フレデリック|「このままずっと、遊びを貫き通そうぜ」新作に込めた決意と感謝

健司が歌うとポジティブな表現になる

──「Wake Me Up」には「心配しないで 光ってしまったっていいよ」という言葉がありますし、「されどBGM」には「もうすぐで もうすぐそこで 光は変わる」という言葉があって、2曲続けて光という言葉が歌詞に入っていることが、個人的にとても印象的だったんです。

健司 2017年くらいから、光ってる曲は増えてきたよな?(笑)

三原康司(B, Vo)

康司 そう(笑)。僕らの曲には、前から光という言葉が歌詞の中によく出てくるんです。自分としてはあんまり意識していなかったんですけど、光って、すごく希望的なイメージがあって。今、世の中が混乱した状況で本当に先のことがわからなくて、自分たちも「いつライブができるんだろう?」とか「もしかしたら、この状況はずっと変わらないんじゃないか?」という思いすらよぎることもありますけど、その中で“光”という言葉を音楽にして、メッセージにして届けることって、すごく意味があることだと思っています。きっとこれは今だけに限らず、いつの時代でもそうだと思いますね。

──3曲目の「正偽」は、先ほど「2ステップを意識した」と言っていましたけど、ダンサブルなサウンドとは裏腹に、歌詞には今の時代に対する鋭い批評性があるというか、すごく毒がありますよね。

康司 そうですね。「正偽」も今思っていることを曲にしたんですけど、やっぱりSNSなんかを見ていると、「当たり前のことでも1回疑ったほうがいいんじゃない?」と思うんですよね。例えば“自粛警察”と呼ばれるような、この混乱の中だからこそ出てきた正義ってあると思うんです。それが悪いことだとは思わないんだけど、ただ、自分が正しいと思って誰かに対して何かを言おうとしたときに、果たしてそれが本当に正解なのかどうかは、1回疑ったほうがいいと思うんですよ。「自分は正しい」と思ってする行動にも、犠牲は生まれていたりする……そういうことを考えながら歌詞を書いていたんですけど、こういうシニカルな歌詞に多幸感のあるサウンドが交わったときに、すごく強さが生まれるような気もしていて。「正偽」の歌詞は喜怒哀楽の中でも完全に怒の感情を書いた歌詞だけど、フレデリックのサウンドに乗せて健司が歌うと、すごくポジティブな表現になるんですよね。それはこのバンドのマジックだと思う。

──このポップさは、やはり健司さんのボーカルの力も強いですよね。

康司 うん、そう思います。やっぱりフレデリックの軸にあるのは健司の声だし、それがなければフレデリックではないんですよ。健司はどういう状況になっても、自分がまっとうすべきこと、自分が歌うこと、歌い続けていくべきことに対して前向きでいることができるんですよね。僕らはもう何年も一緒にいますけど、こんなふうに離れ離れになってリモートで話し合うことになったり、バンドの活動が止まってしまったりすることなんて今までなかった。でも、こういう状況になってしまっても、健司は変わらない強さを持っていられる。それは今回の制作で強く感じましたね。

メンバーそれぞれの成長

──健司さんとしては、このリモート制作下でご自身の歌と向き合ったときに何か感じたことはありましたか?

健司 この期間で「自分の歌ってどういうものなんだろう?」ということに向き合う時間も増えたんですけど、さっき康司が言ったように、自分の歌い方だとどれだけシニカルな表現でも毒を吐いているようには聴こえないとか、今まで以上に自分のことをよく知った状態でレコーディングに臨めたような気がします。でも、それは僕以外のメンバーも一緒だと思う。もともとうちのレコーディングは、康司が持ってくるデモにすでにギターもベースもドラムもシンセもボーカルも入っていて、そこからそれぞれのフレーズやアレンジを考えて差し替えて、メロディや歌詞も歌いやすいものに少しずつ形を変えていくんですけど、それがリモートでのデータのやり取りだと、すごくやりやすかったんですよね。

──なるほど。

健司 スタジオだと1日8~10時間くらいこもって曲を完成させていきますけど、リモートなら自分たちが納得できるところまで、自分で好きなように時間を使いながらアイデアを突き詰めていけるんです。自分のペースで自分なりの音を作って、データでみんなに投げて、反応を伺う。このやり方が、ドラムの武も、ギターの(赤頭)隆児も、すごく向いていたと思います。僕自身、今回の経験を経て機材への興味も今まで以上に湧いたし、それぞれが今まで以上にスキルアップできたんじゃないかと思う。例えば「SENTIMENTAL SUMMER」ではミックスボイス的なテクニックを練習してから歌ってみたんです。この「ASOVIVA」という作品は、メンバーそれぞれが自分の成長を見せることができる場所にもなったと思いますね。

──「SENTIMENTAL SUMMER」は、7月に行ったアコースティックオンラインライブ「FREDERHYTHM ONLINE『FABO!!~Frederic Acoustic Band Online~』」で、「夏フェスで鳴らしたかった夏の曲」と言ってワンコーラスだけ演奏されていましたね。

康司 今年は夏の高校野球がなくなってしまったけど、自分たちにとっては、夏フェスが甲子園みたいなものだなと思って。僕らもいろんなフェスに出る中で、小さなステージからどんどん大きいステージを目指していくストーリーがあったし、それがすごく大切な経験だったんですよね。夏フェスが予期せぬことで急になくなってしまったことで、そこで出会えなかった人たちがたくさんいるし、いつもだったら夏は何万人もの人の前で音楽を鳴らして心を通わせることができたはずだったのに、それができなくなってしまった。それでも、そこにあったはずの気持ちはこの先も持ち続けて活動していきたい……そういうことを考えながら作った曲ですね。

──この曲は2020年の夏だからこそ生まれたサマーソングですね。今年の夏を刻んでいるからこその切なさと、未来に対する意志がある。

康司 そうですね。夏フェスでも、甲子園でも、そこに向けて気持ちを寄せるのって青春じゃないですか。その青春がなくなってしまったことは儚いし、センチメンタルな気持ちになるけど、この気持ちを音楽に残して伝えていくことも、今だからこそできることなんじゃないかなと思ったんです。この曲の歌詞には、自分たちが出演してきた夏フェスの風景がちりばめられています。

武道館を遊び場にしたい

──お話を聞いていて、「ASOVIVA」という作品は、音楽、社会、SNS、フェス……いろいろなモチーフを取り入れながら、総じて人と人に思いを巡らせながら作られた作品という印象も受けます。そして、このコロナ禍だからこそ、それはより強く響くメッセージになっている。

康司 世の中がこういった状況になったときに、世界に自分1人しかいなかったら別に何も起きないじゃないですか。でも、そうじゃないから世の中でいろんなことが起こっているわけで。それに音楽をやるのって、最初は自己満足から始まっていたとしても、聴いてくれる人たちとの関係値はどんどん強くなっていくし、去年横浜アリーナでライブをやらせてもらって、その関係値に対して自分が思いを巡らせていなければ無責任だと思ったんですよね。だからこそ、人と人を感じたうえで自分は今何を言えるのか、どう感じてもらえることができるのか……そこに関しては丁寧に考えながら音楽を作っていきたいし、今回の作品は、それができたんじゃないかと思います。

三原健司(Vo, G)

──10月からは全国ツアー「FREDERHYTHM TOUR 2020 ~たかがMUSIC されどMUSIC~」が始まりますし、来年の2月2日には初の日本武道館ワンマン「FREDERHYTHM ARENA 2021」も控えています。またみんなで集まることができる未来を信じて、今どんな思いでいますか?

康司 今回の“遊び場”というテーマは、この先のツアーや武道館を見据えたものでもあって。健司がずっと前から言っていた「武道館を遊び場にしたい」という思いは軸としてありつつ、自分が今やれること、今考えていることを「ASOVIVA」という音楽作品として作ることができたので、それを全国にちゃんと届けたいです。いろんな場所に届けた先に、武道館という場所で面白おかしく、「本当にこれが必要なんだ」と思ってもらえるような表現をしたいですね。

──健司さんはどうですか?

健司 この先のツアーや武道館もそうですし、もしかしたら年末のフェスもそうかもしれないですけど、これから始まるライブにはいろいろなガイドラインが設けられると思うんです。コロナ以前と同じ状態で開催できないことはもう確定していて。でもこれまで「決められたルールの中でどう遊ぶか?」ということを考えてきたのがフレデリックやと思うんです。今までもそうしてきたし、この2020年は特にそうしてきた。その信頼のうえで生まれるものを生かして、2021年の日本武道館も遊びたいですね。いい言い方ではないかもしれないけど、このコロナ禍を「いい期間だった」と言えるようなものにしたい。

──すごく素敵な志だと思います。

健司 今年の2月くらいからライブもなくなって、ミュージシャンが音を鳴らす場所がなくなるという異常事態になった。だからこそ、「じゃあ、その期間に何をしていたの?」ということをミュージシャン全員が問われると思うんです。そのときに「フレデリックは、ちゃんと遊んでいましたよ」ということを、この先のライブではっきりと見せたいです。全ミュージシャンが問われる問いに対してのフレデリックなりの答えを、ちゃんと見せます。

ライブ情報

FREDERHYTHM ONLINE「ASOVISION~FRDC × INT~」

配信日時:2020年9月27日(日)19:00~

FREDERHYTHM TOUR 2020
  • 2020年10月10日(土)北海道 Zepp Sapporo
  • 2020年10月18日(日)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2020年10月30日(金)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2020年10月31日(土)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2020年11月5日(木)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2020年11月6日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2020年11月21日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2020年11月25日(水)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2020年11月26日(木)愛知県 Zepp Nagoya
FREDERHYTHM ARENA 2021

2021年2月23日(火・祝)東京都 日本武道館

左から三原健司(Vo, G)、三原康司(B, Vo)。