フレデリックが9月22日に新作音源「ASOVIVA」をリリースする。
本作には7月8日に配信リリースされた「されどBGM」を含む、リモートで制作された新曲4曲に加えて、7月18日に行われたアコースティックオンラインライブ「FREDERHYTHM ONLINE『FABO!!~Frederic Acoustic Band Online~』」のライブ音源2曲を収録。また初回限定盤のCDには「終わらないMUSIC」のライブ音源が追加収録され、初回限定盤に付属するDVDには「FABO!!」から9曲のライブ映像が収められる。
これまでもライブをはじめとした活動の場で、“遊び”という言葉をバンドのスタンスとして打ち出してきたフレデリック。音楽ナタリーではそんな“遊び”というワードを含む「ASOVIVA」の発売に合わせて、三原健司(Vo, G)と三原康司(B, Vo)へのインタビューを実施した。フレデリックにとっての“遊び”とはなんなのか、そして新型コロナ禍中に制作された新作に込められた彼らの思いは──。
取材・文 / 天野史彬 撮影 / 後藤壮太郎
フレデリックは自分たちとリスナーにとっての“遊び場”
──新作音源のタイトルは「ASOVIVA」と名付けられましたが、そもそも“遊び場”とは、フレデリックがこれまでさまざまな場面で使ってきた言葉ですよね。今、この言葉を作品名に冠したのはなぜでしょうか。
三原康司(B, Vo) 今、“遊び”というワードが自分たちにすごくしっくりきていて。“遊び”って、これまでもフレデリックの活動の中で健司がよく使ってきたワードですけど、世の中がこういう状況になったことで、より強く提示したい言葉になってきたんです。ミュージシャンの多くはそうだと思うんですけど、自粛期間になって、自分の音楽に向き合う時間が長くなったと思うんです。それぞれが音楽の必要性を考えたと思うし、衣食住に比べて、音楽なんて不必要なんじゃないか?みたいなことを言われるような場面も出てきたし。
──音楽を聴いて楽しむことに対して、どこかで後ろめたさや遠慮を感じてしまう場面もありますよね。
康司 でも、僕はこういう状況でも、遊ぶこと、楽しむことって、決して悪いことではないと思うんですよね。最近は表面的な部分だけで楽しむということに対して否定的になってしまうことがあるけど、一概にそうは思いたくない。だって、僕らは実際に人が集まる場所で音楽をやってきて、だからこそ感じた高揚感があったし、それが心の栄養になってきたんです。それに、自分たちが好きだと思えるものや楽しめるものに触れることって、一番自分の成長につながることだと思う。僕らが今“遊び”という言葉を掲げるのは、そういったものへの感謝を込めてというか。表面上だけじゃなく、ちゃんと楽しむことに自分たちも向き合いながら、その大切さをいろんな人たちに伝えることが、今のフレデリックにできることなんじゃないかと思ったんですよね。
──この言葉を伝え続けてきた健司さんは、今、遊びという言葉に対してどんな思いを抱いていますか?
三原健司(Vo, G) そもそも遊びという言葉をフレデリックのスタンスを表す言葉として使い始めたきっかけにもつながるんですけど、結局「自分たちはなんのために音を鳴らすのか?」と考えたら、自分たちが楽しいからなんですよ。僕らは高校生の頃に双子で軽音楽部に入って初めてバンドを組んだんですけど、その頃からずっと「こういうコードで、こういう曲やったらめっちゃ面白いやん!」とか、「俺ってこういう表現ができるんだ!」「周りと違うことができるんだ!」という高揚感を、音楽を通して感じてきた。その頃からずっと、音楽を通していろんな感覚を得てきたし、インディーズデビューして、メジャーに行って多くの人の目に触れるようになってからは、フレデリックは自分たちにとっての遊び場であり、同時に聴いてくれる人たちにとっての遊び場の1つになったなと思うんです。そうなってからはずっと、自分たちにとって楽しいもの、お客さんにとっても楽しいもの、それをひっくるめて“遊び”であり続けることをテーマにして、このバンドをやり続けてきた感覚があって。
──フレデリックというバンドの根本的な姿勢を示すものが、“遊び”という言葉の中にはある。
健司 そうです。2020年のフレデリックは、こういう状況だからこそ「このままずっと、“遊び”を貫き通そうぜ」と、よりその決意が固まっている感じがするんです。だからこそこの「ASOVIVA」は、僕としてもすごく納得のいくタイトルになっています。あと、自分たちも30歳になったし、キャリアも積んできて、下の世代のアーティストも増えてきたんです。ここで1回落ち着いて、俯瞰しながら年上なりの意見を言っていくっていう選択肢もあると思うんですけど、それよりも僕らは「フレデリックって30歳になっても遊んでいるよね」と言われたいし、僕は人間としても、そういう人生を歩みたいなと思う。そういうところから、2020年のフレデリックは遊びをテーマにしようとなっていった部分もあるんですよね。
夢を見せることができる存在でありたい
──話を聞いて改めて思いますけど、「ASOVIVA」というタイトルは“遊び”という言葉のいい意味での軽やかさもあるし、“VIVA”という言葉の持つ肯定感もあるし、社会の閉塞感に囚われすぎないポジティブさがありますよね。
健司 そう思います。ミュージシャンは自分たちの芸術性を発信する人たちだと思うし、それを素敵だと思って僕も憧れてきたけど、このコロナ禍において、SNS上でミュージシャンの生活や、ミュージシャンの意見が見える瞬間が多くなったような気がするんです。ほかのミュージシャンのその部分が垣間見えることに対しては何も思わないんです。でもフレデリックは、生活や意見が表に出すぎることが似合わないバンドだと思うんですよ。もっとファンタジックなものでありたいというか、あくまでも夢を見せることができる存在でありたいなと思う。そういうことも、遊びというテーマにつながっているような気がします。
──この状況だからこそ、フレデリックの音楽に向き合うスタンスをより強く実感されているわけですよね。ただ、先ほど康司さんが言ってくださった「音楽は、我々にとって必要なものなのか?」という問いに対して、お二人はすぐに答えを出すことができましたか? それとも、逡巡する場面もありましたか?
健司 必要か必要じゃないかって考えるよりも、行動するほうが先やったんですよね。問いが生まれるよりも先に、行動に移した。それが自分たちの答えなんだろうと思います。必要かどうかは作品を出してみないとわからないし、今回の作品が出たあとも、その答えを出し続けるのが自分たちのあり方やと思うし。
康司 そうやね。状況が変わったとき、僕らがまずやることは音楽だったんです。レコーディングスタジオに行けないから、すぐに家に機材を買って、メンバーが離れながらでも制作できる環境を整えて。もちろん「音楽は必要か?」という問いに対する答えは人それぞれやと思うけど、フレデリックとしては、こうして行動に移したことが答えなんじゃないかと思います。それでできあがったのが、この「ASOVIVA」という作品なんです。
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今だからこそできたサウンド