デジナタ連載 Technics×「レコードの日」特集|THE BAWDIES ROY&TAXMAN|ビギナーにこそ教えたい、愛すべきアナログレコードの世界

PART 2ROYの私物レコード5選〜お気に入りと宝物

──今回お二人とも自分のコレクションの中からビギナーの方にオススメしたいレコードを持ってきてくれているんですよね。まずはROYさんから紹介していただけますか?

ROY(THE BAWDIES)

ROY はい! ではまず、僕のお気に入りの2枚を。レコードを買い始めた当初はガレージとノーザンソウル、ディープソウルから流れてゴスペルとブリティッシュビートにもハマってたんですけど、最近は南米やアジア圏のB級どころではない、C級D級のガレージのシングル盤を掘ることにハマっていて(笑)。これはその中の1つ、ブラジルのBeatniksというガレージバンドの作品で、ヴァン・モリソン「Gloria」やThe Jimi Hendrix Experience「Fire」のカバーもありつつ、オリジナル楽曲の「Alligator Hat」がめちゃめちゃなガレージサウンドで。普段はあまり聴かない国のガレージバンドの曲って、その国特有のテイストが入っている気がするんですけど、この曲にもブラジルの歌謡感みたいな要素が感じられます。そもそもガレージって一般的にはアメリカの若者たちの音楽ですけど、アメリカやヨーロッパだけじゃなくて世界中に影響を与えていたんだなと思って。60年代のブリティッシュビートの影響で日本のGS(グループサウンズ)が誕生したのと同じように。そういうのって面白いですよね。あともう1枚は、Randy & The Soul Citizensの「Meet Me At The Pool」。ボーカルはウィルソン・ピケットに近いディープなソウルシンガーで、ノーザンソウルみたいなナンバーですね。軽快な楽曲を暑苦しく歌うという、自分の好みのド真ん中。こうやってコレクターをしていると高いレコードばかり集めていると思われがちですけど、そんなことなくて。これはCDのコンピーションにも入ってないしLP化もされてない曲ですけど、10ドル以下で手に入れました。そうやってジャングルの奥地にまだ発見されてない生物を探しに行くような感覚でレコードを掘るのも醍醐味の1つですね。ちなみに「Meet Me At The Pool」のジャケットにあるメモは僕が書きました(笑)。レコードを聴いて、どんな感じの曲だったかを自分なりに書いて記録しておくんですよ。

上段はバンカー・ヒル「The Girl Can't Dance」、下段左からHipster Image「Make Her Mine」、マイク・ペディシン「Burnt Toast And Black Coffee」(いずれもROY私物)。

それと、自分にとって宝物のような3枚を紹介します。1つはワシントンDC出身の黒人シンガー、バンカー・ヒルの「The Girl Can't Dance」。彼は世界で一番激しいロックンロールシンガーだと思います。それとマイク・ペディシンの「Burnt Toast And Black Coffee」。ジャンルで言うとジャイブ系なんですけど、とにかく踊れるナンバーなのでノーザンソウル系としても高値が付いていて、僕が買ったシングル盤の中で一番高かった。これはオークションで競り合って勝ちました(笑)。そしてHipster Image「Make Her Mine」。90年代に日本でもLEVI'SのCM曲に使用されて有名になりましたけど、リリースされた当時は売れなかったのでレコードで残っている枚数が少ないんですよ。マニアックな話をすると、レコードにはマトリックスナンバーというものがあって、マスターテープからレコードをカッティングするときに付けられる番号が若いほどいい音とされているんですね。で、僕が所有しているこのレコードのナンバーは“1”なんですよ。おそらく日本で3枚もあるかな?というくらい貴重な1枚です。

PART 3TAXMANの私物レコード3選〜特別な存在

──続いてTAXMANさんのオススメのレコードについても聞かせてください。

TAXMAN(THE BAWDIES)

TAXMAN まず、さっきROYからヴァン・モリソン「Gloria」のカバーの話が出ましたけど、このThe Shadows Of Knightの「Gloria」はガレージバンドの中では一番有名なカバーだと思います。僕は今までいろんなガレージコンピを聴いてきましたけど、絶対にこのThe Shadows Of Knightバージョンの「Gloria」が入ってるんです。それこそ現代のガレージバンドにも通じるような、わかりやすい痛快さがあって。ブラックミュージックも好きですけど、こういう曲を聴くとギタリストとして「音を鳴らしたい!」という気持ちを掻き立てられますね。あとはこのサイケデリックなジャケットが大好きなんです。昔からガレージバンドのレビュー本とかを読んでいてもこのジャケットがカッコいいなと思っていて、オリジナル盤を見つけたら買おうとずっと思っていた1枚です。あと、このThe Kinksのデビューアルバム「KINKS」。ちょっといい話風のエピソードですけど、このレコードはメンバーが僕の誕生日にプレゼントしてくれたものなんです(笑)。The Kinksは、僕にとっていまだにイギリスの当時のバンドの中で最もカッコいい存在で。The BeatlesやThe Rolling Stonesも特別なバンドだけど、なんだかんだThe Kinksが一番好きですね。

ROY 今から8年前に僕らがThe Sonicsと対バンしたとき、メンバーに「60年代当時、どのバンドが一番カッコよかったですか?」って尋ねたら「The Kinksだ」って言ってましたからね。「The Rolling Stonesなんて70年代からだよ」って。

Cream「Disraeli Gears」(TAXMAN私物)

TAXMAN The Kinksはそれくらい当時のバンドにも大きな影響を与えていたんだよね。あと、Creamの「Disraeli Gears」もやっぱりこのサイケなジャケットが大好きで。僕らが2017年にリリースした「NEW」というアルバムのジャケットは、ちょっとこれを意識して作りました。さっきも言ったように僕、昔はブルースにそんなにドハマリしてなかったんですけど、CreamやThe Yardbirds、その両バンドのメンバーだったエリック・クラプトンが演奏していたブルースを聴いて「ブルースもいいなあ」と思えたんです。そういう意味では僕にとっての神のような存在はジミ・ヘンドリックスなんですけど、でも彼のブルースの昇華の仕方はすごすぎて真似できないです(笑)。