楽屋エリアでの都市伝説・川上洋平
──「MAKE YOUR DREAM」の出演者の中で、[Alexandros]が一番意外でした。あまりバニラズと接点がないイメージだったんですが、距離が近付くきっかけはなんだったんでしょう?
牧達弥(go!go!vanillas) 確かにライブハウスで対バンというのは去年の「ディスフェス」(昨年5、6月に開催された[Alexandros]主催の対バンツアー「THIS SUMMER FESTIVAL TOUR '23」)に呼んでもらったのが初めてで。でも音楽性も含めて、イギリスの音楽が好きな先輩としてずっとリスペクトしてたんですよ。リスペクトしてるがゆえに……怖いというイメージもありまして(笑)。
川上洋平([Alexandros]) ははははは!
牧 ロックスター然とされてるじゃないですか。同世代だとフェスで一緒になったら話しかけて仲よくなることもあるけど、先輩にはちょっと話かけづらいというか。それに洋平さん、あんまりフェスで楽屋エリアにいないですよね?
川上 そうですね。[Alexandros]は、フェスだと闘いモードに入るんですよ。裏で仲よくしてしまった瞬間に気が緩んじゃったりするので、あまり人に会わないようにしてます。別に嫌いだとか、仲よくしたくないとか、そういうことでは一切ないんですけど。
牧 都市伝説みたいになってましたよ。なかなか会えないレアな存在って(笑)。
川上 たぶん世間話ができないんでしょうね。「元気?」みたいな、ふわっとした会話がうまい人がいるじゃん? あれができないんですよ。
牧 フェスでめちゃくちゃよくある会話ですね。ケータリングエリアでは音楽の深い話をすることはあまりなくて、バンドをやってるという共通点だけだと話題がそこまで広がらない。当たり障りないやりとりをするくらいなら、きっと洋平さんくらいしっかり自分を持ってたほうがいいんですよね。
川上 いや、僕も人と話したいんですけど、話すんだったらしっかり話したいなと思って。軽い立ち話が苦手なので。
好きな音楽でシンパシーを感じた
──じゃあガッツリ会話をしたのは「ディスフェス」が初めてだったということですね。
川上 そうですね。最初の頃は、THE BAWDIESの後輩というイメージがあって。いつだったかROY(THE BAWDIESのボーカリスト兼ベーシスト)くんから「洋平くん、よろしくね!」みたいなことを言われた気がする。
牧 はははは。先輩らしいことをしてくれてる!
川上 だからTHE BAWDIESと同じ事務所で、近しいジャンルを好きな人たちなのかなと思ってたんですよ。それでインスタを見てたら「あのバンT着てる。ちょっと音楽的に僕らと近いかも」と感じて。
牧 インスタ見てくれたんですか? うれしい(笑)。
川上 見ますよ(笑)。そういうところからも「こういう音楽が好きなんだな」とわかるじゃないですか。それで、僕らと近いものが好きなら同じステージに立ったときにいいグルーヴ出せそうだなと思ったから「ディスフェス」に出てもらって。
牧 対バンの声がかかったときはめちゃめちゃドキドキしましたよ。僕らは自分たちのカラーを確立して、対等に肩を並べられるようになってから競演したいと思ってたので。そしたら[Alexandros]のほうからお誘いいただいて、「これはもう話しかけてもいいのかな?」と(笑)。
川上 ライブのあとに打ち上げで話をさせてもらって。いろんなボーカリストと話をしてきたけど、音楽の話題で一番盛り上がったのは牧くんだったね。
牧 好きな音楽が近いというのは、僕としてもシンプルにうれしかったです。あと、よく覚えてるのが、「ディスフェス」の会場BGMでBlurのライブ盤を流してたじゃないですか。日本のバンドシーンの中で、ここまで自分たちの“好き”を貫き続けて、しかもちゃんとお客さんにも提示してる人は少ないし、そういう部分もいいなって。
川上 僕が好きな海外のバンドのライブを観に行ったとき、最後の1曲がカバーで終わることがよくあったんですよ。Primal ScreamはMC5の「Kick Out The Jams」、OasisはThe Beatlesの「I Am the Walrus」とか。1980年代、90年代のバンドはけっこうカバー文化があって、最後はリスペクトで終わることが多い。そこで「MC5ってどんなバンドだろう」「The Beatlesのこの曲知らない」と調べるようになったんです。そうすると「え? Oasisのこのリフって完全にT.Rexじゃん」とわかってくるのが面白かったんですよね。そうやって好きやリスペクトをわかりやすく出しちゃってるところが、バンドの敷居を低いものにしてくれた。だから僕もBlurをかけたり、Tシャツを着ることで、「こういうのが好きなんですよ」「これが元ネタですよ」というのを提示したら、わかる人に楽しんでもらえるかなと。
牧 僕らと対バンしたときも、Echo & the BunnymenのTシャツを着ていましたよね。僕の勝手なイメージですけど、バンTさえ着ないと思ってたんですよ。
川上 ええー、そうなんだ? 普通に着ますよ。
牧 音楽の楽しみ方を知ってほしいという気持ちで、バンTを着たり、インタビューで好きなバンドの名前を出したりすることは僕もよくしていて。[Alexandros]みたいな規模のバンドがそれをしているのは僕らにとっても希望だったし、「ディスフェス」で対バンした日はいろいろなところでシンパシーを感じました。今回も「イギリスのロックってカッコいいんだぜ」という思いを、より日本のバンドシーンに還元できたらいいなと考えてお声がけさせてもらったんです。
──ちなみに「ディスフェス」のとき、[Alexandros]はgo!go!vanillasの「お子さまプレート」(go!go!vanillasが2021年に発表した楽曲)をカバーしたそうですね。それもさっきお話されていたカバー文化の影響からですか?
川上 対バン相手の曲を演奏するというのは、意味合いがちょっと違うけど。でもカバーするのは単純に楽しいですね。
牧 すごくうれしかったです。しかも「お子さまプレート」を1コーラスやって、その流れでなめらかに「Dracula La」([Alexandros]が2015年に発表した楽曲)に持っていっていて、「すごい!」と思いました(笑)。ほかのアーティストとの対バンでもやってるんですよね?
川上 そうだね。WANIMAとかめっちゃ難しかった(笑)。
牧 ちなみにどうして「お子さまプレート」を選んでくれたんですか?
川上 ひと通り聴いて、自分たちの曲につなげやすいなと思ったのもあるけど、単純にいい歌だなと思ったし、一番好きだったから。ほかのアーティストさんも基本いいなと思った曲を選んでます。
牧 僕ら、カバーは全然やらないんですよね。覚えるのが大変じゃないですか(笑)。
川上 それで言うと、スペースシャワーTVで番組をやらせてもらってたときに、毎週いろんなアーティストさんをゲストに迎えてセッションしていたから、そこで慣れたかな。
牧 すごいですね。人が書いた歌詞とメロディって自分の中にないものだから、年々覚えづらくなってきちゃって。それで緊張してライブ全体に影響が出ちゃうから、なかなか僕はできないんですけど……今年はちょっとチャレンジしてみたいと思います(笑)。
UKロックに魅了された理由
──先ほどから話に出ていますが、お二人のルーツにはUKロックという共通点がありますね。さまざまな音楽がある中で、UKロックのどういうところに魅力を感じたんでしょうか。
川上 いいですねー。その話、聞きたい!
牧 僕は一番影響受けたのがThe Libertinesなんですね。演奏がカッコよかったり歌が超うまかったりするわけではないけど、ピート・ドハーティとカール・バラーの不安定な関係性も含めて、生き様が音楽に出ているのが魅力的だなと思って。The Libertinesの退廃的な美は、人間的な部分から来てると思うんです。そういう“人”の部分をUKロックから感じやすかった気はします。
川上 なるほどね。僕は「やっぱりロックンロールと言えばイギリスでしょ」と思うところがあって。パンクだろうがグランジだろうが、どこかイギリスっぽい。AerosmithもLed Zeppelinっぽいし。で、ロックというのはポピュラリティに対する反骨のジャンルであって、イギリス人の気質や文化が、反骨精神そのものだと思ってるんですよね。
牧 それ、めっちゃわかります。アメリカは自由の国だから、自分からゼロイチを生み出していこうというエネルギーの向かい方なんですよね。でもイギリスは体制や階級が昔からあって、既存のシステムにどう抗うか、というのが人の中に根付いている。だからロック=反骨という意味ではイギリスのほうがパワフルな印象で。
川上 しかも反骨をストレートに歌にしたとしても、ちょっと皮肉めいてるんだよね。その皮肉もNirvanaみたいにペシミスティックに言ってなくて、シャレが効いてるからそこまで嫌な感じでもない。抗いながらも「まあ、別にどうにかなるじゃん」という感じもあって、そういう感覚が自分に合うなと思ってからより好きになっていったんだよね。
牧 アメリカのロックは途中でショービジネスになっていったイメージあるんですよ。だから僕も、UKロックの国の背景や人の生活が音楽になってる感じに惹かれたんだなと、今の話を聞いて改めて思いました。
次のページ »
海外レコーディングで得たもの