エッジの効いた曲が好き
──ここからはアルバム収録曲について聞かせてください。清竜人さん提供の「結婚してもMAMAになっても君は永遠にぼくのIDOL♡」は、やはりみりんさんの結婚を連想させますね。
古川 そうなんです。正直言えば、この曲を歌うのは怖いなって気持ちもあって。
──結婚発表後のインタビューで「みんながみんな『おめでとう』になるわけはない」「結婚発表で落ち込むファンの気持ちを考えてしまう」と話していましたね(参照:でんぱ組.inc「UHHA! YAAA!! TOUR!!! 2019 SPECIAL」古川未鈴インタビュー)。
古川 だから曲をもらったときは「また結婚のことを歌うのはどうなのかな」って。でも竜人さんがでんぱ組.incのことを思って書いてくれた曲だし、5年後とかに振り返って「あのとき歌ってよかった」と思えてる自分もなんとなく想像できるから。でもファンのみんながどう感じるかは、今も正直ちょっと怖いです。
──でも先入観なしで聴けば、ファンからアイドルへの普遍的な思いを歌った曲なので。
古川 うん、タイトルだけ見るとショッキングなんですが、曲を聴いていただいてそう思ってもらえたらうれしいですね。
──そしてアルバムには諭吉佳作/menさんの楽曲が2曲収録されています。
相沢 諭吉さんの曲は「形而上学的、魔法」の衝撃がすごくて、でも「もしもし、インターネット」はそこを軽く超えてきたなーという感じで。
根本 「もしもし、インターネット」はなんて言うんだろうな……さわやかさもありつつ、電子音や電話みたいないろんな音が入ってて、何度聴いても飽きないし、どこがサビかわからないみたいな構造がホントに最高で。こういうエッジの効いた曲、私はめちゃくちゃ大好きです。
──メロディや譜割が独特で、歌うの難しくないですか?
相沢 今回これだけじゃなく難しい曲はいっぱいありますね(笑)。
成瀬 確かにメロディの運びとかも、私が子供の頃からなじんできたタイプの曲とはちょっと違ってて、それこそ諭吉さんの曲はけっこう苦労したかも。でもその分成長できるからすごく楽しいです。
相沢 「桜が咲く頃に」という曲をLUCKY TAPESのKai Takahashiさんが作ってくださって。私、以前からLUCKY TAPESさんがすごく好きなんですけど、でも好きなのと歌えるのは別なんですよね。特にラップが苦手で、好きな曲なのにちっともうまく歌えないっていう……(笑)。
飽きないアルバム
──玉屋2060%さんによる「アイノカタチ」はストレートな曲調で愛を歌っています。
藤咲 Wienners節をドシドシ入れられた感じですよね。玉屋さんはいつも私たちに寄り添って曲を作ってくれてると思うんですけど、今回こんなにもWiennersっぽい曲を歌えるのが感慨深い。
成瀬 いいアルバムできたなあ(笑)。新曲もそうだし、シングルとして出た曲もめちゃめちゃ強いと思うんですよ。「子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡」とか超高速で、改めて聴くととんでもない(笑)。
藤咲 すごくでんぱ組.incっぽい曲もあるし、バラードもあるし、ちょっと不思議な曲もあって。飽きないアルバムなので名刺代わりにもなるかなって。
鹿目 バラエティ豊かだから、みんな自分のお気に入りの曲を見つけてほしいです。
──ぺろりんさんのお気に入りを挙げるとしたら?
鹿目 私は「星降る引きこもりの夜」がすごく好きです。
──の子さん(神聖かまってちゃん)が作詞・作曲を手がけた曲ですね。
鹿目 ストレートに気持ちに刺さる、心の底から嘘がない曲だなって。だからつらくなったときや疲れちゃったときに聴くと、ホントにがんばろうと思えるんですよね。
6人によるソロ曲の魅力
──そしてCDの初回限定盤Bにはメンバー6人のソロ曲も収録されています。みりんさんはつんく♂さん提供の「Me Me Me」という曲ですね。
古川 秘蔵の曲です。ソロイベントでは歌ってたんですけどやっとリリースできる。
──3、4年前に各メンバーソロ曲の企画があったものの、そのときはタイミングが合わずお蔵入りになっていたそうですね。
古川 そうなんです。これはそのとき作ってもらった曲で。モーニング娘。のオーディションは落ち続けた私だけど、つんく♂さんに曲を書いてもらえたことで人生の目標を1個クリアしたみたいなところがある(笑)。私はハロプロのマイナー調のちょっとセクシーな曲が大好きなので、そういうリクエストをさせていただきました。
──つんく♂さんからのメッセージは何かありましたか?
古川 直接お話はしてないんですけど「『Me Me Me』の『Me』は未鈴の『み』や!」っておっしゃってたらしいです(笑)。
──えいたそさんの「レジェンド・オブ・エイ」は作詞がふなっしーさん、作曲・編曲がNARASAKIさんという異色のコンビです。
成瀬 メタルを表現したくて一生懸命シャウトしました。展開がすごく多くて、物語調になってます。あと私DIR EN GREYが好きでずっと聴いてるんですけど、薫さん(DIR EN GREY)がギターを弾いてくださってて。ガチでいい曲です!
──ヘヴィメタルが好きなんでしたっけ?
成瀬 メタルというかヴィジュアル系の音楽が大好きでよく聴いてたんですよね。企画は3年前ですけど、ボーカルは今回改めて録ってます。
──りささんのソロ曲は、wowakaさんが作詞・作曲・編曲を手がけ、ヒトリエが演奏を担当している「アブノーマルQ」という楽曲です。
相沢 これも曲自体は3年前にできていて、レコーディングもその頃です。wowakaさんが生前に書いてくださった曲をやっと世に出せるのが本当にうれしくて。
──もともとwowakaさんのファンだったそうですね。
相沢 はい、ずっと大好きだったのでソロ曲の企画が出たとき「ぜひ」とお願いしました。曲も素晴らしいんですけど個人的には歌詞がホントにすごくて。最初から最後まで自問自答みたいな言葉で、希望なのか絶望なのかわからなくて、自分で歌ってるのに聴いてるといつも泣きそうになるんです。
──ピンキーさんは去年12月の幕張公演で披露した「群青エキスパンダ」ですね。
藤咲 はい、PandaBoYくんが今の等身大の私を描いてくれました。ちょっとだけ大人っぽいところもあるかな。でも背伸びしてない自分がいます。自分の気持ちとかTwitterで書いてることなんかも歌詞になってて。すごく大好きな曲になりました。
──ねもさんの「ゆめをみる」は、諭吉佳作/menさんの書き下ろし曲です。
根本 この曲は同じメロディが1個もないんですよ。Aメロからもう何メロまでいくんだみたいな展開で、後半の転調パートもグッとくるし。早く聴いてもらいたい。
──そしてぺろりんさんの「キミのハートは私のもの♡」は本人作詞のナンバーです。
鹿目 そうなんです。人生初のソロ曲で、人生初の作詞をするっていう。
──ねもぺろ「しゅきしゅきしゅきぴ♡がとまらないっ…!」にも通じるかわいらしい世界ですね。
鹿目 「しゅきしゅきしゅきぴ♡がとまらないっ…!」のセリフ部分や「♡夜ふかし乙女のドキドキはっぴぃでぃず♡」のタイトルを考えたのと同じ感じで書いてみました。
──あの曲名はぺろりんさんが考えていたんですか。今回の曲のサビでは「いくよ♡パララピロロピカピカリン / プルルン ペロロン ピカルルルン」という謎のフレーズもありますが。
鹿目 そのサビの部分は自分の中学生時代の気持ちを書いてみました。
私にはでんぱ組.incしかできない
──ところで素朴な疑問ですが、でんぱ組.incの歌詞には「でんぱ組.inc」や「DEMPA」という単語が頻繁に出てきますよね。そんなアーティストはあまりいません。
古川 ホントだ。BRAHMANさんが「♪BRAHMAN~」って歌ってるようなもんですよね。
──Mr.Childrenが「♪我々はミスチル!」と歌うことはないですし。
藤咲 確かに! うちら「でんぱでんぱ」って言いすぎだ(笑)。
相沢 なんでだろうね。
古川 うーん、それはやっぱりでんぱ組.incがもともとしょうもない人間の集まりで(笑)、この活動自体リハビリみたいなものだからかもしれない。自分たちのことを歌って人間力を上げていくみたいな?
──最初のきっかけは「W.W.D」「W.W.D II」ですよね。自分たちのことを歌ったドキュメンタリースタイルの楽曲が受け入れられて日本武道館まで駆け上がった。でもその調子でずっと闇を見せ続けていくわけにもいかず。
成瀬 闇が枯れちゃう(笑)。
古川 確かに「昔いじめられてた」みたいなことをずっと歌ってても、これ以上あんまり広がらんぞっていうのは思ってました。
──その考えのもと、ドキュメンタリー路線からエンタメ路線に舵を切ろうとしたタイミングがありましたね。
古川 代々木ですね。
──はい、2015年2月の代々木第一体育館2DAYS直前のインタビューで皆さんは「シルク・ドゥ・ソレイユやディズニーランドみたいな完成度の高いエンタテインメントショーを見せたい」と話していて、実際のライブもお芝居の要素を加えたストーリー仕立ての構成になっていました(参照:でんぱ組.inc「WWDD」インタビュー)。
古川 でも代々木をやってみて、我々にはまだ早かったなっていうのは正直あったかも。お客さんには盛り上がってもらえたし、すごくいいライブだったと思うんです。でもこれはメンバーにしかわかんない感覚かもしれないけど、まあちょっと無理をしてたのかなって。
藤咲 そうだね。
古川 少しちぐはぐだったかもしれない。
──そうした時期を経て徐々にグループはまとまりを欠くようになり、2017年1月にはライブ活動が止まってしまいます。
古川 うん、結果的に我々はやっぱりでんぱ組.incしかできなかったんですよね。とにかく完璧ではない人間がそろってしまったグループで、私自身もハロプロやSPEEDに憧れてたけど、本当はわかってるんです。私にはでんぱ組.incしかできない。自分自身を出していくしかなくて、それでいつの間にかまたドキュメンタリーになってる。……っていうことですよね?
──そう感じます。ただ再びドキュメンタリー路線に立ち返って自分たちのことを歌っていても、今は“闇”ではなく“愛”を歌うことができています。
成瀬 ホントだ。まあ今も自分の中に闇がないって言ったら嘘になるんですけど、壁にぶつかったときに「もうダメだ、人生終わった」じゃなくて「どうしたらポジティブになれるか考えよう」という思考に変わってきた気はします。
古川 私、実は今言われるまで自分たちがドキュメンタリーを見せてるって気付いてなかった。特に去年は自分のことで精一杯で、ひたすら悩んでて周りが見えてない状況で。それぐらい一生懸命やってきた結果、自分でも気付かないぐらいリアルなドキュメンタリーになってたのかも(笑)。
藤咲 うん、どん底を経験したからこそ今があるんだと思う。別にあの頃も暗くしたかったわけではなくて、それしかできなかっただけなんだけど。でもねもぺろが入って、みりんちゃんが結婚して、それこそ愛を知る、支え合うことができて、そのおかげで今の姿になれたのかなって。
古川 そうなのかな。だったらうれしいなって思いますね(笑)。