SKY-HI|リクルート「FYHM」|仲間たちと描き出した、「個」であることの幸せ

本当の意味の「1人じゃない」って、こういうことなんじゃない?

SKY-HI

──MVの制作はいかがでしたでしょうか。

Spikey Johnと一緒に作りましたけど、「撮影」と「編集」の作業に分かれることが映像の難しさなんですよね。下書きをしてから色を塗る、みたいな作業ができないから、初めにみんなの頭の中で描くものを共有して、イメージを近付けて撮っていく。俺は撮り始めた段階から監督のSpikeyに全権を委ねるから、完成形はわからないんですよ。で、Spikeyは監督としての必要な作業として、アートを作る作業と並行して映像の組み立て……実務的な作業をやっていくわけですけど、アーティストとしての感覚や実力が長けている一方で、実務の面が欠けてるんです(笑)。俺は俺で計算していたから、撮影がアップしたときに「絶対カット数が足りない」と思っていて。2回くらい確認したんですけど「大丈夫」と言うから帰る支度をしてたら「あ、日高くんもう1カット!」って(笑)。そんなところを含めて、彼は撮影に対してすごくピュアな思いを持っていて、そこが好きなところなんですけどね。

──そのあとは結局撮り直したんですか?

そうですね。さらに5カットくらい(笑)。

──MVはSKY-HIさんの目線でレコーディング風景などが描かれる作品に仕上がりました。この映像を通して、どんなメッセージを発信しようと考えたのでしょう。

なかなか言語化が難しいんですけど、ポップスのシーンにおいて、昔は「1人じゃない」みたいなことがよく歌われていて、そのあと「人はみな1人」みたいなほうがクールに見える時代が来て、それを経て今、という感じだと思うんですけど……今回のMVには「本当の意味の『1人じゃない』って、こういうことなんじゃないかな?」という思いを込めています。

──というのは?

僕1人でいるところから映像は始まって、いろんな人生とふれあって、出会った人のリアルライフが自分に投影されていくっていう。なんかこう……個であればあるほど、1人であればあるほど「1人じゃない」と思える瞬間は多くなると思うんです。だから、最後のシーンが終わったとき、「あったかいな」と思ってくれる人と「寂しいな」と思ってくれる人、両方居てほしいんです。その感覚、言語化するのが難しいんですけどね。で、サビで「Live your life」と小さく言ってるんですけど、映像に出てくる人は実際に、みんな自分の人生を生きている人たちなんですよ。俺、マンガなんかでもサブキャラの人生がしっかり描かれているものが好きなんです。コミックスを買うと巻末にサブストーリーがあったり(笑)。

──わかります。

「SLAM DUNK」のメガネ君……木暮先輩のバックグラウンドとか、めちゃくちゃ泣けるじゃないですか。そういうのって、誰にでもあると思うんですよ。俺はマイク持ちだし自分で言葉を発するからスポットが当たりやすいし、今回の映像でも俺の曲で俺が俺のことを歌っているから当然のような顔をしてメインアクトをやってるけど、映像の中でふれあう人たちはそれぞれにいろんな仕事をしていて。スタイリストやヘアメイクも、実際に自分が関わっている人が出てくれているんです。そういう出会いが絡み合って重なって、一緒にいる瞬間って楽しいんですよね。SALUが出てくれたのもありがたかったし、同じモノを作っている誰かと過ごして「幸せだな」と思う瞬間はありがたいことに多いです。で、それがなんで幸せか?というと、「個であれるから」なんだろうなって。個であるからこそ人といる時間に喜びを感じられるし、人とモノを作ったときに、いい作品が生まれるのではないかな、と思っております。

どこで何をしている自分がより好きか

──リクルートの企画「Follow Your Heart & Music」というテーマについては、先ほど「普段やっていることと遠い関係にはない」というお話もありましたが……。

「自分の心に従う」というのは、ここ数年の一番のテーマかもしれないです。それが簡単にわかれば苦労しないよっていうかね(笑)。自分の心に従うには自分の心がよくわかってないといけないから必然的に自分と向き合う時間が増えていくし、向き合うためには何か“ツール”があるとすごく手助けになると思うんですけど……僕の場合は「音楽を作る」という作業がそれにあたる感じです。

──そうなんですね。

ライブなんかではね、いろんな人の人生にその場で“触れる”ので「責任ある立場だな」なんて毎回思うんですけど。自分はライブの前段階の音楽を作る場面で、自分の心を見つけてそれに従うっていう作業を繰り返しているからこそ、「Follow Your Heart」の難しさ、尊さみたいなものはわかる。わかっている分は人に説くことができますから。直接言わなかったとしても、ステージでの自分の立ち振る舞いはそういったメッセージを提示するような内容になることが多いと思われます。「こっちのほうが幸せなんじゃない?」という提案みたいなものはしていきたいですよね。自分はきっと音楽を作り続けると思うし、受け取ってくれる人がいる限りは、見えているものをそのまま渡したいなという思いです。

──では、SKY-HIさんが自分の心に従って一歩踏み出すとき、大切にしていることなどはありますか? “心に従う”という行動に、躊躇してしまう人もきっといると思うのですが。

SKY-HI

そうですよね。就職、転職関係のニュースとか見ていても、二の足を踏む気持ちはわからなくないです。経済や世界における日本の状況とかを見ていたら希望を持てなくなる気持ちもわかるし。けど、自分のために自分があるってことを考えたら、「どこで何をしている自分がより好きか」ということを冷静に考えれば答えが出る気がするんですよね。想像すればするほどいろんな道が浮かぶと思うけど、どの自分が好きな自分かを考えることが大切だと思います。あと、舵を切った先で悪いことが起こるときがあるかもしれないけど、そうなったらもう一度舵を切ればいいというか。それに尽きると思うんですよ。人って意外と死なないから。「New Verse」に込めたメッセージにも通じるけど、生命的に死ななければなんとかなる。それは自信を持って言えます。「なんとかなる」っていう思考はわりと大事な気がしますよ。

──なるほど。

我々音楽家はね、聴いてくれる人の精神的なサポートをしたりとか、火を点けてあげたり、逃げ場になってあげたり。そういったことが割とできるのが強みだとずっと思っているので。がんばってほしいですね。

捨てることもいとわず変わっていくと思います

──では、ご自身はこれからどういった一歩を踏み出そうと考えていますか?

アートとかエンタテインメントって正解はないと思うんですけど、もう少し前の時代だったら1つの正解を誰かが見つけてそれを提示し続けるということが多かったと思うんです。だけど今は目まぐるしく価値観が変化していくから、自分はその都度、捨てることもいとわず変わっていくと思います。変わらずに変わってく。軸足がしっかりしているとどこまでも回れるみたいなことと一緒だと思うので、「どういう人間であるか」という部分をしっかり持ちながら、アウトプットの方法や音楽の作り方は今後も固めずにいきたいなあと思う次第ですね。だから結果的に、やることが去年までと全然違う、みたいなことを繰り返していくと思います。

──2月3日には、全国ツアー「JAPRISON」もスタートしました。

ホントね、いいものができていて。自分でもすごいと思いますね。去年フジロックでケンドリック・ラマーを観て、サマソニでチャンス・ザ・ラッパーを観て思ったんですけど、筋書きのあるライブショーは、いくらでも観る人をエンターテインできるんだなと。それがどれだけストイックなものでも、逆に、どれだけ軽薄なものでも。なので、その筋書きをどれだけ作れるか、というか。2時間のライブを作るためのピースとして作った曲がどんなふうにハマって機能して……ということが大切で。そんなわけで、意味のない曲の並びや意味のない暗転はないです。ずっとつながってる。ただ曲をキレイに見せるというだけではなくて、映画や演劇と真っ向から勝負できる素晴らしいものができたと思います。ラップという歌唱法が前面に出ているのは間違いないんですけど、丹精込めてアルバムで作ったストーリーを思い切り広げたエンタテインメントができていると思うし、「どう考えても世界でこれできる人、いないだろうな」ということも思うんですよね。いくら期待してもらっても、想像しているものより上のものをお見せできると思います。

SKY-HI
ツアー情報
SKY-HI TOUR 2019 -The JAPRISON-
  • 2019年2月3日(日) 東京都 昭和女子大学人見記念講堂
  • 2019年2月9日(土) 千葉県 市川市文化会館 大ホール
  • 2019年2月17日(日) 静岡県 富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
  • 2019年2月24日(日) 宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2019年3月1日(金) 福岡県 福岡サンパレス
  • 2019年3月10日(日) 広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2019年3月17日(日) 北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
  • 2019年3月23日(土) 神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2019年3月30日(土) 長野県 ホクト文化ホール 中ホール
  • 2019年4月6日(土) 石川県 本多の森ホール
  • 2019年4月7日(日) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2019年4月24日(水) 大阪府 フェスティバルホール
  • 2019年4月30日(火) 東京都 中野サンプラザホール

2019年3月4日更新