コアラモード.がニューアルバム「COALAMODE.3 ~Blue Moment~」を10月25日にリリースした。
2018年5月に発表された「COALAMODE.2 ~街風泥棒~」以来、約5年5カ月ぶりとなるアルバムには、テレビアニメ「俺だけ入れる隠しダンジョン」のエンディングテーマ「ネモフィラ」やテレビアニメ「逆転裁判~その『真実』、異議あり!~Season2」のエンディングテーマ「ビューティフルデイズ」、サプリメント「アレルケア」のCMソング「あなたに会えて」といった既発曲に、初音源化となる「雨上がりには好きだといって」「I'LL BE」の2曲を加えた全13曲を収録。コロナ禍で活動が制限されながらも、その中でメンバー個人として、ユニットとして大きな成長を遂げてきた、あんにゅ(Vo, G)と小幡康裕(Key, G, B, Dr, Programming)の約5年分の軌跡を詰め込んだ作品だ。
音楽ナタリーでは2人にインタビューを実施。本作を経て、新たな夜明けのフェーズへと突入せんとするコアラモード.の今の声をたっぷりとお届けする。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / 山口真由子
今までの僕たちにはない“彩り”を出せた
──2018年5月リリースの2ndアルバム「COALAMODE.2 ~街風泥棒~」以降はその大半がコロナ禍であり、いろいろと大変なことも多かったと思いますが、コアラモード.は音源リリースやライブを精力的に行い、ユニットとして大きな成長を遂げてきました。その結晶となるのが今回届けられた3rdアルバム「COALAMODE.3 ~Blue Moment~」だと思います。前作からの約5年5カ月を振り返ってどんなことを感じますか?
小幡康裕(Key, G, B, Dr, Programming) このアルバムに入っている曲たちを作っているときは、アルバムという最終的なゴールを見据えていたわけではなかったんですよ。コロナ禍という大きな陰の期間に突入した中、ミュージシャンとしてどんな活動をしていくべきなのかを考えながら、とにかく目の前で起きていることから感じた取ったものを音楽にしてきた感覚で。結果、その時々の感情を炙り出した、絞り出したような曲たちがそろったんです。振り返ればすごく苦しい期間ではありましたが、そういう期間だったからこそ、今までの僕たちにはない彩りみたいなものが出せたような気がしますね。
あんにゅ(Vo, G) コアラモード.としては、いろんなことが変化していった約5年間だったと思います。音に関して言えば、「アンダンテ」(2020年10月配信のシングル曲)あたりから小幡さんのアレンジの雰囲気が変わっていったような気がするんですよ。それによって、私の歌も少しずつ変わっていったところがあって。あと、「COALAMODE.2~街風泥棒~」までは、自分たちの内面にある不安なところをそのまま表現することが多かったんですけど、コロナ禍に入ってからは不安を書いたとしても、「でもみんながいるから大丈夫」とか「いつも一緒にいてくれてありがとう」とか、大切な誰かを通して前に進んでいきたいというプラスのメッセージを曲に込められるようになったんです。そういった意味では、前作からの期間を通して自分たちの気持ちがグッと強くなったような気がしていますね。
──アルバムには2019年3月リリースの「ビューティフルデイズ」以降の曲が収められています。リリースベースで言えば約4年分の軌跡が詰まっているわけなので、お二人のさまざまな変化は如実に感じられますよね。
あんにゅ そうそう。子供から大人になったような、それぐらい時間が経ったんじゃないかという感覚があります。「ビューティフルデイズ」のカップリングだった「カンパイ!」という曲も入っていますけど、あれを作っていた頃って、「気持ちがグラグラしたままじゃいられないよな」と強く思っていた時期だったんですよ。だからこそ、そこからの時間を通して、ちゃんと地に足が着いた感じがする。その結果、「ネモフィラ」(2021年2月リリースのシングル曲)とか「はるつげどり」(2022年2月リリースのシングル曲)ぐらいからは歌に力みがなくなっているんです。シンプルに体が鳴っているような感覚で、自然体で歌うことができるようになった。もちろん曲によっては「元気を届けよう!」と思って力を込めて歌っているものもあって、それはそれで好きな表現ではあるんですけど、うまく力が抜けるようになったのは大きな変化だなと自分では思います。
小幡 それはレコーディング中に僕も感じていたことで。あんにゅは演劇部出身ということもあり、曲の主人公になりきる憑依型のボーカリストだったと思うんですよ。でも、このアルバムに入っている曲たちを改めて聴いてみると、すべてを“あんにゅ”という一人称で歌えているんですよね。
あんにゅ うん、そうかもしれない。今さらですけど、2015年に「七色シンフォニー」でメジャーデビューしたとき、「私はこんなにポップな曲でデビューするんだ」って、ちょっとびっくりしたところがあって。というのも、当時の私はそこまで性格的に明るいわけじゃなかったから、曲の雰囲気に自分自身が追い付いていない感じがしたんです。でも、そういったポップで元気な曲をどんどん歌っていくことで、自分も元気になっていったというか(笑)。で、この5年を経て、そのバランスがうまく取れるようになってきた実感があって。今のコアラモード.はすごくバランスがいいなと思うんですよね。
──単純に明るく元気なだけじゃない曲も増えていますしね。そういう意味でも生身のあんにゅさんで歌うことができるようになったのかもしれない。
あんにゅ そうですね。そのままの自分で向き合っても大丈夫というか。何かを演じるような形じゃなくても届けられる曲が増えてきて、すごく楽しいです。
小幡 そのうえで今、ライブで「七色シンフォニー」をやると印象が変わっている部分もあるからね。よりあんにゅのメッセージとして歌えるようになっているから。
あんにゅ うんうん、そうだね。
自分の編曲の“個性”が客観的に見えてきた
──小幡さんは楽曲ごとにサウンド面でのトライを積極的にされてきた印象があります。アルバムを聴くことでご自身のサウンドの変遷に何か感じる部分はありますか?
小幡 1つ言えるのは、5年あると音楽シーン自体が変わるんですよ。音の質感やレンジ感みたいな部分がどんどん変わっていく。それを特に感じたのが「ビデオテープ」(2023年4月配信のシングル曲)でした。配信リリースしたものとしては最新の曲ですけど、ピアノやドラムをはじめ、大まかなレコーディングは2015年頃に済ませていて。それをほぼそのまま使っているんです。
──へえ、そうなんですか。
小幡 で、そうなると音的に古く感じてしまう部分が出てくるので、今の時代観を踏まえ、今の自分の感性で2023年にリリースし得るものとして落とし込む必要があったんです。そういうことができるようになったのは、この5年での大きな進歩のような気がしますね。それはコアラモード.としての活動はもちろん、楽曲提供やアレンジの仕事をほかでさせていただく機会が増えたからこそだと思います。ある意味、自分の編曲の個性というものが客観的に見えてきた部分もありましたし。
──コロナ禍でインプットが増えたというお話もされていましたが、それが今、しっかりと財産になっているところもあるんでしょうね。
小幡 まさにそうなりつつあると思います。世の中的に身動きが取れない中、いろんなものに触れ、そこで自分の個性を磨いていたことが、いい影響を生んでくれたんだろうなと。そこは僕だけじゃなく、あんにゅもそうだと思いますね。
泣きながら歌うのは好きじゃないけど、自然と涙が出てきちゃう
──アルバムには全13曲が収録されていますが、その曲順がすごく心地よくて。全体を通して、コロナ禍の収束、来るべき夜明けへのストーリーがしっかりと紡がれているし、各曲のメッセージもリリース当初とはまた違った受け止め方ができるのが面白かったです。
小幡 ありがとうございます。曲順はけっこう悩みました(笑)。
あんにゅ そうだね。でも、「はるつげどり」を最後にしようというのはなんとなく決まってたんですよ。
小幡 そこは申し合わせるでもなく、暗黙の了解でしたね。あとは、配信を含め、シングルとしてリリースしてきたものばかりなので、そのパンチが強い曲たちをどう並べるかけっこう悩みました。アルバムとして通して聴いたときにより耳心地がよくなるように、スライドギターで始まるカントリーテイストの「わたしの願いごと」(2021年2月リリースのシングル「ネモフィラ」カップリング曲)や、「ユラユラリカ」(2021年6月配信のシングル曲)、「ビデオテープ」というちょっと落ち着いた揺らぎを感じてもらえるような曲を合間合間に織り交ぜていくことで、アルバム全体としてのいい波を作ることができたと思います。
あんにゅ あと、自分たちでもいい曲ができたとすごく自信のあった「ネモフィラ」を1曲目にするのもすぐ決まったかな。アルバムとして真っ先に聴いてもらいたい曲だったので(笑)。
──アルバムとして、すごくいい始まりですよね。
あんにゅ そうなんですよ。「旅が始まるよ」というメッセージでアルバムが始まるのがいいなと思って。そこから日常の光景を描いた「ラッタッタラッタ」(2021年12月配信のシングル曲)や「アンダンテ」「わたしの願いごと」を挟み、どうしたらいいかわからなくてモヤモヤしてた時期の等身大の思いを込めた「ユラユラリカ」を経て、だんだん光に向かっていく。で、最終的に別れがあるけど前へ進むことを誓う「はるつげどり」でエンディングを迎えるという、すごくキレイな流れができたと思います。
──個人的には「ビューティフルデイズ」が一番、聴こえ方が変わった曲だったんですよ。リリースされたのはコロナ禍に入る前でしたけど、そこで歌われるメッセージはコロナ禍を経た今の自分にものすごく刺さるんですよね。
あんにゅ そうですよね! この前、ファンクラブライブで歌ったら、私も歌詞が全部コロナ後の気持ちに変わって聴こえたんですよ。個人的に泣きながら歌うのは好きじゃないんだけど、自然と涙が出てきちゃうみたいな。言葉1つひとつの意味がよりわかったというか。自分たちで作った曲なのに不思議でしたね(笑)。
小幡 時が経つと聴こえ方が変わることってありますもんね。「ビューティフルデイズ」に関しては、サウンド的にも当時とはまったく違う感覚で聴ける部分もあって。すべての曲において、その時々のベストを尽くしてリリースしてはいるんですけど、時間が経つと「ここはこうすればよかったな」と思ったりするものなんですよ。
あんにゅ うん、それは一生あるよね(笑)。
小幡 でも、この「ビューティフルデイズ」に関しては、「あ、当時の自分はこういう思いで作ったんだな」ということが見えてくるんですよ。違和感としてではなく、時間が経つことで逆に辻褄が合ってきたところがあるというか(笑)。その曲に込めたメッセージが、時間の経過とともにより整理されて解釈し直されるところがあるのかもしれないですね。そういう感覚はすごく面白かったです。