dTV「Roots」西川貴教|故郷へのあふれ出る思いを胸に 縁のある滋賀・三井寺にて奉納ライブ

9月24日に配信開始となったdTVのオリジナルライブ番組「Roots」第2回に、西川貴教が出演している。デビュー30周年を迎えた西川は、縁のある滋賀・三井寺を舞台にパワフルなライブパフォーマンスを披露。またインタビューパートでは、T.M.R.デビュー直後からこれまでの歩みを振り返っている。音楽ナタリーでは番組の見どころはもちろん、昨年に引き続き中止となってしまった主催フェス「イナズマロック フェス」や故郷・滋賀への思い、そしてこの時代におけるエンタテインメントの意義など、西川に赤裸々に語ってもらった。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / YUICHI KAGAWA

親父に怒られながら録画した「billboard TOP40」

──西川さんが出演されたdTVの新番組「Roots」、ひと足早くインタビュー部分を拝見しました。T.M.Revolution活動初期の裏話満載で、とても面白かったです。

狙ってなのか偶然なのかはわからないんですけれども、インタビューしていただいた方がT.M.R.デビュー当時にお世話になった藤井徹貫さんだったんです。お会いするのは20年ぶりぐらいかな。そこから巡り巡ってこのタイミングでお話を聞いていただけたので、僕のこれまでの約20年の歩みを紹介する部分もあってよかったですね。デビューして5年ぐらいまでは本当に模索の連続でしたし、今みたいに自分でいろいろな物事を舵取りしていく状態になる手前くらいの時期だったんですけれども、当時の葛藤があったから今があると思いますし。

西川貴教 西川貴教

──今回、「Roots」のお話があったときはどのように思われましたか?

これだけ活動が長くなってくると、なかなか自分で自分のことを振り返ることってしませんし、これまでの歩みをもう一度振り返ることができるのはいい機会だと思いました。今年はちょうどT.M.R.25周年というタイミングでもありましたので。

──番組でもお話しされていましたが、改めて西川さんの音楽活動のルーツを伺ってもよろしいですか?

1980年代前半にMTVが日本に入ってきたタイミングと思春期が重なっていたので、「billboard TOP40」がとにかく憧れでした。それが自分の本当のルーツだと思います。まだまだ日本だと歌番組が主流で、映像作品はプロモーションツールの1つにすぎないという時代に、音楽と映像が1つになってカルチャーとしてやって来たことには相当影響受けました。当時の映像技術でよくあれだけのことをやってたなって。あと、田舎者の中学生だった自分にとっては「海外の情報をアーティストのミュージックビデオで知る」という部分もあったと思うんです。ロサンゼルスやニューヨークの街並みを見て、想像を膨らませていました。音楽番組でミュージックビデオを特集するときは夜中に親に内緒でこっそり録画してたのを思い出します。まだまだ家庭用のビデオデッキが普及し始めくらいだったから予約録画もなかなかできなくて。親父のビデオの爪を折った上からガムテープ貼って録画して、めちゃくちゃ怒られました(笑)。

──80年代のBillboardチャートはジャンルも多彩でしたね。

中でも僕はハードロック直撃世代で、中学生のときに初めてバンドを組んでコピーしてました。近くにバンドやるやつがけっこういて、そいつらがMötley CrüeとかRattとかをやってたら、なんとなく食い合わないようにしたり。僕がたまたま入ったバンドはRainbowとかDeep Purpleの曲をやることが多かったです。あとはAlcatrazzとかディオとか、ちょっと渋好みなのを一生懸命やってました。丸坊主で(笑)。

──そこから大阪に出られてバンド・Luis-Maryのボーカリストとしてメジャーデビューしたのが1991年。ちょうど30年前です。

本当に信じられないです。荷物を持って地元の駅を発ったときの気持ちを考えると、よくこんな長いことやってるもんだなあ、遠くまで来たなあって。海外にコンサートで行くときに、ふいに感じますね。当時憧れてた国に自分のファンがいてくれるなんて考えたことがなかったものですから、狐につままれた状態というか、でっかいドッキリみたいな感じ?(笑) 最初の海外ライブは2003年だったと思うんですけれども、実際に行ってみるまで、にわかには信じられなかったですから。当時はインターネットも今ほど普及してなかったですし、海外のファンの方がJ-POPの音源を手に入れるにもパッケージを個人輸入で送ってもらうとか相当苦労されたと思うんですよ。なので、ありがたい気持ちでいっぱいです。ただでさえ海外公演の機会は少ないのに、今はコロナ禍でどんどん機会がなくなっている状況を申し訳ないと思っています。それ以前に国内のこともおぼつかない状態ですので。

少しでも滋賀県のことを知ってもらえたら

──今回の「Roots」も本来でしたら西川さんが主催する「イナズマロック フェス 2021」開催直前に配信開始予定で、故郷である滋賀県の魅力を全国に伝えられるいい機会だったのですが……(参照:西川貴教、滋賀県知事との会見で「イナズマロックフェス」中止を発表)。

「イナズマロック フェス」の中止はもちろん残念ではあるんですけれども、まだまだ感染者も落ち着かない状況ですので。「Roots」があったことで皆さんお手持ちのタブレットやスマートフォンで音楽を楽しんでいただける機会をいただけてよかったなと前向きに捉えています。

──「Roots」のライブ収録場所を滋賀県の三井寺にしたのは西川さんのリクエストだったそうですね。

西川貴教と三井寺住職。 三井寺でのパフォーマンスの様子。

三井寺は「イナズマロック フェス」が初めて行われた2009年にお参りにうかがったお寺なんです。少し前、とある番組の滋賀県特集に僕がゲスト出演させていただいたとき、三井寺の住職さんから「ぜひお礼参りにいらしてはいかがですか」とおっしゃっていただいたので、今年のイナズマの直前に奉納させていただく気持ちでパフォーマンスしました。眺めのいいきれいな場所でしょう? 比叡山延暦寺から琵琶湖のほうに向かって三井寺を囲むような形で神社仏閣がたくさんございまして。琵琶湖を見下ろすような高台にあるので、そこからの風景も素晴らしいんです。ちょうど奉納させていただいた場所から眺めると真正面にイナズマを開催している場所が見えたので、琵琶湖を通じていい気の流れを開催地に向けて届けられたらなという思いでした。観光資源を前面に押し出して県をPRし始めてまだまだ日が浅いので、追いつかない部分がたくさんあるんですけど、自分の活動をきっかけに少しでも滋賀県のことを知っていただけるというのはすごくありがたいです。

──今年はT.M.R.デビュー25周年企画で、5月から12月まで滋賀県下10市をまわるライブツアー「T.M.R. LIVE REVOLUTION’21 - VOTE -」というユニークな企画も実施されました(参照:デビュー25周年迎えるT.M.Revolution、滋賀県内だけ回る25公演ホールツアー開催)。こちらも残念ながら10月以降の公演が延期になってしまいましたが、それでも全国に滋賀県を充分アピールできたのではないでしょうか。

もしそうだったらうれしいし、励みになります。当初はここまで地方に感染の影響が出てくることは想定できてなかったですからね。今、我々はエンタテインメントの意義を日々問われ続けながら暮らしていると思うんです。当事者だけじゃなく関わる皆さんも同じような気持ちでずっと過ごされていると思うし、そういった中で自分ができることは何か──自分には少なからず世の中に対してメッセージを投げかけるチャンスをいただけているので、何かエンタテインメントやスポーツというものに対する偏見を少しでも拭えればと思ってやらせていただいてはいるんですが、なかなか厚い壁があることも痛烈に感じていまして。基本的な衣食住が足りて初めてほかの人に配慮したり、芸術的なものに美しいとか楽しいと思う気持ちが芽生えたりするわけで、安全がまだ担保されていない状況では難しいと思うんです。そうした状況を真摯に受け止めながら、いざ始めようと思ったときに、「人が集まりませんでした」「準備が整いませんでした」となり、求めている方に届けられなくなる状況は避けなければいけない。ゴールが見えない中、我々もギリギリのところでやっているんですけれども。そんな状況だからこそ、今回のように一度立ち止まり、自分のこれまでを振り返って、きちんと見る、聞く、感じることで次につなげ、また新しいチャンスを見つけられたらいいなと思っています。