でんぱ組.incインタビュー|アップデートを繰り返して最強グループへ、幅広い音楽性で魅せる「DEMPARK!!!」

でんぱ組.incのニューアルバム「DEMPARK!!!」がリリースされた。

「DEMPARK!!!」は新体制初のオリジナルアルバム。電波ソング由来の雑食性は個性あふれるメンバーの増員によりさらに強まり、でんぱ組.incの持ち味であったジャンルレスな音楽性をさらに拡張している。

昨年2月に愛川こずえ、天沢璃人、小鳩りあ、空野青空、高咲陽菜がグループに加入してから約1年半。彼女たちが“でんぱ組.incらしさ”と向き合い、駆け抜けてきた1年半とはいったいどんな期間だったのか。育休によって活動を制限している古川未鈴、体調不良で欠席した愛川を除く7人に話を聞いた。

取材・文 / 大山卓也

アルバムは新体制の1年半で見てきた景色

──「DEMPARK!!!」はでんぱ組.incのさまざまな面が詰まったアルバムになりましたね。通して聴くと曲調の多彩さに驚かされます。

相沢梨紗 うん、すごくでんぱ組.incだな!と思います。めちゃくちゃ高速な電波ソングからちょっとおしゃれな曲、音楽的に難しい曲まで、いろんなタイプの曲が詰まってて、それが私たちアイドルの声で歌われてる。そこにいい意味での違和感があると思うんですよね。

──先行配信で「初体験」や「好感Daybook♡」を聴いたときは明るいポップス路線でいくのかなと思ったりもしましたが、そうでもなかったですね。

高咲陽菜 1曲だけで完結するんじゃなく1年かけて曲を出していく中で物語みたいに全体像が見えるようになるんだよ、という話をYumiko先生(振付演出家)がしてくれました。

藤咲彩音 「初体験」や「好感Daybook♡」はJ-POPのフィールドでも通用する曲だったりして、どの曲も尖ってて個性が強いんですけど、これが新体制になって1年半の軌跡というか私たちが見てきた景色なんですよね。

相沢 全曲尖ってるから逆にうまく収まるのかも。「DNA」があることで「ドキ+ワク=パレード!」の聞こえ方がまた変わってきたりするし。

高咲 私はいつも新曲をもらうたびに「でんぱ組.incってこんな曲も歌えるんだ!」と思ってたんです。毎回“新しい”を更新してて、それがギュッと集まってるのが「DEMPARK!!!」なのかなって。これを聴いたら遊園地みたいにいつでも楽しくなれる。「こんなにデラックスでボリューミーでいいんですか?」と思ってます(笑)。

──でんぱ組.incの入門編にもいいですよね。アルバム1枚で幅広い音楽性がちゃんと伝わります。

天沢璃人 うん、わしみたいにでんぱ組.incをずっと見てきたわけじゃない人にも刺さるアルバムだと思います。でんぱ組.incに入ってすぐの頃は「自分じゃなくてもいいやろ」みたいな気持ちが強かったけど、このアルバムの1曲1曲を歌っていく中で自分がどんどん変わっていった気がして。「この曲をもらったときはこういう気持ちだったな」と鮮明に思い出せるくらい衝撃的な曲たちがそろってます。

空野青空 いろんな作家さんのフィルターを通したでんぱ組.incが詰まってる感じですよね。自分でも歌っていく中で「こういう表現もアリなんだ!?」と気付かされたりして。

相沢 あとは私たちが長く続けてきたおかげで、いろんなきっかけででんぱ組.incを好きになってくれた方たちがクリエイターとして参加してくれてるんです。ゆっきゅんもそうだし、眉村ちあきさんとかもめちゃくちゃ愛情を込めて作ってくれて。私たちがずっとアキバの文化に浸かってたからこそFICEのe-nneさんが参加してくださってるのも不自然じゃないと思う。みんなの愛を感じてます。玉屋(2060%)さんとかヒャダインさんとかはお兄ちゃんみたいな存在なので常にいてくれないとだし。

藤咲 おまいつだよね。浅野(尚志)さんとか釣(俊輔)さんとかもそうだし。みんな大好きです。

古川未鈴

古川未鈴

相沢梨紗

相沢梨紗

藤咲彩音

藤咲彩音

死ぬときに全部思い出したいのに

──アルバム書き下ろしのボーカル曲は「ゆらめく空中戦」「DNA」「プロタゴニスト」の3曲です。「プロタゴニスト」は眉村さんらしいエモさが爆発してますね。

鹿目凛 「プロタゴニスト」の仮歌音源をもらったのが(でんぱ組.inc Zeppツアー2022「お前らDEMPARKまで行くんだろ?乗りな!」)福岡公演の日の朝で、私そのとき前乗りしてホテルで準備してたんですけど、ツアー初日だし緊張や不安もある中でこの曲を聴いて勇気をもらえました。背中を押してくれた曲だなって私はそういう思いがあります。

藤咲 「まだはがせない絆創膏があるの これはね あれはね 全部覚えてます」という歌詞が眉村さんから見たでんぱ組.incなのかも。みんないろんな絆創膏を貼ってるけど治りかけでも油断しちゃダメだよ、自分の証として残しておいていいんだよって。過去もひっくるめた自分たちらしさを許された感じがして、ここ聴くといつも泣きそうになっちゃう。

──ウ山あまねさん作詞、H ZETT Mさん作曲の「ゆらめく空中戦」は、H ZETTRIOによるジャジーなアレンジも効いていて、これもまたでんぱ組.incの大切な一面という感じがします。

空野 新体制になってこういう曲をやったことがなかったんで「ついに来たか!」みたいな。音源もパンチあるんですけど、ライブでこれをどう肉付けして表現していくのかを考えると興奮します。

藤咲 でもどの曲も歌入れが難しかったよね。一気に3曲怒涛のレコーディングで「この山をなんとか越えねば」と思いながら歌ってました。あおにゃんも泣いちゃってたし。

空野 「DNA」で泣かされた人が何人かいるんです。特に1人ずつ詩を読んでいくポエトリーの部分は自分のことを言われてる気がしてグッときました。

──「DNA」はmekakusheさんの詞曲に木下龍也さんによるポエトリーが加わって、切なくも美しい世界が描かれていますね。

空野 ゾクッとしちゃった。泣きながら読んだテイクはさすがにボツになったけど。

藤咲 なんでこんなに私たちのことを知ってるんだろうね。

小鳩りあ 「DNA」はmekakusheさんがレコーディングにも立ち会ってくださったんですけど、私も直前まで泣いてて「今日は歌えないかもしれない」と思いました。せっかく来てくださってたので気合いでどうにか乗り越えたんですけど。

──特にどのフレーズが刺さりましたか?

小鳩 例えば「からだの中の細胞を探しても 見つからないから わたしの中の才能を凝らしても かなわない あの子には」とか「あこがれちゃって苦しいや」とか。私自身すごく劣等感を持って生きてる人間なので。普段ネガティブな気持ちを直接話すことはないのに歌の中ではそれを言葉にしなきゃならなくて、そこは苦しくて泣いちゃいましたね。

天沢 わしも「DNA」で泣いてしまって。特に「大丈夫、インクとかなしみなら かなしみのほうが先に尽きるよ」「この手紙の内容を忘れるいつかのわたしに 届くように」のところ。死ぬときに全部思い出したいのに、でも忘れちゃうんだよなって。

相沢 私は10年前ならネガティブなフレーズで泣いちゃってたと思うんですけど、今の自分が一番グッときたのは「話をしたり笑ったり 怒ったり そんなことがしあわせなんて ひとりぼっちじゃ きっと知らないままだった」のところ。「あ、これでんぱ組.incのことだ」と思えたんですよね。幸せだなって感じた瞬間をたくさん思い出して「うわー!」となっちゃいました。

思い出が今のメンバーで更新されてく

──そして3年ぶりの全国ツアー「お前らDEMPARKまで行くんだろ?乗りな!」が先日終了しました(参照:でんぱ組.inc、待望のツアーでいざ「DEMPARK」へ!決意の言葉とともに届けた新曲「DNA」)。りさちーは前回のインタビューで「これからでんぱ組.incがどうなっていきたいのかを示すツアーになると思う」と話していましたが(参照:でんぱ組.incインタビュー|新体制スタートから1年、逆境乗り越え全国ツアーで攻撃再開)、まさにその通りの内容になりましたね。

相沢 あのときはただ予感だけで話してたけど、ツアーを終えてでんぱ組.incは新しい成長期に突入するんだと感じられたので、うん、たぶん大丈夫です。今回は終演後もみんなで「楽しかったね」とか言ってて、そういう日々を積み重ねていけたらどんどん体も軽くなるし、もっと自由になれるはず。ライブのとき自由じゃないと「なんで生きてるんだ?」ってなっちゃうので。

「でんぱ組.inc Zeppツアー2022 『お前らDEMPARKまで行くんだろ?乗りな!』」東京・Zepp DiverCity(TOKYO)公演の様子。

「でんぱ組.inc Zeppツアー2022 『お前らDEMPARKまで行くんだろ?乗りな!』」東京・Zepp DiverCity(TOKYO)公演の様子。

──ここ最近のワンマンライブはメンバーのソロコーナーなどを織り交ぜた構成が印象的でしたが、今回のツアーは終始メンバー全員出ずっぱりでした。

藤咲 ずっと全員で歌ってましたね。MCもそんなにないし遅い曲も少なくて、途中「ちゅるりちゅるりら」くらいから意識が少しずつ薄れていくみたいな(笑)。

空野 アドレナリン出まくってましたね!

藤咲 「わっほい?お祭り.inc」とか「Kiss+kissでおわらない」みたいな初期曲もあって、あのへんの曲をやると昔の景色が見えるんです。いろんな思い出が走馬灯のように駆け巡って、それが今のメンバーで更新されてくうれしさがありますね。ちゃんと続けられてる証だなって。

天沢 でんぱ組.incの歴史の原点みたいな曲をやらせてもらえるのは本当にうれしいです。誇らしくなる。

高咲 私も初期曲をずっとやりたかったんです。今このタイミングで歌うと「おっ!」となるし、1年半いろんな新しい曲をやったからこそ初期曲がもっとよく聞こえたりするかなと思って。

「でんぱ組.inc Zeppツアー2022 『お前らDEMPARKまで行くんだろ?乗りな!』」告知ビジュアル

「でんぱ組.inc Zeppツアー2022 『お前らDEMPARKまで行くんだろ?乗りな!』」告知ビジュアル

最初は絶対できないと思ってた

──そのほかツアーで印象に残っていることはありますか?

相沢 「初体験」はライブでやり始めてから「いい曲だね」と言ってくれる人が増えたんですよね。音源もいいけどライブで聴いたらもっと好きになったって。「Kiss+kissでおわらない」とかも10年前の曲だけど、どの曲もライブでどんどん成長するし進化するんだなって。

──それで言うとライブバージョンの「MIKATAせずにはいられないっ!」は圧巻でした。超早口のボーカルと複雑なフォーメーションダンスに衝撃を受けたファンは多かったと思います。

空野 最初は絶対できないと思ってました。無理だろー!って感じで。

藤咲 でもやってみたら意外といけたんですよね。言われて気付いたけど確かに最初はかなり苦戦してたかも。今は平気な顔でやってるし、もう慣れちゃって特になんとも思ってないです(笑)。私たち本当に強くなったよね。びっくりしたわ。

──このツアーではセリフとラップパートを刷新した新体制バージョンの「でんでんぱっしょん」も披露されましたね。

高咲 ぶわーっと鳥肌立ちますよね。

小鳩 ラップパートにありったけの怒りをぶち込んでます(笑)。

天沢 わしも生きる活力を全部そこにつぎ込んでる。終わったあといつも死んでます。ライブだと歌詞は全然聞こえてないだろうけど、どうにかして目と耳に焼き付けてほしくて。

相沢 「One for All, All for Oneすら水と油っ!」ってフレーズがすごくよくて、One for AllもAll for Oneもねえよみたいな(笑)。怒りの感情のまま和解せずに終了なんです。

天沢 わしは「生きることは世知辛いっ!わたしも強くありたいっ!」のあと「昔の人ってめちゃスゴーーーイっ!!!」で終わるオチが大好き。

相沢 こっちは「うるせえ! 勝手に昔の人にすんじゃねえ!」って気持ちでやってます(笑)。