瑛人|棺桶に持っていくアルバムできました

瑛人が1月1日に1stアルバム「すっからかん」をリリースする。

「香水」のスマッシュヒットにより激動の1年を過ごし、年末には「NHK紅白歌合戦」への初出場も決定した瑛人。満を持してリリースされる初のオリジナルアルバムに対し、彼は“1stアルバムにしてラストアルバム”をテーマに挑み、「棺桶に持っていく」ような気持ちで「香水」やボーナストラックを含む全14曲を完成させた。音楽ナタリーでは、本作ですべてを出し切ったという瑛人にインタビュー。アルバムの内容について詳細に解説してもらった。

またインタビューの後半で瑛人は「ワンマンライブをやっても2人しか来ないんじゃないか?」と不安を告白。突然脚光を浴びることになった自身の現状について客観的に分析しながら、今後の活動について語っている。

取材 / 臼杵成晃 文 / 三浦良純 撮影 / 堀内彩香

突然知らされた紅白出場

──まずは「第71回NHK紅白歌合戦」出場おめでとうございます。

ありがとうございます!

──紅白出場は発表当日にいきなり聞かされたんですよね?

そうなんです。この日は朝9時半から打ち合わせだって言われてたんですけど、アルバムのレコーディングがようやく終わって「やっと気兼ねなく呑める!」ってときだったから、その日も朝5時ぐらいまで呑んでて。夜更かしすると肌荒れしちゃうんですけど、朝は打ち合わせだけだし、誰かの前で歌うわけでもないから「まあいっか」って思ったんですよね。それで6時に寝て、8時ぐらいに起きたんですけど、やっぱしんどくなって「今日リモートじゃダメですか?」って聞いたら「ダメー!」って……。しぶしぶ事務所に行ったら「紅白決定! 会見行くよ!」って言われて、めっちゃ驚きました。そんなでしたけど、会場に着いたら目の前にNiziUさんがいてうれしかったですね。

──紅白は瑛人さんにとってどれくらいなじみのあるものですか? ひと昔前だったら全国的に大晦日=家族そろって紅白くらいの感じだったけど、たぶん瑛人さんが産まれた頃あたりから、大晦日のテレビ番組は民放バラエティの定番も増えてチャンネル争いが激化していたかと思うのですが。

大晦日は外に遊びに行ってることが多かったけど、紅白は家にいるときは観てました。

──自分が出演するイメージはできます?

今はなかなかイメージしようと思ってもできないです。俺が郷ひろみさんと一緒にいるの?って(笑)。

──でも順当というか、瑛人さんの「香水」は今年を象徴する1曲という意味では外せないと思うんですよね。「ドルチェ&ガッバーナ」の部分がどうなるかわからないですけど、それでも呼ばないといけない人だったという。

うれしい。「ドルチェ&ガッバーナ」は歌えることになりそうです。

これで瑛人は0になります

──前回のインタビュー(参照:瑛人「ライナウ」インタビュー)でもアルバムについては少しお話ししてもらいましたが、何よりまず「すっからかん」というタイトルが最高ですね。

瑛人

ありがとうございます(笑)。

──所属事務所の代表である御徒町凧さんから助言があって、1stアルバムにしてラストアルバムのような気持ちで作ったんですよね。

はい。「アーティストがじいちゃんになって死ぬ前に手に取るのは1stアルバムだよ」ってKさん(御徒町凧)に教えてもらって、やっぱり俺の感情を全部詰め込んで、自信を持って「これが瑛人の『すっからかん』!」って言えるようなアルバムにしたいと思った。それで、本当はストックしておこうと話していた曲も「すみません。やっぱりこれ1stに入れたいです」って伝えて、アルバムの収録時間も予定よりちょっと増えましたね。タイトルには「これで瑛人は0になります」みたいな思いを込めてて。

──ボーナストラックも含めたら14曲も入ってますもんね。10年後、20年後に瑛人という名前を知った人がまず聴くのは最初の大ヒット曲である「香水」が入っている1stアルバムでしょうから、その意味でも現時点のベストを詰め込んでおくのは正しいかもしれないですね。本格的なレコーディングは初めてだったと思うんですが、いかがでしたか?

今までとは勝手が違ってすごく大変でしたけど、楽しんでやれましたよ。ディレクションしてくれる人たちもすげえ優しい人たちだったので、ずっと笑いながらやってました。

どうしても叶えたかった夢

──「すっからかん」というアルバムタイトルだけでも最高なんですが、それじゃあ1曲目はどんな曲なんだろうと見てみたら「僕はバカ」って書いてあって(笑)。

(笑)。

──常に楽しそうに笑ってる瑛人さんが自分で「僕はバカ」って宣言しているのが、言い方は悪いですけど、なんかしっくり来て(笑)。最高のオープニングだなと思いました。バンドアレンジになっていますが、これは弾き語りスタイルで作っていたストック曲なんですか?

「香水」がヒットする前に作っていた曲です。僕は基本的に自分の感情とか実体験とかを曲にするんですが、「僕はバカ」に関しては妄想というか、瑛人の頭の中にある物語を描いた曲なんです。隣の部屋にかわいい女の子がいたらいいなーって(笑)。僕はラブコメ映画が好きなので、そういう妄想をワクワクドキドキしながら膨らませて作りました。「コーヒーをゆっくりいれるよ」と歌っているけど、妄想なので本当の僕はコーヒー飲めません(笑)。

──瑛人さんが憧れる恋愛観ってことですね。弾き語りの曲を新たにアレンジしたということは、歌い慣れていたものにちょっとキレイな服を着せたような感じだと思うんですが、どんな気持ちですか?

それで世界観が変わったようなことはないですね。今回は関口シンゴさんにアレンジしてもらったんですけど、ちゃんと汲み取ってくれるんですよ。もっとその世界に入り込めるような洋服を仕立ててくれたみたいな。この曲で飯豊まりえさんとMVを撮ったんですけど、ずっと夢だったんですよね。俺が主役で横にかわいい女優さんがいるっていう(笑)。夢が叶っちゃった。

──デビューするんだから願望を叶えさせろと(笑)。

みんなが知っている女優さんに出てもらうと瑛人の曲って印象が薄れちゃうって言われたんですけど、俺は「ちょっと待ってくれ!」って。俺みたいなちょっと前までなんでもなかったヘンテコリンが飯豊さんと共演できたら夢があるじゃないかと。「ムカつかれてもいい、絶対飯豊さんにしてください!」って。

──「僕はバカ」に続いて耳なじみのある「香水」のイントロが流れてきたときの「待ってました!」感はすごくいいですね。

ちょっと早くなかったですか?「香水」の曲順。どうでした……?

──いや、オープニングナンバーに続いて冒頭から出てくる感じがすごくよかったです。

よかった。うれしいです。

小4の瑛人とのコラボ

──3曲目の「ハッピーになれよ」はレゲエタッチの楽曲ですが、そもそも瑛人さんの歌い方や声はレゲエシンガー的だなと思ったんですよね。「て」が「てぃ」に聞こえる、ちょっと脱力したアバウトな発音とか。もともとレゲエが好きなんですか?

そうですね、Rickie-GさんとかRYO the SKYWALKERさんとか聴いてました。この曲は小4のとき、別れた父ちゃんに彼女ができたってことを母ちゃんに伝えるために歌ってた曲が元になってるんですよ。「2年前はいつも一緒だった」って言葉はあえてそのまま残していて、小4の自分とコラボしているような感じです。あの頃の自分に戻って、野球のエナメルバッグを背負ってグラウンドを歩きながら歌っているような気持ちでレコーディングに臨みました。だから歌の波長が、ほかの曲より若い感じになってるかなって思います。

瑛人

──そう言われてみると、レゲエっぽさと同時に子供っぽさもありますね。複雑な家庭事情を歌った曲ですが、「会いたくなって それから会いたくなくなってもいいから ハッピーになれよ もういいべ」は瑛人さんの哲学を感じるフレーズだなと思いました。

哲学!?

──どういう気持ちで書いているんですか?

えっ! そのまんまです(笑)。会いたいときもあれば、別に会いたくないときもあるし、いろいろあって。でも、とにかくハッピーになれよって。「もういいべ」は口癖ですね。

──これ以外にも哲学的に感じるフレーズがアルバムの中にちょくちょくあったんですが、自分で哲学的なことを考えているという認識はない?

ないです(笑)。本も人生で1冊しか読んだことないし。

──(笑)。ちなみにその1冊ってなんですか?

夏休みの課題で読んでこいって言われた「佐賀のがばいばあちゃん」(島田洋七・著)。それも1カ月かけて読みましたからね。