FAKE TYPE.特集|新作EPで次なるフェーズへ、2人が語る怒涛の2024年と“10年前の俺等” (2/3)

唯一無二の存在・nqrseと再びコラボ

──2曲目の「Zillion playerZ feat. nqrse」にはnqrseさんが参加していますが、どういう流れでnqrseさんとコラボすることになったんですか?

DYES 「ゼンレスゾーンゼロ」側からnqrseちゃんとFAKE TYPE.でイメージソングを作ってほしい、というオーダーをいただいていたんです。トラックは「エレクトロスウィングでゲームのメロディを部分的に入れてほしい」というリクエストを受けて作りました。

TOPHAMHAT-KYO 歌詞も「この言葉を入れてください」という要望がたくさんあって。とはいえnqrseちゃんはめちゃめちゃ忙しいので、「このワードをリリックに入れて」と言ったら大変だろうなと思って。勝手に俺のほうで、サビとかにそのフレーズを入れました(笑)。

DYES じゃあnqrseちゃんのパートは、それを気にせず書いてるんだ?

TOPHAMHAT-KYO そうだね。でもnqrseちゃんも「N TOWNから鳴らす警鐘」とか「ゼンゼロ」の要素を入れてきた。あれはすごいなと思ったね。

──FAKE TYPE.とnqrseさんのタッグは去年末の「アングラ劇場」以来なので、わりと早い再共演となりましたね。

TOPHAMHAT-KYO こんな立て続けにコラボできるのは珍しいですね。

DYES 僕ら2人ともnqrseちゃんのラップが大好きだからね。

FAKE TYPE.

FAKE TYPE.

──今作の中では一番FAKEっぽさが感じられる曲ですよね。

DYES うん、色濃いと思います。とはいえ、イントロやサビ終わりのトラップパートには「ゼンゼロ」に出てくるメロディを使っていて。そこは僕にはない発想のメロディなので、新鮮さの1つにつながっているかなと思います。

──ボーカルは低音のnqrseさんと、高音のTOPHAMHAT-KYOさんのコントラストがすごく映えていますよね。

DYES やっぱり相性がいいよね。もっとコラボしたいです。

TOPHAMHAT-KYO nqrseちゃんくらい渋くていい声を出せる人はいないから、ここぞのタイミングでまた一緒にやりたいよね。

──お二人はnqrseさんの魅力をどう感じていますか?

DYES 圧倒的イケボ感。とにかく声がカッコよくて、生まれ変わったらnqrseちゃんの声になりたい。それぐらい声が好きで、歌唱力もあるしラップもうまい。リリックもカッコいいから、何も言うことがないなって。本当にパーフェクトな人なので、すべてにおいて好きですね。

TOPHAMHAT-KYO 唯一無二の存在だと思います。あとは、なかなか表に出てこないところもミステリアスでいい。ゲーム配信はめちゃめちゃやっているんですけどね。

今が一番楽しい

──3曲目の「Apple juice」ですが、これもエレクトロスウィングとは違いますよね?

DYES そうですね。Johngarabushiさんとの共作で、エレクトロスウィングとは違うベクトルの曲をイメージしました。とはいえ8年ほど前に作ったから、当時どういう思いだったのかはうろ覚えで。怪しげな曲を作りたかったのかな。

──どういう経緯でこの曲名になったんですか?

TOPHAMHAT-KYO  DYESが「このトラックは、ぼくりり(ぼくのりりっくぼうよみ)くんと一緒にやるイメージで作った」と言っていたんです。で、ぼくりりくんの「For the Babel」のジャケ写が、人でリンゴを表す写真だったので、そこから着想を得てリンゴを絡めたリリックにしようと思いつきました。あまり深く考えず、今思っていることを散文的に並べていって。リンゴは「知恵の実」と言われているので、そこから「甘い甘いジュースと知恵の搾りカス」と書いてみた。あとは、冒頭の「自称ミュージシャン 卒業済み」に関しては、本当かわからないけど、何か悪いことをして捕まったときに“ミュージシャン”と報道されるか、“自称ミュージシャン”と報道されるかの違いって、確定申告をしてるかどうかで決まるらしいんですよ。それで俺はちゃんと確定申告しているから、自称ミュージシャンではないということを表現しました。逆に「自称ミュージシャンは嘘つきだよね、真っ赤な嘘だよね」という意味合いで、赤いリンゴとリンクするかなと。

──「韻だけのラップ 卒業済み」というラインは?

TOPHAMHAT-KYO 10年よりさらに昔の自分は、韻を踏むことがアーティストとしてのステータスだと思っていた時期があって。

DYES 韻を踏むラップが時代的にも流行っていたもんね。

TOPHAMHAT-KYO 昔はめちゃめちゃ韻を踏むのがカッコいいと思っていたけど、今その感覚はないので、そこは卒業したということですね。

DYES 韻に囚われるとね、韻に踏まれちゃうから。

TOPHAMHAT-KYO そうね。その感覚をなくしたいのはある。だけど最近になって、韻に導かれることがあるんだよ。

DYES おー! それは面白い!

TOPHAMHAT-KYO 韻がリンクしていることで、前の文章が決まることもある。そうすると、逆に韻を踏むのはアリかもなって。でも、それは韻だけじゃないよね?っていう。言いたいことがちゃんと浮かんでるから、もう韻だけに頼らなくなったのはありますね。

TOPHAMHAT-KYO

TOPHAMHAT-KYO

──「韻だけのラップ卒業済み」を含め、「~~卒業済み」という一連のフレーズは、かつてのTOPHAMHAT-KYOさんに向けて歌っているのかなと。

TOPHAMHAT-KYO あ、そうですね! 確かにそれはそうです。「なんちゃってヲタク 卒業済み」はなんだろう? やっぱりニコニコ動画とかが好きだったけど、今はもう観ていない。「風変り奇衒う 卒業済み」は突飛なことをやって人の目を引くことも、今はそんなにしなくなった。「パパラッチアパッチ 卒業済み」に関しては、狭い界隈だから周りの噂が自然と耳に入ってくるんですよ。いや、もう聞きたくないよって。そういうのはいいよ、そんな年齢じゃないんですよ、みたいな。「排他的否定的 卒業済み」はかつての新しいものを受け入れない自分じゃなくて、どんどん新しいものも吸収できるようになったから書けたと思います。

DYES 素晴らしいね。

TOPHAMHAT-KYO 今みたいに指摘されないと自分も思い出せないんですよ。「なんでこう書いたんだっけ?」みたいな。

──僕はお二人と同い年だから思うのかもしれないですけど、「こうあるべきだ」と自分を縛っていたものが35歳になると自然に解けていって、本当の意味で自分らしくなっている感覚があるんですよね。

TOPHAMHAT-KYO めっちゃわかります!

DYES 確かに、そうなんですよね! 今が一番楽しいかも。

テーマは仕事観

──続いて4曲目「No more work feat. Sarah L-ee, Fuma no KTR」についてお聞きします。フィーチャリングゲストにSarah L-eeさんとFuma no KTRさんを迎えたのは?

DYES もともとコラボ曲にしたいと思っていて。僕とSarah L-eeちゃんは10年ぐらいの付き合いの友人で、こういうダークなトラップっぽいトラックに合わせてSarahちゃんがラップをしたらめっちゃカッコいいのはわかっていたから声をかけました。Fuma no KTRくんに関しては、AOが最近仲よくしているのもあって、ぜひ参加してもらいたいなと。

DYES IWASAKI

DYES IWASAKI

──リリックのテーマとしては、仕事観が大きなキーワードなのかなと感じました。

TOPHAMHAT-KYO そうですね。テーマを考えている時期にやらなきゃいけないことが山積みで、ちょっとしんどくなっていたんです(笑)。おそらくお二人も忙しいだろうから、この気持ちを理解してもらえるんじゃないかなって。各々がどう仕事と向き合っているかが表現されているし、すべての現代人に伝わるような曲になったんじゃないかなと思います。

DYES AOは自分のパートだけを書いて、テーマは何も言わずに2人に渡したんだよね?

TOPHAMHAT-KYO そうだね。自分のパートやサビも書いてあるし、タイトルも決まっていたので、きっと説明しなくても伝わるだろうなって。

──楽曲としてまとまってますもんね。

TOPHAMHAT-KYO そこを汲み取るのも俺はラッパーの力だと思う。その力が強くないと自分をうまく表現できないから。見事に2人はちゃんと汲み取ってくれましたね。ちなみに「Karoshi」ってフレーズがありますけど、英語でも「Karoshi」で伝わるんですよ。

DYES え、そうなの!?

TOPHAMHAT-KYO 日本で過労死という言葉が流行りすぎて、海外でそのまま逆輸入されたんだって。

DYES へー、面白い!

TOPHAMHAT-KYO どれだけ日本人が過労しているかを、如実に表しているよね。

──去年ご登場いただいたメジャー2ndアルバム「FAKE SWING 2」のインタビューでも、「日本人は働きすぎ」という話をしましたね(参照:「FAKE SWING 2」特集)。

TOPHAMHAT-KYO あー! 「マンネリウィークエンド feat. 花譜」の話題で、その話になりましたよね。もっとみんな遊んだほうがいいよって。確かにそうなんですよね。基本的にみんな思っているんじゃないですか? 働きすぎでしょ、みたいな。

DYES そんな共感性の高いテーマを、それぞれの個性を出しながら歌っているのがいいよね。3人とも毛色の違うラップで素晴らしいし、面白い組み合わせの曲になったと思います。