音楽ナタリー Power Push - HEY-SMITH

新体制で初めて制作した“2秒で好きになる”アルバム

ポップに歌えなかった「Stop The War」

──ニューアルバム「STOP THE WAR」を作るにあたって、もともとテーマは決めてあったんですか?

猪狩 ありました。聴き手が「この歌は何を歌ってるんだろう?」って思うんじゃなくて、すごくテーマがはっきりしてて、聴いて2秒で好きになって、何年か聴ける。そんなものを作ろうと思ってました。

HEY-SMITH

イイカワ タイトルにもなってる「Stop The War」は比較的早めにできたよね。

猪狩 うん。アルバムタイトルにするかどうかは決まってなかったけど、それはできてたね。メンバーチェンジとかで1年間何もしてなかったっていうのもあって、自分の中から暗い感じの曲がバンバン出てくるモードやったんです。「Stop The War」は戦争に対する怒りの気持ちで作った曲なんですけど、なんかポップに歌えなくて普通に怒ってるテンションで歌いましたね。「I Hate Nukes」(2013年リリースの3rdアルバム「Now Album」収録曲)では、原発問題をすごくポップに歌ったけど、それだけではなかなか伝わらないし、変わらないなあと思ってきて。「直接言ったろか、この野郎」って、本気で怒ってる感じになってきました。

──それが「2秒で好きになる」というテーマとつながってくるんですか?

猪狩 そうですね。危ないものにしたかった。すぐにパーンって脳みそに来て、全然抜けなくて、その思想をもって生きていくようなアルバムにしたかったから。そういう直接的なメッセージをバンバンいれました。

──サウンド面では1990年代の海外のパンクバンドの雰囲気を感じました。

猪狩 そうですね。アルバム全体がちょっと古くさいサウンドになってるかもしれないです。意識してるわけじゃないし、勝手に出てきた感じやけど、結局90年代のあの感じが一番好きなので、そこから抜けようとは思わないですね。

──そうだったんですね。ジャケットの感じからも90年代のパンクバンドの作品を連想したので、すごく意識しているのかと思ってました。

猪狩 ほんまですか? わからん。どう?

YUJI 俺はそういうイメージでしたね。

猪狩 ですって(笑)。

YUJI 特に前のアルバムはハイファイなイメージが自分の中にあったので、今回の収録曲を初めて聴いたときに「あ、90年代のあの感じのヤツ」って思ったし、ジャケットのアートワークをパッと見たときに、当時のFat Wreck Chordsに所属してたバンドの雰囲気を思い出しました。

猪狩秀平(G, Vo)

猪狩 へー。俺の中では自分の中の一番新しいのを出したつもりやから(笑)。でもそこが結局一番好きだから自然と出てきてしまうんやと思う。最近は活動していくうちに方向性が変わっていくバンドも多いし、フェス受けしそうな「四つ打ちやっとけ」みたいな曲とか、そういうのキモいなあって思ってたんで。

イイカワ 例えば? どのバンドですか?(笑)

猪狩 君はなんなんだい?(笑) 聴きたい人に合わせてる音楽が多すぎる気がするんですね。確かにそういう音楽を聴きたい人はいると思うし、それで喜ぶのは全然OKで、楽しんだらいいんですけど、俺は聴きたい人に合わせた音楽じゃなくて、その音楽家がやりたい音楽を聴きたいんですよ。だから俺も向こうに合わせにいくっていうよりかは、自分でやりたい音楽を出していきたいんですよね。

戦争について考えるきっかけ

──今作はインスト曲「Instream」で始まって、2曲目に「Stop The War」が収録されています。そして「States Of War」という曲で締めくくられますね。

猪狩 デモ段階ではほかにも「War」の付く曲ができてたんですよ。最初「Stop The War」と「States Of War」って「そんな重い曲2曲も入れるかね?」という話もあったんすけど、やっぱり戦争に対する気持ちが今一番強いから「War」で挟んでやれ!っていうことになりましたね。

──気持ちが強くなったきっかけはあるのでしょうか?

猪狩 すごく遠くで起こってると思ってた戦争が、すぐ目の前に来てるなっていうのを最近思うんです。ほんまに日本人が被害に遭ったりとか、フランスやベルギーでテロが起こったりとか、横の国やっていつミサイル打ってくんのかわからんし。「集団的自衛権を行使できる」ってなったときぐらいから、それがだいぶ近くなってきてる感じがして。東京とか大阪でいつ何が起きてもおかしくないなと本気で思ってるし、そういうのをちょっとでも想像したらほんまに怖くて。こういうテーマが嫌な人もいると思うし、触れにくいかもしれないとは思うけど。でも誰も人なんか殺したくないと思っていても、このままいったら殺すか殺されるしかなくなってくると思うから。そういうのを「早い段階でやめよう!」っていうメッセージを、すごくポジティブに出してるんですよね。

──「STOP THE WAR」というアルバムは猪狩さんだけではなくバンドとしてのメッセージになりますけど、それに対してイイカワさんとYUJIさんはどう思いましたか?

YUJI(B, Vo)

YUJI 合宿で「States Of War」を作ってるときに猪狩さんが「原発問題に関しては賛成の人もいるし反対の人もいて意見が分かれると思うけど、戦争で人を殺すっていうことに対して、賛成っていう考えをする人がもしいたとしたら、そんな考えをする人の気持ちはわからない」っていうことを話していて、すごく納得しました。共感できたし、直接的でとてもいいなと思いましたね。

イイカワ 僕は最初に「いや、それはやめよう」って言いました。トランペットって、なんか平和な楽器じゃないですか。「パンパカパーン」みたいな。だから自分の楽器の役割的にっていうところもあるし、今猪狩も言ってましたけど、そういう話題に触れずに生活していきたいっていう人が日本にはすごく多いなあと思っていて。みんなニュースとかで身の危険は感じてるんだけど、でも実際に今自分に戦争の火の粉がかかってきてるわけじゃないから、実感してない人が多いと思うんですよ。僕もそうだし。だけどこのアルバムを出すにあたってすごく考えて……猪狩とYUJIと同じく僕も戦争は嫌なんですね。じゃあその気持ちをどうするかと考えた結果、「STOP THE WAR」をレコーディングをするときに「単純にハッピーになりたい」っていうポジティブな気持ちでラッパを吹くだけで、自分の中で救いがあるなあと。そこから考え方が変わっていきましたね。それが聴いてる人に伝わるか伝わらないかは別として、僕の中での自己解決です。こういう気持ちで今回は吹いてるっていうのが、戦争について一歩考えるきっかけになったというか、第一歩を踏み出せたと思ってますね。

猪狩 アルバムを聴いた人の中で、このテーマに反対する人がいてももちろんいいんです。とりあえず触れてほしいって感じですね。このアルバムだけで世界がいきなりガラッと変わることはないと思うけど、1人が聴いて、その1人がちゃんと1票を持って投票しに行って、だんだんその1票が増えていけばいいなって。これ聴いてそれでも「知らんよ」っていうヤツもいるかもしれないけど、とりあえず俺は言っときたかった。別にリスナーがどう思ってもなんでもいいです。別に共感しなくてもいいですよ。

──「States Of War」のあとには、ボーナストラックとして「ボギー大佐」をカバーした「Bogey Loves」が入っていますね。

猪狩 この「ボギー大佐」に乗せてる歌詞は、ほんとになんの意味もない歌詞です。「まじどうでもいいなー、まじ楽しいなー」みたいな(笑)。俺の中で「Bogey Loves」は希望ですね。「States Of War」を聴いて重い気持ちになったとして、33秒経ったらいきなり吉本新喜劇みたいな感じの音楽が鳴って(笑)。重いことばっか歌ってたけど、ほんとはこんな感じがいいんですよーみたいな。

──そこまで含めて猪狩さんの主張なんですね。

猪狩 そうです。そんなにずっと怒ってるわけじゃないし、ほんまは「Bogey Loves」みたいなアホでハッピーな気持ちがずっと続けばいいんですけどね。

ニューアルバム「STOP THE WAR」2016年5月18日発売 / CAFFEINE BOMB ORGANICS / Fried Rice Inc.
「STOP THE WAR」
初回限定盤 [CD+DVD+フォトブック] 3132円 / CBR-75
通常盤 [CD] 2592円 / CBR-76
CD収録曲
  1. Instream
  2. Stop The War
  3. Dandadan
  4. Don't Worry My Friend
  5. 2nd Youth
  6. Alive And Lucky
  7. Truth Inside
  8. Let Me Fly
  9. Radio
  10. What They Hide
  11. Summer Breeze
  12. Before We Leave
  13. States Of War
  • Bogey Loves(ボーナストラック)
初回限定盤DVD
  • 「Stop The War」ミュージックビデオ
  • 「Stop The War」ミュージックビデオメイキング映像
HEY-SMITH(ヘイスミス)
HEY-SMITH

猪狩秀平(G, Vo)を中心に結成されたパンクバンド。2006年に大阪を拠点にライブ活動を開始し、2009年に1stミニアルバム「Proud and Loud」でCDデビュー。2010年の1stフルアルバム「14 -Fourteen-」を経て2011年にリリースした2ndフルアルバム「Free Your Mind」はオリコン週間インディーズランキングで1位を記録する。2012年には「FUJI ROCK FESTIVAL '12」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2012 in EZO」といったフェスに参加したほか、coldrain、SiMとの合同ツアー「TRIPLE AXE TOUR 2012」を開催した。2013年5月、2年ぶりのフルアルバム「Now Album」を発表し47都道府県を回るレコ発ツアーを大成功に収める。2010年より自主企画イベント「OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL」を主催しており、2014年9月には大阪・泉大津フェニックスにて初の野外開催を成功させた。2015年1月に同イベントの模様を収録したDVD「Live at OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014」をリリース。メンバーチェンジを経て、現在は猪狩秀平、YUJI(B, Vo)、満(Sax)、Task-n(Dr)、かなす(Tb)、イイカワケン(Tp)の6人体制で活動を行っている。2016年5月には新体制で初めてレコーディングしたアルバム「STOP THE WAR」を発売した。