音楽ナタリー Power Push - FOLKS
バンドの新たな幕開けを告げる 北海道産ミニアルバム「BLUE & YELLOW」
ほかにない音を作るために
──東京のスタジオでレコーディングするのと、地元でレコーディングするのでは何が違いますか?
郁人 まず家なので時間制限がない。スタジオ代もかからないから、予算もかからない(笑)。
──それはかなり大きいですね。音を出すときは周りに気を遣わなきゃいけない環境ですか?
郁人 いいえ。それもすごく大きいです。家で爆音で曲作りしてレコーディングもしてる。練習もレコーディングもそういう環境でできる。これからの時代、どんどんそうなっていくんじゃないかなと思ってるんです。レコーディングの機材はどんどん安価になってるし、知識だって特別な人でないと得られないようなものはない。自分で求めればどんどん掘っていけるし、機材だって探して手に入れれば、誰でもメジャークオリティの作品がインディペンデントなカタチで作れるような時代になっていくと思うんです。FOLKSは今回それに挑戦してます。
──アーティストが自分でやるミックスは、しかるべきプロのエンジニアがやったものとはクオリティ面で歴然とした差がある、という意見もありますね。その点はいかがですか?
郁人 確かに、プロのエンジニアがやったものと、ミックスができるミュージシャンがやったものは、まったく質の違う作品にはなると思いますね。たぶん……業界のしきたり的な「これをやっちゃいけない」というタブーをやっちゃってるパターンはミュージシャンのミックスではけっこうありますね。でも、洋楽ってそういうのが多い気がするんです。ルール無視でスネアに強くコンプレッサーをかけちゃったり。自分らもレコーディングのとき、エンジニアの方に「ここ、音がぶっ潰れちゃってもいいんで、もっとえぐくコンプをかけてください。そのぶっ潰れた音が欲しいんですよね」と言っても、なかなかやってくれない……ということは、レコーディングの段階からあったりするんです。でもミュージシャンが自分でやれば、その限界を超えられるというか。
──なるほど。
郁人 でもそれだけじゃダメだと思うんです。だから今回セルフミックスではありつつ、北海道のミュージシャンの音を作っている方と共同でミックスしたんですね。
──ただ、「これをやっちゃいけない」というセオリーなりタブーなりは、ちゃんとした理由があるわけですよね。そのセオリーを無視するなら、それもまた相応の理由がなくちゃいけない。
郁人 うーん。いろんなバンドの音を聴いてると、やっぱりなんか……似てるんですよ。さらっと聴けちゃう。並べて聴いても、質感がどれも似通ってるんです。でも中には違う音を出してるバンドもいる。例えばサカナクションの音は、すごく「個人的な音」という気がしました。勝手なイメージですけど、いわゆる“いい音”ではなく、山口(一郎)さんの好きな音にしてるんだろうな、という気がするんです。最近はすごくアナログっぽい質感の音になってる。そういう考え方も参考にしつつ、ほかにない自分たちの音を作るために、自分たちなりの工夫をいろいろ加えてやってるんです。
──ミックスまで全部自分たちだけでやってしまうと、客観的な第三者の視点が入らなくなってしまいますね。そのへんは不安にならなかったですか?
郁人 不安はありますね。なので一緒にやってくれたエンジニアの方の意見を聞きながらやってます。
小林 今まではアレンジの段階で郁人の部屋に集まって、意見を交わしてたんですけど、今回は郁人1人でアレンジまで完成させてもらって、そこから僕たちが意見を言うようにしたんです。なので今回はアレンジまで郁人1人のクレジットになってる曲が多い。そういうところで、メンバー内で客観的な視点を取り入れるようにしたんです。今回はそこもうまく自分たちでコントロールできたかなと思ってます。それが結果としてうまくいったかどうかはわからないですけど。
──例えばそこでどういう意見が出たんですか?
小林 この音はちょっとわかりづらいんじゃないか、拍数が取りづらいんじゃないかとか。聴くのは音楽的に詳しい人ばかりじゃないんだから、こうしたほうがもっと聴きやすいんじゃないか、より多くの人たちに聴いてもらえるんじゃないか、というような意見を出して、また再アレンジをしてもらって。そういうやり取りです。
自分たちで責任を持った作品を作りたかった
──今回できあがった作品をどう捉えてますか?
郁人 あー……今は納得いってないです。
──ええーっ! いってないんですか?(笑)
郁人 (笑)。いや、あの、どんなミュージシャンでもそうだと思うんです。1カ月前は納得いってたんです。でも時間が経つと「ここはこうしておけばよかった」という部分はどうしても出てくる。ただ……俺たちにとってすごく必要な過程だったんですよ、絶対に。今まではほんとにプロの超一流のエンジニアやクリエイターの方たちとやってきたものを、一度自分たちでディレクションして、すべて自分たちで完結させることがバンドにとって必要な過程だった。自分たちですべて経験して、お客さんからのレスポンスをもらうことが。
豪利 責任を持ちたかったんです。自分たちの作品なのに、自分たちで作った作品だって言えないのはダメだなと。何から何まで自分たちで責任を持った作品を作りたかった。
小林 人に頼ってばっかのときもあったんで。自分たちがやるべきことをできていなかった。
豪利 後悔も自分たちで引き受けられる。例えばミックスを誰かに頼んでいたら、人のせいにできちゃう。でも自分たちでやれば自分の責任になる。作品に誇りが持てる。
郁人 そういう意味でもこれは絶対作りたかった作品なんです。
──インディーズ時代の「Take off」という作品がありますね。あれもすべて自分たちで作った作品だと思いますが、今回は何が違いましたか?
郁人 それこそ客観性ですね。
小林 確かに。「Take off」って海外のインディーズを意識してわざと音を歪ませていて、僕たちはそれが最高にいいと思ってたんですけど、今作を作っていく過程で、「Take off」を改めて聴いて、これは、悪い意味でやばいなと。つまり客観的に見ればそうだったと。それをこの2年間で学んだ……というのはヘンですけど、こうしておけばよかった、というのはどうしても出てきますね。
──経験を積んでいろんな角度からものを見られるようになったと。マスタリングを担当したまりんさんはできあがった音を聴いてどんなことを言ってましたか?
郁人 すごく細かい音作りのアドバイスをもらいました。キックの質感がどうとか、コンプレッションが強くかかりすぎてるから、マスタリングで音圧を上げられないし、もう少しトータルのコンプのレベルを下げてくれ、とか電話で話してもらって。で、コンプを下げてもう1回送って、またレスポンスもらって、みたいなやりとりを2~3回繰り返して。
──指摘が細かくて具体的ですね。
郁人 そうなんですよ。まりんさんとは、雰囲気とかじゃなくてすごく細かい話ができるんです。コンプレッサーのアタックとリリースをもっとこうして、みたいな話ができるので、すごくやりやすいです。
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収録曲
- BLUE & YELLOW
- 夜の砂漠と月の光
- D2R
- 六畳銀河
- 裸足のシンデレラ
FOLKS(フォークス)
2013年1月に結成された岩井郁人(Vo, G)、岩井豪利(G, Vo)、高橋正嗣(Programming, Syn, Cho)、小林禄与(G, Syn, Per, Cho)、野口一雅(B, Cho)からなるバンド。2015年9月より野口が活動休止に入り、現在は4人編成で活動中。メンバー全員が楽曲制作を行い、ライブではサポートドラマーを加えた編成でパフォーマンスを行う。2013年3月に初ライブを開催し、同月に自主制作盤「Take off」をリリース。一般公募枠で「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO」に初出演し、北海道内で着実にその名を広める。2014年2月にキューンミュージックよりメジャーデビューミニアルバム「NEWTOWN」を発表。2015年2月にミニアルバム「SNOWTOWN」、10月に「BLUE & YELLOW」をリリースした。岩井郁人と岩井豪利は兄弟で、メンバー全員が北海道恵庭市で共同生活をしながら活動を行っている。