髪の毛ボサボサの髭ボーボー、憑依型コンポーザー今村貴文
──今村さんはファンタジー感とは相反するような、遅めのテンポでちょっと渋さを感じさせるフィールド曲「硝煙に青炎 ~シャーローニ荒野:昼~」を担当されています。
今村 物語の中盤、ゲームの雰囲気が変わる合間に流れる曲で、「主人公とエレンヴィルが荒野を2人で歩いているようなイメージ」という発注がありました。だったら渋い曲にしなきゃダメだよな、と思い、自分の中での渋さを引き出すために髪の毛ボサボサの髭ボーボーの状態で作りました。この状態でギターを弾けばいけるかな、というのがあって。
──過去に今村さんが手がけた「FF16」のBGM「Hide, Hideaway」(シドのテーマ)に通じる渋さを感じたので、こういうアプローチが得意なのかと思っていました。
今村 僕自身は全然渋さがない人間なので、形から入ることでなんとかしています(笑)。こういう憑依型の作曲が得意なのかもしれないです。
──石川さんが手がけたフィールド曲は「空と森の境界 ~ヤクテル樹海:昼~」ですね。
石川 この曲はもともと「黄金のレガシー」が発売される前に公開されるベンチマーク(快適にゲームプレイができるか確認するためのPCソフト)のBGMとして作った曲を発展させたものです。森にまつわる楽曲としては、「シヴィライゼーションズ ~ラケティカ大森林:昼~」という祖堅さんが作った名曲があるので、プレイヤーの皆さんはきっとその印象が強いだろうなと。そのため差別化を図るのにけっこう悩みました。祖堅さんからは曲のイメージとして「オーケストラ調がいいかもね」と方向性はいただいていましたが、この樹海はただの森ではなく、歴史があって時の流れを感じさせるような、一風変わったサウンドにしたかったので、“時の流れ”を表現するために逆再生も忍ばせています。
矢崎 なるほど! 逆再生させているサウンド、実は気になっていました。
今村 そのエフェクトって東京ドームのファンフェスティバルのステージで一緒にDJやってるときにいじってたやつです?
石川 そうです。今村さんとDJをやったときにいろんなエフェクトを触ってみて。そのときの記憶がずっと頭の中にあったので、自分の曲にも取り入れさせてもらいました。
今村 2人で「こういうのあったらいいよね」って話していたんだよね。役に立ってよかった。
同僚が解説するお互いのメロディ
──今挙げた“昼”の曲をそれぞれ作曲と異なるコンポーザーがアレンジしているケースもあります。皆さんは同僚が作るメロディの魅力をどう感じていますか?
矢崎 今村さんは作曲する際、ギターをいい意味でフィーリングで弾いているイメージがあります。そこは真似できないなあと思います。石川さんはオーケストラ出身なこともあり、歌いやすくてシンプルなメロディを作るのですが、その分展開で工夫が見られていつも勉強になっています。
今村 こうやって面と向かって言われると恥ずかしい(笑)。
石川 今村さんはギターで曲を作る人で、矢崎さんはピアノで曲を作るのが得意な人ですよね。「オルコ・パチャ」はメロディ自体がすごくドラマチックなので、彼女が得意な部分がよく出ていると思います。アレンジをするときもメロディの力をうまく使えばいいからすごく作りやすい。
──祖堅さんは各自が制作した“昼”の曲をもとに、“夜”の曲をピアニストのKeikoさんと作っていますよね。
祖堅 昼の曲はみんなががんばって作ってくれたから、夜の曲はとりあえず俺が全部やるか!みたいな感覚で。暗いのは得意なので(笑)。とはいえ、今回は演奏のほとんどをKeikoさんにお任せした部分がありますが。
──実際に3人の曲を編曲してみて、祖堅さんはコンポーザーとしてのそれぞれの成長を感じていますか?
祖堅 とても感じました。キャリアもバラバラだし、それぞれ結果が出るようになるまで時間はかかったのかもしれないですが、「黄金のレガシー」という1つの節目でこういう結果を出した3人を誇りに思います。
──数年前のインタビューで祖堅さんが「まずはチーム作り」と話していた記憶があるので、その頃に比べたら今のチーム感はだいぶ変わったのかなと思います。
祖堅 少し前まではみんな若い後輩だと思っていたのですが「黄金のレガシー」の制作では、3人とも一緒にゲームを作る仲間になった感覚が強いです。
「FF9」の原曲をそのまま使った理由
──先ほど今村さんが「物語の中盤、ゲーム内の雰囲気が変わる合間」と話していましたが、「黄金のレガシー」は前半と後半でゲームの雰囲気が大きく変わります。もちろん、そこに合わせてBGMも変わるわけですが、物語後半のBGMで何か意識したところはありますか?
祖堅 後半はわりと今村に任せた曲が多いです。
今村 わかりやすいところで言うと、「星なき摩天楼 ~ソリューション・ナイン~」などを担当しました。
──「星なき摩天楼 ~ソリューション・ナイン~」は、前半までの雄大な自然を舞台にしたBGMから一変して、別世界に足を踏み入れた感じがサウンドにも表れている楽曲ですね。これを聴いて、「FF16」のティフォン戦の楽曲「Catacecaumene」を思い出しました。
今村 これまでの流れをぶった斬る曲調にするのが好きなんだと思います(笑)。ノリノリだった「黄金のレガシー」前半の楽曲、例えば「金煌なる民 ~トライヨラ:昼~」のような楽曲とは真逆の位置にしなければならないので、別世界であることはかなり意識しました。前半の曲はジャズ調だったり、オーケストラ調だったり、歴史がある感じのサウンドが多かったので、「星なき摩天楼 ~ソリューション・ナイン~」ではその真逆、例えばチルっぽさだったり、ドラムンベースだったり、現代の音楽を意識してみました。また、物語上で「ソリューション・ナイン」という場所は少し気を緩められるような空間だと思っていたので、ここの曲はチルにしたいなと思い、ホッとできるようなサウンドにしています。
矢崎 私は後半の曲にほとんどタッチしていないので、プレイヤーとしての感想になるかもしれませんが、完全に後半の世界観に入ったと感じさせられたのは「火花と閃光 ~外征前哨 ヴァンガード~」でした。エレキギターのフレーズがカッコよくて、ギアが1段上がった感じで。
石川 僕が後半の曲で印象に残っているのは「生命の解体 ~魂魄工廠 オリジェニクス~」です。物語の佳境に流れるダンジョンの曲で、「ドラムンベースに近いものを」というオーダーがありました。僕はオーケストラ出身なのでダンスミュージックはそこまで得意ではないものの、以前「FF14」のリミックスアルバムの「Pulse: FINAL FANTASY XIV Remix Album」に参加させてもらったり、隣で今村さんが作っている曲を浴びさせてもらってきたりしたので、自分の中での落としどころはうまくできた手応えがあります。このチームでやってきたからこそ作れた曲です。
──少しネタバレになってしまうかもしれませんが、物語の後半では「FF9」をモチーフにしたストーリーが展開されます。ゲーム内では皆さんがアレンジした音源だけではなくて、「FF9」の音源もそのまま流れますよね?
祖堅 はい、いくつかは編曲していますが、PlayStation時代の音源をそのまま使用しているシーンも多々あります。
今村 最初は「FF9」のBGMをそのまま使ったらどういうゲーム体験になるのか見えなかったのですが、ゲームをプレイしてみると不思議と違和感はありませんでした。
祖堅 これが仮に「ファミコンの音源を流してほしい」だったらさすがに違和感があったかもしれませんが、PlayStation後期以降のゲーム音楽ならそのまま収録しても違和感がないことは、これまでの「FF14」の開発である程度つかめていたので、僕はそこまで心配していなかったです。シナリオ班から「この曲は原曲のままで進めたい」とオーダーされたものに対して、「そう感じない」みたいな反対もまったくありませんでした。今回の取材にあたって、実はシナリオ班から言伝を預かっているので読み上げますね。
「7.0」においてはスフェーンや永遠人(とわびと)関連など、かつてのアレキサンドリア王国の気配が強いところに「FF9」からの楽曲を原曲そのままで使わせていただいています。一方、同じくアレキサンドリア王国に根幹を持ちつつも、今を生きることにフォーカスしているオブリビオンのアジトでは「タンタラスのテーマ」のアレンジ版が流れています。両者の方向性の違いを演出するひとつの要素として活用させていただきました。
祖堅 間違ってしまったら大変なので、これはこのまま読み上げさせていただきました。
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