瑛人|棺桶に持っていくアルバムできました

将来の夢はカブトムシ

──「チェスト」は優しいピアノバラードですが、これも節回しが独特で面白かったです。「小さい頃の夢はなんだか覚えてる? カブトムシって言ってた」という歌詞は何を表しているんだろう?と思いましたけど(笑)。

小さい頃、将来の夢の絵を描く授業があったんですけど、そのとき俺はカブトムシを描いたんです。みんな野球選手とか描いてる中、俺だけカブトムシ。

──カブトムシが好きだったんですか?

将来の夢とか関係なく、カブトムシを描くのにハマってて。見た目が好きだったんですよね。

──先生の話を聞いてなかったってこと?

そうです(笑)。今は絵は描かないですけど、その頃は絵が好きでカブトムシ以外にもニワトリ、あとポケモンのリザードンとかよく描いてました。

──何かに集中するとずっとそればっかりやっちゃうような面がある?

ありますね。人の話を聞かなくなっちゃう。ちなみに「チェスト」は処女作で、「家具で曲を作ってきて」という音楽学校の課題で作った曲なんですよ。自分の中にあった感情を生まれて初めて曲にしたことで「スッキリしたー!」って感覚がすごくあって。これからも曲を作っていこうと思ったきっかけの曲でもあります。

──今現在の瑛人さんがこの曲を採点したら何点ですか?

自分の中ではナンバー1、2ぐらいで好きな曲なんですよ。このとき思っていたことは今でも自分の中にあって、いつでもここに帰れるし、ちゃんと自分の曲だから。今の瑛人だと作るのが難しいくらいにイイと思います。点数は……500点!

憧れの人とのセッションで大盛り上がり

──次の「カルマ」はタイトルに瑛人さんっぽくないような意外性を感じましたが、これは「業」のことですよね。

カルマって昔から信じてて、タバコをポイ捨てしたら自分も捨てられるみたいな……内容はちょっと未練がましい失恋ソングなんですけど、タイトルで引っかかって聴いてくれる人もいるかなと(笑)。

──タメの効いた演奏で、ちょっとR&B的な要素もある曲ですね。

これはアルバムを制作することが決まってから作った曲で、Shingo.Sさんとのセッションで作りました。Shingo.Sさんは俺が清水翔太さんを好きになるきっかけになった「HOME」(2008年2月発売のシングル表題曲)をプロデュースした方で。ルンヒャンさんがつなげてくれたんですけど、憧れの方と一緒に曲を作れて幸せでした。

──憧れの人とのセッションでは、緊張したり怖気付いたりすることはなかったですか?

瑛人

なかったです。Shingo.Sさんとのセッションで「カルマ」だけじゃなく「ワイニー」って曲もできたんですよ。「ワイニーワイニー!」って歌う調子に乗った感じの曲で、すげー盛り上がったんですけど、アゲアゲすぎてスタッフさんに「これをやるなら次のアルバムだね」って言われて(笑)。もうちょっと落ち着いたの作ろうってことで「カルマ」ができました。

──憧れの人とのコラボと言えば、「HIPHOPは歌えない」のアルバムバージョンには新たに韻シストが参加していますね。

これもShingo.Sさんと同じで、ルンヒャンさんが声をかけてくれたんです。前から韻シストさんが好きだったから「マジで?」って。「HIPHOPは歌えない」って曲でヒップホップバンドとやれるのはヤバいですよね。

──いいアレンジですよね。メンバーと話もしましたか?

韻シストさんとは飲みにも行ったんですよ。「ヒップホップが好きで、OZROSAURUSとか好きなんです」って話を僕がしたり、韻シストさんからは「この曲書いた気持ちめっちゃわかるわあ!」って言ってもらえたり。いろいろ褒めてもらえました。

──OZROSAURUSとか聴くんですね。

兄貴の影響もあって。あとはANARCHYさんとか、奮い立たせられる感じのイカつい人たちが好きですね。

大事な仲間たちといつも通りに

──「Don't be afraid」に参加しているHOTDOGSは、前回のインタビューでも話に出てきた瑛人さんの地元の先輩ですよね。自分たちの音楽ジャンルを「ハッピーアコースティックミュージックだ」と言っているという。

そうそう、路上で出会った兄貴たちです。

──そういう昔からの仲間とメジャーデビュー1発目のアルバムでガツンと組めるのはすごくいいですね。

いやー、めちゃくちゃうれしいですよ! 「Don't be afraid」は昔から地元のライブハウスで歌ってて、友達とかも歌えるような曲なので、みんなうれしいと思います。レコーディングもめっちゃエモかったんですけど、兄貴たちはハッピーなバイブスを持ってるんで、キャッキャ笑いながらやりましたね。

──「超注目新人アーティストの1stアルバム」に参加するのはなかなかのプレッシャーだったんじゃないかと思いますけど、兄貴たちはどうでした?

緊張してなかったと思いますよ。俺の友達はバカが多いんで「いつも通りやればいいんでしょ?」って感じで(笑)。本当は緊張してたのかもしれないけど、余裕そうに見えました。

──「香水」ヒット前からの仲間が参加しているということでは「またね」もそうですね。

はい。松本千夏とは一緒に曲も作ってるし、俺が歌を続けようって思うきっかけをくれた存在で。「香水」がヒットする前に5、6曲まとめた作品を配信しようとしてたんですけど、「またね」と「チェスト」「Don't be afraid」は絶対に入れようと思ってました。

──自分の中でも手応えがあった曲?

手応えというか、大事な思いがちゃんと入ってる曲ですね。

瑛人の怒りと悲しみ

──「リットン」は「香水」スタイルというか、シンプルなアレンジで。さらにはボーカルもノンエコーで、素材むき出しな感じがすごくいいですね。

ルンヒャンさんの提案でこういう感じになりました。「フリーテンポで自由に歌って」って言われて。レコーディングのときはいつも立って歌ってるんですけど、この曲は座って目をつぶって、ギターに合わせて歌い始めるみたいな。集中力をすごい使いましたね。

──一発録り?

そうです。

──いい感じの緊張感がノンエコーで生々しく伝わってきますよね。ただ、この曲は歌ってる内容がよくわからないんですよ(笑)。

わからないっすよね(笑)。バラしちゃうと、僕のおばあちゃんのことを歌った曲です。病気で足の悪いおばあちゃんの足音を表現して「リットン、リットン」って歌ってたのを曲にしてみました。俺、言いたいことをけっこう隠しちゃうんですよ。本当は言いたいことがたくさんあるんですけど「悲しい」とかはあんまり言わない。でも、やっぱり自分の感情があるから歌にする。だけどバレたくない、みたいな。「これどういうこと?」って言われるのも好きだし。聴き方は人に委ねるところがあります。

──10曲目の「好きにすればいいさ」もアコースティックギターで始まる「香水」パターンと思わせつつ、全然違う感じですね。

瑛人

歌い方のトーンが低いですよね。俺、いつも母ちゃんと親友のKAN(ダンサー)と話すときだけ声のトーンが下がるんですよ。普段よりもっとボソボソしてる。この曲はダルそうに歌ってて、その感じが出てるかなと。

──これも昔からあった曲ですか?

いや、これは一番新しいぐらいの曲ですね。初めて自分1人でやってみた曲です。

──曲作りに悩んでいる人の歌に感じられるというか、正にアルバム制作中にいろいろ考えながら作った曲なのかなと。

合ってるかもしれない。「好きにすればいいじゃん!」って怒りの感情も入ってる曲で、違う一面を見せられたかなと思います。

──アルバム本編の最後に収録されている「俺は俺で生きてるよ」は今までにないロックテイストですが、これは最近の曲ですか?

いや、これも「香水」よりちょっと前にできた曲ですね。音楽学校に通って、ただ楽しくライブしてた20歳くらいの頃、周りは大学生で、やっぱり馬鹿にされたり、ちょっと説教されたりしてムカついてて……「俺は俺で生きてんだよっ!」て言いたくなったんで、ギターをダン!って弾いて作りました。

──そう聞いて歌詞を見ると、そういう背景をすごくシンプルにそのまま歌ってますね(笑)。ただ、その怒りをロックサウンドで表現しつつも、同じようなことを思っている人たちの背中を押しているような感じもあると思うんですよね。

そうですね。怒ったからって突き放さないで「ずっと隣にいてよ」って歌ってる。

──瑛人さんはやっぱりあくまで優しさベースの人なんだなと感じます。

ありがとうございます(笑)。