DAOKO|挑戦を続ける彼女が突き詰めたアイデンティティ

運命的なものを感じた

──アルバムの共同プロデューサーである片寄明人さんは、メジャー1stアルバム「DAOKO」のサウンドプロデューサーの1人でしたが、今回のアルバムで再び組んだのは?

片寄さんとは1stアルバム以来ずっと交流が続いていて、去年のYMO結成40周年を記念したトリビュートコンサート(「Yellow Magic Children ~40年後のYMOの遺伝子~」)のとき、私と片寄さんに出演の依頼があって一緒にステージに立つことになったんです。また片寄さんと一緒に音楽が作れたらと思っていたタイミングでもあったので、運命的なものを感じて(プロデュースを)お願いしたいなと思いました。

──バンドでのライブのディレクションでも片寄さんは活躍されたそうですね。

片寄さん自身は表舞台には立たずに裏方に徹してくれたんですが、セットリストも一緒に考えてくれて、バンドのメンバーとのコミュニケーションやいろんな意見のやり取りをフォローしてもらいました。片寄さんはご自身もアーティストでもあるから、アーティストの気持ちがわかるプロデューサーなんですよね。おかげで私も音楽に集中することができました。

──DAOKOさん自身もプロデュースや作曲に携わり、今まで以上にアルバム制作に深くコミットしていますね。

私にもアイデアやひらめきはあるんですけど、それをより音楽として素晴らしいものに昇華していくには自分1人ではまだ追いつかないところがあるんです。自分の得意分野ではない部分では、やはり信頼できる人のアドバイスやジャッジが欲しかった。信頼している人なら、例え意見が違ったとしても冷静に耳を傾けることができるし、自分の考えを素直に伝えることもできる。今回は自分で作曲して、デモを作ったんですが、私のつたないデモをアレンジしてもらううえでも片寄さんのプロデュースにすごく助けられましたね。

スケッチでイメージを共有

──「anima」には多彩なトラックメーカー、ミュージシャンが参加していますが、DAOKOさんが水面下で動いている間に出会った人もいるんですか?

「VOICE」という曲で共作、アレンジしてくれたVegpher(杉本佳一)さんは、私が17歳の頃によく聴いていたアーティストのトラックを手がけていて、杉本さんはいろんな名義で活動されているんだけど、友人が主催するクラブイベントでたまたまお会いしたことがきっかけでした。水面下で動いているときは、相手に自分のイメージを伝えるためにキーワードだけでなく、絵を描いて、「こういう世界観なんです」と見せたりしていたんです。

「VOICE」イラスト

──その絵はどんな感じのものなんですか?

水彩のスケッチみたいなものですね。例えば海の中だったら、私がイメージする海の青はこんな青だというのを絵なら伝えやすいじゃないですか。絵は言葉を補填するためでもあって、それを見てもらって「あなたの解釈で自由にトラックで描いてください」というニュアンスで進めていったんです。口頭で説明するより、私には合っている気がしました。

──絵を描くことと、音楽を作ることはDAOKOさんの中では共通した何かがありそうですね。

今回はセルフプロデュースでもあるので、そういう新しいやり方にも積極的にトライしてみようと思って。もともと絵を描くのは好きだし、音楽を作るときも頭の中に先行している情景やイメージがあるから、絵にしやすいんです。アルバムの中では「VOICE」や「海中憂泳」はそうですね。「海中憂泳」のTyme./Tatsuya Yamadaさんも17歳の頃にお世話になったトラックメーカーで、念願叶って共作することができました。

「海中憂泳」イラスト

──インディーズ時代からの付き合いであるDJ6月さんとも「愛のロス」「ストロベリームーン」を共作していますが、そこには原点回帰という意味合いもあったんでしょうか?

気になったトラックメーカーに自分で連絡をとって曲を作ることは、ニコニコ動画に投稿していた頃やインディーズの頃からやってきたので、確かに原点に戻ったような感じはありますね。今でもライブで歌っているDJ6月さんの曲は多いし、付き合いも長いので、何も言わなくても私の好きなトラックを作ってくれるという信頼感があるんですよ。あの頃より経験値も上がって、自分でも肩の力を抜くことができる曲になったと思います。そういう曲もあれば、ファイティングポーズを取るような曲もあるし、ゲーム音楽の大御所の田中宏和(Chip Tanaka)さんにお願いした曲(「帰りたい!」)もある、そのバランスが自分らしいのかなと。

──これまで多くのコラボレーションを重ねてきたDAOKOさんですが、今回はスチャダラパーとの「ハイセンスパイセン」が収録されました。

スチャダラパーは大好きだったので、これはまさかのうれしいコラボでしたね。「今夜はブギー・バック」とか小さいときから聴いているので、自然と影響を受けているなと感じたし、自分の作ったサビを歌ってくれたのは単純に感動しました。

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デモを聴いて涙