永井聖一との制作が導いた“kawaii”の形
──「前世は武将」の作曲・編曲は永井聖一さんです。制作はどんなふうに進めていったんですか?
今お話したようなテーマだったり、楽曲のリファレンスを含めて説明させていただいて。永井さんはQUBITでもご一緒しているし、定期的にスタジオに入ったりもしてるので、お声がけしやすかったんですよね。バンドのメンバーともどんどん絡んでいきたいし、今回のテーマに一番合うのは永井さんなのかなと。
──渋谷系の系譜という意味でもぴったりですよね。
そう。その礎を築いてきた方なので。あと、永井さんもかわいいものが好きなんですよ。今はウサギを飼ってらっしゃって。そのあたりはXを参照していただければ(笑)。
──わかりました(笑)。それだけ価値観を共有できていれば、制作はスムーズですよね。
1回打ち合わせさせていただいて、永井さんは「了解!」みたいな感じでした。デモもすぐに送られてきて、「いいですね!」と返信して、やりとりもすごく早かったです。サウンドが“kawaii”に振り切ったポップスのイメージだから、歌詞には相反する言葉というか、現実的だったり、ちょっと毒のあるものを乗せたくて。それが自分のカラーでもあるのかなと思うし、明るい音に明るい歌詞を付けて歌うのはしっくりこないんですよね。あと、これまでは生と死の狭間にいすぎたなと思って。特にコロナ禍の頃は自己と向き合う時間が増えて、いろんな本を読んでたんですよ。心理学、生物学、社会行動学とか、人間にまつわる本をソースにするようになって、ちょっとアビスに近付いてしまって……(笑)。ポップスのフィールドに行くんだったら、もっと浮上しなくちゃいけないし、頭を柔らかくしなくちゃって思ったんです。もうちょっと触れやすい言葉選びというのかな。なので「前世は武将」の歌詞も、だいぶ肩の力を抜いて、リラックスして着手した感じはあります。わりとお気楽マインドですね。
──言葉のチョイスはポップですけど、その中にはシリアスなものも含まれているように感じます。「自己犠牲と救済の無限ループ発動中 さよならしたいけど──いまじゃない」だったり。
自分の好きな言葉しか書きたくないというのもあると思います。常日頃からめっちゃ言葉を探しているし、本が出典元の言葉もあったりもして。シリアスなエッセンスは入ってるかもしれないですね。
──やっぱり本なんですね。ちゃんと出典に当たるのはとてもいいことだと思います。
インターネットをあまり信用してないので(笑)。ずっとその中にいたというか、インターネットに触れてきた世代でもあるので、リテラシーはわりとあるのかなと思っています。
サバイブしていくには武将マインドが必要
──「前世は武将」というタイトルはどこから着想を得たんですか?
奇をてらったわけではないんですよ。さっきお話ししたように“生と死”みたいなところから離れようとしたときに、「近いところからテーマを取り込んでいくしかないな」と思って。このタイトルも、実は実際にあったことがきっかけになっています。海外でライブをやったとき、空き時間に占い街みたいなところに行ったんです。近くにお寺があったり、言ってみたら趣のある観光地なんですけど、そこで前世を見てもらって。米粒をまいて、その形を見るという占いで。マネージャーがやってみたら、「前世は武将ですね」って(笑)。
──それが由来なんですね!
はい(笑)。彼女はもともと親友で、独立したときにマネージャーをやってもらうことになって。確かに武将っぽいというか、女性でありながらちょっと男性的なところがあるし、いろいろ作戦を練ってくれたり、頼りになるんですよ。で、そのときに「“前世は武将”っていいな」と思ったんです。身内ネタではないけど、友情の関係性をメタ的に表現してみたらどうだろうと。「大変な世の中をサバイブしていくには武将マインドが必要じゃない?」と感じて、そこからギャルのマインドみたいなものにつながった。有象無象の中、どうにか生き抜く……そういうマインドって、今の若い世代からもけっこう感じているんです。もちろん歌詞ではDaokoナイズして書いてますけど、“私たちの応援ソング”みたいな気持ちもあります。
──しかもそれが今のDaokoさんのポップスに結び付いているという。
そうですね。メジャーレーベルにいたとき、パンチラインというものをかなり意識していて、いろいろ考えて試したんですけど、行き着いたのは個人的な感情だったり、普通に友達と話していて「そうだよね!」みたいな共感性がある言葉だったりして。今は「それ以外のことは私にはわからん!」という感じです。自分に一番近いところ、友達同士の仲で起きたことを歌うことも含め、日常にあるちょっとしたきらめきが大衆性につながるヒントなのかなと思ってますね。
──ちなみに「前世は武将」のレコーディングでは、どんなテイストの歌い方を意識しましたか?
フロウもいろいろ試して「ちょっとかわいすぎたかもね」みたいな話をしながら。永井さんのサウンドに対して、一番しっくりくる声質をセレクトしました。
──「前世は武将」は11月リリース予定の新作EPからの第1弾シングルです。EPの制作は今も続いているのでしょうか?
今いろいろと仕込んでいます。若き才能たちとコラボレーションしたいという気持ちもあるし、どんどんやりたいことを叶えていけたらなと。9月には初めてのアジアツアーもあるし、視野を広げて活動していけたらなと思っています。
──Daokoさんのファンは世界中にいますからね。
日本の音楽やカルチャーが好きな方が多いと思うので、海外の要素を取り入れるよりも、日本のものをさらに煮詰めてお届けするイメージを持っています。
公演情報
THE “YOU” ZIZAI ASIA TOUR 2025
- 2025年9月5日(金)深圳 HOU live
- 2025年9月7日(日)上海 VAS ear
- 2025年9月12日(金)バンコク Lido Connect
- 2025年9月14日(日)台北 MOONDOG
- 2025年9月20日(土)ソウル YES24
- 2025年11月28日(金)東京都 WWW X
プロフィール
Daoko(ダヲコ)
1997年生まれ、東京出身の女性ラップシンガー。ニコニコ動画のニコラップに投稿した楽曲が話題となり、2012年に1stアルバム「HYPER GIRL-向こう側の女の子-」を発表。ポエトリーリーディング、美麗なコーラスワーク、ラップを絶妙なバランスで織り交ぜたドリーミーな世界観で人気を集める。2015年に高校卒業と同時にDAOKO名義でメジャーデビュー。2018年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。他アーティストとのコラボレーションも多く、これまでに米津玄師や岡村靖幸、ベック、中田ヤスタカ、スチャダラパー、MIYAVIらと共演している。2019年に個人事務所てふてふを設立し、2021年に自主レーベルを設立以降はDaoko名義で活動。2023年4月からはバンド・QUBITでの活動も行っている。2024年5月に約4年ぶりとなるフルアルバム「Slash-&-Burn」を発表。2025年にバンダイナムコミュージックライブの新レーベル・UNIERAへの移籍を発表し、7月に配信シングル「前世は武将」をリリースした。9月からアジアツアー「THE “YOU” ZIZAI ASIA TOUR 2025」を行う。小説の執筆、絵画個展の開催、女優業など多様なクリエイティブ表現を続け、国内外から注目を浴びている。
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