「Alright」は暗礁に乗り上げていた曲
──アルバムの先行配信曲「Alright」は、「Arma」と同じく華やかなブラスのサウンドが入ったアッパーチューンです。確か「Arma」では高野(勲 / Key)さんの提案でブラスを入れたとお話ししてましたよね(参照:GRAPEVINE 「ROADSIDE PROPHET」特集)。
今回はホッピーさんの提案ですね。「Alright」は暗礁に乗り上げて、放っておいた曲なんですよ。もちろんもともとブラスを入れるなんて話もなかった。それがホッピーさんのお眼鏡にかない、派手なアレンジが施されて生まれ変わったわけです。
──「Alright」のミュージックビデオは香港ロケで田中さんが災難に巻き込まれるという内容ですが(参照:GRAPEVINE、田中和将に香港で災難降りかかる「Alright」MV)、ビクター移籍以降、田中さんが役者として出演するMVが増えましたよね。
僕は演技に関しては素人ですから正直困るんですが、SPEEDSTAR RECORDSに移籍したときにディレクターと「言われたことはなんでもやります」って約束しちゃったんですよ。まあ演奏シーンで構成されたMVっていつでも撮れるから、アイデアがあるときはこういう作品にしたいという考えがディレクターにはあるんじゃないですかね。
──傍から見てると演技をするのも楽しめているように見えます。
まあ、ある程度は。撮影でいい思いをしたこともありますし(笑)。今回の香港ロケもすごく面白かったんですよ。香港に行くのは初めてだったんですけど、すごいパワーのある街だと感じました。現地のエキストラの方々もみんないい人だった。それにどこでメシを食ってもうまいんですよ。弾丸撮影で滞在時間は短かったんですが、チャンスを見つけてはおいしいものを食べに行ってました。
宿題はわりと先にやるタイプ
──今作の中で田中さんが作曲を手がけたのは「Alright」以外に、「開花」と「こぼれる」の2曲もあります。これらはどういうきっかけで作られた曲なんでしょうか?
1回目のプリプロが終わった段階でホッピーさんの中でアルバムのビジョンが明確になったようで、僕のところに「アカペラの曲」と「エレキギターの弾き語りの曲」を作ってくれとリクエストが届いたんです。
──そもそも田中さんがリクエストを受けて曲を書くことって珍しいですよね。
滅多にないですね。僕は1人で曲を作ってると、自分ではいいと思えないし、何が正解かわからなくなるんです。今回はしっかりテーマが決まっていて、かつ直々に指令があったので断るわけにはいかないじゃないですか。昔から宿題はわりと先にやるタイプだったので、珍しく曲作りもサクサクできたんですよ。
──「開花」のようなアカペラによる曲って、これまでGRAPEVINEになかったアプローチですよね。以前音楽ナタリーに掲載した高野寛さんとの対談のときに、高野さんは田中さんのことを「歌うギタリスト」「ギターがすでに体の一部のようになってる」と話していましたし(参照:GRAPEVINE 「EAST OF THE SUN / UNOMI」田中和将×高野寛対談)、まさか楽器をまるで弾かない曲がGRAPEVINEから生まれるとは思っていませんでした。
バンドで曲を作ってると「アカペラにしよう」なんていう話には、なかなかならない。こういう曲ができたのはホッピーさんと作業したからですね。アカペラの曲なんて作ったことがないので、家でデモテープを作るときはギターでコードを入れながら作りました。
──この曲、もちろんライブでもやることになるんですよね?
いや、どうなんでしょうね。まだなんとも言えないです(笑)。
──楽器を弾かずに声を合わせるだけのシーンが生まれるのかなと。
何か考えないといけないなと思っています。
──「こぼれる」はエレキギターによる弾き語りの楽曲です。
ここ最近、僕はあまりバンドものの音楽を聴いてなくて、ヒップホップとかアンビエントR&Bみたいな曲ばっかり聴いてて。そんなイメージの曲を書きたいなと思っていたところに、ホッピーさんから「エレキギターの弾き語りを作って欲しい」というオーダーがあったので、これはちょうどいいぞ、と。曲が終盤に向かうにつれてカオティックになっていくイメージは持っていたのですが、レコーディングしているときにホッピーさんが西川(弘剛 / G)さんに「ちょっとイカした音響を入れてくれない?」と言いだして。改めてエキセントリックな方だと思いました。
──それって「退屈の花」のレコーディングのときからも変わってない?
そうですね。ただ当時は我々がまだ右も左もわからないときですから、「プロデューサーってこういうもんなのか」と思わされたというか。ホッピーさんはいろんなプロデューサーの中でも抜きん出て変わってるし、すごく刺激的な人ですね。
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「ALL THE LIGHT」はイレギュラーな作品