「音楽も年齢と共に歳を取っていいはずだ」
──先日1stアルバムを聴き返したんですが、田中さんの声のキーが高いとか、全体に若さはありますけど、本質的なところは変わってないなと思いました。
そうかもしれませんね。前は張り詰めてましたけど、ここ数年は張り詰めてないかも。
──1970年代のアメリカンロックのゆったりした感じ。そういう意味ではゆったりしてますけど、歌やサウンドがだらんとしてるわけではないから。そういう引き締まった感じは変わってない。
そうですか? 相当ゆるいなと思いますけど。音楽もゆるくなってると思いますよ。
──それはどうでしてですか?
人間がゆるくなってるからじゃないですか?
──(笑)。それは寛容になってるということですか? 若い頃は自我がぶつかって?
若い頃は狭いですからね、ストライクゾーンが。信じてるものも、できるものも少ない。決め球も少ないし、趣味も狭いし、経験も浅いし。狭いところを狙ってる感じはありましたね。
──例えば1stアルバムを今の自分たちが作ったら違うものになる?
まったく違うでしょうね。もしかしたらボツになる曲もあるかもしれないし、こんなのできないよっていう話になるかも。やっぱり当時は狙ってるところが狭いから、盛りだくさんなんです。ぎゅーっと詰まってるけど、それが今はできないんです。そんなに詰まった1曲をやりたいかって言ったら違うから。キャリアを重ねればアレンジの仕方も曲の構成も変わると思うし、そうあるべきだと思うんです。今回作ったのも昔の自分たちがアレンジしたら全然違うでしょうし。昔プロデューサーが言ってましたけど、「音楽も年齢と共に歳を取っていいはずだ。今の年齢にふさわしい音楽を作り、自分と一緒に成長していかないとダメだ。いつまでも同じじゃダメだよ」って。
みんな一歩引くタイプ
──例えば自分の守備範囲が広くなることはある種の成長だと思んですけど、1曲の中にいろんなものを詰め込んで密度の高いものを作るか、そうでないかは方向性の違いとも言えますよね?
それ、詰め込めば詰め込むほどいいわけじゃないこともわかりましたし、詰め込みすぎるとちょっと面白くなっちゃうんですね。笑いが出てきちゃうというか。曲調にもよりますけど、こういうメロディに対して笑いは必要ないと思うこともあるし。逆に面白くあったほうがいいんじゃないか、笑いがないんじゃないか、シリアスすぎるんじゃないかって思ったり。そこは曲に呼ばれて変えていきますね。
──なるほど。田中さんの書く詞とかはどういう変化がありましたか?
たぶん、昔のほうが全部詰め込もうとしていたと思いますね。あれもこれも入れたいみたいな。相当時間かけて書いてましたし、やれることも今ほど広くはなかったんだと思います。最近は身近なことをテーマに歌詞を書いてるんじゃないかな。僕も全部は理解はしてないですけど、すごく身近なことを歌ってるなと思うんですよね。彼と彼の周りにいる人間以外誰もわからないことを歌詞にしていいのかなって。もちろんそれだけじゃなくて、そういうのと何かが合わさってる。ほかの人が読んでも当てはめられるような歌詞を書いてる。だからあんまり歌詞の中で断言しないじゃないですか。そういうテクニックみたいなものが相当広がったんじゃないですかね。歳取って書く内容も変わったんでしょうけど。疲れてるのかもしれないし。
──西川さんも疲れてるんですか?
おっさんって疲れるじゃないですか(笑)。まあ、疲れはそれなりに感じますけど、ミュージシャンって仕事は相当いい加減ですからね。デビュー20周年ですけど、ぎゅっと詰めたら5周年くらいなんで。サラリーマンだったら5年くらいですよ。
──(笑)。そんなことないでしょう。
年間3カ月くらいしか働いてないですよ。
──こんなにコンスタントにアルバム出してるバンドいないですよ。クオリティが極端に落ちることもないし。
極端に音楽性が変わることもなかったですけど(笑)。
──アルバムの発売タームが短いから、そんなに大きく変わることはないでしょうけど。
外国の同期くらいのバンド見ても、えー!ってくらいしか作ってないんですよね。5枚とか。俺らは15枚出してるって、どういうことやねんって(笑)。日本は回転が3倍速なんじゃないかって。でも、作ってこられる環境に置かせていただけたのは非常に幸運だったと思いますね。作りたくても作れない人もいるし。発表できない人もたくさんいるし。
──これだけ長くやれてきた理由は?
支えてもらえたというのは大きいですし、ちょこちょこと歴史を見るといい出会いをしてる。プロデューサーだったり、エンジニアだったり、サポートミュージシャンだったり、いいタイミングでいい人に出会えて、刺激を受けて。そこで目先を変えてできたと思うし。あと機材が爆発的に進歩したっていうのはありますね。それこそ僕らデモテープはカセットで配ってましたけど、今はPro Toolsで作って、パソコンで送れますから。そういう進化にも助けられたと思いますし。
──お互いの関係性に変化はありました?
基本変わってないと思いますね。もともと友達から始まってないので。週に1日リハーサルスタジオで会うだけの間柄だったから、大阪にいた頃から。「じゃあまた来週」みたいな。お互いの家に行くわけでもないし、飲みに行くわけでもないし。今でもその関係性は変わらないですね。パワーバランスはちょこちょこ変わりますけど、基本的には変わってない。誰もリーダーシップを取ろうとしない。みんな一歩引くタイプですからね。そういう関係性だから続いてるのかもしれない、ビジネスライクと言うか音楽でしか付き合いがない。私生活の話もしますけど、深く立ち入らない。
──だからこそ長く続いているのかも。
そうですね。まあ、運がよかったと思います。たぶんデビューするのがあと2年遅かったら、バンドやってなかったかもしれない。今だとメジャーレーベルでなくても続けてる方がいっぱいいるじゃないですか、自分で会社を作ったり。でも、うちのバンドにはその能力はないですね。そういう気質と言うか。
──面倒くせえなあって。
うふふふ(笑)。それくらいダメ人間が集まってる。やらせてあげないとって思わせてるのかもしれない。不安になるんでしょうね、僕らを見てると。大丈夫かなこいつらって(笑)。
早々にビジョンは捨てましたね(笑)
──3人のキャリアがあれば、1人で作ろうと思えば作れますよね?
どうなんですかね。基本足りてないと思うんですよ。1曲、2曲だったら作れるでしょうけど、1人で20年もできるかって言ったら、3人共首を横に振ると思いますね。
──バンドと言いながらも、実質ソロみたいなアルバムを作る人もいるじゃないですか。そういうものにはならないんですよね。
アレンジの段階でバンドに落とし込む作業に相当時間をかけてるからじゃないですかね。必ずしも結論が1個じゃないと思ってると言うか。いろんな人の意見が集まって、いろんな選択肢が見えてってことが最高に楽しい瞬間だと思うんですけど。実際そんなことは少なくて、頭抱えてうんうんうなってる。誰かに助けてもらえないと前には進めない。
──ライブ以外でバンドをやってて楽しいのはどういう瞬間ですか?
楽しい……うーん、冴えてるなって思ったときですかね。アレンジの発想とか。ちょっとしたことで曲がまったく変わることがあるんですね。そういうときは非常に楽しいですね。自分でもどうなってるんだろうってくらい曲が変わってしまうことがあって。
──例えば今回だと?
「世界が変わるにつれて」はこんな曲じゃなかったんですね。もっと普通のポップスだったんです。いろいろ試して、得意な感じに試したけど普通だなって。で、頭抱えてたんですね。参考になるアレンジの曲を見つけてやってみたら、全然違う曲になって、冴えてるなって思いました。このアレンジの方向を見つけてきたのは高野勲さんですけど。さんざん俺らが頭を抱えていたのを見かねて「こういうのどう?」って。あの人やっぱり一歩引いて見てる感じがあって。とりあえず俺らの好きにやらせてくれるんですけど、詰まるとアイデアを出してくれることが多いですね。
──常に普通じゃないものを念頭に入れてる?
そうですね。感動したいと言うか、自分が。「以前やったことがある感じ」もいいんですけど、でも感動はしないですね。冴えてるなと思わないし、手練れてるなって。悪くはないですけど、できれば違うものを探したいですね。
──きっとそれですね、GRAPEVINEが続いてきた理由は。
そのへんは貪欲だと思いますね。同じような曲をいっぱいやってる人っていっぱいいるじゃないですか。それはそれでカッコいいからいいんですけど、うちはそうじゃないですね。自分でびっくりしたい、というのがある。
──話してて思ったんですけど、強力なビジョンとか、こうありたいっていう理想があんまりないのもいいのかもしれないですね。
もともと始めたときは、もうちょっとブラックミュージックを消化した白人バンドふうの音楽をやろうと思ったんですけど、早々にそのビジョンは捨てましたね(笑)。できないよって。そのあたりから、なんもなしですね。そこからビジョンは見失いっぱなしですね。
──できないというのは技術的に?
いや作曲能力的に。田中の歌唱能力はあると思うんですけど。
──ビジョンがあったらそれを達成したら終わりですから。
確かに器用にブラックミュージックを消化した白人バンドっぽいことができたら、早々にバンド解散してたかもしれないですね。
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亀井亨(Dr)
- GRAPEVINE「ROADSIDE PROPHET」
- 2017年9月6日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
20th Anniversary
Limited Edition [CD+DVD]
4320円 / VIZL-1216 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64820
- CD収録曲
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- Arma
- ソープオペラ
- Shame
- これは水です
- Chain
- レアリスム婦人
- 楽園で遅い朝食
- The milk(of human kindness)
- 世界が変わるにつれて
- こめかみ
- 聖ルチア
- 20th Anniversary Limited Edition付属DVD収録内容
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- GRAPEVINE STUDIO LIVE 2017
- 覚醒
- EAST OF THE SUN
- KOL(キックアウト ラヴァー)
- Arma
- スロウ
- CORE
- 吹曝しのシェヴィ
- 放浪フリーク
- 「Arma」music video
- RECORDING DOCUMENT 2017
- GRAPEVINE STUDIO LIVE 2017
- GRAPEVINE Tour 2017
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- 2017年10月5日(木)東京都 LIQUIDROOM
- 2017年10月7日(土)新潟県 新潟LOTS
- 2017年10月8日(日)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2017年10月14日(土)兵庫県 Kobe SLOPE
- 2017年10月15日(日)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2017年10月21日(土)熊本県 熊本B.9 V1
- 2017年10月22日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2017年10月27日(金)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2017年10月28日(土)愛媛県 松山サロンキティ
- 2017年11月5日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年11月11日(土)岩手県 Club Change WAVE
- 2017年11月12日(日)宮城県 Rensa
- 2017年11月18日(土)福岡県 BEAT STATION
- 2017年11月19日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年11月23日(木・祝)愛知県 DIAMOND HALL
- 2017年11月24日(金)大阪府 NHK大阪ホール
- 2017年11月26日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年12月1日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- GRAPEVINE(グレイプバイン)
- 田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)を含めた4人で結成。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」が大ヒットを記録する。2002年に西原がジストニアのため脱退して以降は、高野勲(Key, G)、金戸覚(B)をサポートメンバーに加えた5人編成で活動を続けている。2010年にはギタリスト / プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を制作。2012年にメジャーデビュー15周年を迎え、9月に初のベストアルバム「Best of GRAPEVINE 1997-2012」を発表した。2014年11月にビクターエンタテインメント内のSPEEDSTAR RECORDSへ移籍し、2015年1月に移籍第1弾シングル「Empty song」収録曲を含むアルバム「Burning tree」をリリース。また2016年2月には高野寛をプロデューサーに迎えて制作されたシングル曲「EAST OF THE SUN」「UNOMI」などを含むアルバム「BABEL,BABEL」を発表した。デビュー20周年を迎える2017年には対バンツアー「GRUESOME TWOSOME」を開催し、9月に通算15枚目のオリジナルアルバム「ROADSIDE PROPHET」をリリース。