DATS|変革期を経て、より大きなところへ

忖度せずぶつけ合うことで生まれた化学反応

──新作の「オドラサレテル」は、途中で話があったようにビッグビートやマンチェスターの要素を消化したものになっていますが、そもそもなぜトラックベースの作風から、生演奏の割合を増やす方向性へと向かったのでしょうか?

MONJOE 打ち込みの音楽って、時代も時代なだけに、すごくありふれてしまっているから……飽きてきちゃって(笑)。僕はバンド以外でもプロデューサーとして打ち込みをやるから、せっかくバンドをやるんだったら、“生きてる音”を聴きたいなという思いが強くなってきたんですよね。あとは、アーティスト活動をしていく中で、オリジナリティがないとダメだと思うんですけど、DATSはそのオリジナリティを歌詞とかメロディとかボーカルの感じだけじゃなくて、ちゃんと音で出していきたいというのが明確にあるので、オリジナリティをちゃんとパッケージする手法として、生で録ることがベストなんじゃないかなと。

──前作にオリジナリティがなかったとはもちろん思わないけど、打ち込み全盛の時代の中でより強烈なオリジナリティを出すために、生演奏のエネルギーを求めたと。

大井一彌(Dr)

大井 エレクトロのプロデューサーとゴリゴリのロックが合わさって、クラブでもライブハウスでも行けるみたいなバンドが、90年代にたくさん出てきたと思うんですけど、ああいう交流が今また行われている気がして。新進気鋭のトラックメーカーであるMONJOEと、60年代から90年代の音楽まで幅広くプレイできる生身のギタリストとしての吉田巧が、忖度せずにお互いの持っているものをぶつけ合った。最初は探り探りだったけど、今回のEPはその時期が終わったサインかなと思っていて。

──まさに、僕が今回のEPから連想したのもThe Chemical Brothersとノエル・ギャラガーのコラボレーションでした。もちろん、The Stone RosesやPrimal Scream、あとは00年代に入ってのThe Musicとかも含めて、あのあたりの感じを今に更新している感じがする。実際に、バンドの中ではどんなアーティストを共有していましたか?

大井 今言ってくださった感じです(笑)。

吉田 あとはHappy Mondays、Inspiral Carpetsとか。

大井 異なるジャンルとか文化を混ぜるためには、それが対極である必要があると思うんです。誰が弾いてもいいようなギターを弾いている人と、どこにでもあるようなトラックを作っている人が一緒にやっても、化学反応は生まれない。でも、トラックの上で弾いたことがないようなギタリストと、こんなに弾ける人と一緒にやったことがないトラックメイカーという、この合わさり方が化学反応を生んだと思うんですよね。

早川 お互いの軸は絶対にぶれないですからね。お互いがそれぞれ成立した上で混ざり合うのが面白いんだろうなって。

吉田 “寄せる”ことがないですからね。僕はふざけて遊ぶのも大好きなので、「これはやり過ぎだろ」というプレイをやってみたりもするんですけど、それがMONJOEからすると面白いものになって、逆にそれは自分にはない感覚だったりする。だから、わりとサンプルのような気持ちで、いろんなプレイをして、好きなものを使ってもらうんです。そうすると、自分が弾いているんだけど、できたものはちょっと自分じゃないような気がするというか、MONJOEというフィルターを通ったものができるので面白い。どうなるかわからない、読めないところに、むしろ可能性を感じるんですよね。

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バンドをやってるのにスケールが小さいのは嫌

──MONJOEくんは今のメンバーになってからの制作の変化をどのように感じていますか?

MONJOE 今は曲がセッションからできるんですけど、それは前まではありえなかったんです。これまではパソコンでデモを作るのが曲作りの第一歩だったんですけど、今はスタジオでジャムセッションをして、「今のフレーズで曲作ってみない?」みたいな感じなんです。

──0から1がジャムでできてるんだ。

MONJOE そうなんですよ。普通のバンドからしたら当たり前かもしれないけど、僕らからするとすごく新鮮なんです。さっき巧が言っていたことの反対ですけど、トラックメイカーとしてはきれいにまとめるところを、ギターの勢いでグイっと行っちゃうアレンジを持ってこられると、すごく面白くて、どんどん作りたくなる。あと、自分はボーカルでもあるんで、「歌いたくなってきた」ことも大きいですね。もともとギターボーカルだったので、ギターに乗せて歌を歌うことの気持ちよさを思い出させてくれたというか。

──もともとはNirvanaが大好きだったって話だし、その頃の気持ちが煽られる?

MONJOE 気持ちが解放できるというか……やっぱり、デカいことをやりたいんですよね。自分の好みとして、バンドをやってるのにスケールが小さいのは嫌で、それこそOasisとかNirvanaとかを最近また聴きまくってるんですよ。ああいうバンドを今でも聴きたくなるのは、自分の気持ちや夢を投影できるからなんですよね。僕らもそういう存在になりたいし、そういうものを作りたい。今はデカいことがやれるメンバーもそろったので、そこをさらに磨いていきたいなと思っています。

──MONJOEくんは前からそういう考えを持ってたと思うけど、トラックメイクと生演奏の割合を試行錯誤し続けて、最良のバランスが見えてきたっていうことかもしれない。

MONJOE この間何かのインタビューでKing Gnuの常田大希が「自分が中高の頃に聴いていたのは夢を乗せられるバンドで、フォーマットとしてあるポップスだけがポップスなんじゃなく、どんな形であれ、夢を乗せられる音楽がポップスなんだ」みたいなことを言ってたんです。なんか自分がやりたいことを言ってくれた気がしたんですよね。

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メンバー間の微妙な互換性の悪さがいい

──リードトラックの「オドラサレテル」はDATSの新たな名刺代わりとなる強烈な1曲だと思うんですけど、実際どのように作っていったのでしょうか?

MONJOE ある人からの提案として、「1リフで展開できる、シンプルな曲を作ってみなよ」と言われて、それを試験的にやってみたのが「オドラサレテル」の原型だったんです。で、ちょうどそのとき「オドラサレテル」というワードを使いたいと思って、この言葉とリフがうまくハマったんですよね。荘子itがダンサーのハラサオリさんをフィーチャーしたイベントを企画していて、そのタイトルが「踊らされずに踊ろう倶楽部」だったんです。全然踊れない音楽で踊るというか、音にリアクションすることを大事にするというコンセプトで、そこで一彌と俺とでジャムセッションをしたら、すごく楽しくて。で、普段ステージに立ってフロアを踊らせてる立場の自分たちも含めて、みんな“踊らされてる”んだなって気持ちになったんですよね。しかも、ネガティブなイメージだけじゃなくて、ポジティブにも捉えられるじゃないですか? 純粋に、音楽に踊らされてる自分がいるという。

──「踊り出さずにはいられない音楽だ」っていう意味にも取れますよね。

MONJOE そうそう、そのダブルミーニングがすごく魅力的だったので、使わせてもらいました。初めてワンワードから広げるという歌詞の書き方をしたんです。バンドとしての音の作り方、自分の歌い方、歌詞の書き方、いろんなものがこの曲で定まったというか、DATSとしての新しい素材がこの曲でそろったので、新体制での最初のリード曲は絶対これだなって。

──じゃあ、この曲のギターリフはMONJOEくんが作ってるんですね。

MONJOE でも、最終的には巧がアレンジしてくれて、それはやっぱり自分だけだと思い付かなかったですね。

吉田 僕ずっと間違えて弾いてたんです(笑)。バンドで合わせてるときは気持ちよかったんですけど、最終的なレコーディング前のプリプロのときに、1回振り返ってみようと思って最初のデモを聴いたら、全然違って。で、MONJOEのはイントロから同じリフを4回繰り返してたんですけど、僕が間違えて弾いてたのと交互にして……一丁上がり(笑)。

──ある種の誤解から面白いものが生まれるっていうのは、バンドの醍醐味ですよね。

大井 メンバー間の微妙な互換性の悪さがいいんですよね(笑)。扱ってる言語がMONJOEと巧でちょっとずれていて、何か言ったときの理解の仕方が少し違う。各々のフィルターを通してその情報を受け取るから、うまいことかみ合わないのが逆に面白い。

吉田 「ここはローゼズっぽくしよう」と言ったときに、それぞれが考える「ローゼズっぽさ」が微妙に違うんですよね。たぶんMONJOEはグルーヴとか全体の雰囲気のことを言っていて、僕はそこのギタリストが大好きなので、そのことしか考えないから、めちゃくちゃ弾けばいいんだと思ったり(笑)。

──「一番好きなギタリストは?」と聞かれたら、ジョン・スクワイア?

吉田 そう……。

──まあ、一番って難しいですよね。

吉田 でも、限りなくそれに近いと思います。ヒーローの1人です。