ナタリー PowerPush - fripSide

2人の信頼感と10年の歴史が生んだ デジタルミュージックの新しいカタチ

いい曲は音楽理論や音声学では作れない

──satさんからご覧になっていかがですか? 作詞家・南條愛乃は。

sat 上から目線で申し訳ないんですけど、一応200以上の歌詞を書いている立場から言わせてもらうと「上手になったなあ」と(笑)。僕自身、音の響きとかリズムにかなり気を遣うテクニカルな詞の書き方をするので、正直な話をしてしまうと、fripSideではほかの人に作詞を丸投げしたくはなくて。絶対に気持ちのいい言葉を使ってくれるとは限らないので。でも最近南ちゃんからもらう詞って、オケとミックスしてみると「あれっ!? もしかして僕が普段気にしているポイントについて考えてくれてる?」って感じるものが多いんですよ。内容がいいのはもちろんなんだけど、音としてもキレイ。その2つを両立させてくれるので「あっ、スゴいな。これだったら今後もお任せしたいな」っていうことを、すごく感じています。

南條 でも私自身は詞を書くときはいっつも「このフレーズ、satさんにツッコまれるかもなあ」って思ってるんですよ。「I'm believing you」の中で言うなら「掛け違えたままの 君とのパズルは知らないうちに 別々のものを描いてた」とか。言ってしまえば「掛け違える」といえば「ボタン」ですから。そこから「パズル」という言葉を使って「描いてた」というところへ移行させてるので「もっとシンプルに意味が通じやすい言葉で」って言われるかなって思ったり。「離れる心が痛いよ」っていうフレーズも、メロディとのハマり具合について指摘されるんじゃないかなって思ってました。

sat いや。両方とも面白いな、って思ってましたよ。

──「離れる心」なんて「れ」「る」「ろ」と「R」の音がポンポンポンと連続するから耳にしていて気持ちですよね。「薄く色づく」みたいに細かく韻を踏んでいるフレーズも多いし。

南條 全然作詞術とかわかってないから、歌ってて、聴いてて気持ちいいだろうな、っていうことしか考えられないんですけどね(笑)。

sat むしろそれが重要なんだよね。実は作詞作曲するときに理論ってそんなに気にしなくてもいいんですよ。僕はクラシック畑の出身なので、ある程度以上に音楽理論はわかっているつもりだし、音声学のような学問があることももちろん知ってはいるけど、実際に感動できる音楽を作るのに、そういうことってそれほど関係はなくて。理詰めで作るよりも「これはキレイかな?」「これいいんじゃない?」って感覚で探っていったほうがいい勝負ができるんですよね。

“ただのfripSide”になるための10周年記念ライブ

──今回はシングルと同時にライブBlu-ray / DVD「10th Anniversary Live 2012 ~Decade Tokyo~」もリリースします。fripSideが映像作品を発表するのは初めてですよね?

sat シングルやアルバムの特典として映像を付けることはあったんですけど、単体の商品としてリリースするのは初めてですね。

──なぜ11年目にして初めて映像作品を?

sat 「今後はライブもしっかり展開していきますよ」という所信表明ですね。これまで僕たちは「制作ユニット」と言っていたんですけど、ライブを望んでくれるファンの方もたくさんいらっしゃるし、僕たち自身もライブはすごく楽しいので、ちょっと力を入れていきたいんですよ。なので「こういうライブをやるユニットなんですよ」ということを一度はっきり打ち出しておきたかった。あとタイトルからも一目瞭然なんですけど、今回の作品は10周年記念ライブのBlu-ray / DVD。プロデューサー、コンポーザーとしての自分や、naoそして南條愛乃というボーカリストのこれまでの活動に1回楔を打ち込むためにその内容を形に残しておこう、っていう意味もありましたね。

南條 私の中でも卒業式と入学式を一緒に行った、みたいな感じですね。これはfripSideとして活動を始めてからずっと心のどこかに引っかかっていたことなんですけど、ファンの方の中には初代ボーカルのnaoちゃんのほうがよかったって思っている人も当然いるじゃないですか。私自身好きなバンドのボーカルが変わって悲しい思いをした経験があったので、その気持ちは痛いほどわかるんです。でもこの10周年記念ライブで、先代のボーカルのnaoちゃんと共演し、その中で私を含めた今のfripSideを応援してくださるファンの方たちと触れ合えたことで、そのネガティブな気持ちが吹っ切れて。もちろんnaoちゃん時代のfripSideを愛してくれている人はいるし、それはそれで否定的な気持ちはまったくないですし、それほど大切に思われるってことはよいことだと思うんです。でもそれとは違う次元のところで、私は私で胸を張って「fripSideの南條愛乃です」って名乗ってもいいのかなって。何かが心の中でストンと落ちたのがこのライブなんです。

sat うん。南ちゃんや僕はもちろん、naoさんや“あの人”まで出てくる上に、セットリスト的にもスーパーベスト的なこのライブをやったことで、「第2期」なんて呼ばれていた南條愛乃とsatのfripSideにケリが付けられた。ようやくただの「fripSide」になれた節目のライブだけに、ファンの方にはぜひ観てもらいたいですね。

ニューシングル「sister's noise」 / 2013年5月8日発売 / GENEON UNIVERSAL
初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD] / 1890円 / GNCA-0280
通常盤 [CD] / 1260円 / GNCA-0281
CD収録曲
  1. sister's noise
  2. I'm believing you
  3. sister's noise〈instrumental〉
  4. I'm believing you〈instrumental〉
初回限定盤 DVD収録内容
  • 「sister's noise」PV
  • メイキング映像
  • スペシャルスポット映像
ライブBlu-ray DISC / DVD「10th Anniversary Live 2012 Decade Tokyo」 / 2013年5月8日発売 / GENEON UNIVERSAL
Blu-ray DISC / 5250円 / GNXA-1024
DVD / 4725円 / GNBA-1400
fripSide(ふりっぷさいど)

fripSide

コンポーザー&プロデューサーのsatこと八木沼悟志と声優として活躍する南條愛乃(Vo)からなるユニット。2002年から活動開始し、2008年に初代ボーカルnaoとsatでメジャーデビュー。2009年に南條愛乃が加入し、テレビアニメ「とある科学の超電磁砲」のオープニングテーマ「only my railgun」をリリース。その後もアニメやゲームに楽曲を提供していき、2010年発売のアルバム「infinite synthesis」ではその存在感を確固たるものとした。2011年8月に発売された4thシングル「Heaven is a Place on Earth」はアニメ映画「劇場版ハヤテのごとく! HEAVEN IS A PLACE ON EARTH」の主題歌に起用。これまでとは異なる爽やかなサウンドで、ファン層を拡大した。2012年12月には結成10周年を記念したアニバーサリーアルバム「Decade」をリリース。2013年5月には結成11年目第1弾作品となるシングル「sister’s noise」とライブBlu-ray / DVD「10th Anniversary Live 2012 ~Decade Tokyo~」を同時に発表する。