GRAPEVINE×ACIDMAN対談|ライブナタリーで初のツーマンライブ、フロントマン対談で明かされた意外な交流

ライブナタリーによるツーマンライブ企画「ライブナタリー “GRAPEVINE × ACIDMAN”」が11月7日に東京・Spotify O-EASTで開催される。

今年結成30周年を迎えたGRAPEVINEと、結成26年のACIDMAN。キャリアの長い2組だが、ツーマンライブを行うのは今回が初めてとなる。音楽ナタリーでは、このイベントに向けてフロントマンである田中和将(Vo, G / GRAPEVINE)と大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN)の対談をセッティング。これまでの交流、お互いのバンドに対する印象、現在の活動、そして対バンへの意気込みについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 森好弘

ライブ情報

「ライブナタリー “GRAPEVINE × ACIDMAN”」

2023年11月7日(火)東京都 Spotify O-EAST
OPEN 18:00 / START 19:00
<出演者> GRAPEVINE / ACIDMAN

チケット

最速先行(イープラス)
受付期間:2023年7月16日(日)16:00~7月30日(日)23:59

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GRAPEVINEは1つの指標

──GRAPEVINEとACIDMANのツーマンライブは、今回の「ライブナタリー」が初めてだとか。お二人はいつ頃から面識があるんですか?

大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN) 初めてお会いしたのは2003年頃ですかね? 地方のイベントで対バンする機会があって。俺もメンバーもGRAPEVINEさんが大好きだったから、楽屋で田中さんを見つけて、声をかけさせてもらったんですよ。そしたらめっちゃ不思議がられて、「俺らに声かけてくるバンドなんて、ほかにいないよ」って言われて。

田中和将(Vo, G / GRAPEVINE) (笑)。俺ら、麻雀やってなかった? 昔よく楽屋で麻雀やってたから。

左から大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN)、田中和将(Vo, G / GRAPEVINE)。

左から大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN)、田中和将(Vo, G / GRAPEVINE)。

大木 やってなかったと思います(笑)。そのときにいろいろ話して、「ええヤツらやな」と言ってくださいました。ライブのあと飲みに行って、最後はダーツバーでしたよね。

田中 そうそう、とても盛り上がった(笑)。

大木 当時からGRAPEVINEさんの曲はずっと聴いてたんですよ。ツアー中の移動車の中でもよく聴いてて、「ここでこんな転調するのか」とかみんなで楽曲を紐解いたり。

田中 ありがたい話です。

大木 年齢はそこまで違わないんですけど、俺らにとってはすごく大きい存在で。結成した頃(1997年)はGRAPEVINE、TRICERATOPS、くるり、NUMBER GIRLなどがデビューした時期だったんですよ。一方でハイスタ(Hi-STANDARD)、BRAHMANとかインディーズ系も盛り上がっていて、僕はどっちも好きでした。当時、自分は「メジャーでは自由にバンド活動をするのは難しいのかもな」と思っていたんです。周りの大人たちにいろいろ言われて、飾られちゃうのかなって。でも、GRAPEVINEさんはそうじゃなくて、周りに踊らされず、ちゃんと自分たちの音楽をやっていて、その感じにすごく憧れてたんですよね。

大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN)

大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN)

田中 恐縮です(笑)。大木くんはそんなふうに言ってくれるけど、僕らの前の世代にもTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITY、THEATRE BROOK、PLAGUESなんかが出てきて。大阪でアマチュアバンドをやってる頃から、「あの界隈に入っていきたい」みたいな話をしてたんですよ。そこはわりとうまいこといったんじゃないかなと。あと、僕らがデビューした頃(1997年)はCDが一番売れてた時期だったから、その波にうまく乗れたところもあったのかなと。たまたまですけど。

大木 僕らが2002年にデビューしたときは、インタビューで「これからCDが売れなくなりますけど、どうしますか?」ってよく聞かれてました(笑)。

──田中さんはACIDMANに対してどんなイメージを持ってたんですか?

田中 3ピースバンドのエモさや熱さもありつつ、洗練されたコードをクリーントーンで鳴らすようなところもあって。ミクスチャー、ラウドロック的な要素と技巧派な側面を両方持ってるのが面白くて、ほかにはない感じやなと思ってましたね。

大木 うれしいです。

田中 でも、そのあとはそんなに絡んでないよね?

大木 そうですね。僕らもそんなにツーマンをやる感じではなかったし、やっぱりGRAPEVINEさんは先輩なので、気軽にお誘いできるわけでもなくて。

田中 僕らはわりと対バンライブをやってたんですけどね。ACIDMANを誘ったことはなかったですけど、AnalogfishとかNICO Touches the Wallsとかと対バンして、仲よくなったり。社交的か?と言われると、そうでもないですけど(笑)。

田中和将(Vo, G / GRAPEVINE)

田中和将(Vo, G / GRAPEVINE)

──ACIDMANはフェスを主催するなど、いろいろなバンドと交流を持っている印象があります。

大木 同世代のバンドばっかりですけどね。たぶん、フェスの影響だと思います。僕らはフェスというものが盛り上がり始めた時期にデビューしたので、対バンライブをやらなくても、いろんなバンドとつながれたんですよ。

田中 みんな、めちゃくちゃ出てたよね。僕らがデビューした年にフジロックの第1回があって、その3年後に「ROCK IN JAPAN」が始まったのかな。そのうち僕らも出してもらうようになって。

大木 GRAPEVINEさんともときどきニアミスしてましたよね。

田中 たまにバックヤードで会って、ちょっと飲んだり。でも、それくらいかな。普段は離れたところで、お互いがんばってる感じだったと思います。

──直接交わることはなくても、お互いに刺激を与えているというか。

大木 そうですね。去年、配信でフジロックのステージを観たんですけど、「ねずみ浄土」という曲がすごくよくて。やっぱり尖ってるなと思ったんですよね。GRAPEVINEさんはポップな曲もたくさんありますけど、音楽的に攻めている感じも好きなので。

田中 なるほど。

大木 僕らもメジャーデビューを選んだわけですけど、その中でどうサバイブしていくか常に考えていて。GRAPEVINEさんは1つの指標なんです。去年のフジロックのときも「今、このタイミングでRED MARQUEE(FUJI ROCK FESTIVALのステージの1つで、新進気鋭のバンドからベテラン勢まで多彩なアーティストが出演する)に出るのカッコいいな」と思ったし。全然媚びてないですよね。

田中 ACIDMANも硬派に見えるけどね。ずっと貫いていて。

大木 こんなこと言うと失礼かもしれないけど、GRAPEVINEさんは売れようとしてない感じがあるんですよ。好きだからやってるというか。

田中 それは難しいところだよね。売れなくていいと思ってるわけじゃないけど、今って、何が売れてるかよくわからないというか。ヒットチャートに上がってるものが売れてるかと言えばそうでもないし、テレビでよく流れてるからとか、アニメの主題歌になったから売れてるってわけでもない。コンテンツに合わせて売れそうな曲を作ってもしょうがないし、「バンドをやってて面白い」と思えることが一番大事なのかなと。

大木 それは僕らも同じですね。世界中の人たちに聴いてもらいたいけど、自分たちのやりたことを歪めるのはめちゃくちゃしんどいから、それは絶対にしない。「これが自分のアイデンティティです」って顔をしながら、思ってもないことを歌うなんてすごくつらいじゃないですか。

バンドであればそれでいい

──ACIDMANは現在、2003年リリースのアルバム「Loop」の再現ツアーを開催中です。

大木 それもGRAPEVINEさんの影響なんですよ。確か10年くらい前から再現ライブをやってますよね。

田中 そうね(笑)。2014年に「Lifetime」(1999年発表)の再現ツアーをやって。その後、2回やったね(2016年にアルバム「退屈の花」、2022年にアルバム「another sky」の再現ライブを開催)。海外のアーティストが過去にリリースした作品の再現ライブをやってるのを知って、そのうち日本でも大御所のアーティストがやり始めて、「面白いなそれ」と思って。

大木 僕らはGRAPEVINEさんの再現ライブのニュースを見て、「すごいいいアイデアだな」と思ったんですよ(笑)。で、2019年に「創」(2002年に発売されたACIDMANの1stアルバム)の再現ライブをやって、今は「Loop」の再現ツアーの真っ最中という。

田中 面白いよね、再現ライブ。当時やろうとしていたことを改めて理解したり、できなかったことができたり。

田中和将(Vo, G / GRAPEVINE)

田中和将(Vo, G / GRAPEVINE)

大木 そうなんですよね。20年前の記憶はほとんどないんだけど、歌っていること、やろうとしていることは今も変わってなくて。その中で「まだ照れがあったから、こういう言葉を使っているんだな」みたいなことも理解しながら歌えるんですよ。あとはお客さんですよね。20年前も聴いてくれてた人は、当たり前だけど20年分の年齢を重ねていて。その人たちが目の前で「Loop」の曲を聴いてくれているのを見ると、「こんなに長い間、ACIDMANを追いかけてくれてるんだな」と改めて感謝しますね。

田中 ただ、「あのアルバムもやってほしい」って言われるのは困るけどね(笑)。今後やるとも言ってないし、やるならやるで何かしら理由が必要なんですよ。「another sky」はリリースから20年というタイミングだったので。

大木 あ、なるほど。

田中 「another sky」は5枚目のアルバムで。1stも2ndも再現ライブをやったから、「3枚目、4枚目はなんでやらんの?」ってすごい言われた(笑)。ただ「another sky」の再現ツアーはおかげさまで評判はよくて、映像(ライブBlu-ray / DVD「in a lifetime presents another sky」)にもなったんですけど。

左から大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN)、田中和将(Vo, G / GRAPEVINE)。

左から大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN)、田中和将(Vo, G / GRAPEVINE)。

──過去作の再現ライブが評価されるのも、今の活動が充実しているからだと思います。長年バンドを続けてきて、変化している部分もありますか?

田中 音楽的には常に変化していたいと思ってます。同じようなことをやっていたら飽きるし、自分らなりにいろんな要素をぶち込みたいんですよね。今までやったことのない感じを欲してますし、ライブにおいてもトライアルというか、新しいことをすると自分たちの課題ができるので。活動自体はそんなに変化しなくていいんですけどね。なんせバンドをやれていれば幸せなんで。

大木 僕も同じような感覚ですね。僕はずっと宇宙とか、目に見えない世界とかに興味があって。スピリチュアルな話なんですけど、音楽を通して、そこに触れようとしているんですよね。もう45歳ですけど、中身は少年です(笑)。

田中 宇宙の話、ずっとしてるよね。SFとかも好き?

大木 好きですね。「三体」(中華人民共和国の作家・劉慈欣による長編SF小説)読みました? ……いや、この話はまた今度(笑)。

田中 (笑)。ACIDMANは歌詞が壮大だから、もっと音数を増やすこともできると思うんだけどそうしないよね。シンプルだからこそいいのかな。

大木 個人的な好みで言えば、もはやリズム要素がまったくない、響きだけの音楽をやってみたいんです。

田中 大木くんが話してることって、アンビエントをやってる人とかも言いそうやもんな。

大木 そうですね(笑)。でも、「バンドであればそれでいい」という感覚もすごくあるんです。ステージで歌わせてもらって、お客さんがワーッと言ってくれることのありがたさには、何も勝てないと思っていて。自分の声で歌って、話せて、それに反応してくれる人がいるなんて、こんな幸せな仕事はほかにない。もし「どんな仕事でも好きに選べるよ」と言われたとしても、また音楽の仕事を選ぶと思います。

大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN)

大木伸夫(Vo, G / ACIDMAN)

田中 なるほど。大木くんがやってることがよくわかったというか、腑に落ちました。

──田中さんもバンドというスタイルに愛着を感じ続けている?

田中 僕はどちらかと言うと、昔ながらのロックンロールバンドにロマンを抱いていて。さっき言ったように音楽的にはいろんなものに手を出しますけど、結局ロックンロールバンドとして、演奏中に「イエイ!」って言いたいだけなんで。演奏しているときこそ至福だし、できればステージ上でバタッと逝きたいなと本当に思いますね。

──バンドとしての美学を貫いて、四半世紀以上にわたって第一線で活動し続けているのは本当にすごいと思います。メディア露出や一般的な知名度、ヒット曲の有無に関係なく評価されているのも素晴らしいですよね。

大木 それは僕らの世代から始まったことかもしれないですね。GRAPEVINEさんはヒット曲ありますけど、僕らは本当にないんで。テレビにもあまり出ないし、名前を知らない人も多いだろうけど、ロック好きな人にはちゃんと届いているというか。僕らだけじゃなくて、ストレイテナーもTHE BACK HORNも10-FEETもそう。いや、10-FEETは最近ヒットしたか(笑)。

──「第ゼロ感」(映画「THE FIRST SLAM DUNK」のエンディング主題歌)ですね。

大木 そうそう。いずれにせよ、ヒット曲がないまま20年以上バンドを続けられる現象は、昔はそれほどなかったですよね。

田中 そうだね。自分たちもヒット曲はないけど(笑)。

大木 いやいや(笑)。僕らはラッキーだと思います。CDが売れなくなる時期にデビューしたのに、ここまでやってこれたので。この先はさらに音楽のジャンルが細分化されるだろうけど、一方で超マニアックでディープな音楽も、もっと届きやすくなると思っていて。その結果、音楽で生計を立てられる人が増えたらいいなと思います。

田中 発表のやり方はいろいろあるし、誰もが世界中に発信できるからね。離れた場所にいる人とやりとりして曲を作る人も増えてるし、どこから何が生まれるかわからない。そう考えるとワクワクするし、面白い時代だなと。