PIGGS「RAWPIG」特集|プー・ルイ×松隈ケンタ対談

PIGGSがメジャー1stアルバム「RAWPIG」を10月25日にリリースする。

PIGGSはコロナ禍の2020年4月に結成されたアイドルグループ。メンバー、プロデューサー、所属事務所・プープーランド社長と“三足のわらじ”でグループを牽引するのは、BiSの発起人でもあるプー・ルイだ。「RAWPIG」は流行に迎合することを拒否した、PIGGS史上最高にロックなアルバムとなっている。収録曲「Route 91665」ではプー・ルイと旧知の仲である松隈ケンタがPIGGSのサウンドプロデューサー・Ryan.B(BRIAN SHINSEKAI)と初タッグ。エモーショナルなピアノロックを制作した。

音楽ナタリーでは、PIGGSの活動を遠巻きながらも見つめてきたという松隈と、プー・ルイとの対談を実施。コラボすることになったきっかけや、プー・ルイが思うPIGGSの現在地と活動に対する真摯な姿勢、松隈なりの方法論などについて語り合ってもらった。なお文中に使われているソロカットは、プー・ルイと松隈がそれぞれを撮り合ったものだ。

取材・文 / 田中和宏撮影 / 岩元佳菜、松隈ケンタ、プー・ルイ撮影協力 / CAFE&BAR GULDILOCKS

迷走してたら原点回帰

プー・ルイ メジャー1stアルバムを作るってタイミングで松隈さんに楽曲をお願いしたくて、お電話したんですよね。

松隈ケンタ 突然でびっくりしたよ。どんなアルバムにしようと思ったの?

プー・ルイ PIGGSは迷走していたんですよ。いろんな人と関わることも増えたし、ライブハウスのキャパも上がっていって、お客さんからの意見がいろいろ増えていく中で、私を含む制作チームで「自分たちがカッコいいと思うものよりも、人にウケるものを作ろう」って脳みそになっちゃった時期があって。振り返ってみると、そういうモードのときって、グループとしても盛り上がってない感じ。もちろんいつも自信のあるものを発表していたんですけど、逆走していたというか。

プー・ルイ(撮影:松隈ケンタ)

プー・ルイ(撮影:松隈ケンタ)

松隈 なるほどね。

プー・ルイ 「そういうときこそ自分たちがカッコいいと思うことをやっていくべきだった」って話し合いを、振付師のカミヤサキ、サウンドプロデューサーのRyan.B(BRIAN SHINSEKAI)、デザイナーのMETTYと私でしたんです。デビューアルバム「HALLO PIGGS」(2020年発表)のときは、制作陣は自分の友達だけだったから、他人の意見なしに、自分たちがカッコいいと思うものを作った。その頃に立ち返って、今はアリオラジャパンの平山さんとか関わる人が増えている中、改めて「HALLO PIGGS」みたいなパッションのあるアルバムを、メジャーで、いい音で作りたいって思ったのが今作の始まりです。Ryan.Bは「デヴィッド・ボウイに聴かせても恥ずかしくない作品が完成した!」と言ってました。

松隈 おー、すごい(笑)。そういう変遷はどのグループでもあるよね。

プー・ルイ BiSのときもあったんですか?

松隈 いくらでもあるよ。BiSでもBiSHでもどのグループも、やっぱり活動の勢いと音楽の方向性がガチッとハマってるときと、悩む時期っていうのはある。本当にプー・ルイの言った通りで、迷走したと感じたときは原点回帰が一番だと思う。

プー・ルイ へえ! じゃあ間違ってないんだ!

松隈 曲がよかろうと悪かろうと、時代に合っていようといまいと、すべて結果論でしかないんだけどね。いろんな歯車が噛み合わない時期は、自分たちがいいと思っていても、世間的な反応が悪かったら「変えよう」と思っちゃうものだから。そうすると迷走状態になると思うけど、それはどのグループでもバンドでもなるよね。しょうがないことで。

松隈ケンタなりの方法論

プー・ルイ BiSHって「オーケストラ」が出る前までは初期BiSに近いというか、ロック系が多かったですよね。「オーケストラ」はタイミングを狙って出したんですか? あれはみんながいい曲だと思ってますよね。

松隈 「オーケストラ」はね、俺の中でヒット曲を狙った(笑)。

プー・ルイ 狙ってたんだ(笑)。

松隈 メジャーデビュー後のタイミングだったから。

プー・ルイ 勢いもあったときに出たからよかったんですかね。

松隈 あれはね……って、これPIGGSの取材でしょ?

プー・ルイ 気になってて! 私もプロデューサーなので(笑)。

松隈 もちろん俺だけの意見じゃなくてみんなの意見なんだけど、BiSHのメジャーデビュー曲候補として、「DEADMAN」といううるさくて短い曲と「オーケストラ」、あと「beautifulさ」あたりがあったわけ。レーベルさんは「オーケストラ」を推してたけど、渡辺(淳之介 / WACK代表)くんから「どれがいいと思います?」と電話で聞かれて。僕は自分のバンドのBuzz72+がメジャーデビューしたとき、インディーの頃からあった代表曲「屋上の空」をデビュー曲にしたの。そうするとね、デビュー曲ってそんなには跳ねないの。

松隈ケンタ(撮影:プー・ルイ)

松隈ケンタ(撮影:プー・ルイ)

プー・ルイ ああ、なるほど(笑)。

松隈 経験上ね? 最初の作品ってよっぽどクオリティが高いか、大人の話でレコード会社さんのプライオリティが高いかじゃないとそんなにガッと伸びない。新人だしさ。

プー・ルイ すでにいるファンだけが「おめでとう」って盛り上がってる状態か。

松隈 そうね。ある程度売れたら2曲目が大事じゃん。そうなってくると「DEADMAN」でデビューして、「なんじゃこいつら!」って思われてから、「オーケストラ」が出たほうがいいんじゃないかと思ったんだよね。

プー・ルイ プロモーションもそこでかけられますしね。

松隈 だから、最初はちょっとスベるくらいでちょうどよいと個人的に思っていた。

プー・ルイ 2枚目、3枚目のシングルでいい曲を出していくと。

松隈 そうそう。BiSHの場合はそれがハマった。プーちゃん的には「オーケストラ」が出たあたりで、「BiSHに流れが来たっぽい」って感じた記憶があるわけでしょ?

プー・ルイ 「オーケストラ」の前からライブの動員とかを見て、波が来ているなって感じていて、ファンが増え始めたところにいい曲が来たって感じでしたね。「オーケストラ」「プロミスザスター」が連続でリリースされたときは、既存のファンは喜んでいて、さらに新しいファン層を拡大したという印象があります。PIGGSはメジャー1stシングルでまんまといい曲を出しちゃった(笑)。

松隈 ははは。

プー・ルイ メジャーデビューシングルは「負けんなBABY」っていう曲なんですけど、これは「いい曲を作ろう」って頭だったんですよね。

松隈 でもね、さっき言った通り結果論だからさ。僕らみたいなプロデューサーも、レコード会社の人もわかった風な顔してますけど、誰も何が売れるなんてわからないんだから(笑)。うまくいったときだけ「俺の手柄だった!」と言うのは、だいたい我々のようなおっさん(笑)。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

「松隈さん、曲を作ってほしいんです」

松隈 遠巻きにPIGGSを見てきて、僕はグループが迷走しているようには見えていなかったけど、BRIANが幅広い音楽性を持っている変幻自在なプロデューサーなので、どこに音楽的な焦点が定まるかは外野からチェックしてました。「RAWPIG」は制作陣やスタッフが細かく話をした結果、潔くロックに焦点を当てたんだなっていう意気込みを感じるアルバムでした。

プー・ルイ BRIANはなんでもできるがゆえに悩んじゃうんです。どんな曲も作れちゃうから。本人としては作家仕事としてではなく、アーティストとしてPIGGSに楽曲を書いていることにやっと気付けたと言ってました。

松隈 繊細なところもあるよね。

プー・ルイ ええ。変人だけど(笑)。

松隈 ストイックだし。僕は今回、「Route 91665」という曲をBRIANと共作したんですけど、共作したきっかけはさっき話した電話のときで。夕方、車で家に帰ってるとき、「あらきるいちゃん」って人から着信がありまして。「るいちゃんってどこの女の子やろ?」と思って恐る恐る電話に出たら、プー・ルイだった。10年以上前に携帯電話の連絡先に登録したとき、まだ芸名がなかったから(笑)。ひさびさの電話で「迷走していたんだけど、アルバムの曲を作ってほしいんです」とお願いされて。

プー・ルイ 楽曲提供をお願いしたくて連絡したものの、そのあとの打ち合わせでどういう曲を作ってもらうかは悩みました。私は松隈さんの曲をずっと歌ってきたし、どんな曲でも好きになっちゃうと思うんです。今でも昔の曲を聴くくらいなので。そんな状況で、松隈さんからは「それで曲を作っても目新しさがない」「ファンはいいねっていうと思うけど、『またこんな曲かよ』って言われるのが見える」と(笑)。

松隈 もう同じ感じは飽きたなって(笑)。

プー・ルイ で、松隈さんのほうから「新しい作り方をするのはどう?」と提案してもらいました。

松隈 僕から「BRIANたちと一緒にやりたい」と伝えたね。プー・ルイとは15年くらい前に出会ったのかな。別にプー・ルイといざこざがあって離れたことは一度もないけど、一緒にバンドをやったこともあったし、キャリアの中でくっついたり離れたりしてきて。何度も繰り返されてきたわけです。ひさしぶりにプー・ルイと松隈ケンタがタッグを組むことを、僕は「アイドル界の古典芸能」と言ってるんですけど(笑)。僕が普通に作ると「あの時期のあれっぽいですね」とか言われる可能性があるんですよ。ただ過去を振り返ると、一緒に何かやるときは必ず、僕とプー・ルイだけでなく、渡辺くんがいたわけです。BiSを再結成するときも。

プー・ルイ 何かをやるときは、プロデューサー、サウンドプロデューサー、歌う人がチームになっていたから。

松隈 そう考えると世の中から見えづらいけど、今回は「プー・ルイと俺」だから、これまでのトライアングルじゃない。実はそれって新鮮なことじゃないかなと思った。で、ここに3人目で渡辺くんがいない状態だから、「渡辺くんのやらなそうなこと」をばーっとリストアップしたんですよね。「苦しくない合宿をしてみよう」とか。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

左からプー・ルイ(PIGGS)、松隈ケンタ。

プー・ルイ 「BBQしながら曲を作る」みたいなのもありましたよね。

松隈 ハッピーな合宿をしようって(笑)。スタッフさんを交えてそんな雑談レベルの話をして。SCRAMBLES(松隈主宰の音楽制作チーム)が全部やるのも当たり前になっちゃうから、松隈がPIGGSチームに入るスタイルでやろうと。最初は楽器隊もいろんなところから連れてきたらどうかってアイデアはあったけど。

プー・ルイ 急だったからそれは実現できなかったんですよね。

松隈 うん。それで最終的に、作曲セッション風景を生配信することになり、やっぱりそこにはじめましての一流ミュージシャンを集めるのも大変だろうということで、楽器隊についてはSCRAMBLESの若山トシユキ(Dr)、小原ジャストビガン(B)に声をかけて、うちのスタジオで集まることになって。

プー・ルイ 小原さんは私も一緒にバンド(LUI FRONTiC 赤羽JAPAN)をやってましたし。

松隈 そういう流れを経ての再会もエモーショナルかなって。さらにレコーディングエンジニアの沖ちゃん(沖悠央)を連れてきて、そこにBRIANが入る形になり、レコーディングはあえてノーアイデアの状態で始めた。

プー・ルイ BRIANが「何か考えていったほうがいいかな」って不安がってましたけど、行ってみたら「全然準備はいらなかった」と話してました。