デジナタ連載 高橋幸宏×水原佑果|世界中のDJに愛されるターンテーブルの最新形

レコードを購入するまで

──「C'est si bon / Back Street Midnight Queen」はジャケットも素敵ですよね。お二人は“ジャケ買い”をしたことはありますか?

左から高橋幸宏、水原佑果。

水原 もちろん! レコードディグを始めた頃からジャケ買いをするのが止められないです! たまにジャケ買いしてピンとこないときもあるんですけど、常にいろんな発見があるような気がします。

高橋 あるよね。「こんなにカッコいいジャケットなんだから、絶対いいはず」と思ったら、大ハズレだったり。例えば洋服だったら、実際に手にしたり、試着してから買うことも多いじゃないですか。レコードもそれと同じで、中身がわかったうえで買ったほうがいいですよね。若いときは試聴してからじゃないと買わなかったな。

水原 私もけっこう試聴してますね。

高橋 時間がないとき、焦らない?

水原 わかります(笑)。

高橋 やっぱり情報って大事だよね。インターネットのコメントや評論家の評価よりも、実際にそのレコードを持っている人の「あれはいいよ」という情報が一番確かだと思うけど。

水原 そうかも! レコードショップのスタッフさんにおすすめを聞いたりしてゲットします。よく行っているレコード屋さんだと、私の好きなカラーの音楽を紹介してもらったり。自分だとこれ選ばないなというものでも、紹介してもらって聴いてみるとピンときたりして楽しいです。

高橋 レコードが聴けるバーに行くことはある?

水原 はい! たまに渋谷のグランドファーザーズに友達と飲みに行ったりします。すごく心地よい音響の中でレコードを聴けるので、最高なムードで過ごせます。

高橋 僕も誘われたら、けっこう行くんだよね。この前、LOVE PSYCHEDELICOのメンバーから電話があって、「Totoのメンバーが幸宏さんに会いたがってるから、レコードバーに来ませんか?」って言われて。そのときは行けなかったんだけどね。

1970年代の思い出

高橋 佑果ちゃんは去年の細野さんのロンドン公演のときもレコード屋に行ってたよね?

水原 行きました! ブライトンでも行こうと思ってたんですけど、時間がなくて……。

高橋 「Saravah Saravah!」の裏ジャケットのイラストは、ブライトンの会場の前で撮った写真をもとにしてるんだよ。

水原 あ、そうだったんですね。

高橋幸宏「Saravah Saravah!」表ジャケット

高橋 君、ライブに出たじゃん(笑)(アンコールで演奏された「東京ラッシュ」に水原希子と佑果の姉妹がコーラスで参加)。「Saravah Saravah!」のジャケットは表が40年前の僕で、裏が去年の僕なんです。ブライトンのレコード屋も面白かったな。

水原 私もそのレコ屋さんに寄りたかったので、次にロンドンに行くときは必ずリベンジします!

高橋 僕らが若い頃のロンドンのレコード屋に佑果ちゃんがいたら、すごいことになっただろうな(笑)。1970年代の初めにサディスティック・ミカ・バンドで初めてロンドンに行ったときに、ポートベローマーケットに出ていたお店に、薄い紙に入ったレコードがずらーっと並んでいて。レゲエのレコードが多かったんだよね。当時はレゲエではなくて、“レガエ”と呼んでたんだけど。

水原 すごい! レガエというのは初耳です! 私もレゲエのユニークなサウンドが大好きです。

高橋 小原礼、トノバン(加藤和彦)、今野雄二さんも一緒だったんだけど、コンちゃん(今野)がレコードを買いすぎちゃって、重量オーバーで飛行機に乗せられなくて。別便で送ったら、半分くらいは着かなかったなんてこともありました(笑)。

──1970年代前半のレゲエのレコード、めちゃくちゃ貴重ですね。水原さんが今気になっているジャンルは?

水原 たくさんありますね。レゲエやジャズも好きだし、ラテン音楽を聴くと元気になるし。映画音楽のレコードも好きなんですよ。「バーバレラ」のサントラとか。

高橋 僕もサントラは買いましたね。フランシス・レイはもちろん、バート・バカラックやデイヴ・グルーシンとか。ヘンリー・マンシーニの映画音楽もいいよね。

水原 はい! 私はヘンリー・マンシーニの「ピンク・パンサー」がお気に入りです。

レコードを買ったら、ともかく聴いてほしい

──ちなみにレコードの管理はどうしてるんですか?

高橋 今は倉庫で保管してますね。以前はアルファベット順に並べて整理してたんだけど、なかなか時間が取れなくて。引っ越しはいいチャンスだから、整理したいです。

水原 確かに収納するって大変ですよね……。まずレコードを探すのが大変だから、きれいにアルファベット順に並べて整理したい!

左から高橋幸宏、水原佑果。「SL-1200MK7」でレコードを試聴している様子。

高橋 わかる。この前、テイくんがレコードコレクターの人とTwitterでやりとりしてたんだけど、その人が「今持ってるレコードを全部聴き直したら、600年かかる」って。テイくんが「断捨離ですね」って返したら、「いや、持ってる間はできるだけ回したい」と。

水原 600年ってすごい! いいですね!

──「RECORD STORE DAY」はこれからレコードを集めようと思っている人たちにとっても大きなきっかけになると思います。そういう方々にひと言もらえますか?

高橋 レコードを買ったら、ともかく聴いてほしいですね。「貴重なレコードを2枚買って、どちらも開封しない」というタイプのコレクターになるのもいいんだけど、もともとレコードは聴くためにあるから。

水原 そうですよね。私は「まずレコードプレイヤーを買いましょう」と言いたいです。まわりの友達にも「プレイヤーがないから、レコード買えないんだよね」というところで止まってる子がけっこういて。今はリーズナブルなプレイヤーもけっこうあるから、ぜひ手に入れてほしいなと。やっぱり、今はストリーミングで音楽を聴く子が多いんですよ。

高橋 便利だからね。僕はストリーミングに反対ではないんですよ。サブスクがもっと浸透すれば、ミュージシャンに還元されるはずと言ってる人もいるし。でも、作品を“手に持つ”ということも、とても重要なんですよね。アンプとスピーカーにつないで、針をレコードに落とすだけで聴けるんだから。簡単だよ。

水原 そうですよね。レコードを手にして、ジャケットを見て、音を感じて。音楽を楽しんでもらえたらいいなと思います!