音楽ナタリー Power Push - DAOKO
覚醒を経て見つけた、自分なりのポップス
DAOKOが2ndシングル「もしも僕らがGAMEの主役で / ダイスキ with TeddyLoid / BANG!」をリリースする。昨年10月発表の前作「ShibuyaK / さみしいかみさま」は1stシングルにしてダブルA面という力の入った1枚だったが、今回は方向性が異なる3曲を主役にしたトリプルA面。さらに新曲「FASHION」も収められており、彼女の新しい魅力の詰まった意欲作となっている。
女子高生ラッパーとしてインディーズシーンで注目を浴び、昨年3月にアルバム「DAOKO」でメジャーデビュー、同時にそれまで伏せていた顔を明かし、ライブツアーやイベント出演を重ねる中で、心境に変化が訪れたと今回のインタビューで語ったDAOKO。果たして彼女はどんな思いで今回のシングルを作り上げたのか。本人が「覚醒」とまで言う意識の変化をたっぷり語ってもらった。
取材・文 / 猪又孝 撮影 / 後藤倫人
DAOKOの覚醒
──今回のシングルは、いつ頃から制作していたんですか?
今年に入ってからです。夏はずーっと制作をしていて、DAOKOを練る時期でした。さまざまな音楽に触れたり、作品を通して栄養補給をしていました。
──練る時期?
今回のシングルを聴いてもらったらDAOKOが覚醒した感じがすると思うんです。前回のシングルを経て第2フェーズに突入という感じです。
──どんなふうに変わったんですか?
まずライブに対する考え方が変わってきたんです。今までは透過型スクリーンを前面に設置して、「観せるライブ」「ライブという作品を観てもらう」という感じだったんですけど、幕が1枚挟まれていることによって、お客さんとの距離がどうしても生まれてしまう。もっとお客さんと一体になりたいなと思うようになり始めたんです。
──それは初めて振り付けを採り入れた前作の「ShibuyaK」を実際にライブでパフォーマンスしてみて感じたことでもあるんですか?
「ShibuyaK」を作ったときは自分の曲でお客さんが踊るっていうのはあまり想像できてなかったんですけど、ライブを重ねていくうちにお客さんがちょっとずつ盛り上がるようになってきて、そしたらもっと盛り上がってるところを見たいなと思うようになりました。じゃあ次はみんなでクラップしたりとかバウンスしたりとか、お客さんを巻き込んで踊れる、体感して楽しめる曲を作りたいなと思ったんです。
「DAOKO流のポップス」を見つけた
──そういう心境の変化は作詞の姿勢にも影響を及ぼしていますか?
していますね。インディーズのときは、自分のモヤモヤとか鬱憤を消化するために対自分の音楽を作っていたのですが、メジャーで何をやるかって考えたときに、DAOKOとしてより多くの人とコミュニケーションを取れる舞台に自分がいながらお客さんを意識していくっていうのが大変で。「変わるぞ」と意気込みながらも実際には心と頭が合致してない感じ、インディーズの頃の制作方法をまだちょっと引きずってる感じだったんです。
──インディーズの頃は、顔を明かしてなかったし、ライブもそれほどしてなかったから、実際に目の前にいるお客さんと何かを共有する感覚がつかめなかったところもあるでしょうね。
そうなんですよ。でも今は楽曲の向こう側にお客さんがいて、ライブがあって、みたいなことを想像しながら作るようになって。聴いてくれた人が歌詞をどう思うかとか、楽曲の持つ機能性をすごく考えるようになったんです。
──それらの変化が冒頭に話していた「覚醒」だと。
そうです。でも、その変化は最近です。「ShibuyaK」のときにその予兆はあった、っていうくらい。それまでは自分との闘いというか、葛藤があったというか、「ポップスって何?」ってずっと考えてたんです。だけど、あんまり腑に落ちてなくて。でも今回のシングルを作っていたら、「あ、これがDAOKOなりのポップスだな」っていう手応えがあったんです。
──そのDAOKO流のポップスとは?
今回の「BANG!」のミュージックビデオを発表したときに、聴いた人から「(これまでと)変わった、変わった」と言われたりしたのですが、根本は変わってないんです。インディーズの頃と同じ私が “メンタル” をつかさどっている。そういう非ポップス型の人間……過去にいろいろなことがあって、日々「死にたい」「寂しい」と嘆いて悶々としている人が、踊れる音楽やポップスと呼ばれる音楽をやるっていう、その逆説的なコントラストがDAOKO流だと思ったんです。
──コントラストとかギャップがあるものっていうこと?
そうです。ポップスは聴かなかったし、それどころかポップスに対して嫌悪感を持ってたくらいの人間が、そのシーンに乗り込んでいって「これがポップスだ」と言って自己流のポップスをやる。それがメジャーフィールドで活動する自分なりのポップスなのかなと。そういう解釈ができるようになったんです。
──なるほど。
今回のシングルも、歌詞の世界観や雰囲気には今までと同じ匂いがあると思うんです。曲調は明るくなったけど、ダークな部分があったり、毒々しかったり、ちょっとエッジーな言葉が入ってたりするところは変わらない。ただ“クラップソング”って呼んでる、明るいハンドクラップの合う曲の中に毒を含んだ歌詞が入ってくると温度の違いやミスマッチ感が出てくると思うんです。そういう“違和感”だと思うんです、DAOKO流のポップスって。
──それがフックの働きをして耳を引きつけると。確かに器や表紙が変わると、中身が違って見えますからね。同じグロい話でも、不気味な絵の表紙とかわいいイラストの表紙では、後者のほうがより中身が気になるっていう。
そうなんですよ。「フタを開けてみたら、すごい怖いこと言ってる!」みたいな(笑)。そういうところでハートをつかんでいくっていう。今までは暗い曲調にダークな歌詞を乗せるという順接的なスタンスだったんです。それはインディーズでやってきたことだから、そこからジャンプアップするためにはポップで明るい曲調を取り入れて、そこに違和感のある言葉を乗せるっていう。人間誰しも、毒々しい部分とかエッジーな部分って多かれ少なかれ持ってると思うんです。ポップスで表現すれば間口も広がるし、より幅広くDAOKOの楽曲を届けられるのかなと思うようになりました。
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- DAOKO Triple A Side 2nd Single「もしも僕らがGAMEの主役で / ダイスキ with TeddyLoid / BANG!」 / 2016年9月14日発売 / TOY'S FACTORY
- 初回限定盤A [CD+DVD] / 2160円 / TFCC-89601
- 初回限定盤B [CD+DVD] / 1728円 / TFCC-89602
- 通常盤 [CD] 1296円 / TFCC-89603
CD収録曲
- もしも僕らがGAMEの主役で
- ダイスキ with TeddyLoid
- BANG!
- FASHION
- もしも僕らがGAMEの主役で(Instrumental)
- ダイスキ with TeddyLoid(Instrumental)
- BANG!(Instrumental)
- FASHION(Instrumental)
DVD(初回限定盤A)収録内容
DAOKO THE FIRST TOUR 2016 at SHIBUYA O-EAST 2016.01.15 ライブ映像
- INTRO / 高い壁には幾千のドア / ミュージック / かけてあげる / さみしいかみさま / ShibuyaK / ゆめみてたのあたし / OUTRO
DVD(初回限定盤B)収録内容
- BANG! -MUSIC VIDEO-
- FASHION -Reebok CLASSIC Furylite WEB Movie-
- JK -DAOKO THE STUDIO LIVE From Aobadai Studio-
- FASHION -DAOKO THE STUDIO LIVE From Aobadai Studio-
DAOKO(ダヲコ)
1997年生まれ、東京出身の女性ラップシンガー。ニコニコ動画のニコラップに投稿した楽曲で注目を集め、2012年に1stアルバム「HYPER GIRL-向こう側の女の子-」を発表。ポエトリーリーディング、美しいコーラスワーク、ラップを絶妙なバランスで織り交ぜたドリーミーな世界観で話題を呼ぶ。2015年3月にはTOY'S FACTORYよりアルバム「DAOKO」にてメジャデビュー。それまで顔を隠して活動していたが、10月にシングル「ShibuyaK / さみしいかみさま」発売のタイミングで顔を公開した。2016年4月にTeddyLoidとのタッグで学校法人・専門学校HALのCMソングを担当。同曲も収めたトリプルA面シングル「もしも僕らがGAMEの主役で / ダイスキ with TeddyLoid / BANG!」を9月にリリースする。