志磨遼平の“ロックンロール”提唱の旅、海外進出も果たした「grotesque human」ツアーの行方 (2/2)

観た人がバンドを組みたくなるような映像を作ろう

──映像作品「grotesque human」には同名ツアーのファイナル公演の模様が収められますが、こちらは二宮ユーキさんが撮影や編集を担当しています。二宮さんは2022年に行われた「ドレスコーズ+betcover!!」を皮切りに、3年以上ドレスコーズのライブ映像を撮影してきました。

二宮くんとは毎回、膝を突き合わせてパソコンに向かって作業しています。まず彼が編集してくれたものを土台にして、僕の要望を反映していくんです。

──このツアーではアルバム「†」の収録曲を中心に据え、マリーズ時代の楽曲を含め、これまで志磨さんが手がけてきた作品の中から特にロックンロール色の強いナンバーがピックアップされました。最新アルバムの作風を踏襲しつつ、志磨さんがMCでも語っていたロックンロールの三原則「ひとりでいろ」「自由を手放すな」「やるときは陽気にやれ」を表現するような構成です。

例えばじっくりと聴かせるツアーであったなら、あえてスイッチングせず、1台のカメラで延々と見せたりすることも効果的ですが、今回のツアーは何しろロックンロールですから。バタバタと急き立てるようにカメラからカメラへと流れてゆくような編集になっています。

志磨遼平

──冒頭にはリハーサルの様子や会場のZepp Shinjuku(TOKYO)付近の街並み、開場を待つお客さんの映像が盛り込まれ、ドキュメンタリー的な演出が施されていました。2023年にリリースされた「ドレスコーズの味園ユニバース」に近い構成ですね。

ライブ映像作品の醍醐味は、実際に会場を訪れる体験とは異なる、映像ならではの再体験ができることです。「本当にこんなこと、あったのかしら?」と思うくらい現実離れしたものを作ることだって可能ですし、実際に「ドレスコーズの味園ユニバース」では架空のドキュメンタリーを加えました。でも今回は、まさに会場で起きていることを余すことなくとらえる、言葉本来の意味でのドキュメンタリーです。僕がティーンエイジャーだった頃に観た、僕に「バンドをやりたい」と思わせてくれたライブ映像って、そういうドキュメンタリータッチの作品が多かったんです。

──例えば会場入りの瞬間や開演直前の舞台裏のシーンはよく使われますし、よりドキュメンタリー色の強い作品だと観客へのインタビューが差し込まれたりします。

そういう演出はすごく現実的ですから、幻想的な映像を作りたいときには不要なんです。まるで竜宮城みたいに、どこにあるのかわからない空間を作り上げたい場合は。

──ですが今回は、あえて現実を想起させるシーンを冒頭に盛り込んだ。

そうです。楽屋を出発してステージまでの通路を歩いていく、観客が今か今かと待ちわびている、ステージ袖で「よろしく」とひと言交わしてステージに駆け上がると照明がパッと当たって、観客は割れんばかりの歓声を上げる。僕が憧れたのはそういうシーンでした。今回、二宮くんとは「観た人がバンドを組みたくなるような映像を作ろう」と話していました。リアリズムがあり、ロックンロールバンドのロマンがある。それが本作の演出テーマになりました。

志磨遼平
志磨遼平

幅広いジャンルを横断できるポップス集団

──2022年に行われた「戀愛遊行」ツアーで志磨さん、田代祐也さん、有島コレスケさん、ビートさとしさん、中村圭作さんの5人体制が定着し、まもなく4年が経ちますね。すでにオリジナル編成よりも長期間になります。

本当だ! あっという間です。

──「戀愛遊行」以前のライブは1つテーマを設け、それに合わせてメンバーを集めていく形が定石でしたが、ここ数年は「この5人でどんなことができるか?」というスタンスに変わってきたように感じます。

このメンバーで制作したアルバム「戀愛大全」「式日散花」「†」はそれぞれテーマこそ違えど、大きいくくりで言えばポップスですから。幅広いジャンルを横断できるテクニックや知識を兼ね備えた盤石の体制がこの5人なんですね。

──さらにレコ発ツアー「戀愛遊行」「散花奏奏」「grotesque human」では各アルバムのテーマを再解釈したり、拡張したりするようなパフォーマンスが披露されました。これはメンバーが固定されたからこそ、実現できた魅力とも言えます。

この3年間、レコーディングだけでなくライブも同じメンバーで続けてきたので、演奏できるレパートリーもずいぶん増えました。今後は昔の曲や、今までほとんど演奏されなかった曲もライブで披露できるでしょう。メンバーそれぞれの個人活動もどんどん忙しくなっていますけど、集まればいつでもライブができる状態を保ってくれているのはありがたいことです。

志磨遼平

──ちなみに映像作品「grotesque human」の数量限定生産盤にはZINE「ロックンロールとよばれる音楽と人々」が付属しますが、この5人で行った座談会のテキストが掲載されています。先に読ませていただきましたが、ベールに包まれていた各メンバーのルーツや人となりが明かされていて、ファンにはうれしい企画でした。

普段のライブでは、僕以外のメンバーが口を開くことはないですもんね。ファンからすれば「何年も顔を合わせているのに素性の知れない人」みたいな感じでしょうか。彼らが何者で、何を考えているのかが知れる貴重な機会かもしれない。僕たちの普段の会話をおすそ分けするような内容になりました。

──このほかZINEでは志磨さん、音楽レーベル・NEWFOLKの須藤朋寿さん、ココナッツディスク吉祥寺店の店長である矢島和義さんがロックンロールについて語り合う鼎談を読むことができます。このテキストも現行の日本のロックの特徴、説得力のある歌詞の共通点、“ロックンロール”という定義の難しさなど、ここでしか読めないことがもったいないくらい面白かったです。

須藤さんと矢島さんとはいつかお会いしてゆっくりお話ししてみたかったので、それが実現してうれしいです。この3人に共通しているのは「ロックンロールを古いものだと思っていない」という点においてです。ロックンロールを現在進行形の音楽として捉えていて、決して懐古主義ではなく今一番カッコいい音楽がロックンロールだと当たり前のように思っている。僕は出不精ですし、同じような感覚で話せる人とはなかなか出会えなくて。お二人とはいつか会えたら仲よくなれそうな予感がしたので、お声がけさせていただきました。

今はひとまず、脳みそのおもむくままにさせておく

──6月から新たなツアーが開催されることが決定していますが、こちらの内容も楽しみです。

ね。僕も気になっています。

──他人事のように言いますね(笑)。

どういうツアーになるのかは神のみぞ知る、ですね。期待して待っています(笑)。

──新曲やアルバムもどんな内容になるか、気になるところです。

もう少しで次回作の構想が浮かびそうなのですが、焦らずに待っています。その構想がよりはっきり見えれば見えるほど確実によいもの、みんなが驚くようなものが作れるはずですから。とにかく今は、頭の中にいろんな情報を無作為に、たくさん詰め込んでいる段階です。

──「the dresscodes magazine」のコラムでも、とにかくたくさん映画を観ていると書いていましたね。

止まらなくて大変でした。最近ようやく落ち着いたんですけど、ここ数日もずっと映画を観ていました。僕はどうやら、さまざまな時代、さまざまな国、さまざまな監督の作品の中から1つの共通した何かを見つけたいようです。それが何かはまだわかりませんが、そうやってとにかく脳みそに詰め込んでおけば、ある日突然、それらがピタッと1つの答えを指し示していることに気付く、というのが経験則としてあって。そのタイミングが来るまで、ひとまず脳みそのおもむくままにさせておきたいです。

──ちなみにどんな映画を観ているか、伺ってもいいですか?

ざっくり言うと東アジアの映画やドキュメンタリーが多いですね。各国の歴史で知らなかったことも多いので、文献をあたって勉強しながら観ています。

志磨遼平

僕らを飲み込もうとする、大きな流れに抵抗するためのロックンロール

──アルバム「†」は“ロックンロール”がテーマでしたが、リリース決定時の志磨さんのコメントではニヒリズム(虚無主義)、ポピュリズム(大衆迎合主義)に対する怒りやアンチテーゼが掲げられていました。これを読んだときに、2021年に発表されたアルバム「バイエル」に通じるものを感じました。

ああ! だからここにずっと「バイエル」が置いてあったんですね(記者が持参したCDを手にして)。

──当時のインタビューでは、これまで当たり前とされた良心やモラルが覆される恐ろしさについて質問し、志磨さんは「常識なんて、1年で全然変わってしまうぐらいあやふやなもの」「だからこそ、『学び』が必要」とお話ししてくれました(参照:ドレスコーズ「バイエル」特集)。あれからおよそ5年が経ちましたが、大衆迎合主義的、排外主義的な状況はさらに多くなったように感じます。そこで志磨さんはこの状況をどのように捉えているか、改めて伺いたくて。

先ほど「とにかく映画を観たり本を読んだりしている」とお話ししましたが、それはおそらくこの状況への防衛本能、危険予知能力みたいなものが働いているんだと思っています。「この流れは危ないな」と感じているから、過去の歴史に学ぼうとしているわけです。もしかしたらどこかに解決の糸口が示されているかもしれない。本能的なものに突き動かされるような感覚で勉強していますけど、中でも民主主義の存続にすごく懐疑的になっているんです。

──まさに今行われている衆議院選挙の様子を見ると(※取材は2月初旬に実施)、たびたび異様な熱気を感じ、私も不安になることがあります。

熱狂の恐ろしさを誰よりも知っているのは、僕らミュージシャンのはずです。ライブの熱狂が最たる例です。盲信的に何かを信じ、ひとつの大きな物語に組み込まれることの快楽を知っているからこそ、恐ろしいんですよね。そして、そういうものに対して飲み込まれないでいようと抵抗するのは意外と難しい。だから「ひとりでいろ」ということが大事で。

──ロックンロールの三原則のひとつですね。孤独でいることだけでなく、俯瞰して見渡すことの重要性も込められている。

僕らを飲み込もうとする流れはどんどん強くなっていて、まさに濁流のように氾濫した時代の真っ只中に立たされていると言えます。そんな流れに抵抗してきたのがロックンロールの1つの歴史でもあるし、その抵抗の精神こそがサブカルチャーの矜持なので。こんな事態のために今まで映画を観たり、本を読んだりしてきたと思いたくはありませんが、そこから学んだことは今こそ生かされるべきだし、それらに恥じない作品を作ってみせるのが当然の行いだと思います。そして万が一、僕らが大きな流れに飲み込まれてしまおうとも、決してあきらめてはならない。ふてくされずにいることが大切です。

──多数派の勢いが増すにつれて、孤独を感じるような機会もどんどん多くなり、何度も心が折れてしまいそうなのですが……志磨さんのように、表立って“あきらめないこと”を語ってくれるアーティストがいることは心強いです。

今の状況に抵抗する人は大勢いるはずです。僕らがあきらめずにいる限り、きっと大丈夫ですよ。

志磨遼平

公演情報

the dresscodes TOUR 2026

  • 2026年6月13日(土)宮城県 Rensa
  • 2026年6月21日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2026年6月28日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2026年7月4日(土)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2026年7月5日(日)岡山県 YEBISU YA PRO
  • 2026年7月11日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2026年7月12日(日)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
  • 2026年7月20日(月・祝)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

ドレスコーズ

2012年に志磨遼平が中心となって結成した音楽グループ。同年1月1日に志磨、丸山康太(G)、菅大智(Dr)の3名で初ライブを実施し、2月に山中治雄(B)が加入。12月には1stフルアルバム「the dresscodes」を発表した。2014年9月の5曲入りCD「Hippies E.P.」リリースを機に丸山、菅、山中がバンドを脱退。以降は志磨の単独体制となり、ゲストプレイヤーを迎えてライブ活動や作品制作を行っている。2020年は志磨のメジャーデビュー10周年を記念し、4月にベストアルバム「ID10+」をリリース。2025年に10枚目のオリジナルアルバム「†」、2026年にライブ映像作品「grotesque human」を発表した。