愛を求めてさまようMARiA
──続く「Seeker」はレゲエっぽいフィーリングのあるゆるいナンバーで、この感じも珍しいですね。
toku 普通のポップス……と言ったらあれですけど、そういう着地点を目指して曲を作ったことがあまりなかったと思って。僕の中では「“普通”とは?」みたいな感覚もあるし、普通の曲ってけっこう作るのが大変だったりするので、ある意味チャレンジした曲ではありますね。そこにこういう歌詞が付いたので「おお、そうきたか」と。
MARiA 「この2年間で、MARiAに何があったんだろう?」とみんなに思われるかも。
──「愛を求めて さまようSeeker」ですからね。
MARiA やっぱり人と人とのつながりが希薄になって、家に1人でいる時間も多くなっていた中で「つながりとは?」「なんで人は愛を求めるの?」みたいなことをめちゃくちゃ考えて。人と関われば傷付け合うこともあるし、だから1人のほうが楽なのに、でも1人でいるとめっちゃ寂しいじゃないですか。結局、当たり前なんですけど、人は1人では生きていけないというのを痛感したんですよね。
──歌にしても、このチルアウトゾーンでは、例えば1、2曲目のロックナンバーにおける強いボーカルとはまったくアプローチが違います。
MARiA 歌い方の幅もめっちゃ広がったと自分でも思っていて。レコーディングしてるときにtokuも思ったでしょ?
toku うん。だからリバーブとかディレイでお化粧するようなことはなるべくしないようにして、リスナーに近いところで歌っている感じを出そうと。今回はほぼ録ったまんまですね。
MARiA 声の響かせ方とかも今まで以上に意識するようになって。やっぱりソロであれだけ多様な女心を歌った分、自分の中でその曲に合うキャラを考えてレコーディングするようになったかもしれない。技術的にも、ビブラートの付け方とかも超気を付けていますね。
toku いつもMARiAには「この曲はこう歌いたい」というプランがちゃんとあって、そのためにはどうしたらいいかを僕がアドバイスする感じが多かったんです。でも、今回は僕から何か言うことは減りましたね。自分の歌がどう響いているのか自分でわかっていたので、じゃあその歌を皆さんに届けるにはどうしたらいいかという、次のステップを考えることのほうが多かったです。
MARiA 迷いがなかったんだよね、全曲通して。
──MARiAさんはソロでは“MARiA節”を封印したとおっしゃっていましたが、ガルニデの楽曲では当然……。
MARiA もう全開なんですけど、封印したことで自分の中でMARiA節というものがより明確になったというか、「ガルニデのMARiAだったらこうでしょ!」というのが定まったんです。だから迷わなかったのかも。あと「ただいま!」みたいな感覚もめっちゃありました。レコーディングでも「tokuのメロディだ!」「やっぱムズイな! ひねくれてるな! でも、これだよこれ!」みたいな(笑)。
MARiAもこういう歌詞が書けるようになったんだな
──5曲目「aquarium」の歌詞は特に映像的というか、情景が浮かんできますね。ダブテクノっぽいトラックともマッチしていると思います。
toku 「MARiAもこういう歌詞が書けるようになったんだな。よかったよかった」と僕は思っています。
MARiA ずっと言われ続けてたからね(笑)。
toku MARiAが作詞をし始めたときから「最初の2行ないし4行で情景が浮かんでこないと、その先を聴いてもらえないよ」と。
MARiA それに対しては私が「でもさ、そんな歌詞ばっかりじゃなくない?」みたいに反発したり、そんなバトルもめっちゃしてたんですけどね。あと、この「aquarium」と次の「ピエロ」が特にそうなんですけど、今回は韻の踏み方とか、自分が歌っていて気持ちいいメロと言葉のハマり方をものすごく考えて歌詞を書きました。
──その「ピエロ」の歌詞は、一連のラブソングの中でも特にしんどいですね。
MARiA 超しんどいです。偽物の愛だって気付いているけれど、このまま騙されていたい。泣きたいけど笑っているからピエロなんです。でも、こういう恋愛をしている人はめっちゃいるから。だいたい女子数人で集まって話すとひどい男に引っかかっている子がいて、「それ大丈夫なの?」って心配すると「でも、あの人には私しかいないから」みたいな。全然大丈夫じゃない!
──楽曲としてはニュージャックスイング的なノリで、ここからアッパーな雰囲気に変わりますね。
toku 「Seeker」と「aquarium」と「ピエロ」の3曲は全部シャッフルビートなんですけど、「ピエロ」が一番跳ねていて、かつメロディの展開も多いんです。MARiAにはこういう曲が合うだろうと昔から思っていたんですけど、僕がこういうのあんまり好きじゃなかったんですよね。でも、数年前からヒップホップが流行ったりしていたこともあり、自分でも作りたくなったんです。
MARiA 私はこういう曲、大得意なんですよ。もともと中学時代にジャズやR&Bを歌うボーカルグループに所属していたので、いわば自分のルーツだし、たぶん「ピエロ」は2テイクぐらいしか録ってないですね。つるっと歌って「今のカッコよくない? これでよくない?」って。
toku 音程の上下も激しいのに。たぶん、いっぱい練習してきたんでしょう。
MARiA 普通に得意なの! むしろどちらかというとロック寄りの曲のほうが苦手だから。デビュー曲からいきなりロックなんですどね。
toku 僕はR&Bテイストなボーカルでロックをやったら面白そうだと思って。その発想が「ambiguous」(2014年3月発売の1stシングル表題曲)とか初期のロックナンバーの起点になっていたりするんですよ。
戦っていないGARNiDELiA
──7曲目の「ミルクキャラメル」は6/8拍子のワルツ風ナンバーで、また趣が違いますね。
MARiA この曲は、実は次の曲「オトメの心得」と同時期に書いていて。というのも「大正オトメ御伽話」の原作マンガで、ヒロインの立花夕月ちゃんがミルクキャラメルを作るシーンがすごく印象的に描かれていたんですよ。もちろんオープニングのオファーをいただいて、まず「オトメの心得」を作ったんですけど、私たちがあの作品を好きになりすぎてしまって「もう1曲、書きたいね」と。そこでミルクキャラメルをテーマにして、サウンド的にもアコーディオンを入れたりちょっと大正を感じさせるようなものにしているんです。
──誰に頼まれたわけでもなく。
MARiA そう(笑)。頼まれてもいないのに勝手に挿入歌を書いちゃった。
toku オーダーのない夕月ちゃんのイメージソングだよね。
──「ミルクキャラメル」から「オトメの心得」へのつなぎがスムーズすぎると思ったのですが、そういう背景があったんですね。今アコーディオンとおっしゃったように「ミルクキャラメル」はレトロで温かみのある音作りで、エレガントだけどこぢんまりしているという、いいバランスですね。
toku ありがとうございます。こういうアレンジのほうが僕はサクサクできて、ほぼリアルタイムでアコーディオンなりドラムなりを打ち込むのを何テイクか回したらこうなりました。ほぼデモの状態のままなんですけど、これ以上作り込むとミニマムに完結している雰囲気が損なわれちゃうかもしれないと思って。
──「Uncertainty」から「ピエロ」までずっとしんどい恋の歌が続いていましたが、この「ミルクキャラメル」に至ってようやくハッピーな歌詞になりますね。
MARiA 重ためな恋愛ばっかりしていたのがね(笑)。ミルクキャラメルというテーマだけ借りてきたんですけど、けっこうドラマチックな展開を見せる曲なので、そこにどんな歌詞を乗せたら面白いかなと考えて、ちょっぴりセクシーにしました。だから作詞面でもMARiA節が出ているんですけど、夕月ちゃんも主人公の男の子に対してわりと積極的だったりするから、重なる部分もあるんです。
toku 原作を知っている人には「なるほど」と思ってもらえるかもしれない。
──そんなハッピーなムードが次の「オトメの心得」でピークを迎えるというか、浮かれていると言ってもいい。
MARiA 私、こんなにかわいい歌詞も書けるんです(笑)。もちろん作品に引っ張ってもらったから書けた歌詞でもあるんですけど、私たちの作品愛があふれまくっている曲なので、仕上がりにはかなり自信があって。今までガルニデのイメージとはちょっと違うかもしれないけど、新たな私たちのスタイルを確立できたと思っています。
toku 戦っていないGARNiDELiAだね。
──ビッグバンドジャズ的な楽曲にしたのは、やはり大正という時代を考慮して?
toku アニメの制作サイドからもそういうオーダーがありまして。ドラムとベースを打ち込みにしてデジタル感を出す一方で、ブラスやストリングスは生演奏なんですけど、今回はプレーヤーの誰とも直接会っていなくて、全部リモートでのやり取りだったんです。でも、ソロを吹いてもらったルイス・バジェさんというキューバンジャズのトランペッターが「この曲めちゃめちゃいいね! 好きなの使ってよ」と、16トラックぐらい送ってくださって、バシッとハマりましたね。ハマったといえば、この「オトメの心得」と「ミルクキャラメル」はMARiAの歌詞のフィット感がすごくて、誰かに作詞を頼んだのかと。
MARiA ひどくないですか?
toku いや、明るい歌詞でここまでフィットするのは予想外だったから、作詞家みたいだなって。
MARiA だから作詞家ですよ! 歌詞の提供もさせてもらっていますから。
──これもやはり、ソロではご自身で歌詞を書かなかったというのが……。
MARiA かなり大きかったです。いろんな作家さんの歌詞を拝見して超インプットできましたし、それを自分の歌詞にどう生かしていくかも研究したので。だからソロをやって本当によかったし、今回のアルバムになんで「Duality Code」というタイトルを付けたかというと、一旦離れて別行動を取っていた2人が再びGARNiDELiAとして動き出すので、例えば2人だからできることとか、“2”という数字にこだわりたかったからなんですよね(duality=二元性)。
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