DISH//|「猫」の先に見つめるもの 今4人の手で刻む、DISH//のアイデンティティ

DISH//|「猫」の先に見つめるもの 今4人の手で刻む、DISH//のアイデンティティ

DISH//がニューアルバム「X」(クロス)をリリースした。

YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で北村匠海(Vo, G)が歌った「猫」が大ヒットし、動画の再生回数は1億回を突破。反響を受けて配信リリースされた「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」が「第62回 日本レコード大賞」の優秀作品賞を受賞するなど、2020年に大きな飛躍を遂げたDISH//。彼らが前作「Junkfood Junction」以来、約2年ぶりにリリースするアルバムには「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」のほか、ドラマ「猫」の劇中歌として北村が書き下ろした「あたりまえ」、はっとり(マカロニえんぴつ)が作詞作曲したコロナ禍におけるメッセージソング「僕らが強く。」などの既発曲のほか、メンバー作詞作曲による「ルーザー」「rock'n'roller」、さらにはNulbarich、緑黄色社会、GLIM SPANKY、くじらという4組のアーティストと4人のメンバーがそれぞれにコラボして制作された楽曲などが収録される。

バンド結成から9年で過去最大のヒット曲を生み出し、現在進行形で大きな脚光を浴びている4人が今、バンドとして伝えたいこととは。最新作に込めた思いについて、メンバーに話を聞いた。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 斎藤大嗣

レコード大賞は、僕らにとって新たな夢ができた場所だった

──まずは、昨年末の「第62回 日本レコード大賞」の感想から聞かせてもらえますか? DISH//は「猫~THE FIRST TAKE ver.~」で優秀作品賞を初めて受賞しました。

DISH//

北村匠海(Vo, G) DISH//であの場に立てたことがすごくうれしかったんです。同時に「自分たちで作った曲でここに来たい」という新たな夢ができた。僕らにとってはそういう場所だったかなと思います。

──快進撃はまだ続いています。「THE FIRST TAKE」の動画は、ついに再生回数が1億回を突破しました。

北村 僕らもよくわかんないです(笑)。ホントに予期せぬことでした。ただ、今までDISH//で積み重ねてきたいろんな点がつながった結果なのかなとも思っています。「今回はきっかけをもらったに過ぎない」と思いながら、レコード大賞では歌っていました。

橘柊生(DJ, Key) 去年は僕ら4人だけでバンドについて話し合った時間なんかもあったんですけど、そういう時間も含めて、匠海が言ったように、点と点がつながってる感覚がありますね。

DISH//

矢部昌暉(Cho, G) 2020年は「猫」を通してたくさんの方にDISH//を知ってもらえたんですけど、何かが劇的に変わった感覚は僕ら自身にはなくて。僕なんて、レコード大賞に選ばれたLiSAさんのちょうど後ろに座っていたので、発表の瞬間一緒にカメラに抜かれてラッキー!と思ってたくらいなので。のんきな話ですけど(笑)。

一同 あはははは(笑)。

矢部 そんな感じで特に変わったことはないんですけど、このタイミングで今までにない経験をさせてもらったことで、「この4人で作った曲をたくさんの人に聴いてもらいたいな」という新たな夢ができたことはよかったなと思います。

泉大智(Dr) 俺は改めて、楽曲が持つパワーのすごさを痛感しましたね。ホントに、音楽の力でいろんな状況をひっくり返しているなという感覚があるんです。聴いてくれる人、求めてくれる人がいるから、必然的にあの場に立てたんだと思う。「猫」からは音楽のパワーを教わったなと思います。

自分たちの血を通わせること

──DISH//というバンドの名前が広く世間に認知されたタイミングで、「X」というアルバムがリリースされます。メンバーとしては今作をどんな作品にしたいと考えていましたか?

北村 4人でずっと思っていたのは、「猫」で注目してもらえるきっかけをいただいたからこそ、「X」ではちゃんと自分たちの血を通わせるというか、自分たちが表現したいことを大事にしたくて。

DISH//

 「僕ら自身で曲を作って、僕らの血を通わせたい」という意識は、制作の最初の段階から話さずとも通じ合っていた感覚がありますね。

──自分たちの血を通わせるということが根底のテーマになってるんですね。

 そうですね。これまではやりたくてもうまく具現化できないこともあったんですけど、今回はほぼ100%、僕らが思っていた感じのものができたと思います。

矢部 前々から、ライブやイベント含めDISH//でやることすべて、企画段階から参加したいという思いは4人の中にあったんです。だから逆に言うと、この作品でやっと、ゼロから制作に参加できるようになったんですね。それに、アルバムの制作が始まる前、自粛期間中からみんなで曲を作って、送り合って、意見交換をしていたからこそ、アルバムを作るときに「自分たちで作った楽曲も入れよう」という話ができた。9年活動してきて、やっとこういう形になったんです。だから、これまで以上に血の通ったアルバムになったし、9年間のすべてが詰まったアルバムにもなっていると思います。

──2ndアルバム「召し上がれのガトリング」(2016年12月リリース)にもメンバー個々が作った曲がありましたけど、その頃よりもさらに深い関わり方になった?

北村 音楽的により深くなったと思います。みんなが言った通り、自分たちのやりたい音楽がちゃんと体現できるようになったんですね。当時は作曲においても誰かの力を借りていたんですけど、今の僕らは自分たちだけで曲作りを完結できるようになった。それからは自分たちの中でいっそう創作意欲が増したし、この4人でバンドとして前に進めているなという実感も得られたんですよ。

 今回、自分たちが作った曲が初めてリード曲になるんです。それは新たな挑戦だし、リスナーの方がどう思ってくれるかも楽しみです。

曲作りと匠海のチキンカレー

──リード曲は「ルーザー」と「あたりまえ」の2曲ですね。まず、アルバムのオープニングも飾っている「ルーザー」について聞かせてもらえますか?

北村 昨年の6月19日、メジャーデビュー記念日に配信ライブをしたじゃないですか。あの日、ライブが終わってから4人でずっとしゃべっていて、そこで「みんなで曲を作ろう」という話になったんです。そこから少し経って、僕の家に集まって作ることになって。その時期くらいから、僕らの中にすごくいい空気が流れてるんですよ。肩の力が抜けた感じでゆるく集まって「ああでもない、こうでもない」って言いながら作る。「ルーザー」は柊生発信で軸ができました。のちにみんなでスタジオに入って仕上げていった感じでしたね。

──柊生さん発信なんですね。

北村 ギターリフが柊生の口三味線だったよね。

 ああ、確かに。僕の前にキーボードもあったしね。あのときずっと部屋にいたのが……。

矢部 柊生と大智と僕の3人。

DISH//

北村 僕はカレー作ってた(笑)。リフとAメロを弾いて、1サビまで終わったらみんなに任せてチキンカレーを作りに行きました。

 あはははは(笑)。

矢部 おいしかったよね。初めて食べたよ、匠海の手料理。

 僕もそのときが初めてだったわ。

 楽しかったですね。そうやって4人で作ることもあまりなかったですし。メンバーそれぞれのエッセンスがちゃんと入ってて、すごくオリジナルになってると思います。

矢部 みんなポンポンとアイデアが出てきたよね。スタジオに入ったときは「ルーザー」と「rock'n'roller」の2曲を1日で仕上げたんですよ。7時間くらいこもってたけど、あっという間だなって感じるくらい楽しかった。

北村 楽しかったね。

矢部 なんか「バンドやってるぜ!」って改めて実感したし。なんて言うんだろう……ホントに心から音楽をやっている楽しさが。このご時世でライブができない分、みんなで音を合わせることがいつにも増してすごく楽しくて。