思ってたふうには絶対いかない
──1年7カ月ぶりのアルバムです。相変わらずコンスタントなペースですが、実際に曲を作り出す前に考えていたことは?
まったくなかったですね。いつものことなんですけど、何か着手しないと動き出さないと言うか見えてこないんです。「次のアルバムをどんなものにしようか」とかいう話も一切しないですし。
──ご自分なりに前作はどう捉えてます?
前作はジャムセッションの分量が多かった分、遊び心の多い、はっちゃけた、とがった部分が多かったのかな、という気がします。
──前作はこうだったから今作はこんな感じで、という判断もないんですか?
あんまりないんですよ、もはや(笑)。そういうこと考えたことも何度かあったんですけど、思ってたふうには絶対いかないので、青写真みたいなものを描くのはやめました。
──そうは言っても前のアルバムと同じような作品を作りたくはないでしょうし。
それはそうですね。ただ、作為的に変えようとすると空回りしがちだったんですよ、これまで。それから、アルバムの大半がそうなってるぐらいの派手な変化でないと、恐らく対外的にはそう見えないと思うんですね。僕らの作ってる曲って全部そうだと思うんですけど、ちょっと打ち込みを使ってみましたとか、エッセンスとして部分部分にそういうものが入っていたとして、全然変化してるように聞こえないと思うんです。
──冷静ですね。ご自分のやっている音楽を俯瞰で見ているようなところがある?
そうですね……どれぐらい俯瞰で見てるのかわからないですけど。あまり主張は強くないほうなのかなと思います。悪く言えば自信がないように聞こえるのかもしれない。
──「これが俺たちだ!」みたいな。
そういうのがないんですよ、一切。
──誰か強力なリーダーがいて、その人が自信満々にぐいぐい引っ張っていくような、そういうバンドではないですし。
うん、そうですね。もちろん自信のある部分はそれぞれにあると思うんですけど、例えば僕が家で曲を作っていても、どんどん「あー、オレはこんなもんか」とか「しょせんオレやな、これ」みたいな感じになってくるんですよ。
──「こんな曲書けるなんてオレは天才!」とか思わないんですか?
思わないんですよ(笑)。もうちょっとどうにかならんもんかなって思ってしまうタイプなんですよね。それがバンドでやることによって、形が変わって、「あ、これならいけそうだ」とようやく思えると言うか。
──でも、田中さんの作ってくるデモテープは完成度が高いそうですが。
凝り性ではあるんで。
──完成度の高いデモテープを作っても、それが必ずしも自分の理想型ではない。
ないですね、全然。「ツマランな」と思ってやってます(笑)。
──なんでそんなに自己評価が低いんですか。
わかんないです(笑)。「これ、おもろないなあ」と思ってやってます。
──でもある程度自分のやってることに酔えないと、作品ってなかなか発表できないんじゃないですか?
そうですね。もちろん酔える部分もありますよ。そのバランスがうまくいってくれないと、なかなか気持ち的に上がらない。
──ご自宅で曲を作っても、全部バンドに持っていくわけじゃないですよね。
そうですね。むしろボツになる曲のほうが多いと思います。なんかね、辻褄を合わせられないと言うか。
──辻褄が合うってどういう曲ですか?
なんやろ……理屈で説明できそうなもの。なぜこういうふうな曲に……わかりやすく言うと、あれをパクりました、みたいにみんなに伝えられるもの(笑)。
──曲を作った意図みたいなものがちゃんと説明できるかどうか。
そうそう。そのうえで、「こういうつもりで作りました」と言って持ち込んで、でもそのまんまじゃ面白くないから、ああしてみようと言ってほしいんです。違うアプローチを考えてほしい。そもそも完成した楽曲のイメージもないし、バンドが演奏する段階で盛り上がっていけるような形になれば、それが一番かな。
──極端に言えば、自分は素材を提供しているに過ぎない、という。
そうですね!
僕らすごくぜいたくさせてもらってる
──今回のアルバムで私が一番好きなのは田中さんが作詞作曲した「楽園で遅い朝食」という曲なんですが、これはどんなプロセスでできあがった曲なんでしょうか。
これはニール・ヤングみたいな感じで弾きながら歌い出して……それがうまいことポップな歌モノ、シェリル・クロウみたいにならないかなと思ってできた曲ですね。
──そういうふうにちゃんと説明できる曲ってことですね。
そうです。でもそれだけじゃ面白くないから、どうにかなりませんかね、と言う感じで進めていくわけです。
──そういうとき、メンバー同士で会話しながら進めていくんですか?
ええと、とりあえずは音を出すんですが、ざっくりイメージが広がるようなキーワードを立ててから始めますね。例えば、「僕はこんなつもりで作りました」と言うと、ほかの誰かが「アレみたいにやってみたほうが面白いんじゃないか」と言ってくれる場合もある。
──ひと口に「アレみたい」と言っても、“アレ”に対するイメージはメンバーそれぞれで微妙に違っている場合もある。
そうですね。そこを楽しむと言うか。具体的なアーティスト名を挙げても、みんな聴き方も解釈も違う。そういうズレはあったほうがいい気がします。むしろちょっと茶化すようなやり方を好むと言うか。真剣なオマージュというよりは、ちょっと雰囲気だけ拝借しました、みたいな。むしろ本物から遠ざかってくれた方がいいわけですし。勘違いみたいなものをどこかで求めてますね。それぞれが違う方向でアイデアが閃けばいい。
──そうして自由に意見を交わしながら作り込んでいって、これで完成というジャッジはどう決めるんですか?
新鮮味を失わないうちに、いいなと思えた瞬間。あとはもう、もう何も足せないし引けない、みたいなところまでいくと完成。例えば、プリプロで入れていた音を忘れてることがあるんですけど、気付いてあとから入れようとしても、それさえも入らなかったりする。プリプロの段階では意味のある音だったのに、本チャンでやってみるとうまくハマらない、ということもありますね。
──予算が潤沢にある頃なら、レコーディングでいくらでも試行錯誤できたけど……。
そうなんです。そういう意味で僕らすごくぜいたくさせてもらってると痛感しますね。バンドでプリプロして、バンドでレコーディングして。今はみんな、デスクトップで作ったものを小さなブースで1人ずつなぞるわけじゃないですか。そりゃそっちのほうが合理的だし予算が削減できますよね。そういうやり方を身に付けていかなきゃと思うところもすごくあるんですけど、うちは真逆ですね、一昔前の、古いタイプのやり方だと思います。
──でもそれがバンドのだいご味ですよね。
そう感じてしまってます。
「お前みたいなモンが何言うとんねん」
──今作で一番耳を引くのは、シングルにもなったオープニングナンバーの「Arma」です。ブラスが入っているのが強いインパクトにつながってるんですが、これは田中さんから見てどんな制作の経緯をたどったんでしょうか。
これは亀井くんが持ってきたときから、メロディが強い、いいメロディの曲だなと思ってたんですね。ただ、その場で誰にもパッとアイデアが思い付かなかったんですね。それでOasisみたいな、ストレートでギミックなしの潔い感じでやってみようってなったら、アレンジが転がり出したんです。それで盛り上がってきたところにキーボードの高野勲氏が、「たまにはブラスでもどう?」と言ってきて。考えたら、俺らホーンをセクションで入れたことがなかったんですね。最初はシンセでシミュレーションしてたんですけど、どうせやるなら本物のほうがいいってことになりましたね。ホーンを入れることでちょっと景気がよくなりましたね。ホーンの音色って強力じゃないですか。なのであまり多用はできないですけど。
──歌詞はデビュー20周年に際しての決意表明のようでもあります。
うん、この曲だけは20周年を意識して書いてみました。シングルを出すというのでね。我々はもはやシングル云々ってあまり考えないじゃないですか。でも出せるのであれば、せめてシングルだけでも20周年感が出ててもいいんじゃないかな、と。しかもこの曲はどっしりした潔い曲なので、こういう歌詞を書けば聴き手がグッと来てくれるんじゃないかな、いや自分がグッとくるんじゃないかなと思って書いてましたね。
──なるほど。しかしほとんどメンバーチェンジもなく、コンスタントにアルバムを作り続けて長い休みもなく20年、なかなかないと思います。
ちょっとね……もはや恥ずかしいかもしれないですね。
──なぜ恥ずかしいんですか(笑)。
冷静に考えると、すごく音楽的な意欲にあふれてる人はいくつものバンドを同時進行させたり、新しい展開を求めてさっさと解散したり、そういうことをする人も多いじゃないですか。あんまりそんな気にならないんですよ。なんでもできそうなこのバンドで、ゆるりとやるのが一番性に合ってるのかなと。
──自分のやりたいことはすべてバンドの中で消化しきれている。
そうですね、うん。もっと言うと、これもまた自信がないように聞こえるかもしれないけど……「やりたいことってなんだ?」という感覚が常に自分の中にありますね。おこがましいというか。「お前みたいなモンが何言うとんねん」という感覚は常にあります。「やりたいこと」ってエラそうに!って。
──そういうことを自問自答してた時期ってあったんですか?
今でもしますよ!
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外に説明しにくいスタンスのGRAPEVINE
- GRAPEVINE「ROADSIDE PROPHET」
- 2017年9月6日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
20th Anniversary
Limited Edition [CD+DVD]
4320円 / VIZL-1216 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64820
- CD収録曲
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- Arma
- ソープオペラ
- Shame
- これは水です
- Chain
- レアリスム婦人
- 楽園で遅い朝食
- The milk(of human kindness)
- 世界が変わるにつれて
- こめかみ
- 聖ルチア
- 20th Anniversary Limited Edition付属DVD収録内容
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- GRAPEVINE STUDIO LIVE 2017
- 覚醒
- EAST OF THE SUN
- KOL(キックアウト ラヴァー)
- Arma
- スロウ
- CORE
- 吹曝しのシェヴィ
- 放浪フリーク
- 「Arma」music video
- RECORDING DOCUMENT 2017
- GRAPEVINE STUDIO LIVE 2017
- GRAPEVINE Tour 2017
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- 2017年10月5日(木)東京都 LIQUIDROOM
- 2017年10月7日(土)新潟県 新潟LOTS
- 2017年10月8日(日)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2017年10月14日(土)兵庫県 Kobe SLOPE
- 2017年10月15日(日)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2017年10月21日(土)熊本県 熊本B.9 V1
- 2017年10月22日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2017年10月27日(金)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2017年10月28日(土)愛媛県 松山サロンキティ
- 2017年11月5日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年11月11日(土)岩手県 Club Change WAVE
- 2017年11月12日(日)宮城県 Rensa
- 2017年11月18日(土)福岡県 BEAT STATION
- 2017年11月19日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年11月23日(木・祝)愛知県 DIAMOND HALL
- 2017年11月24日(金)大阪府 NHK大阪ホール
- 2017年11月26日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年12月1日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- GRAPEVINE(グレイプバイン)
- 田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)を含めた4人で結成。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」が大ヒットを記録する。2002年に西原がジストニアのため脱退して以降は、高野勲(Key, G)、金戸覚(B)をサポートメンバーに加えた5人編成で活動を続けている。2010年にはギタリスト / プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を制作。2012年にメジャーデビュー15周年を迎え、9月に初のベストアルバム「Best of GRAPEVINE 1997-2012」を発表した。2014年11月にビクターエンタテインメント内のSPEEDSTAR RECORDSへ移籍し、2015年1月に移籍第1弾シングル「Empty song」収録曲を含むアルバム「Burning tree」をリリース。また2016年2月には高野寛をプロデューサーに迎えて制作されたシングル曲「EAST OF THE SUN」「UNOMI」などを含むアルバム「BABEL,BABEL」を発表した。デビュー20周年を迎える2017年には対バンツアー「GRUESOME TWOSOME」を開催し、9月に通算15枚目のオリジナルアルバム「ROADSIDE PROPHET」をリリース。