音楽ナタリー PowerPush - 後藤まりこ
ポップな体感アトラクション?「こわれた箱にりなっくす」
緊張感がすべてじゃない
──このアルバムは曲ごとにいろんなシチュエーションがあって、風景が変わっていくのが新鮮でした。以前はどこを切っても後藤まりこそのものがあふれてくる、という印象だったので。
前までのアルバムはしんどかった?
──しんどくはないですけど、こっちも本気で聴かなきゃ、ちゃんと向かい合わなきゃ、という意識はあったかもしれないですね。
前のナタリーのインタビュー(参照:後藤まりこ「m@u」インタビュー)で、「肩の力が抜けた曲もあったほうがいい」って言うてくれたのをすごい覚えてて。ライブんときも、バンドでダーッて音出したらやっぱ緊張するし、観てるほうもしんどいやろなって思って。
──張り詰めた緊張感も気持ちいいですけどね。
うん、悪くない。大好きやけど、それがすべてじゃないってことがわかった。
──その変化は大きいですね。
たぶん、ボクの本来持ってるもんが……真面目すぎる。だから正座して聴くようなアルバムしかできひんくて、今回のアルバムを作る上で周りの人がそういうボクを見て「こっちのほうがいいよ」って言って手招きして進めていってくれたのがこのアルバムだと思う。
──なるほど。
だからボク1人で作ったんやなくて、いろんな人の手助けによってできたアルバム。
──いいことですね。
ありがとう。ボクもいいと思えます。
クスクス笑える要素が必要
──ところで一度聞きたいと思ってたんですけど、後藤さんがライブのときに暴れたりお客さんの中に飛び込んだりしてるときってどんな心境なんですか? 熱くなってるのか、それとも冷静なのか。
うーん……どっちのときもある。最近は冷静なときが多くて、だからすごくうれしい。ボク、体感型アトラクションみたいになりたくて。
──体感型アトラクション?
ほら、アイドルちゃんたちは振り付けやダンスがあるから全力感が伝わるけど、ボクは振り付けとかがないから、とりあえず走り回ったりしています。この前もライブで全力疾走しました。
──走り回るってフロアを?
全部。こういう感じ(両手を広げる)。
──えっ、どういう感じですか?
こういう感じ! ほら、こういう絵文字、オワタ\(^o^)/っていう!
──心を開いてすべてを受け入れる、みたいなイメージですか……?
たぶんそう。そういう感じにしたくて、どうすればいいやろってビャーッて考えて「あーーーーー伝わらへん」と思って「この空気、この溝をどう埋める?」「とりあえず走ろう全力で!」と思って走りました。
──フロアの空気は変わりました?
わかんない! お客さんが戸惑っててすごいよかった。なんか楽しくなってきて。こういうクスクス要素はやっぱり必要やなと思いました。
──ヒリヒリした緊張感より、クスクス笑えるようなもののほうがいい?
うーん、ヒリヒリとかけっこうすぐできる気がして。すぐできるっていったらアレやけど、ボクの場合そうなってしまいがちやから。
後藤まりこ現象を超えていきたい
──じゃあ今後は明るく、笑顔になれるようなライブをやっていきたい?
あとはライブで動かんくなりたい。
──え、さっきは体感型アトラクションって?
いや、体感型アトラクションなんですけど、でも違うねん。ボクが立ってるだけとか、歌ってるだけでお客さんが「ギャー!」ってなるみたいな。
──今みたいに会場を走り回ったり、激しいパフォーマンスをしなくても成立する表現ということ?
そう! 今のボクは体を動かすこととか、ライブでお客さんと近い距離で接することでしか表現できない人。それでしか伝えきれない人。動かず伝えるっていう術をまだ知らんから、そういう人になりたい。
──音楽だけで感動させたいということですか?
うん、1音1音に全部を注ぐような音楽がしたい。ヒリヒリした緊張感だけのベクトルじゃなくて、そうなりたいな。
──でも普通はステージで音楽だけをやってる人のほうが多いですよね。逆に今のスタイルは後藤さんならではだと思うんですけど。
でもボクは今“現象”なんよ。後藤まりこ現象。
──確かに、今の後藤さんのライブはお客さんを巻き込んだ“後藤まりこ現象”と言えるかもしれないですね。
せやねん。それを超えて、ボクは後藤まりこっていう存在になりたい。すごい時間がかかることやと思うけど、そうなりたいって思ってる。
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- ニューアルバム「こわれた箱にりなっくす」 / 2014年11月12日発売 / EVIL LINE RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 2970円 / KICS-93127
- 通常盤 [CD] / 2484円 / KICS-3127
CD収録曲
- 触媒[編曲:生田真心]
- Re:なくす[編曲:AKIRASTAR、睦月周平]
- スナメリ[編曲:釣俊輔]
- 好き、殺したい、愛してる[編曲:Jimanica]
- 関東ローム層[編曲:AKIRASTAR]
- れっつきるみ[編曲:Tom-H@ck]
- 正しい夜の過ごし方[編曲:(バンドセッション)]
- シンデレラタイム[編曲:生田真心]
- I / O[編曲:川田瑠夏]
初回限定盤DVD収録内容
<ビデオクリップ>
- スナメリ
- スナメリ メイキング
<ライブ映像:渋谷duo MUSIC EXCHANGE公演>
- Re:なくす
- 正しい夜の過ごし方
<ライブ映像:新宿LOFT公演>
- 触媒
- 好き、殺したい、愛してる
後藤まりこ(ゴトウマリコ)
大阪府生まれ。2003年に結成したロックバンド・ミドリでボーカルとギターを担当する。ジャズとパンクを融合した音楽性と、セーラー服姿での激しいパフォーマンスで話題を集めるも2010年12月のライブを最後にバンドは突然解散。しばらくの沈黙の後、2011年12月に開催した自主企画イベントでソロとして再始動を果たし、2012年7月にソロ1stアルバム「299792458」をリリースする。同年8月からはロックミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」に森山未來とともに出演し、2013年4月公開の映画「ペタル ダンス」で映画初出演。2013年7月にリリースしたソロ1stシングル「sound of me」は自身が主演するドラマ「たべるダケ」のエンディングテーマにも採用された。2014年5月には東京・SHIBUYA-AXでの単独ライブを成功に収め、11月に3rdアルバム「こわれた箱にりなっくす」をEVIL LINE RECORDSよりリリース。