音楽ナタリー PowerPush - 後藤まりこ

ポップな体感アトラクション?「こわれた箱にりなっくす」

あのライブがなかったらこのアルバムはない

──自分の曲を人に預けるという作り方は、以前の後藤さんでは考えられなかったですよね。

はい。ミドリのときやったら絶対無理。でもなんかね、自然と変わっていけました。今回のアルバム、バンドもおらんし、めっちゃ1人でやってるっぽく見えるかもしれへんけど、全然1人っていう意識がなくて。逆にバンドで作ってるときより、ぎょうさんの人数で作ってるイメージがあります。

──その変化には何かきっかけがあったんでしょうか?

後藤まりこ

5月のSHIBUYA-AXのライブ(参照:後藤まりこ、大盛況の渋谷AXで「もうひとりぼっちやない」)のときに「めっちゃ支えられてる! うわーっ!」っていうのを感じたんがおっきかったです。ライブ来てくれるお客さんとか応援してくれる人、来られへんかった人ら含めて、「うわ、ボクこんなに愛されてんねや」っていうのがむっちゃわかったから。あのライブがなかったらたぶん今回のアルバムはない。すごい素直に作れたもん。

──やっぱりあのSHIBUYA-AXは大きい体験だったんですね。

うん、ものすごく。

──だからこそ、このアルバムを作ることができたと。

ボク、1人で音楽してないってホンマに思えてて。今の活動は聴いてくれる人がおるからこそ成り立ってる。今のボクには「音楽する」っていうことの要素の1つとして、「聴いてもらえること」が必要な条件としてある。

──昔は「わかる人だけわかればいい」みたいな気持ちもありましたか?

言葉にしてなかったけど、あったと思う。でもホンマはわかってほしかったと思います。

振り出しに戻っていない自分がいた

──後藤さんとお客さんの距離も以前より近くなったように感じます。

後藤まりこ

前は正直、お客さんに対する接し方がよくわからなかったです。でもお客さん以外もそう。2012年頃までは周りの人とも全然しゃべられへんかって、それがだんだんなくなってきて、2014年に「大丈夫!」みたいになりました。

──つい最近じゃないですか(笑)。

そう、今年。

──以前はもっと「きちんとやらなきゃ」みたいな感覚もありましたか?

すごいありました。ソロの最初の頃とか「ちゃんとせなあかん」ていう意識がもっとあったと思います。ミドリのときの規模からスタート切りたいって思ってた。ソロになって振り出しに戻ってるって思いながらも、戻ってない自分がおって、それがあかんかったなあと思います。

──今はもっと肩の力が抜けて、自然体で活動しているように見えますね。

すごい楽しい。前は気合い入りすぎてたし、絡まってたかも。その頃はそう思ってなかったけど、今思うと確実に絡まってたかもしれない。それが悪いとかじゃないんやけど。

めんどくさい人になりたくない

──歌詞も変わりましたよね。

そうですね。歌詞っぽくなった。

──以前は歌詞っぽくなかったという自覚があるんですね(笑)。

後藤まりこ

読みにくかったかも。音で選んでたから。「れっつきるみ」はアイドルっぽく作ろうと思って。ボクが思うところの少女像みたいなのを客観的に書けて、すごいよかった。

──ちょっと作詞家みたいですね。

「Re:なくす」も、すごい優しい気持ちで書けました。自分の思うことをちゃんと書けました。

──どうしようもなく吐き出すみたいな書き方じゃなく。

でも今もあります、そういうドロッとしたものは。出てくるけど……そういうめんどくさいのホンマに嫌やなと思って。基本ボクめんどくさい人やから。だからそう思われたくないなと思って。自分がめんどくさくなりたくない。

──でも後藤さんのめんどくささとかアーティストとしての濃さみたいなものに惹かれている人もいるんじゃないですかね。

うーん、でもあんまポップじゃない。なんかこう、後藤まりこは怖いとか、めんどくさいとか、そういうイメージがあるし、まだ拭い切れてないとこもあるかなと。そう言われるのも面白いけど……。

──ちゃんと伝えて、わかってほしいと思うようになった?

うん。前のCD聴いてわからんかった人にも、今回わかってもらえたらいいなと思って。ミドリ聴いてた人にも、ソロから聴いてる人にも、今度のはちゃんといいって思ってもらえるものを作れたと思う。

ニューアルバム「こわれた箱にりなっくす」 / 2014年11月12日発売 / EVIL LINE RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] / 2970円 / KICS-93127
通常盤 [CD] / 2484円 / KICS-3127
CD収録曲
  1. 触媒[編曲:生田真心]
  2. Re:なくす[編曲:AKIRASTAR、睦月周平]
  3. スナメリ[編曲:釣俊輔]
  4. 好き、殺したい、愛してる[編曲:Jimanica]
  5. 関東ローム層[編曲:AKIRASTAR]
  6. れっつきるみ[編曲:Tom-H@ck]
  7. 正しい夜の過ごし方[編曲:(バンドセッション)]
  8. シンデレラタイム[編曲:生田真心]
  9. I / O[編曲:川田瑠夏]
初回限定盤DVD収録内容

<ビデオクリップ>

  • スナメリ
  • スナメリ メイキング

<ライブ映像:渋谷duo MUSIC EXCHANGE公演>

  • Re:なくす
  • 正しい夜の過ごし方

<ライブ映像:新宿LOFT公演>

  • 触媒
  • 好き、殺したい、愛してる
後藤まりこ(ゴトウマリコ)

後藤まりこ

大阪府生まれ。2003年に結成したロックバンド・ミドリでボーカルとギターを担当する。ジャズとパンクを融合した音楽性と、セーラー服姿での激しいパフォーマンスで話題を集めるも2010年12月のライブを最後にバンドは突然解散。しばらくの沈黙の後、2011年12月に開催した自主企画イベントでソロとして再始動を果たし、2012年7月にソロ1stアルバム「299792458」をリリースする。同年8月からはロックミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」に森山未來とともに出演し、2013年4月公開の映画「ペタル ダンス」で映画初出演。2013年7月にリリースしたソロ1stシングル「sound of me」は自身が主演するドラマ「たべるダケ」のエンディングテーマにも採用された。2014年5月には東京・SHIBUYA-AXでの単独ライブを成功に収め、11月に3rdアルバム「こわれた箱にりなっくす」をEVIL LINE RECORDSよりリリース。