デジナタ連載 砂原良徳 × Technics Sound Trailer|堅実で品があるオールラウンドな「SL-1200GR」体験

まりんの“いい音”論

──ところで、砂原さんが思う“いい音”がどんなものなのか気になります。

たくさんありますよ。音楽的な話だけじゃなくて、日常の中でもいろいろ。「どんな女性が好き?」「どんな食べ物が好き?」と聞かれているのと一緒なんです。最近一番いい音だなと思ったのが、この前、僕、ほとんど人のいない地下鉄の駅のホームの真ん中辺りにいたんですね。そこに電車が来て止まった瞬間、いきなり「シュー!」ってエアーを出したんです。それがすごくいい音でしたね。 左右から音が来るので聞こえ方もそうだし、音量はデカいし、解像度は高いし。そんなふうに車の音から工事の音まで全部音として聴いているから、「いい音とは?」と聞かれるとそういう答えになってしまいます(笑)。あと、悪い音だと感じることもある。スーパーとか食事に行った先とかで流れていることが多いんだけど、スピーカーのポテンシャルを超えた音量で出力している音とか、あれは最悪。常に歪んでいて。日本人ってそういう感覚が鈍感だと思う。

──音に対する意識ですか。

砂原良徳

そう。鈍感ですよ。先日ある友人がフランスで食事をしていたとき、さっき話したような“スピーカーのポテンシャルを超える音量”で音楽が流れていたそうで、すごくうるさかったらしいんです。その次の日にドイツのお祭りに行ったら風船を売っているおじさんがいて、その店のスピーカーから流れている音がめちゃくちゃよかったって。それで、音に対する意識の国民性の差を感じたと言ってたんですけど。それはあるなと思いました。そのドイツのスピーカーがTechnicsのものだったかどうかはわかりませんが(笑)。

──面白い話ですね。

例えば音楽の構成について考えたとき、ある人物がいて、その人物の存在をわかりやすくするために音や歌詞があると思うんだけど、歌詞の内容って音が割れていようが割れていなかろうが変わらないじゃないですか。日本人はその歌詞の内容だけを情報として取り込む人が多くて、“音の形”がどうだとか、ベースとドラムの関係だとか、低域とウワモノの対比だとか、そういうところについてはものすごく鈍感。だから音が割れていても気にならないんだと思うんです。ミュージシャンの中にも、そういう部分に鈍感な人はけっこういますよ。もちろん今日来ている人たち(「CIRCLE '19」の出演者)は、お世辞抜きでちゃんとしていますけど(笑)。中でももう、細野さんとかものすごいですもん。曲を聴いただけで、音に対して神経質な感じが伝わってきますから。ちゃんと音を聴くと、いろいろ伝わることがあるんです。例えば、昔スタジオがどんどんとなくなって、プライベートスタジオのコンピュータで作られた音楽が多くなってきた時代なんかは、音作りのルールが変わってみんな悩んでいたんですよね。だからその頃の音楽を聴くと、世界中でみんなが困っているのがわかるというか。

──アナログレコード、デジタル音源、デジタルの中でもハイレゾ音源などリスナーの聴き方が多様な現在、砂原さんはこの先どういう音作りを目指していきますか?

僕は基本的にデジタル環境で作るし、空気感を録ったりすることはないから。そういう意味ではデジタル音源で聴くのに向いている作風だと思うんですよね。でもアナログレコードで聴きたい人もいるのでそこはどうでもいいとは思っていなくて、自分の作風をどういうふうにうまくアナログに変換するかは考えています。昔はね、デジタル音源とアナログレコードの両方でリリースするとき、マスタリングを変えていたんですよ。でもそれはやめています。変えてもあまりいい効果が得られなくなったというか、同じマスターでもそこそこ満足できるようになってきた。それってたぶん、アナログレコードを作る側の技術が上がってきているからだと思うんですよね。いやもっと言えば、そこに関わる人たちが成長しているというか。例えば、カッティングエンジニアの人だけがよくしようと思ってもダメだし、今回のTechnicsのようにスピーカーやオーディオ機器を作る人なんかもそういう意識を持っていなければ、全体的に絶対によくならないですよね。皆さんの「もっといい音で音楽を聴きたい」という思いが全部重なって、うまい感じでよくなっていく。先ほどレコーディングの話もしましたが、デジタル移行期にみんなが困っていた頃からレコーディングの技術も上がって、作り手側の知識も蓄積されていって、よくなり続けているんです。そして個人的にはまだまだよくなると思う。だから楽しみですよね。

砂原良徳
Technics Sound Trailer(テクニクスサウンドトレーラー)

Technics Sound Trailer(テクニクスサウンドトレーラー)

パナソニックがTechnicsブランドの移動式試聴室として開発したトレーラー。音の躍動感、歌い手の息遣い、楽器から放たれる音色、指揮者が動き出す前の緊張感など、Technicsだからこそ表現できる音楽の世界をリスナーに体験してもらうべく作られた。トレーラーではTechnicsの主要ラインナップすべてが試聴でき、試聴音源もハイレゾ音源からCD、レコードまで幅広く取りそろえている。

SL-1200GR

SL-1200GR

アナログレコード再生の楽しみを音楽ファンに届けることをコンセプトにした、Technicsのダイレクトドライブターンテーブルシステム。世界中のユーザーに愛用されたSL-1200シリーズの新たなスタンダードモデルで、SL-1200Gのよさを継承しつつ、新たに開発された専用のコアレスダイレクトドライブモータを搭載している。