愛ってこんなに身近で簡単な感情だったんだ

──アルバムに話を戻すと、歌詞には男目線と女目線の2パターンが存在します。これらの曲に何か違いはありまか？

いつも書き終えて気付くことなんですけど、主人公が男性の歌だと思いやりや愛があふれてる歌になるんです。一方、主人公が“私”（女性）だとすごく独りよがりで、気持ちをぶつけたり叫んでる感じの歌になる。不思議とそういう違いが出てきます。

──歌い方も男目線と女目線で変えていますか？

女目線の嘆いてる歌はちょっと苦しめな声のキーを選んでいて、男目線の曲はわりと真ん中あたりのキーで歌ってます。でもあまりテクニック的なことは使わず、基本は素直に歌おうと思っていて。歌詞が一番届くといいなってことばかり考えてます。

──全曲聴かせていただいて、私は男目線の「オレンジ」が耳に残ったんですよね。先ほどおっしゃったとおり、彼女への温かな愛にあふれた優しいナンバーで。

「オレンジ」は自分の中でも新しい曲でした。今まで恋愛の曲で一度も「愛してる」を使ったことがないんですが、この中ではさらっと「愛」という言葉を言っていて。今までずっと「恋」とか「好き」を使っていて、「愛」には大げさなものとか厳かなものっていう印象があったんです。でも最近になって……例えばこの歌のように好きな人のひどい寝顔も自然とかわいく見えたら愛だなって。それで冷めちゃうくらいだったら恋に恋してただけだったのかなって。

──うん、わかります。

なんか、愛ってこんなに身近で簡単な感情だったんだ！って思ったんですよね。大人になると、だんだんそういう温かい気持ちがわかるようになるのかなって。

──年齢を重ねるにつれて、書く歌詞は変わってきたと思いますか？

昔は「大人になって恋の歌を書けなくなったらどうしよう」って恐れてた時期があったんです。でもいざ大人になって思うのは、引き出しが増えるだけなんだなって。いくらでも淡い恋の歌は書けるし、むしろ昔は書けなかったような気持ちもわかるようになって幅が広がる。大人になるイコール世界が広がることだったんだなって最近は思います。

──でもずっと10代の頃の感性を持ち続けられているのはすごいですよね。

困ったときはドラマや少女マンガを見る期間を作ります。普通に趣味として楽しんでいる部分もあるんですが、そういう作品をまとめてバーッと見ると体がインプットのモードになるというか。例えばマンガだったら、ランキングの上位に入ってる作品は一通り読みますね。自分の好みというより、みんなが今どういうものを求めていて、共感しているのかを知りたい気持ちがあるんです。

リラックスしながら、いろんな感情を行き来してほしい

──11月15日からはこのアルバムを引っさげた全国ツアーがスタートします。年内の公演は弾き語り、年明けの公演はバンド編成と2つのパターンで挑むんですよね。

そうなんです。年が変わったら内容も変わるという感じで、自分の中では今、2つのツアーを考えてる感じですね。選曲はもちろん今回のアルバムの曲をやりつつ、インディーズ時代の曲もたくさん織り交ぜながら。初めて来てくださる方には私の名刺代わりのようなステージになったらいいなと思います。

──藤田さんのライブは、すすり泣きをしているお客さんが本当に多いと聞きました。それって、もちろんご本人も気付いてますよね？

はい。歌ってるときに見えることもありますし、曲が終わって鼻をすする音が多いときはちゃんと届いたのかなって。特に泣いてくださる方が多いのは今回のボーナストラックにも入れた「あなたは幸せになる」なんですが、これは友達を励ますためだけにバーッと書いた手紙のような曲なんです。だから起承転結も何もないんですが、だからこそ1人ひとりに向けて歌うことで届くものがあるというか。皆さん、自分のいろんな経験を重ね合わせて聴いてくださってるのかなと思います。

──ライブで普段、意識していることはありますか？

私、お客さんに泣いてほしいとか笑ってほしいとか、そういうことは何も求めないんです。自然体にいつも通りのステージがちゃんとできれば伝わるはずって。だからまずは自分がリラックスすることが大事ですね。

──自分がガチガチだとそれがお客さんにも伝わる？

はい。会場の空気が鏡のようになりますね。シリアスな曲を歌ったときは空気が固まるんですけど、その後すぐ私が自然体で話すとお客さんも肩の力がストーンと抜けて笑ってたりする。リラックスしながら見て聴いて、いろんな感情を行き来してほしいなって思います。