映秀。3rdアルバム特集|本人インタビュー+ゆかりのアーティストコメントで紐解く“E-POP”の魅力 (2/3)

歌詞は思ってる以上に大切なんだな

──「ほどほどにぎゅっとして」の歌詞はyuba寝さんとの共作です。曲調を含めて、これまでの映秀。さんの楽曲にはなかったテイストですね。

そうですね。この曲は僕がデモ音源を作って、その時点でほとんど完成していたんですけど、チームのスタッフから「すごくいいけど、聴いた瞬間に歌詞のテーマが理解できて、いろんな想像ができる曲にしたいね」という話があって。確かにそこまでは至っていないなと思ったし、誰かと一緒に歌詞を作ってみるのはどうだろう?というアイデアが出てきて、yuba寝さんにお願いすることになりました。デモの中に「ほどほどにぎゅっとして」という言葉を入れていたところ、yuba寝さんから「めちゃくちゃいいフレーズだから、これをベースに作ってみませんか」という提案があったんです。そこから一緒に作り始めたら、自分の発想では出てこない言葉がどんどん入ってきて。「綺麗だよ」「アイラブユー」みたいな言葉はあまり使ったことがなかったけど、歌ってみると「いいかも」と思ったり(笑)。自分の中で「これはやらない」という枠をぶっ壊してもらえたし、yuba寝さんとの共作で得られたものがたくさんありましたね。

映秀。

──歌詞とメロディの組み合わせ方、フロウの作り方については?

そこはかなり詰めました。これまで作り上げてきた自分のフロウもあるし、その感覚が合わないと歌いづらくなってしまうので。カツセさんと一緒に作業したときもそうですが、誰かと一緒に歌詞を作ることで、「自分には歌詞に対する趣味趣向があるんだな」と気付きました。今までは歌詞の優先順位が低かったから、言い方はよくないけど「どんな歌詞でもいいんじゃないかな」と思っていた自分がいたんですよ。でも、自分以外の人が書いた言葉が乗ると「これはすごくいいな」とか「ちょっと違うかも」という感覚があって。そういう経験の中で、「自分にとって歌詞は、思ってる以上に大切なんだな」と思いました。

──なるほど。「ほどほどにぎゅっとして」というフレーズにはどんな思いが込められているんですか?

恋愛的な要素の中にある摂理というのかな。人に対してはもちろん、モノでもコトでも「届きそうで届かないから美しい」ということを歌いたかったんです。あとは「ほどほどに」もポイントで。力んでる人が多い気がするんですよ、今って。もうちょっと「ほどほどに」生きていきたいし、生きていきたいよねと伝えたかったというか。

──確かに。何をするにも、力が入りすぎている人が多いかも。

時代背景もあると思うんですよね。記録媒体が発達したことで「この瞬間をすべて記録しておきたい」と写真を撮るみたいな。取りこぼしたくないという気持ちもわかるんですけど、その瞬間その瞬間を、寂しさを感じながら、ほどほどにぎゅっとするのがいいんじゃないかなって。

映秀。

デンジの生き方のように

──「Boys & Girls」の「ちょっとズレてるくらいが丁度いい」も、リスナーの気持ちをほぐしてくれる歌詞だなと。

この曲も弾き語りをベースにして作っていったんですけど、優しさや愛情の形について歌いたいと思って。誤りを指摘したいと思ったら怒るのが優しさなのか、相手が求めることを言うのが優しさなのか……その正否を決めるわけじゃなくて、一緒に答えを考え始められるような曲にしたかった。歌詞の構造的には、1番と2番でまったく思考が違う登場人物を対比させています。厳しいことを言うのが優しさだと思ってる人と、相手が欲しいことだけを言うのが優しさだと思ってる人が出てきますけど、歌詞を書いているときに「別にズレててもいいじゃん」と思ったんです。考え方が違ったり、ズレていても、お互いに相手を思い合っていることが大事なんだなって。

──そこには映秀。さん自身の恋愛観や人間観も反映されている?

大きく反映されていますね。恋愛のエピソードをそのまま楽曲にしているわけではなく、恋愛関係や友人関係を含めて「そこに一貫しているのはなんだろう?」と考えることが多くて。人間関係という広い視点を意識して作り始めたのは、大学に入ってからですね。哲学というか、考えていることをいかに言語化するか?ということも学んでいたし、“考え方”の“考え方”について“考える”のも好きです(笑)。

──「全部しようぜ」の「どうしようもないこと全部しようぜ」という歌詞も印象的でした。

この曲はけっこう前に作ったんですよ。最初にお話しした「歌を大切にする」みたいなチューニングになる前、2ndアルバムの流れの中で、「チェンソーマン」に影響を受けて書いた曲で。主人公のデンジの素直さもそうですけど、作品全体の世界観もすごく好きだし、自分たちの世代が感じていることともリンクしている気がしました。未来があまり輝いて見えないというか、いろんな正解が出てきて、何を信じていいかわからない。そういう時代において、自分が「面白い」と思ったほうに飛び込む勇気を持ちづらくなっていると思うんです。端的に言うと、僕らは身の程を知りすぎた世代だと思っていて。自分が何者であるかもすぐにわかっちゃうし、自分が思うままにやりたいことをやるのが難しくなっている。でもデンジはそうじゃなくて、煩悩に向かって突き進むじゃないですか。あの生き方にみんな憧れを持ってると思うし、「全部しようぜ」を聴いてくれた人が「バカなこと歌ってるな」と笑いつつ、一歩踏み出すきっかけになったらいいなと思ってます。

──音遊び、言葉遊びもふんだんにちりばめられてますが、こういう作り方は好きですか?

そうですね(笑)。この曲は全部、韻を踏んでるんですよ。サウンドメイクも自分でやってるので、確かに遊び要素もいっぱい入ってますね。

映秀。

“ネムネム映秀。”のひらめき

──アルバムの最後に収録されている「youme」も素晴らしいです。映秀。さんのメロディも秀逸だし、「どの歌も君が溢れているよ」というフレーズにもグッときますね。

ありがとうございます。「youme」のようなミッドテンポのゆったりした曲を、アルバムの真ん中あたりのセクションには入れたくなくて。自分にとっても思い入れがある好きな曲になったし、最後に置きたかった。ボーナストラック的というか、12曲目の「よるおきてあさねむる」で本編が終わって、改めて「youme」を聴いてほしいなと思ってます。

──映秀。さん自身は、どんな思いでこの曲を書いたんですか?

4年くらい前かな、失恋したタイミングでサビのメロディができて。すごく好きなメロディだなと思いつつ、形にするのが怖かったんですよ。「今の自分の力量では最大値化できないんじゃないか?」と思って、ずっと寝かせていました。それと並行して「“you”と“me”で“夢”と読むタイトルの楽曲を作りたい」というコンセプトがあって。その2つがうまくハマってこの曲になった、という感じですね。制作を進めていく中で「自分のための曲ではなくて、みんなの曲になってほしい」と思って。そういう表現にするために作詞の共作をカツセさんにお願いしました。

──カツセさんが関わることで、歌詞のニュアンスが変化した?

しましたね。例えば冒頭の「涙の熱で目が覚める深い夜の底」はもともと“夜のこと”だったんです。“こと”を“底”にしてもらったことで、一気に主人公の心情が浮かび上がってきて「こんなに違うんだ!」って。そういう気付きがいくつもあったし、レコーディングのときも感情が自然と込み上げてきました。表現しようとしなくても勝手に出てきてしまうというか。歌入れのときに何回も泣いたし、歌い手としても感情が引きずり込まれるような歌になったと思います。

映秀。

──シンガーとしての自分に集中できた、と。

そうですね。今までは歌ってるときもクリエイター、作り手としての側面に引っ張られていた感じがあって。「youme」のときは完全にどう歌うかだけを考えていたし、それも新しい感覚でした。

──アルバムのタイトル「音の雨、言葉は傘、今から君と会う。」については?

深夜に考えたので、眠くて記憶にないんですよ。「どうせダメだろうな」と思いながらスタッフに提出したら、「いいじゃん!」と言ってもらえました(笑)。この言葉は1曲目の「まほうのことば」とイメージが重なっていて。「このアルバムがあなたの傘になって、そばで支えます」という思いを込めているんですけど、すごくポジティブだし、空間的な広がりが感じられるタイトルじゃないかなと。“ネムネム映秀。”に感謝です(笑)。

──2025年はアルバムのリリースで始まり、東名阪のクアトロツアー「映秀。CLUB QUATTRO TOUR “音の雨、言葉は傘、今から君と会う。”」があって。新たなフェーズに突入する1年になりそうですね。

そうですね。アルバムが出たあとのことはまだわかんないですけど、この作品を踏まえて、卒業までにもう1回自分を見つめ直したいと思っていて。自分のコンパスを作り上げて、そこからはずっと突き進んでいきたいし、ひたすら曲を書きたいです。アルバムのツアーも楽しみですね。音源の再現ではなく、ライブならではのよさをしっかり表現したいと思っているので、ぜひ会場に来てほしいです。