ナタリー PowerPush - 後藤まりこ
破壊から創造へ 初シングルと女優業を語る
後藤まりこが挑戦を続けている。ミュージカルや映画への出演を経て、この夏はテレビ東京のドラマ「たべるダケ」で主演を務めるなど女優としても大躍進。そんな中、ドラマのエンディングテーマ「sound of me」がソロ1stシングルとして7月24日にリリースされた。自身を取り巻く状況が大きく変化する中、彼女は何を考え、どこに向かおうとしているのか。後藤まりこ本人に話を聞いた。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 佐藤類
女優をやってみたら楽しかった
──主演ドラマ「たべるダケ」が好評放映中ですが、本人的にはどうですか?
第1話を観たんやけど、なんかテレビに自分が映ってる違和感がハンパなさすぎて……。
──ミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」や映画「ペタル ダンス」への出演など、最近は音楽以外の活動もグッと増えました。
でも全部ちゃんとしたセリフがないんよ。「ヘドウィグ」は魔法の呪文みたいなセリフやったし、映画のときは即興やったから。
──即興だったんですか。
せやねん。「あなたは今こういう状況にいます。このときあなたはどう言いますか?」って監督さんに言われて。「試されてる!」って思った。めっちゃ面白かった。
──演技の仕事は楽しいですか?
うん、恵まれてると思う。(森山)未來くんにしろ、忽那(汐里)さんにしろ、今回の新井(浩文)くんにしろ。共演させてもらう人にえらい恵まれてるなと思った。
──それにしても後藤さんが今こんな状況にいるなんて、ほんの1年前には想像もできなかったですよね。
ほんまやね。自分でもびっくりしてる。
──女優業をやってみての感想は?
お誘いがポロポロあってうれしくて。やってみたら楽しかった。
──誘われるのはうれしいものなんですね。
うん。ボクなんでもうれしいよ。だって友達とかからメール来たらうれしくない? 「お花見行きましょう」とか誘われたらうれしいやん。そんな感じ。
──女優・後藤まりこに対する自己評価はどうですか?
うーん、ボクめっちゃ演技ヘタなんよ。セリフとかヤバい。国語の教科書読んでるみたい。なんかほんま無理やねん。恥ずかしくて。食べてるシーンとかは「おいしそうに」って言われたからおいしそうに食べてみたけど、でもそれはボクの思ってる最大限のおいしそうでしかなくて。わからんけど演技ってたぶんもっと180度変えるわけやん。それはできんかった。めっちゃぎこちなくなってた気がする(笑)。
──でも演技はぎこちなくても、後藤さんの存在が認められて主役に抜擢されたわけですしね。
うん、ありがたいです。
──一生懸命やらなきゃって思いますよね。
がんばるしかないわ、ほんまに。ボク根本は“世の中全部ヘイト”な人間やけど(笑)、そういうハッピーな考えを持てるようになって、自分の中でいろんな選択肢ができたし、すごく楽しいよ。もちろん葛藤もたまにあるけど。
無軌道だったバンド時代を経て
──今日は改めて後藤さんの音楽以外の活動についても聞いていきたいんですが、「ヘドウィグ」出演の報を聞いたときに一番心配だったのは、後藤さんが同じことを何公演も飽きずにできるのかなというところで……。
それみんな言うとった(笑)。
──でもやりきりましたよね。
せやねん。今回ドラマも、ロケでな、朝の5時に集合とかでちゃんと行けててんで。しかも起きっぱなしで飲みっぱなしとかやなく、ちゃんと1回寝てから行ってんで。すごいやん。人って変わるもんやなって。
──その変化はどうして起きたんでしょう?
え、なんやろ? ちゃんとしようと思ったから?
──(笑)。
ほんまに、ちゃんとせなあかんやん。今まではあんまちゃんとしてなかった……。
──何かきっかけがあったんですか?
やっぱりプロ意識が高い人といっぱい出会う機会があったから。すごいいろんなもんを吸収できたと思う。
──バンド時代を観てる人間としては不思議な感じもしますけど。
せやねんなあ。あの頃は半ギレやったし、やっぱり若さ? もうそれでしか動かれへんかったのかも。
──今は若さ以外に自分を動かすものができた?
あ、家に猫が来たからっていうのもある。だって養わなあかんやん。自分だけやないっていう意識はもちろん前からあったけど。猫まで路頭に迷わせるわけにはいけへんし(笑)。
──仕事としてきちんとやっていこうという意識が生まれたんですかね。
うん、そういうのは出てきたと思う。いいこと? 悪いこと?
──いいことだと思いますよ。
せやなあ。でもそれを悪いことって捉える人もおるやん。だからそういう人にもちゃんとわかってもらえたらと思うねんけど。
──ちゃんと仕事をすることについて「いいこと? 悪いこと?」という葛藤があるんですね。
うん、ちゃんとせなって思うのと同時に、もう無軌道な自分ではおられへんっていう悲しさもある。無軌道な自分にしか成し得なかったことももちろんあるから。そういうのに気付いてしまってん。もちろん今は楽しいし、いいと思ってやってんやけど。
- 1stシングル「sound of me」 / 2013年7月24日発売 / DefSTAR Records
- 「sound of me」初回限定盤 [CD+DVD] / 2000円 / DFCL-2028~9
- 「sound of me」通常盤 [CD] / 1000円 / DFCL-2030
CD収録曲
- sound of me(original mix)
- sound of me(Serph oyasumi mix)
- sound of me(Serph swollen mix)
初回限定盤DVD収録内容
- ワンマンライブ「299792458 TOUR」(2012年11月24日@恵比寿LIQUIDROOM)の模様
後藤まりこ(ごとうまりこ)
大阪府生まれ。2003年に結成したロックバンド・ミドリでボーカルとギターを担当する。ジャズとパンクを融合した音楽性と、セーラー服姿での激しいパフォーマンスで話題を集めるも2010年12月30日のライブを最後にバンドは突然解散。しばらくの沈黙の後、2011年12月27日に開催した自主企画イベントでソロとして再始動を果たし、2012年7月にソロ1stアルバム「299792458」をリリースする。同年8月からはロックミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」に森山未來とともに出演し、2013年4月公開の映画「ペタル ダンス」で映画初出演。また同月より放送のTVアニメ「惡の華」のオープニングテーマにゲストボーカリストとして参加する。2013年7月にはソロ1stシングル「sound of me」をリリース。この曲は自身が主演するドラマ「たべるダケ」のエンディングテーマに採用された。