Da-iCE「I wonder」インタビュー|塗り重ねる自分だけの色 10年の歩みの先で広がる世界

Da-iCEの新曲「I wonder」が、4月のリリースからわずか1カ月でTikTok総再生回数2億回を突破するなど早くも大きな注目を浴びている。

「音が止まった」という歌い出しの印象的なフレーズと、直後に続く軽快な口笛の音色が心地よく耳を刺激する「I wonder」は、現在放送中のTBS系ドラマ「くるり~誰が私と恋をした?~」の主題歌としてオンエアされている楽曲。“恋愛”と“本当の自分探し”という2つのテーマのもと、柔らかく色が重なってゆく様を歌うこの曲はメンバーの工藤大輝が作詞を、花村想太が作詞作曲を手がけた。

音楽ナタリーでは工藤と花村にインタビュー。メロディ、サウンド、フレーズ、そして振付の細部に至るまで、彼らの強いこだわりが詰め込まれたこの曲についてじっくりと話を聞いた。

取材・文 / 三橋あずみ撮影 / 梁瀬玉実

「音が止まった」ってどう?

──「I wonder」は現在放送中のTBS系ドラマ「くるり~誰が私と恋をした?~」の主題歌として書き下ろされた楽曲で、作詞を工藤さんと花村さん、作曲を花村さんが担当されています。まずは完成までの経緯を伺えればと思うのですが。

花村想太 今回の楽曲も、いつものようにコンペで選ぶ形でした。僕は3曲くらい提出したんですが、その中からドラマに一番寄り添っているこの楽曲が選ばれて。曲が決まってからは、サウンドやメロディに細かなブラッシュアップを加えつつ、大輝くんが考えてくれた言葉遊びを歌詞として昇華していった感じですね。

左から花村想太、工藤大輝。

左から花村想太、工藤大輝。

──曲のアイデア自体はドラマからインスピレーションを得て?

花村 そうですね。前半何話分かの脚本をいただいたので、それを読んだうえで歌詞や曲を制作しました。でも曲のイメージが広がったのは、2人で話しているときに大輝くんが言った「『音が止まった』っていう歌詞とかどう?」というひと言がきっかけで。「それ、めっちゃ面白いじゃん!」みたいなところから、世界観が一気に開けたような感覚がありました。基本は曲ありきで、そこに歌詞を乗せていく形ではあるんですが、「音が止まった」で実際にジャン!と音を止めてみたり、「色が変わった」のところに口笛を入れて“音色”を変えてみたりという発想は、作詞からヒントを得て生まれた部分なので、そういう化学反応っていいなあと思います。

──花村さんが担当された作曲については、どのように進めたのでしょうか?

花村 ドラマの前半は恋愛要素が多く、CMで流れるようなハイライトを観てもキュンキュンする方が多いだろうなと思ったので、さわやかさを心がけたうえで曲作りを始めたんですが、その土台の上には裏腹の要素……実は裏に何かあるんじゃないか?というミステリアスな雰囲気や寂しさ、孤独感みたいなものを乗せたくて。主人公は記憶を喪失しているので、ただ明るいだけではない印象を持たせたいなと考えていました。記憶を失って、ある意味新しい人生を歩むうえで、楽しいけれどどこか心に穴の空いたような感覚っていうのを、切ないコード進行などで補っていくというか。だから、一見すごく明るい曲に聞こえると思うんですけど、トラックだけ聴いてもらったら寂しい気持ちになるような。そんな曲になっていると思います。

Da-iCEの表現を支える“知”と“動”の力

──「I wonder」は典型的なJ-POPとは異なる構造であることが気になりました。いわゆる“2番”がない作りになっているのが斬新だなと。

花村 実はそれは、Da-iCEの新しい試みで。リリースする音源とライブバージョンを分けていて、ライブに来てくれた方のみが聴ける部分を作っているんです。「I wonder」は2番のAメロ、Bメロ、サビがライブでしか聴けない。ここは音源でも発表しないですし、ライブのアーカイブ映像などにも残さないようにしています。新しい展開の曲に聞こえるかなと思うんですが、2番がなくてもちゃんと完結できるように転調を工夫していて、例えばDメロの「Sha-la-la-la-la-la」に行く手前なんかも、段階的に変化する、自然なコード進行になるように5回くらい作り直したり。

──すごく斬新ですが、どういった理由でこの試みを実施することになったんですか?

工藤大輝 どうだったっけね?

花村 Da-iCEが今年メジャーデビュー10周年を迎えるにあたって、改めてライブに来てほしいという思いがあったからだと思います。僕らはライブハウスから活動を始めて、今のようにテレビに出ることができなかった時期にライブの口コミで集客が広がっていったグループだから。ていうか、きっかけは大輝くんですよ。2人でごはんを食べてるときに「何か面白いことできないかなあ……2番、なくす?」みたいな話になって。

工藤 そうだ、そうだ(笑)。

花村 そこからスタートしたんですよ。で、2人で話しているうちに「発表する音源の2番をなくして、ライブでしか聴けないバージョンを作ればいいんじゃないか」と思い至って。それを次の打ち合わせのときにみんなに提案した形です。ただ、これがなかなか難しくて。タイアップがあるときは、そうやって音源の形を変えることが可能なのか精査しながら……でも、そこの調整をスタッフさんがすごくがんばってくれました。一応、今年発表する曲は全曲こういった形になると思います。

花村想太

花村想太

──工藤さんの「2番なくす?」はジャストアイデアだったんですか?

工藤 いや、近年考えていたことですね。いわゆる日本のポップソングは1970年代に生まれて、そこからもう50年が経つわけじゃないですか。50年という時間が過ぎているのに基本的な曲の構造がずっと変わらないということが、なんだかしっくりこなくて。そこにとらわれる必要があるのかな?という思いは以前からあったんです。1番のAメロ、Bメロ、サビ、2番のAメロ、Bメロ、サビ、からの大サビでトータル4分!みたいなことって、誰も決めてないけどなんとなくそれが定番になっているというだけで、誰かが壊したっていいんだよなって。そもそもこういったポップスの定型だって、それまでの常識をぶっ壊した誰かがいたから生まれたものだと思いますし。幸い「こういうことをやりたい」と言ったときに実際にチャレンジさせてもらえる環境に僕らはいるので、それはかなりありがたいですね。

花村 本当に、スタッフさんの力ありきの試みです。

工藤 でもまあ、実際にやってみるとムズいっすね!(笑) ミュージックビデオなんかは特に「尺が足りないな」と感じるところもあるし。

花村 そうね、それはある。

工藤 ダンスシーンのみだったらいいんですけど、映像にストーリー性を持たせようとするとね。5分あれば伝えられるストーリーを3分に短縮しないといけないというのは大変な作業で。まあ、それはやってみないとわからないことだったので、今回作ってみてすごく学びがありました。

工藤大輝

工藤大輝

花村 当初は半々くらいの割合だったダンスシーンとストーリーのシーンを、思い切ってストーリーに寄せたから、MVではほぼダンスを観られないんですけど。でもそれくらい大胆にやったことでうまくまとまったかなと思います。

──あらゆる方向に自ら考えを巡らせていてすごいですね。

工藤 まあでも、楽しくやってるので(笑)。

花村 僕や大輝くんはソロでも音楽活動をしていて、そういう場では自己プロデュースをしなきゃいけなかったりするんですが、そこで得たものをグループに帰ってきたときに意見の1つとして出せるというのは大きいなと思います。「スターマイン」のときも今回の「I wonder」もそうでしたけど、兄さん(工藤)はソロ活動で培った言葉遊びの巧みさを発揮しているし、僕はどちらかというと熱量みたいな部分……作品をどうやって広めていくかを考えて、力を注いだり。そうやって“知”と“動”がうまく混ざり合って、Da-iCEの表現を支える力になれているんじゃないかなと思いました。