「ホンマに1人やんな……」
──2024年は新しい環境に身を置かれたり、ライブイベントを主催されたり(参照:.ENDRECHERI.初の音楽フェスに9千人が熱狂!会場に充満したファンクミュージックと“命の匂い”)、主演映画の公開もあったり、多くの初めての経験があったと思いますが、特に印象に残っていることというと?
全部が濃厚すぎたので1つに絞るのは難しいんですが、フィールドを新たにした当初は「ホンマに1人やんな……」って思ってました(笑)。それが一番印象に残ってますね。今支えてもらってるスタッフさんと出会ったのが4月だったので。
──最初はその方もいなかったわけですね。
はい。本当になんの準備もしてなかったんです。周りには「こんなに準備してない状態で新しいフィールドに行こうとする人いないですよ」って言われましたけど、僕は「自分をまっとうしたい」気持ちが強いんです。そこから数カ月経って、今はめちゃくちゃ仲間が増えたのでびっくりしてます。僕が声をかけさせていただいた方もいれば、スタッフさんが「剛くんに合うと思います」と紹介してくれた方もいます。演者として以外にもやることがめちゃくちゃ増えて、ミーティングも多いですし、いろいろなことを並行して進めていて。自費で曲を作って、ライブの主催も自分で、という状況でやってますね。
──当然収益のことも自分で考えなければいけなくなる。
はい。今年はとにかく、ずっと応援してくださってるファンの人たちに対して空白を感じてほしくなかったので、今まで通り、あるいは今まで以上のものをお届けしたいと思ってやってきました。今まで以上のものというと、配信イベントをやったり、初めて対バンをやらせてもらったりしました。全部が闘いでした。
──大変な部分も多いと思いますが、充実感はありますか?
充実感のほうが大きいです。仲間と一緒に「このままだと赤字になるね」「ホンマやな」「じゃあここを削って、こういう方向でいきましょう」みたいなやりとりをするのも新鮮です。そこはこれまで人にやっていただいてた部分だったので。ただ、僕が以前いた環境では僕のようにシンガーソングライターになることがすごく画期的なことで、当時まったくその土台がなかった。僕もどうすればいいかわからないし、周りの大人たちもわからなかったので、僕自身がその道のプロの方たちと音楽を作る中で活動の方法を学んでいきました。機材の扱い方やデータのまとめ方、「これをやるにはだいたいこれぐらいの予算」とか、権利の問題とか。「音楽やライブを作るのってすごく大変なことなんやな」「たくさんのお金が動いてるんやな」「たくさんの人が寝る間も惜しんでがんばってくださっているからエンタテインメントが生まれてるねんな」と当時から勉強してきました。だから、8割型、自分がするべきことを理解したうえで今の環境に入ったんですよね。あとの2割は実際に対峙しないとわからなかったことで。そういう流れがあったからこそ、スムーズに進められているところのほうが多くあると思います。
楽しく自分をまっとうしたい
──今年10月には楽曲「雑味 feat. George Clinton」をリリースしました。剛さんが雑誌「音楽と人」でやっている連載名のタイトルが「that's meeting / 雑味eating」ですし、「that's me」の意味合いもあるし、今の環境のフットワークの軽い感じも含めて、「雑味」は今のモードを象徴する言葉なんでしょうか?
そうですね。宝石は人間が手を加えて、機械できれいにするじゃないですか。でも、鉱山から発見された原石そのものも、それはそれできれいですよね。「雑味」はそっちにピントを合わせた曲です。「そんなに着飾ったり、鎧を着たりしなくていいよ」「そのままでいいんだから強がらなくていいよ」という。自分のままでいることが一番強いと思うし、優しい。整えない雑味が大事だなと思ってるんです。「that's me=これが私だよ」っていうダブルミーニングになってるのがファンクっぽいなと思ったところもありますね。本当にいろいろなことを感じさせてもらえた制作でしたし、音楽があって本当によかったと思います。耳を患ったのに音楽をやりたいと思ってるわけですから。「体が壊れてるのに続けたいことがあるってすごい」と思いましたね。音楽を辞めて休んでもいいのに、以前退院してすぐにステージに立ちたいと思ったとき、「僕にとって音楽はそれぐらいのものなんだな」と感じたんです。だからこれは一生やらなきゃなって。体と向き合いながらではありますけど。2024年はこの体でもたくさん音楽ができた1年だったのでよかったです。
──10月に行ったオンラインハロウィンパーティは1部が「ハロウィン大喜利」、2部が「ゾンビだらけの限定ライブ」という斬新な切り口でしたね。
ふざけてますよね(笑)。あれをやることをOKしてくれる人たちがいるのがまずすごいなと思いました。僕が「ゾンビの特殊メイクをして大喜利やってみたい」と言ったら、すぐに「どうやったらやれるか試算してみますね」ってスタッフが動いてくれて。「このパターンで行けばできます」「じゃあやりましょう」となって実現しました。ゾンビメイクを1回きりで終わらせるのはもったいないので、来年はゾンビメイクでハロウィンファンクラブライブみたいなのをやるのもいいかもしれない。
──2025年はどんな活動がしたいですか?
もちろんライブはやろうと思っています。アルバムのレコーディングを終えたところで、今まとめの作業に入っていますね。引き続きいろんな人とのコラボレーションもしていきたいです。音楽以外のことでも「面白そう」と思ったらすぐにできる身軽な状況ではあるので、皆さんに「こんなことをやるんだ」って驚いてもらえたり、喜んでもらえることをいくつも叶えると思います。
──ライブで特に実感しますが、同性や幅広い年齢層のファンの方が増えてますよね。
そうですね。ラジオにメッセージを送ってくださる10代、20代の方も増えました。親子で応援してくださってるお母さんがもともと僕の大ファンで。そのお母さんのほうから、娘の前で「ファンクもいいけど剛くんのバラードがまた聴きたい」と言ったら、「私は剛くんのファンクがすごく好き。自分のままでいいんだよって言ってくれてる気がしてすごく勇気がもらえる。お母さん、また剛くんのファンクのライブに一緒に行って手を上げて踊ろうよ」みたいなことを娘さんに言われましたというメッセージもいただきました。もしかしたら若い世代の方はファンクが好きで、僕と同世代や上の世代の方はバラードのほうが聴きやすいとか、知らぬ間にそういう一線ができてるのかもしれないですね(笑)。僕の体は1つですが、「この色の僕は好きだけどあの色の僕は嫌い」というのがあっても全然いいと思うんです。僕自身は自分のどんな色も楽しんで生きていますし。切り替えがうますぎるのかもしれない。例えば今日は紫で、明日は青になっても赤になっても大丈夫で、なんやったらお昼から3時までは青やけど、5時ぐらいから紫になってても全然問題ないんです(笑)。
──それはいろいろなお仕事をやってきた30年以上の経験があるからこそなのでしょうか。
そうかもしれないですね。何をやっていたとしても、楽しい時間が過ごせたらいいなと思ってるだけなんです。毎日「帰っておいしいごはんが食べられたらいいな」と思って生きてますね。ちなみに今日は鍋にするんですよ。
──それはいいですね。
鶏鍋かな? 1日の中に、そういう食事の時間も、こういう取材の時間もあるというだけ。これからもそんなふうに生きていって、楽しく自分をまっとうしようと思っています。
プロフィール
.ENDRECHERI.(エンドリケリー)
1979年4月10日生まれ、奈良県出身のシンガーソングライター堂本剛のクリエイティブプロジェクト。ジョージ・クリントンに感銘を受けたことをきっかけに、ファンクミュージックを軸にしたジャンルレスな音楽を発信している。2022年にはファンク専門の米音楽メディア「Funkatopia」が選ぶ「2021年のファンクアルバムベスト20」にアルバム「GOTO FUNK」が選出され話題となる。2024年5月から6月にかけて.ENDRECHERI.として全国7都市を回る全国ツアー「.ENDRECHERI. LIVE TOUR 2024『RE』」を実施。同年10月にジョージ・クリントンとのコラボ曲「雑味 feat. George Clinton」、12月にシンガーソングライターとしてのデビュー曲「街」を再レコーディングした「Machi....」を配信リリースした。
堂本剛.ENDRECHERI._staff (@hotcake_staff) | X
Tsuyoshi Domoto (@tsuyoshi.d.endrecheri.24h.funk) | Instagram