DISH//|「猫」の先に見つめるもの 今4人の手で刻む、DISH//のアイデンティティ

DISH//|「猫」の先に見つめるもの 今4人の手で刻む、DISH//のアイデンティティ

負けてきたけど、それでも戦ってきた

──ギター、ピアノ、ドラム、それぞれの音もしっかり粒立って聴こえます。

北村 うんうん、ちゃんと僕らの音ですよね。聴いていて「柊生のピアノだ、大智のドラムだ、昌暉のギターだ」ってわかる。で、自分が書いた歌詞の内容としては……。

──そこですよね。バンドとして勢い付いている今、なぜタイトルを「ルーザー」にしたんでしょう? しかも、この曲はアルバムの1曲目でもあります。

北村匠海(Vo, G)

北村 DISH//の9年を考えたときに、「まあ負けて生きてたなー」というイメージが僕の中にはあるんです。僕らは美しいものばかりを見てきたわけじゃなくて、ホントに大変なことがたくさんあったから。ベースが抜けたり、僕が骨折したりとか。元日にやっていた武道館ワンマンも「4年連続5回」という文字だけ見たらすごいけど、僕らからしたら集客が苦しいときもあった。自分たちはけっこう負けてきたけど……それでも戦ってきたという事実が、今の原動力になっているんですよね。僕は音楽を作るとき、いつも物語の主題歌みたいなイメージで曲のことを考えるんですけど、「ルーザー」の歌詞を書いてるときは、自分が出ていた映画「アンダードッグ」が頭の中に浮かんだんですよ。

──映画のタイトルは「噛ませ犬」という意味で、劇中では3人の“負け犬=ルーザー”たちがボクシングを通じて心をぶつけあうさまが描かれていました。

北村 そう。「DISH//って負け犬だったじゃん」と思って。あの映画からインスピレーションを受けたところもありましたね。“ボクサーを演じた自分”で書けるし、歌えるなって。

 僕はホントに匠海の書く歌詞が好きですね。小説のようだし、匠海にしか歌えない世界観がある。匠海にしか合わない曲になるなと思うんですよ。

 「ルーザー」、めちゃめちゃトガってていいですよね。スタッフさんには「トガりすぎかな」という意見もあったんですけど、俺的にはこのくらい飛ばしたほうが伝わるかなって。

北村 さらに年齢を重ねてからじゃ歌えないよね。今、自分が若いから歌えるっていう。それもすごく考えました。

矢部 「猫」を歌ってる人と同じ人とは思えないのがカッコいいし、DISH//らしいなと思います。

当たり前なことが当たり前じゃない今、伝えられることを伝えよう

──もう1つのリード曲「あたりまえ」は、匠海さんが作詞作曲したバラードです。

北村 ドラマ「猫」の劇中歌を書いてほしいとリクエストをもらって作りました。男の子がギターを買って、女の子に曲を作って、練習して歌うというシーンで使われると聞いたんですね。だから、コード進行もあまり難しくならないようにしつつ、ドラマチックになるように考えて。

──そうだったんですね。歌詞についてはいかがですか?

北村 歌詞については、自分が歌うときのことも考えました。僕、自粛期間中に「太陽が昇るのがめちゃめちゃ幸せだな」とか「今日もまた眠れるんだ」とか……これまで何気なく過ぎ去っていた出来事が、すっごい幸せに感じたんですよ。「ご飯があったかい」とか、「蛇口をひねったら水が出る」とかもそう。“普通”がすごく幸せだったので、当たり前なことが当たり前じゃない今、伝えられることを伝えようって。

──だからなのか「何でもない日々に」という部分の歌唱がとてもエモーショナルに感じました。

北村 そうですね。自分で書いた歌詞ですけど、歌っていても自然と気持ちが入るんですよ。

矢部 匠海がボーカリストであり、俳優でもあるからこそ作れる曲だなと思いました。それと、「あたりまえ」は聴くたびにハマっていく感覚が自分の中にあるんですよ。何回聴いても飽きないし、聴けば聴くほど「いい曲だな」って心に沁みる曲になったんじゃないかなと思います。

柊生が磨き上げた“石ころ”

──先ほど昌暉さんが「ルーザー」と一緒にスタジオアレンジしたと言っていた「rock'n'roller」も、メンバーの作詞作曲で。

矢部 ロックナンバーを作りたいって、ずっと言ってたんだよね。

北村 そう。「Newフェイス」や「SING-A-LONG」のようにロック色の強い曲って、DISH//のライブにとってすごく強みだなと思っていて。自分たちも好きだし、そういう曲を今回自分たちで作れたのがうれしかったです。この曲のきっかけを作ったのは大智と僕ですね。

泉大智(Dr)

 1980年代後半から1990年代前半くらいのバンドの曲を聴いていたときに「リフから曲を作りたいね」って話をしていたんですよ。

北村 で、なんとなくのデモを作っておいたら、柊生からヘビーなアレンジが返ってきて。Aメロを大智、Bメロとラップは柊生、リフとサビは自分が考えました。面白いエッセンスが詰まっている曲だと思います。

──ステージ上に炎が上がっているのが見えますよ。ミスクチャーロックというか、ヘヴィメタというか。

 そうなんですよ。最初は今のようにずっと8ビートが続く感じじゃなかったんですけど、DISH//のLINEに貼っておいたら柊生が8ビートを付けたんです。

 DISH//のLINEって、曲がいっぱい転がってるんですよ。ちゃんと整えられた“レンガ”もあれば、まだまだ荒い“石ころ”もあって(笑)。

 ゴロゴロ転がってるんだよね(笑)。

 スクロールしたらいっぱい出てくる。

北村 この曲もホントに“石ころ”だったね(笑)。

 誰にも構われずに転がってた。俺は昔のメロコアが好きなので、こういうメタル系の曲、大好物なんですよ。これはヤバい、アレンジしたいと思って「データをちょうだい」って言ったら匠海は「なんでこれ?」みたいな感じのリアクションで(笑)。

矢部昌暉(Cho, G)

北村 締め切りの期限ギリギリだったんですよね。2日前とか。

矢部 確かに最後の最後に上がってきたわ。

 データをもらって編集して、サビだけ歌を入れてる状態で投げたら、選曲会議で通って。

矢部 それぞれの個性が出ているDISH//らしい曲だし、「rock'n'roller」と「ルーザー」には、ホントに僕たちの思いが詰まってます。

4組のアーティストとの“Cross”

──また、アルバムにはメンバーそれぞれがディレクションを担当した4組のアーテイストからの提供曲も収録されます。

北村 アルバムのタイトル「X」には「Cross(交差)」という意味もあるんです。DISH//は、これまでにもいろんなアーティストの皆さんとご一緒してきたじゃないですか。「猫」や「へんてこ」のあいみょん、「僕たちがやりました」のOKAMOTO’S、「僕らが強く。」のマカロニえんぴつ……そうやっていろんな方に関わってもらったからこそ今の僕らがいるという意味も込められているから、メンバー1人ひとりがそれぞれにご一緒したいアーティストさんと1曲作ろう、と。

──柊生さんはJQ(Nulbarich)さんとコラボして「QQ」(クイーンズ)という曲を完成させました。

橘柊生(DJ, Key)

 僕、Nulbarichさんが大好きなので。打ち合わせではお互いのルーツについて話したりしたんですけど、なんだか答え合わせをしているみたいな感覚になりました。歌詞については「ライフスタイルを歌えばいいんじゃない」とJQさんに言われて。最初は自分とは別の主人公を立てて書いていたんですけど、結局は僕のことになってしまいましたね。

──DJブースにいる柊生さんが浮かびました。

 ホントですか? 実はそういうテンションでは書いてないんですけど、いろんな解釈をしてもらえるほうが面白いかなと思って、物語調じゃなく単語の羅列で歌詞を組み立ててみたんです。いろんな捉え方をしてもらえたらいいなと思います。