いつも通りやっていこう
──GRAPEVINEはコンスタントにアルバムをリリースしていて、今作はデビューから20年の節目のアルバムです。今回のアルバムの構想はどこから?
アルバムを出す話は20周年とは関係なくあって。今回は20周年ということもあるからセルフでがっつりやってもいいんじゃないかっていう話から始まったんです。最初はプロデューサーを見つけようかって話もあったんですけど、ここはあえてセルフでやろうと。20周年だからっていう話はなく、いつも通りやっていこうという感じですね。
──そもそもどういうアルバムにしようと思ったんですか?
そういうことを話さないんですよね、具体的には。過去のアルバムをさかのぼっても、そういう作り方をした作品はない。唯一あるとしたらデビュー盤のミニアルバム(「覚醒」1997年リリース)ですね。僕らが大阪にいた頃に5曲入りのデモテープを作って、いろんなレコード会社に送ったんですね。それを聴いたポニーキャニオンのディレクターに拾ってもらったんですけど、その人は雰囲気がすごくいいと。すごく密室的な感じだったんですけど、ああいう雰囲気を(『覚醒』では)出したいって当時のディレクターが言ってくれたんです。デッドな音で録ってるし、密室の中でこそこそ作ってる感じがする。まったくオープンじゃないんですよね、曲が。そういう意味ではあれはとってもコンセプチュアルだったのかもしれない。それ以降は何もテーマとか作ってないですね。
──とにかく曲を作って、できた曲からどんどん積み重ねながら、アルバムでまとめる形を考えていくみたいな?
そう。そんなにとんでもないところまでいくバンドではないので、作品としてまとまったものにする自信はあるかな。
──前作について、今振り返ってどう捉えてますか?
前作はねえ、けっこう無茶してるかなって。セッションから作った曲も多いし、壊そうとしてる気持ちが大きかったかもしれないですね。GRAPEVINEの既存のものを。アレンジ面だったり、使ったことのない楽器を使うことだったりもするし、構成としてストーリーの作り方と言うか。曲の中で大きい流れのストーリーを作ろうとしてる節はありましたね。展開してきたけどもう戻らないとか。ともすると難解に聞こえるかもしれない。そういう実験的なことをたくさんやってるアルバムかなと。
──起承転結が成り立たないような。
そうですね。もっと違う解釈で作れないかみたいな。近年そういう傾向はどんどん強くなってるんですけど。
──最近はセッションで作るやり方が多いと聞いてますが、そういう作り方だとフリーな発想になっていくんですか?
そうですね。あんまり曲をコンパクトなものにしたくないんですよ。いわゆるポップスの構成にしちゃうと、コンパクトに聞こえるじゃないですか。聴きやすいと言うか、飲み込みやすいと言うか。そうじゃない、もうちょっとはみ出したイメージのものにしたいっていうのがあって。ちょっと異端なものが入っててもいいと思うし、それが入ることによって聴きにくくなってるかもしれないんですけど、僕としては違うところに行って戻ってくるほうが何かを思い浮かべやすかった。
──戻ってくるというのは曲の中で?
そうですね。何か違うところに行って戻ってくるとか。どっか違うところに行って結局戻ってこないとか。その糸の切れた感じも悪くないなって。
──きっちり決まった形式の楽曲に飽きてきた?
うーん、多少息苦しさを感じるというのはありますね、きっちりしてるほうが。そんな真面目に作らなくていいんじゃないのって思うことはありますけどね。
これまでなら絶対にやらなかったパターンに挑んだ「Arma」
──以前「GRAPEVINEって歌モノバンドっていう自覚あるんですか?」って聞いたら、うーんって全員が首を傾げてるのが印象的だったんですけど。
基本的には歌モノをやってるんですけど、そういう自覚を持ってやってないですね。
──歌モノのバンドって、ボーカルがちゃんと中心にあって、曲と詞があって、それをバックアップするためにほかのメンバーがやってるという、そういう例が多い。
プロフェッショナルですよね。
──そういう割り切りがあるからバンドとしてのまとまりも出るんだろうけど。GRAPEVINEはあえてそことは違う方向に行こうとしてたってことですか?
そうですねえ……メンバーの人間性なんじゃないですかね。バンドって必ず誰か引っ張っていかないと続かないと思うじゃないですか。うちの場合、そういう人が最初からいなかったんですね。だからよく続いたと思いましたけどね。誰もイニシアチブを取らないまま進んでいくんですよね。
──プロデューサーの方がいれば、その人がジャッジをするのかもしれないけど、今回の場合はセルフだし、その場合はどんなジャッジの仕方になるんですか?
それが不思議と決まるんですね。全体でぐーっと進めていくと言うか。
──前回ははみ出した感じをイメージしてたとして、今回はどうだったんですか?
今回は前作より真面目に作ってるかなと思うんですけどね。
──シングルになった「Arma」がブラスも入ってて、派手めのアレンジで、ポップだし、かっちり攻めの感じも出てて、これまでとは違う印象的ですね。
これまでなら絶対にやらなかったパターンですね。ブラスを入れることもなかったですし、構成が1番やって間奏やって2番やって終わりなんですよ。そんなシンプルな構成の曲やったことないんですよ。昔の歌謡曲みたいな。ロックバンドが普通そんなのやらない。1番のAメロを2回やってるとか、そういうのもない。でも凝った構成の曲がしっくりこなかったんですよね。ひねりにひねりまくって、いじっていじっていじまくりってここに落ち着いたんですよ。それがある種の潔さにつながってる気もします。普通の構成でどこまでリスナーの方に聴かせるか。手を抜きやがったなっていうくらいの。
──作曲は亀井さんですが、これは亀井さんが原型を作ってきたわけですね。
ワンコーラス分くらいですね。それを全員で仕上げて。いろいろと凝ったほうに凝ったほうにやるんですけど、うまくいかなかった。凝れば凝るほどあまり魅力を感じない。この楽曲が持ってるものだと思いますけど、こうならざるを得なかったですね。
──この曲にアルバム全体が引っ張られたところは?
それはないかもしれないですね。できた順番もそんなに早くはなかったんですよ。いきなりこんな単純なアレンジにしようってことには、なかなかならない。レコーディングって後半になればなるほど、シンプルになるんです。たっぷりやりあげて、やりあげて、そろそろもうちょっと気楽なものをやりたいなって。
──今回のレコーディングは順調なほうだったんですか?
そうでもないですね。落としどころが見つからないみたいな感じですかね。ただ単に演奏するだけだったらなんでもいいんですけど、それなりに自分たちが楽しめる曲にしたいと思って、ああだこうだアレンジを試すんですね。とりあえず、手堅いところから始まって、いつも通りでもいいんだけど、でも、なんかないかなってところで停滞するんですね。
──「いつも通り」というのは過去自分たちがやってきた曲みたいに?
そうですね。曲の落とし方のパターンとかいくつか持ってると思うんですよ、バンドの人は。構成楽器によってはそれしかないって場合もあるし。いつも通りやればいつも通りで、新曲っちゃ新曲って感じだけど、もうちょっと違うところに行きたい。それを探すのに一番時間がかかって、いろんなアイデアを試してはダメだったり、最終的に見つかったのかどうかもわからない曲もありますけど。変なものを入れて、なんだこりゃみたいな曲になることもあります。だから「Arma」みたいなのは珍しいんですよ。ほとんど単色で描かれているというか。そんな曲あんまりないんですよね、うちのバンドには。途中ストーンズになって、途中ビートルズになって、結局なんですか?みたいなパターンが多いんですけど。
──常に新しいことをやりたいっていうのがあって、その姿勢は今回も変わらなかった?
変わらなかったと思いますね。まあ、常に新しいってわけじゃないですけど。面白いと思えるとか、美しいと思えるとか。
──基準点は昔と比べて変わってるんですか?
変わってきてると思いますね。僕はどっちかって言うと色合いで見てる。
──色合い?
何色みたいな。サウンドを色で見てるのが多いですね。許容範囲は年々広がってると思いますけど。
──色が少なかったけど増えてきた感じ?
ええ。そういうふうに聴いてる感じはありますね。あとストーリーみたいなのも。人によっては、あるらしいけどね、音と色に密接に共通するものを感じる人とか。
──音と色を感じるっていうのは?
ハ長調は白とかあるらしいです。僕ははっきりした色ではないですけど、どれも。なんとなく色として音を聴いてますね。僕は見えてる色に合ったプレイをするだけなんですけど、同じ曲でもほかの人がプレイすると見えてくる色も変わるんですよね。別の要素が入ってくると、それに対する認識も変わってきて。それで自分が弾く音も変わっていくと思んですけど。
──その感じる色、見える色がキャリアを重ねるごとに多くなってきた?
あんまり役に立たなそうなので、考えたこともなかったですけど。そういう余裕はできたのかもしれませんね。昔のほうがいっぱいいっぱいだったかもしれない。
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「音楽も年齢と共に歳を取っていいはずだ」
- GRAPEVINE「ROADSIDE PROPHET」
- 2017年9月6日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
20th Anniversary
Limited Edition [CD+DVD]
4320円 / VIZL-1216 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64820
- CD収録曲
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- Arma
- ソープオペラ
- Shame
- これは水です
- Chain
- レアリスム婦人
- 楽園で遅い朝食
- The milk(of human kindness)
- 世界が変わるにつれて
- こめかみ
- 聖ルチア
- 20th Anniversary Limited Edition付属DVD収録内容
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- GRAPEVINE STUDIO LIVE 2017
- 覚醒
- EAST OF THE SUN
- KOL(キックアウト ラヴァー)
- Arma
- スロウ
- CORE
- 吹曝しのシェヴィ
- 放浪フリーク
- 「Arma」music video
- RECORDING DOCUMENT 2017
- GRAPEVINE STUDIO LIVE 2017
- GRAPEVINE Tour 2017
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- 2017年10月5日(木)東京都 LIQUIDROOM
- 2017年10月7日(土)新潟県 新潟LOTS
- 2017年10月8日(日)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2017年10月14日(土)兵庫県 Kobe SLOPE
- 2017年10月15日(日)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2017年10月21日(土)熊本県 熊本B.9 V1
- 2017年10月22日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2017年10月27日(金)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2017年10月28日(土)愛媛県 松山サロンキティ
- 2017年11月5日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年11月11日(土)岩手県 Club Change WAVE
- 2017年11月12日(日)宮城県 Rensa
- 2017年11月18日(土)福岡県 BEAT STATION
- 2017年11月19日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年11月23日(木・祝)愛知県 DIAMOND HALL
- 2017年11月24日(金)大阪府 NHK大阪ホール
- 2017年11月26日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年12月1日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- GRAPEVINE(グレイプバイン)
- 田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)を含めた4人で結成。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」が大ヒットを記録する。2002年に西原がジストニアのため脱退して以降は、高野勲(Key, G)、金戸覚(B)をサポートメンバーに加えた5人編成で活動を続けている。2010年にはギタリスト / プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を制作。2012年にメジャーデビュー15周年を迎え、9月に初のベストアルバム「Best of GRAPEVINE 1997-2012」を発表した。2014年11月にビクターエンタテインメント内のSPEEDSTAR RECORDSへ移籍し、2015年1月に移籍第1弾シングル「Empty song」収録曲を含むアルバム「Burning tree」をリリース。また2016年2月には高野寛をプロデューサーに迎えて制作されたシングル曲「EAST OF THE SUN」「UNOMI」などを含むアルバム「BABEL,BABEL」を発表した。デビュー20周年を迎える2017年には対バンツアー「GRUESOME TWOSOME」を開催し、9月に通算15枚目のオリジナルアルバム「ROADSIDE PROPHET」をリリース。