュージックビデオ曲でしょ!」って。そう言われて「そうなん!? じゃあ、まあ入れときますか」みたいな感じで入れたんです。

──それが今やイントロの時点でフロアが沸く曲です。

そうそう。さっき話していたイントロで歓声が上がった曲っていうのが、まさにこの「Endless Sorrow」で。「社長がいいって言ってたんはホンマやったんや!」と思いました(笑)。

「ハジマザ」は密度が高いまま大きくしたい

──それまでサーキットイベントとして開催していた「OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL」を2014年から野外イベントにしたことは、ターニングポイントではないですか?(参照:HEY-SMITH主催「HAZIKETEMAZARE」今年は9月野外で

あー、確かに。でもバンドを始めたときから「3枚くらいアルバム出した頃には野外フェスをやろう」と思っていたんで、想定内だったというか。だから「やりきった」とか「こんなところまで来た」みたいな気持ちはないですね。「これ、やりたかったやつや!」とは思いましたけど。

──では「ハジマザ」がここまで野外フェスとして定着していることも想定内ですか?

うーん、そもそもそんなに定着してる感じがしないかな。知ってるヤツだけが知ってるイベントやと思ってるんで。みんなが知ってるようなポップスターが出ているイベントじゃないから。楽しみにしてくれている人、年間行事に入れてくれている人がいることはめっちゃうれしいし、俺たちにとってはめちゃくちゃ大きいけど。

猪狩秀平(G, Vo)

──始めたときから「偏っているフェスにしたい」ということをおっしゃっていたので(参照:HEY-SMITH「Live at OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014」インタビュー)、そういう意味ではやりたいことはできている?

そうですね。そういう意味では、ポップスターがいないメンツで、密度は濃いまま、大きくしたいとは思っています。例えば、今は大阪で開催しているけど、東京で開催するとか、アジアで、アメリカで開催するとか、単純に会場を大きくするか。どういう形かはわからんけど、密度を保ったまま大きくしようとは思っています。何よりも、“密度が高い”というのがすごく大事で。例えば、コロナ禍の今は、ライブ中に歓声を出していいかどうかという問題がありますよね。そういうときに、いいか悪いかでケンカするようなイベントになるとしんどい。方向性が一緒やったら、どっちになってもいいと思ってるんです。みんなが声を出すなら出していいと思うし、出さへんって決めてるんやったら出さへんでいいし。俺らがどっちかに誘導するつもりはなくて。「なんか知らんけど価値観が合ってくる」みたいな感じがいいなって。

──「なんか知らんけど価値観が合ってくる」ためには、密度の高さが大切だと。

俺はそう思っています。いろいろなめんどくさいことは気にせず、「今日は楽しかった! わーい! 終わり!」みたいな、そんな感じで楽しめるイベントであってほしいですね。