DEZERT千秋ソロインタビュー|「ヴィジュアル系に呪われてる」過激な言葉の裏にあるシーンへの深い愛情 (2/2)

最近はファンがかわいい

──コロナ禍の2021年にはアルバム「RAINBOW」をリリースして、当時のインタビューで「余計なことを考えず、やりたいことだけをやった」という趣旨のコメントもありました。

そうですね。ライブがなくて時間があったし、かなり本気で作ったので。満足というか、「こういうものが作りたかった」というアルバムになった気がします。10年前だったら「RAINBOW」なんてタイトルのアルバムは絶対に出さなかったと思うんですよ。負の感情を吐き出すような曲ばかりだったし、「『RAINBOW』って何? DEZERT、どうした?」って。ただ、あのアルバムを作っていた時期は俺の中で「次は『RAINBOW』だ」と勝手に思ってて。それを表現することだけを考えていたんです。結局ツアーはやりましたけど、作ってるときはライブを意識してなかった。

──初めてクリエイティブに集中できたのかもしれないですね。

雑音が聞こえてこなかったんで。ライブをやってると、いろんな意見が入ってくるんですよ。MCが長いとか、髪型がよくなかったとか、セトリはこうしたほうがいいとか。「あざす」っていう感じです(笑)。ただ、それもやっぱり俺のせいだと思うんですよね。昔、レコード会社の人に「声は一番耳に入ってくる楽器だから、バンドのファンはボーカルと同じような性質の人たちが集まりがち」と言われて、確かにそうだなと。俺はストレートな人間ではないし、つい粗探しをしちゃうんです。なのでお客さんもクセが強い人が多いのかな(笑)。かわいいなと最近は思ってます。俺に似てるなあって(笑)。

──音楽を通して、自分を理解してほしいという気持ちはないですか?

前はあったかもしれないですね。「誤解」って曲があるぐらいですからね(笑)。骨の髄までわかってほしいと思っていたこともあるけど、どうしても距離はあるじゃないですか。そこはやっぱり、吐き出し方を考えないと。30歳になってから、そういうことをさらに考えるようになりました。メンバーもみんな近い年だし、昔と同じような気持ちのままやるのは無理だなと思ってますね。

「DEZERT LIVE TOUR 2023 “きみの脊髄と踊りたいんだっ!!ツアー”」CLUB CITTA'公演の様子。(撮影:西槇太一)

「DEZERT LIVE TOUR 2023 “きみの脊髄と踊りたいんだっ!!ツアー”」CLUB CITTA'公演の様子。(撮影:西槇太一)

ヴィジュアル系に呪われてる

──2022年12月に日本武道館で行われたイベント「V系って知ってる?」についても聞かせてください(参照:艶やかなセッションに武道館沸騰!D'ERLANGER、HYDE、ムック、DEZERTらが一夜限りの“狂演”)。DEZERTのSORAさんがオーガナイズしたイベントですが、千秋さんはMCで「“ヴィジュアル系復興”とかやめません? 俺たちがやるべきことは、過去の栄光をもう1回掲げることじゃなくて、大好きだった音楽を後世につなげてける力を持つことです」と話してました。あの言葉も20歳のときは言ってなかったと思うんですよ。

そうですね。20歳のときはまだヴィジュアル系に呪われてなかったんで。

──今はヴィジュアル系に呪われてる?

もう10年もやってるんで、そりゃ呪われてますよね。ヴィジュアル系って30年くらいしか歴史がないんですよ。それなのにタワーレコードにヴィジュアル系のコーナーがあるんですよ? つまりヴィジュアル系を作った人たちがどれだけ偉大なのかという話なんですけど、何が悲しいって、まだ生きてるしカッコいいままなんですよ。その人たちが。

──生きてるっていうか(笑)、完全に現役ですよね、皆さん。

そうなんです。それは本当にありがたいし、俺もすごく尊敬しているけど、ヴィジュアル系を10年やると呪いがかかっちゃうと思うんですよ。俺らもロックフェスに出たいと思ってた時期があって、事務所の人たちも「いいんじゃない?」って言ってたけど、DEZERTという名前だと無理なんですよね。しかも規模が小さくなってるんですよ。昔のヴィジュアル系には東京ドームでワンマンやれるようなバンドがいたし、めちゃくちゃデカい“街”だったんです。しかも新しい都市で刺激もあったんだけど、だんだんみんなが慣れてきて。見た目もそう。男が化粧すること自体が珍しかったんだけど、今や韓国アイドルのほうが化粧が濃いし、普通の男の子もメイクして歩いてるじゃないですか。ヴィジュアル系のレベルが落ちたんじゃなくて、外の流行りをわかってなかった。で、街からどんどん人が出ていってしまったんですよね。そんな中で俺たちはいまだにその街にいて。しかも市役所みたいなところにいるんですよ(笑)。

──街の真ん中にいると。

先輩たちも元気でやっているので、世代交代も進まず。その先輩たちも「このままだとヤバい」とわかっていて、だから俺らが期待されたんですよね。今思うと雑だったんだけど(笑)、「がんばれよ」「変えてくれ」みたいな。やってることは変わらないんですよ。活動やプロモーションのやり方も同じだし、時代に乗り遅れてることは否めなくて。かといって街を出ていくタイミングはもうないし、だったらここにいて、変えていくしかないなと。俺はそういう人生なんだなって思ってますね、今は。

──それが“呪われている”ということなんですね。

そうですね。自分は“荷物”って言ってるんですけど、全部持っていかなくちゃいけないと思っていて。これまでのDEZERTもそうだし、これからやるべきことも含めて、順番をつけずにすべて抱えていかないと。そのために何をやるべきかを考えている最中ですね。「V系って知ってる?」もその1つだったと思います。みんなで仲よくする必要はないけど、今さらイキッてもしょうがないし、俺らみたいな中堅どころがしっかり仕切らないと……というのが、あのイベントだったのかなと。上からみたいになっちゃうけど、SORAはよくやってくれたと思います。実は最初、反対してたんですよ。「そんなのやめとけ。絶対大変すぎるだろ」って。でも、イベントをやったことでメンバーに対するリスペクトも生まれたし、「もっとがんばらないとダメだな」と思えた。呪いの血がつながってるし、今はこの街でどう生きるか、どう大きくするかを考えるしかなくて。そのためには強くなるしかないし、だからこそ「武道館でワンマンをやりたい」という話になったと思うんですよね。今や「武道館やったからって、何?」という話だけど、俺らは街の代表なんで。そこがピークだと思いたくないし、やるからには未来を感じられるものにしたい。「武道館を目指す」とかサムくて最悪なんだけど、やるって決めたんで。あと、後輩たちに「呪いにかからないようにしてあげたい」という気持ちもあるんです。大した数ではないですけど、いまだにヴィジュアル系バンドを始める若い子が少なからずいるんですよ。この前も18歳くらいのギタリストに「DEZERTに憧れてヴィジュアル系始めました」と言われて。「お前センスないな」って言っておきましたけど(笑)、そういう子たちには呪いにかかってほしくないので。

千秋(撮影:西槇太一)

千秋(撮影:西槇太一)

「これで人生が変わる」と思っていないと曲は作れない

──6月17日には全国ツアー「DEZERT LIVE TOUR 2023“きみの脊髄と踊りたいんだっ!!”ツアー」がスタート。9月23日にはLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で「DEZERT SPECIAL LIVE 2023 -DEZERT-」が行われます。

武道館の前にまずは渋谷公会堂ですね。ライブのタイトルを「DEZERT」にしたのはSORAなんですけど、最初は「バンド名をタイトルにして、ミスったら終わるぞ」と思ったんですよ(笑)。でも、「それくらいの気持ちでやるってことか」と。渋谷公会堂は前にもやったことがあるし、去年やった日比谷野音よりも規模的には小さいですけど、そこに至るプロセスに関してはすごく考えていて。ツアーのライブ1本1本が重要になってくるし、不安で仕方がないですね。それ以上に楽しみなんですけどね。

──正直ですね(笑)。会場限定でリリースされる「僕等の脊髄とブリキの夜に」の表題曲「君の脊髄が踊る頃に」は、ツアーのテーマソングという位置付けですか?

「君の脊髄が踊る頃に」はもちろんなんですが、もう1つの曲の「僕等の夜について」が今ライブに来てくれるファンの人たちに歌いたいことですね。ライブで言いたいことは今までずっと一緒で、「今日がよかったから明日もがんばりたい」と思える日にしたいということなんですよ。「今日ダメだったから明日がんばろう」って俺自身がなれないから。最近は思ったことをライブの最後にMCでしたりするんですけど、どうしても長くなるし、ちょっと演説みたいになってしまって。「だったら言いたいことを曲にすればいいじゃん」とメンバーと話し合って作った曲なんですよね。MC代わりじゃないですけど……こんなこと言うとアレですけど、「俺らは君に出会えてよかった」なんて日常生活ではまったく思わないですから。

──ライブのときはそう思う、と。

そうですね。今はステージの上だけが自分の唯一の存在価値だと思ってます。さっきも言ったように、自分たちにヴィジュアル系シーンから出ていくという選択肢はなくて。お客さんは仲間だと思ってるし、この人たちに何を伝えればいいだろうって考えるんですよ。例えば生きる喜びを与えるって、なかなか難しいじゃないですか。「DEZERTが生きがいです」って言ってくれる人もいて、もちろんうれしいですけど、それだけじゃダメだぞって思うし(笑)、依存するのはよくない。あくまでもエンタテインメントとして楽しんでもらってそれぞれDEZERTを愛してくれたらうれしい。

──未来永劫、依存できるわけでもないだろうし。

でも、「今日ライブで会えてよかったと思いたいよね」は言えるんじゃないかなって。それを自分自身が思いたいんですよ。そう思えたら、「明日もがんばろう」というところにつながるんじゃないかな、と。会場限定のCDだから、この曲を入れたんですけどね。次のアルバムに入れるかもしれないけど、まずはライブで聴いてほしいので。この曲を披露しにいくツアーになると思いますね、今回は。

──なるほど。それにしても千秋さん、「まず自分がどうしたいか、どうありたいか」を重視する姿勢はブレないですね。

そこがブレてしまったら、バンドが止まるときなんだろうなと思います。ファンに何かをしてあげられるとは思わないし、「この1曲で人生が変わった」みたいなことも起きない。ただ、矛盾しているかもしれないけど、「これで人生が変わる」と思っていないと曲は作れないんですよ。この曲で人の人生を変えてやろうって「聴く人は関係ない、俺の好きな音楽をやる」では、絶対に届かない。お客さんは何も気にしないでいいんですよ。ジャンプしたい人はすればいいし、頭を振るのが好きだったらすればいい。それでいいと思うんですけど、曲を作るときは「この1曲で俺や誰かの人生が変わるかもしれない」と思っているし、聴いた人が「DEZERTに出会えてよかった」と感じたら、俺らの未来につながるし、みんなもハッピーじゃないですか。もちろんつらいこともいっぱいあるだろうけど、そこはみんなでがんばっていこうよってことですね。

ツアー情報

DEZERT LIVE TOUR 2023 “きみの脊髄と踊りたいんだっ!!”ツアー

  • 2023年6月17日(土)神奈川県 CLUB CITTA'
  • 2023年7月1日(土)新潟県 studio NEXS
  • 2023年7月9日(日)宮城県 Rensa
  • 2023年7月15日(土)福岡県 DRUM Be-1
  • 2023年7月16日(日)福岡県 DRUM Be-1
  • 2023年7月22日(土)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2023年7月23日(日)香川県 高松MONSTER
  • 2023年7月29日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2023年8月26日(土)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2023年8月27日(日)大阪府 なんばHatch

DEZERT SPECIAL LIVE 2023 -DEZERT-

2023年9月23日(土・祝)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)

プロフィール

DEZERT(デザート)

2011年に結成された千秋(Vo)、Miyako(G)、Sacchan(B)、SORA(Dr)による4人組ロックバンド。2012年より音源を発表し始め、2013年8月に1stアルバム「特製・脳味噌絶倫スープ~生クリーム仕立て~」をリリースした。2013年にはhideのトリビュートアルバム「hide TRIBUTE III -Visual SPIRITS-」で「D.O.D.(DRINK OR DIE)」をカバー。2017年にはMUCC、D'ERLANGERのトリビュートアルバムに参加している。2018年に入ってからは主催ツアー「DEZERT Presents 【This Is The "FACT"】 TOUR 2018」を実施し、アルルカン、NOCTURNAL BLOODLUSTらと各地で対バンを繰り広げた。2018年8月にMAVERICK DC GROUPの新レーベル・MAVERICKより2年半ぶりのアルバム「TODAY」を発表。2021年7月にアルバム「RAINBOW」をリリースした。2022年6月には初の東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)単独公演を行った。2023年はライブ活動を精力的に展開しており、9月23日には東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でワンマンライブを開催する。