庭の風景が感受性を育ててくれた
──PORINさんはご自身でファッションブランドも手がけていますが、ファッションに目覚めた原体験は覚えていますか?
PORIN 自発的に洋服を選びに行くようになったのは中学生の頃ですね。古着に目覚めて原宿で買いあさったりしていました。
atagi え、中学生で?
モリシー 早いねえ!
PORIN あははは。本当にいろんなジャンルの服を着ましたね。その後、大学で家政学部被服学科を専攻してから本格的に学ぶようになりました。私が今やっている「yarden」というブランドの名前は、「yard」と「garden」を組み合わせた造語ですが、これは私の実家が庭を作る会社を経営していることが由来なんですよ。実家の庭が子供の頃から大好きで、日本の四季折々の庭の表情はもちろんですが、日々変わっていく様子にも感銘を受けていたんです。庭って1日たりとも同じ状態のときはないんですよ。例えば次の日にはお花が咲いていたり、逆に枯れていたり、新しい芽が出たりする。そういう庭の風景を見ていたことが、私自身の感受性を育ててくれたのは間違いないですね。私にとってのファッションのルーツ、原点もそこなのかなと思っています。
──モリシーさんは今、永福町でコーヒースタンド「MORISHIMA COFFEE STAND」を経営していますが、コーヒーに目覚めたきっかけはあったのですか?
atagi それ、俺も初めて聞くかも(笑)。
モリシー それこそ、さっき話したロックバンドをやっていた頃、バイト帰りでヘトヘトだったのもあって、「何でもいいからモノを無性に買いたい!」という衝動に駆られたことがあったんですよ。そのとき下高井戸を自転車で走っていたんですけど、道沿いにコーヒー豆の専門店があって、そこでコーヒーカップを買おうと思ったんですね。それまでコーヒーなんて煎れたことがないし、そもそもコーヒー自体そんなに好きでもなかったのに、「なんかおしゃれだしいいな」と(笑)。あとからそのお店の店主に聞いた話によると、そのときの僕はお店に入って30分くらいボーッとコーヒーカップを眺めていたらしくて。「こいつ、絶対ヤバいやつだ」と思ったみたいです。
atagi あははは。
モリシー でもそのときに店主が、「よかったらコーヒー、試飲していきます?」と声をかけてくれて。それで飲んだのが、うちのお店でも取り扱っているマンデリンという豆なんですけど、そのときに「コーヒーってめっちゃおいしい!」と思ったのが原点というか。コーヒーの淹れ方も、その店主に教えてもらったんです。
PORIN なんか、そのまま曲になりそうなエピソードだね(笑)。
モリシー 今でも付き合いがあって、ときどき一緒にランニングすることもあるんだよね。あれがなかったらおそらく店なんてやっていなかっただろうなあ。
──モリシーさんは、実家も永福町なんですよね。やっぱり地元に愛着はありますか?
モリシー きっとあるんでしょうね。何度か家を出て、結婚したときも実は永福町ではなく別の街で暮らすことを考えていたんですよ。でも、物件の審査が下りていざ住む段階になったら「やっぱり楽器を演奏する方はごめんなさい」と大家さんに言われてしまって。
atagi ああ、そんなことがあったね。
モリシー それで「どうしよう……?」と思って地元の不動産屋さんに相談したら、あっという間に今の家に引っ越すことが決まったんです(笑)。こういうのって本当に縁だと思うし、神様から「永福町に残りなさい」と言われている気さえしましたね(笑)。
──なるほど。atagiさんは、そういう「人生のターニングポイントになった出会い」と聞かれて思い出す人はいますか?
atagi 高校1年生のときの担任ですね。その先生からは何かやりたいこと、目標があったときの「計画の立て方」を教えてもらいました。例えば文化祭で催し物を考えるときも、最終的にどうなりたいか、まずは目標をイメージするところから始まるんです。クラスで話し合った結果、「新聞に掲載されるような催し物をやりたい」と意見がまとまると、担任の先生からは「どうしたら新聞に掲載されるか、逆算して考えてみよう」と言われて。それでクラス全員で知恵を振り絞りながら、「新聞に載るためには、誰もやってないことをやらなくちゃ」「誰もやってないことってなんだろう?」「普通じゃ考えられないくらい大きなものを作るのはどうかな」「高校生の僕らにできる、ギリギリの範囲の大きなものってなんだろう?」と考えを進めていき、最終的に「でっかい気球を飛ばす」というアイデアにたどり着きました。しかもそれを実行したところ、目標通り新聞にも掲載されたんですよね。
モリシー おお、すごい!
atagi そうやって、頭に浮かんだイメージを実行するためのプロセスを構築していく想像力みたいなものを、当時は無意識だったけど教わっていたのだなと今は思いますね。
──PORINさんはどうですか?
PORIN 私は恩人がたくさんいるんですけど、路上ライブをやっていたときに声をかけてくれた、当時ソニーの新人開発・発掘セクションにいらした方もその1人ですね。しばらくの間お世話になっていて、そこで知り合ったバンドマンにSTUDIO FAMILIAがバイトを募集していることを教えてもらったんですよ。当時大学生だった私は就職活動もしていなくて「これからどうしようかな」と考えていたときだったので、やってみようと思って飛び込んだんですよね。そして、このスタジオで出会った人たちとAwesome City Clubを結成してメジャーデビューできたので、私が今こうして音楽活動ができているのはその方のおかげでもあるし、そういう方たちの期待に応えるためにもがんばりたいと思っています。
もっと自分たちのことを知ってほしい
──atagiさんは、地元の和歌山に何か思い入れはありますか?
atagi 和歌山は本当に何もない場所なんですよ。ライブハウスもなければ楽器屋さんもなくて、東京や大阪に比べたら本当に“カルチャー不毛の地”なんです。もちろん、そこで育ててもらったという感謝の念もありますし、一方で和歌山で生まれて育つ若い人たちにはもっと音楽やアートに触れる機会があるといいなと。恩返しというとちょっとおこがましいですが、地元の若者たちを刺激するような取り組みができたらいいなあ、と漠然と思っていますね。
──では最後に、改めて番組の見どころをお聞かせください。
PORIN 普通の音楽番組とはひと味違った構成や、ルーツについてとことん深掘りしてもらった番組になったと思います。きっと「勿忘」で知ってくださった方もたくさん観てくださると思うんですよ。そういう方たちが、この番組を通じてもっと私たちのことを知ってくださり、好きになってもらえたらうれしいですね。
atagi 僕らが実はこんなに渋谷とつながりがあったって知らない人が多いかもしれないしね。
PORIN 確かに。私たち自身があんまり言ってこなかったかも。渋谷で結成して、渋谷で活動をしてきたのにね。
モリシー 実はSTUDIO FAMILIA渋谷店は近々閉店になってしまうらしくて。それもあって、ちょっとセンチメンタルな気分もあるけど、ひさしぶりに“ゆかりの地”に来て素で懐かしがっている僕ら3人の表情を楽しんでもらえたらと思います(笑)。
プロフィール
Awesome City Club(オーサムシティクラブ)
2013年に東京で結成された男女ツインボーカルのグループ。ポップス、ロック、ソウル、R&B、ダンスミュージックなど、メンバーそれぞれの幅広いルーツをミックスした音楽を発信している。2015年4月にデビューアルバム「Awesome City Tracks」をリリース。メジャーデビュー5周年となる2020年にレーベルをavex / cutting edgeに移籍し、2021年2月にフルアルバムとしては3枚目となる「Grower」をリリースした。同作に収録されている、映画「花束みたいな恋をした」のインスパイアソング「勿忘」が各ストリーミングサービスで上位にランクインし続け、関連動画を含む総再生数は10億回を突破。同年12月に「NHK紅白歌合戦」への初出場を果たした。2022年3月には4thアルバム「Get Set」をリリースし、同年4月より約2年ぶりとなる全国ツアー「Awesome Talks One Man Show 2022」を行う。
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