チームに分かれてレイドに挑む
──サウンドトラックの最後に収録されているレイド(※MMORPGのミッションの一種。多数のプレイヤーが協力しながら、ボスやダンジョンを攻略する戦闘形式)の楽曲には皆さんどこかしらに携わっていますね。
矢崎 今回のレイド曲は「チームで分かれて協力して作ろう!」という方向性があって、私のチームは「It's Showtime! ~至天の座アルカディア:ライトヘビー級~」と、「Burning Souls ~至天の座アルカディア:ライトヘビー級~」を担当しました。
石川 「Burning Souls」は骨組みを後輩たちが作り、編曲で僕も参加した楽曲です。誰がどこを担当するか割り振りながら作りました。ここまでハードなサウンドになったのは後輩たちの好みによるところも大きくて、いろいろ協力しながら完成させました。曲中の「キェーーー」という声は、祖堅さんが家で叫んだ音声を送ってくれたものを加工しているので、ぜひ注目してもらえたらと思います。
今村 レイドではありませんが、僕は終盤の収録曲のうち「The Ring's Reprieve」という曲を担当しています。「静かめのハードボイルド」と発注依頼があり、「どうしたらいいんだ……?」と思いつつ(笑)。この曲が流れる場所が先ほど話に出た「ソリューション・ナイン」と地続きの場所なので、その要素を入れつつ、「ハードボイルドとはなんなのか?」という概念に思いを馳せながら作りました。この曲は仕上げを後輩に担当してもらったパターンで、「A Risky Bet ~至天の座アルカディア:ライトヘビー級~」に関してはその逆です。後輩が先に骨格を作り、あとから僕が入るような分担で作りました。やっぱり誰かと一緒に作るのは楽しいですね。
石川 うん。刺激がありますよね。
今村 そうやって作るのか、みたいな発見があるし、逆に自分が作ったものに関しては「そういうふうに返ってくるんだ」と驚くこともあります。たまに「本当に大丈夫?」と思うこともありますけど(笑)。
石川 クレジットには見えてこない、曲によって主従が違うところがあるのが面白いですよね。「It's Showtime!」の場合は最初に僕がピアノで骨組みを作ったあとでアレンジを矢崎さんに担当してもらいました。その後も僕がいいなと思ったパートの楽器をひたすら演奏して、できたものから矢崎さんにデータを送り、うまいことまとめてもらうという流れでした。またこの曲は生の声を入れたかったのでサウンドチームを大勢集めて叫んでもらったり、歌ったりしました。チームの力を合わせて作られた楽曲となり、結果として、観客も含めてそのバトルに参加しているような、いい雰囲気が出せたと思います。
──祖堅さんは「Bee My Honey ~至天の座アルカディア:ライトヘビー級~」という、これまでのレイド曲ではあまりなかったテイストのアイドルソングを手がけています。
祖堅 今までいろいろ曲を書いてきましたけど、アイドルに曲を書いたことがないんです。これから先もそんな機会は来ないだろうから、やったことのない電波ソングにしちゃおうと。作ったことがないジャンルの曲で「こういう感じかな?」とイメージしながら書いたのですが意外と悩まずに完成できました。
バキバキ仕事します!
──お話を伺いながら、「FF14」のサウンドチーム全体の空気感が明確に変わったように感じました。これまでのインタビューは、祖堅さんが中心となって話を回していた印象ですが、今日は完全に3人に任せていましたね。
祖堅 もう、ある程度任せても大丈夫だなって思います。
石川 大丈夫だったかな。
矢崎 ドキドキ。
──前回のインタビューでは「黄金のレガシー」のリリース前で忙しいと話していましたが、ようやくリリースされて山場は超えましたか?
今村 それがそんなこともなく、相変わらず……。
祖堅 ずっと忙しいですね。やることだらけでなんにも片付かない(笑)。
石川 (無言で深く頷く)
──締め切りに追われないと話していた石川さんが頷いているのですから、相変わらずやることだらけということですね。とはいえ、チームが育ってきているのは確かであると。
祖堅 そうですね。この3人や今日来ることのできなかった後輩たちがいなかったらいったいどうなっていたことか。非常に助かっています。
──最後に今後の「FF14」サウンド制作への意気込みを聞かせてください。
今村 「黄金のレガシー」は自分でプレイしても楽しく、この世界観を生かしながらどんどん話も広がっていくので、シチュエーションに合わせたいい曲を書き続けたいです。そして、新しいことにもどんどん挑戦していきたいです。
矢崎 私はもともとプレイヤーということもあり、周りの友達が実際に遊んでいる人ばかりなので、その友達にこれからも遊び続けてもらえるようにがんばらなきゃ、といつも思っています。先輩方の背中を追いかけながら、もっと精進したいです!
石川 矢崎さんも含めた新メンバーが加入して、チームの土台ができあがりつつあるのをすごく感じています。この雰囲気の中でゲーム制作をできること自体が僕にとって本当にありがたいことですし、いい環境で仕事をさせてもらっています。「FF14」がどこまで続いていくかは開発側にいる僕らも全然想像もつきませんが、自分の力が残っている限り、その力を最大限発揮して、光の戦士の皆さんに喜んでもらえるようがんばります。
祖堅 サウンドチームのメンバーがこれだけ育ってくれたので、上司として彼らにいい仕事をしてもらうための環境作りを引き続きしっかりやっていきたいなと思います。そしてこの3人以外にもがんばってくれているメンバーがたくさんいるので、どんどん若い芽が育ってくれたらうれしいです。とはいえ、おじさんはおじさんで負けるつもりはないので、バキバキ仕事します。
プロフィール
祖堅正慶(ソケンマサヨシ)
スクウェア・エニックス所属のサウンドディレクター、サウンドデザイナー、コンポーザー。アーケードゲームのサウンドクリエイターを経て、1999年に株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。サウンドディレクターを担当した「ファイナルファンタジーXIV」は、「ビデオゲームで最も多くのオリジナルサウンドトラックを持つタイトル」としてギネス世界記録に認定された。2014年には同作公式ロックバンド・THE PRIMALSを結成し、北米・欧州・日本でのツアーイベントに出演中。ワールドワイドに活躍の場を広げている。携わったゲームには「ファイナルファンタジーXIV」、「ファイナルファンタジーXVI」、「LORD of VERMILION」シリーズ、「ナナシノゲエム」シリーズ、「聖剣伝説4」、「MARIO SPORTS MIX」、「マリオバスケ3on3」、「ドラッグオンドラグーン2」、「ドラッグオンドラグーン3」などがある。父親は元NHK交響楽団首席トランペット奏者で琉球交響楽団代表の祖堅方正氏で、交響組曲「ドラゴンクエストI・II」に参加していた。
今村貴文(イマムラタカフミ)
スクウェア・エニックス所属のコンポーザー。作家活動を経てスクウェア・エニックスに入社し、「ファイナルファンタジーXIV」および「ファイナルファンタジーXVI」にコンポーザーとして携わる。
石川大樹(イシカワダイキ)
スクウェア・エニックス所属のコンポーザー。学生時代よりヴィオラを弾き、オーケストラ活動に参加。大学卒業後は一般企業に就職したが、その後スクウェア・エニックスに入社。「ファイナルファンタジーXIV」および「ファイナルファンタジーXVI」にコンポーザーとして携わる。
矢崎早彩(ヤサキサヤ)
スクウェア・エニックス所属のコンポーザー。高校卒業後は一般企業でCADオペレーターとして働いていたが、その後音楽専門学校を経てスクウェア・エニックスに入社。「ファイナルファンタジーXIV」にコンポーザーとして携わる。